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210 変態仲間さんがいて良かったですね

 暫しの間、お茶でまったりしちゃう。レオさんは俺の肩に腕を回して、俺の髪を弄りながら、優しい瞳で見守ってくれている。レオさんの瞳を見ていると、更にまったりしちゃう気がする。だって、穏やかで優しい眼差しなんだもん。


「スイーツでも食うか。でもその前に。」


 レオさんが本日のスイーツの時間の始まりを宣言してくれた。でも、先にする事があるらしく、レオさんが本棚の前に移動していく。目で追いかけていたら、レオさんの服を仕舞ってある一番下の収納の中から、1着の服を取り出しているのが見えた。


 そして、その服を手渡してくる。一応、受け取ってはみたけど、これは何、って首を傾げちゃった。レオさんは嬉しそうに目を細めて、髪を掻き上げてくれる。そして、おでこにキスをしてくれた。


「寒くなったんだろ?暖かいからそれを着とけ。あ、フードも被ってね。邪魔なら後で外してもいいから。」


 唐突なキスが不思議で軽く眉を寄せちゃうと、レオさんが優しい口調で服の説明をしてくれた。心配してくれたって分かって眉を解除すると、レオさんは嬉しそうに頬を緩めて眉間にキスをしてくる。うん、レオさんは結構なキス魔だから深い意味はなかった。考えるのはやめよう。


「お~、優しい。何で寒いって分かったの。」


 確かに、渡された服はモコモコしてて暖かそう。でもね、寒いなんて一言も言ってないし、考えてもない気がするんだけど。なんで俺が寒そうにしてるって分かったんだろ。疑問のままに口に出して聞いてみちゃう。


「ベッドで寒そうにしてたでしょ。」


「そっか。やっぱね、ベッドは少し冷たかったっぽい。最初は緊張し過ぎて気付いてなかった。」


 サラッと疑問に答えてくれた口調とは裏腹に、レオさんは目尻を下げてデレデレの表情になってる。パパさんモードになっているのかもしれない。そして、パパさんの目はしっかりと俺の違和感すらも感知していたらしい。レオさんの言葉で納得して、更に同意の意味を込めて、ベッドは寒かった事を伝えておく。


 何はともあれ、どんな服なのかな。早速見てみよう。畳まれた状態の感じでは、モコモコでモフモフだから際どさはないとは思う。ただ、レオさんが渡してきた服だから油断ならない気もする。


 若干の警戒心を胸に、レオさんに手渡された服を広げてみる。お~、これは、アレだ。服の形状に少しだけ動揺してしちゃった。イヤ、可愛い、メッチャ可愛いんですよ。でもね、レオさんはなんでこんな服を持ってたの。


「緊張か。違う意味で緊張してくれてると思ったんだけどな。」


「ん?」


 レオさんが離れていった感じがしたなと思ったら、ぼそっと呟いた感じもした。服に気を取られていて、はっきり聞き取れなかったから聞き返してみる。


「何でもない。それより、早く着ちゃって、琥珀の可愛さを見せてくれ。」


 何でもないと首を振ったレオさんが早く着ろと催促してきた。コクっと頷いて、パーカーだけは脱いで、着ている服の上から、モコモコの暖かいのを着込んでみる。ふんわり柔らかい毛布っぽい生地で、上下一体型の包み込む暖かさが心地いい。フードを被ると顔もモコモコで暖かい。


「お~、やっぱ似合うな。持ってきて正解だった。ベッドが冷たいから寒いかなって。ネロに着込めって言われてたけど、着膨れるのは嫌なんだろ?」


 ミニバスケットを持って戻ってきたレオさんは満足気な顔をしている。顔だけじゃなくて言葉でも満足な様子を伝えてくれた。レオさんがこの服を用意してくれたのは、防寒対策だったらしい。ネロが出がけに色々と心配して声を掛けてくれたのに対して、適当に返しちゃったのを傍で聞いてた、からかな。


「あ、だから用意してくれたんだ。でも、マニアックな形だね。」


「うん、マニアックな裁縫士が仕上げた、マニアックな逸品だよ。琥珀もガトになれたな。尻尾もあるぞ?」


 防寒対策って分かって、納得できた。でもね、この形状はどういう事なの。疑問の形はとらなかったけど、レオさんがスラスラと説明をしてくれた。マニアックな裁縫士ってなんだよ、と思っちゃったけど、ガトになれたって言ってくれたのは素直に嬉しい。


 レオさんはミニバスケットをローテーブルに置いて、少し距離を取り、嬉しそうな笑顔で眺めてくる。レオさんの表情で満足した感が伝わってくる。暖かいモコモコに包まれていると、自分でもガトになれた気がしてニコニコになっちゃう。


 そう、レオさんが用意してくれたのは、こげ茶色のモフモフ暖かい着ぐるみ型の着る毛布的なパジャマだった。ゆったり大き目の着ぐるみは着心地が最高で、しかも、全身を包み込んでくれるから暖かい。そして、特筆すべき点として、フードには猫耳、お尻には尻尾までついている。


 めっちゃ可愛いけど、着てるのが俺ってのが少し残念なトコロ。可愛い女の子が着ていたら、確実に可愛いと思われる形だ。あとは、子供が着ても確実に可愛い。まぁ、子供サイズではないから、女の子用って感じだと思うけど。


 パーカーといい、ケープといい、この着ぐるみパジャマといい。レオさんはマニアックな服を沢山持っている事が分かった。多分、オタノシミ用だと思うんだけど、ネロは着られないサイズ、かな。


「レオさんは色々な服を持ってるね。この服も女の子に着て貰って楽しむ用なのかな。ゆったりだけど、流石にネロにはサイズ的に無理だよね。」


 ちょっとだけ困惑しながら聞いてしまう。あの綺麗なお姉さん達が着るとどんな感じかな。ちょっとだけ想像してみたけどイメージが沸かない。


 俺が知ってる中で一番似合いそうなのは、元気な笑顔が可愛らしいエリンさんだ。でも、レオさんの好みからは大分外れている気がするし、それ以前に、レオさんはエリンさんが苦手そうだった。


「なんで猫耳持ちに猫耳を付ける必要があるんだよ。琥珀の為に用意したんだよ。」


「え?」


 隣にどかっと腰を下ろし、レオさんが不満そうに言い返してきた。俺の為にって言葉で若干引いちゃって、その思いは言葉となって口から出ちゃった。だってね、この可愛いのを俺の為ってヤバくない?こんなマニアックな感じの服をなんで俺の為に用意する必要があったのか。


 あ、そっか、子供用のパジャマってトコロか。理解しました。全く引く案件じゃなかった、ごめんなさい。心の中で謝ってみる。


 そして、俺の為って聞いて、意識して初めて分かった。この服は可愛さだけじゃない。肌触りが最高な高級感のある生地、着心地も最高な特殊な形状。マニアックだけど確実に高価な品だと思われる。


 このモコモコは最高。モコモコに包まれて、モフモフしながら、このままごろごろしてたいくらい最高なんだよ。ずっと着てたくなる着心地の良さなんです。でもね、確実に高価なんだよ。


「ドン引きじゃねぇか。ってか、金は気にするな。俺の趣味だから仕方ないの。思わず手が出ちゃったから仕方がなかった。」


 レオさんが困った感じで言い訳を始めた。俺が引いたのは理解できたらしい。そして、微妙に俺の心も読んできているのが困っちゃう。趣味って言われちゃうと、何も言い返せなくなっちゃうもん。レオさんの言い方はズルい。


 ってか、俺の為って言葉のインパクトが強過ぎて聞き流しちゃっていたけどね。レオさんの言葉の中に、猫耳持ちに猫耳をって聞こえた気がする。要するに、猫耳を持ってない俺が猫耳を付けるから意味があるって事だよね。


 それは、つまり。この世界では、そういうジャンル的なモノが確立されているって事なのだろうか。異種族の特定の部位を身に着けるみたいな、マニアック且つ、際どいジャンルな気がするんだけど、どうなんだろう。


「獣耳がない人用に獣耳がある服を作ってる人がいるって事なのかな。」


「そそ。俺とは若干方向性の違う、まぁ。変態といえば、変態だな。」


 冷静に疑問を伝えてみると、レオさんが完全同意してきた。しかも、変態呼ばわりである。レオさんは開き直っちゃったみたいで、自分すらも変態と認めている。いずれにしても、レオさんとは方向性は違うかもだけど、同類のお知り合いがいるらしい。


「変態仲間さんがいて良かったですね。」


 得られた情報をもとに、レオさんが一人じゃなかった事を喜んであげる。うん、真顔で淡々とした口調になっちゃったのは仕方ないよね。だって、レオさんが嬉しそうに変態を語ってるんだもん。変態を知らされて瀕死って言ってた面影は一切ないんだもん。


 変態の道は孤独だと思うけど、仲間がいてくれたみたいで心から嬉しいです。もうね、心の中で棒読みで祝福すらできちゃう心境ですよ。それなのに、レオさんは超微妙な顔になっちゃった。俺の口から出た言葉を聞いたからか、心の中の祝福の言葉を読んだからか、どっちの理由なんでしょう。


「まぁ、変態には間違いないけどな。あいつもニル程じゃないけど、そこそこ有名な職人だから。」


 動揺を抑えているのか、レオさんは若干低めな抑えた声で変態仲間さんについて話し出した。ニル君の名前を引き合いに出す程、有名な職人さんだったらしい。


 説明が足りないよ、って意味で小首を傾げて先を促してみる。レオさんは嬉しそうに目を細めて、俺の前髪に優しく指を滑らしてきた。フードを被った時に乱れた部分を整えてくれるっぽい。


「裁縫の職人。職人の連中は一癖も二癖もあるヤツが多い。それを作ったヤツも多分に漏れず、変わったヤツって事。最高の腕を持つ、尖った方向の服しか作らない、変態だよ。」


「成る程。」


 レオさんが優しい顔で説明を続けてくれたんだけど、話しながら、俺の前髪を指に絡めるように遊んでくるから擽ったい。折角整えてくれたのに、また乱す作戦なのか。そして、また整えてくれる、と。


 何はともあれ、この服を作った職人さんが凄い人って事は分かった。マニアックな服を作る凄い職人さんとか、そんな人もいるんだね。そして、変態さん、と。レオさんが変態呼ばわりするくらいだから、相当な変態さんなんでしょう。怖いですね。


「因みに、そいつはガトには一切興味がない。獣耳無し、要するに、人族に惹かれるんだと。そして、人族に獣の耳を付けた服を着て貰うのが一番興奮するってのが持論だった。正直、意味が分からんと思ってたけど、時間が経過した今なら、超絶意味が分かった。俺も大人になったって事だ。」


 頼んでもないのに補足を話し出したレオさんをじーっと見つめる。レオさんは話しながら目尻を下げていって、頬も緩めていって、口角が上っていってる。どう見ても、でれでれな表情に変化していってる。子供と会話するパパさんの顔になっちゃった。でも、喋ってる内容は実にレオさんっぽい。


「レオさんは変な歳の取り方してるんだね。ある意味、感心しちゃう。」


 レオさんの話を大人しく聞き終えて、素直に感想を伝えてみる。でれでれだったレオさんの表情がキッと引き締まった。キリっとしてカッコいいけど、メッチャ睨んでくるじゃん。表情っていうのは、そんな瞬時に切り替えが可能なんだ、と変なトコロで感心しちゃった。だってね、真逆の方向性の表情だよ。


「あぁ?褒めてんのか、貶してんのか?」


 レオさんがどすの効いた声で脅してくる。そんな怖い言い方をしなくてもいいじゃん。怖いのって訴える為に、プルプルって震える演技と涙目のフリをしたら、レオさんが明らかに慌て出した。


 俺の背中に手を当てて、心配そうに覗き込んでくる緑の猫目が可愛い。更には、ピンと立って真っ直ぐにこっちに向けられた猫耳が超可愛い。そして、極めつけは、心配そうに先端を小刻みに震わせている尻尾。ヤバ、これは癖になる。気がする。


「睨んだら怖いし、声もコワイ。そんな顔したら怖いの。そんなの、言わなくても分かるでしょ?」


 もう一息、と、甘えた口調で言い返してみると、レオさんはまたでれでれな顔に戻ってくれた。そして、ふーっと息を吐き出して、俺の肩に手を伸ばして抱き寄せてくる。更には、フードの上からキスをしてくれた。誤魔化しは成功した模様。


 目を合わせてニコっとしてみると、レオさんもニコっと返してくれた。笑顔で心が通じてくれたみたいだ。一件落着した後で、レオさんは俺の肩から手を離して、脱いで放り出していたパーカーを膝の上に引き寄せた。そして、パーカーを丁寧に畳み始めたのが見える。


 レオさんの畳む様子を覗き込んでいたら、レオさんにクスッと笑われてしまった。確かに身を乗り出してまじまじと眺めちゃっていたから、笑われても仕方なかったかも。


 でもね、だってね、レオさんが超丁寧に畳んでるんだもん。雑さが0なんだよ。太腿の上なのに、ピシッと綺麗に皴なく歪みなく畳んでるんだもん。レオさんじゃない人が乗り移ってる可能性がある。多分ネロが乗り移ってくれたんだと思う。


 畳み終わったパーカーをソファの肘掛けの上に置いて、レオさんはミニバスケットに手を伸ばした。待望のスイーツの時間の始まりだ。期待の中で、レオさんの大きな手が小さなバスケットを開けているのを見つめちゃう。


 ワクワクし過ぎて、身を乗り出してレオさんの膝の上のミニバスケットを覗き込もうとしたら、またクスっと笑われてしまった。大人しく背もたれに寄り掛かって、レオさんが準備してくれるのを待つ事にする。


 レオさんが取り出してくれたスイーツは今日も美味しそう。しかも、贅沢に2種類もある。大きなシュークリームと、少し小さめにカットされたベイクドチーズケーキだ。めっちゃ美味しそう。


 ケーキのお皿に釘付けになっている間に、レオさんは立ち上がって離れていっちゃった。カップを運んでいったから、お茶を淹れ直してくれるらしい。いつもはレオさんを目で追いかけちゃうけど、今日はスイーツから目が離せない。だって、今日のも可愛くてメッチャ美味しそうなんだもん。


「今日のも美味しそう、これはヤバいね、見た目から美味しさしか伝わってこない。」


「今日のは二種類か。ユリアのサービスなのか、片方に嫌がらせを仕込んでる系なのか。」


 スイーツのお皿に目が釘付けになりながら、レオさんに話し掛けちゃう。レオさんは詠唱が終わり次第、楽しそうな口調で答えてくれた。でもね、ユリアさんの好意を揶揄ってくるレオさんはどうかと思います。


「嫌がらせとかそんな事はしないでしょ。レオさんはユリアさんに負い目を感じる行動しかとってないからそう思っちゃうんだよ。反省しましょうね。ユリアさんは意地悪なんか時々しかしないの。」


「時々はするって理解してるじゃねぇか。」


 むっとしながら、レオさんに視線を移して言い返しちゃう。レオさんはお茶を淹れながら、顔をこっちに向けてニコニコ笑顔で聞いてくれてる。そして、スッと目を細めて、低い声で揚げ足を取ってきた。


 そりゃ、まぁ。過去にネロに甘ぁーいゼリーを用意したのとか、ネロに巨大なローストお肉を味付け一切なしで用意したりとか。そんな実績を見ちゃってるからね。ユリアさんが稀に怒っちゃった時には意地悪をする事もあるってのは分かってるんだよ。


 でもね、それすらも可愛い抗議って感じでめっちゃ可愛いんです。まぁ、レオさんは、稀にじゃなくて、いつも怒られてるから、いつも可愛い意地悪をされてるのかもしれない。


「レオさんは実はやる事がスマートだよね。」


「ん?」


 お茶を運んできてくれたレオさんを見上げて、率直な感想を伝えてみると、レオさんは疑問の声で続きを話せって促してきた。聞く姿勢は見せながらも、自然な動作でカップを手渡してくれる。そして、床に座ってソファの座面に片肘を突いて、見上げてきた。


「ネロは何でも先回りをしてやってくれちゃう感があるじゃん?で、レオさんも実はネロ並みに色々やってくれてるんだなって気付いちゃったの。」


「成る程?」


 ここ数日で気付いちゃった事を話してみる。レオさんは実はネロと同じでマメに色々としてくれるんだよ。しかも、ネロみたいに先回りの行動がかなり多い気がする。俺の行動を予測してるかのような、スマートでスムーズな動きが多い。レオさんは疑問の残る相槌なんだけど、そうなんだもん。


「暖かいもこもこの服を用意してくれてたり、お茶も直ぐ淹れてくれるし、散らかしたのも直ぐ片付けてくれるじゃん。今も、俺が脱いだ服をさらっと畳んでくれたし。ってか、片付けができるのに何であんな部屋になっちゃったの。」


 例を上げながらレオさんの行動を振り返った後で、溜息交じりに、かつてのレオさんの部屋の惨状について振り返ってしまう。レオさんが楽しそうに目を細めたのが見えた。


 レオさんを眺めながらお茶を飲んで答えを待ってみる。あ、適温なお茶だ。美味しい。まったり気分になって目を細めちゃうと、レオさんが幸せそうな優しい笑顔で見つめ返してきた。


「琥珀の為ならやる気にもなるけど、一人は面倒。」


「レオさんはネロとそっくりだね。」


 俺の前髪をくるくるっと指に絡めて弄んだ後で、レオさんがさらっと答えてきた。それを聞いて、ふふってなりながら、感想を漏らしちゃう。だって、ネロも一人だと色々と面倒って言ってたもん。


 ホント、ネロとレオさんはそっくりな気がする。似たモノ同士だから惹かれ合って、似た者同士だからこそ、張り合いたくもなっちゃう、のかな。


 レオさんとネロの二人の可愛さにほっこり胸が温かくなりながら、ソファから下りてレオさんの隣に座り込む。そして、食べる時に邪魔だからフードは外しておく事にする。だって、モコモコのフードに生クリームが付いちゃったりしそうじゃん。


「耳がなくなったな。半ガトか?」 


 レオさんが俺の髪を整えてくれながら、優しく呟いてくれた。半ガト、凄く嬉しい響きだ。嬉しくて、レオさんの手に頭を摺り寄せて自分から撫でられにいっちゃう。レオさんはクスッと笑って、髪に軽くキスをしてくれた。


「その表現は好き。半ガト、とか最高な言葉だね。ってか、ホント。ガトに生まれたかった。そうすれば、この村でずっと一緒にいられたかもだもん。」


「人族でもいいでしょ、ずっと傍にいればいい。」


 優しいレオさんに甘えちゃって、心の声がぽろりと言葉になって出ちゃった。レオさんが髪を撫でるのをやめて、肩を抱き寄せてくる。そして、髪に優しいキスをしてくれて、穏やかな声で嬉しい事を言ってくれた。レオさんの気持ちが凄く嬉しい。


「そうだね、そう言ってくれて嬉しい。じゃあ、食べよ。用意してくれてありがと。」


 ニコっと笑顔で頷いて、スイーツの時間の始まりを宣言してみた。レオさんが嬉しそうに頷いてくれたから、俺も笑顔で頷き返しちゃう。


 こんな風にまったりで幸せな時間が過ごせる、この家にずっといたいなってちょっとだけ思っちゃった。優しいネロと、ちょっと意地悪だけど優しいレオさんの傍にずっといられたら幸せなんだろうな。


 気分を切り替えて、それでは、いざ、実食。シュークリームの蓋になってる生地を摘まんで、中の生クリームを多めに乗せて齧り付く。甘すぎない濃厚なミルクの風味なクリームが美味しい。それに加えてパリッと張りのあるちょっと香ばしいシュー生地が最高。めっちゃ美味しい。


「時間が経っても生地がぱりっとしてる。ユリアさんの技術は凄いね。」


「そうだな、ある意味、菓子に情熱をかけてるトコロがあるからな。アイツの菓子はまぁ、美味い。」


 完璧なシュー生地に感動して、ユリアさんを褒め称えちゃうと、レオさんも納得してくれた。ユリアさんの事を話すレオさんの表情はちょっと好き。だって、優しい目になるんだもん。普段の優しい顔とはちょっと違う、幼馴染に向ける懐かしさを含んだ優しい眼差しって感じ。


 ぼんやりとレオさんを眺めちゃう。視線の先で、レオさんはいつもの如く、手掴みで豪快にチーズケーキを食べている。メッチャ美味しそうに見える食べ方と表情。その姿を見ちゃうと、チーズケーキも食べたくなっちゃう。


 視線をレオさんからお皿に移動して、フォークに手を伸ばす。チーズケーキはベイクドタイプ。焼いているからか、フォークを差し込むと、少し反発する感じのぎゅっと締まった程よい硬さがいい。


 でも、口に入れると舌の上でトロっと蕩ける不思議な食感だ。味は勿論、抜群に美味しい。濃厚なチーズの風味と、レモンっぽい酸味と、爽やかな甘さが一体となっている。記憶の中のベイクドチーズケーキとは明らかに違うけど、この美味しさは過去1の味かもしれない。


「やば、美味し過ぎる。」


「琥珀。」


 余りの美味しさに、ホワっとなりながら感想を漏らしちゃった。チーズケーキの余韻を楽しんでいたら、不意に呼ばれて、顔を横に向けちゃった。レオさんが優しい微笑みを浮かべて、口元に近付けてきたモノを反射的にパクっと咥えちゃう。


 もぐもぐ、と口を動かしながらレオさんを見つめる。どうやら、レオさんが差し出してくれたのはシュークリームだったらしい。しかも、俺が食べてたみたいに、シュークリームの蓋を少し切り取って生クリームを乗せてくれたっぽい。


「これはレオさんのでしょ。俺のはまだあるから大丈夫だよ。」


「美味そうに食ってたから、もう一回見たくなった。」


 コクっと飲み込んで、お裾分けはいらないですって伝えてみる。レオさんは嬉しそうな笑顔で、お裾分けの理由を話してくれた。緑の猫目がキラキラと煌めいて、凄く幸せそうな笑顔になってる。


 まぁ、シュークリームの蓋の部分はちっちゃい。俺のシュークリームの蓋は食べちゃったから、もうない。そこから判断すると、限られた部位を食べる俺をまた見たくなったから、食べさせてくれたって事か。なんとなく納得してコクっと頷いてみる。


「琥珀からのお返しは?」


 頷いた瞬間にレオさんの目の煌めきが増した気がする。そして、レオさんが甘える感じの声と表情でお返しを要求してきた。可愛く耳を傾けるレオさんがヤバいです。今、首を傾げずに、耳を傾けてきましたよ。めっちゃ器用な技を繰り出してきた。


 これはヤバい、可愛い。あざとい行動ですよ。誘惑する猫耳だ。もうね、目が釘付けですよ。レオさんの顔、というか猫耳を凝視しちゃっていたら、レオさんがクスッと笑ったのが見えた。はっとして、視線をレオさんの目に戻してみる。


「お返し。は?」


 レオさんがもう一回、今度は甘えた感じに悪戯っぽさを加えて、お返しを要求してきた。あ、そうだね。お返しか。ぼんやりとしながらレオさんに請われるままに、シュークリームをレオさんの口元に近付けてみる。


 レオさんが大きく口を開けて、バクっと大部分を齧り取っちゃった。半分くらい食べられちゃった悲しさより、驚きの光景を目の当たりにした衝撃で目が丸くなっちゃう。凄い、クリームが一切崩れてない。普通なら、べちゃってなる筈なのに全く崩れてない。


「ユリアさんの生クリームは凄いね。」


「ん?」


 驚きから、ぽつりと呟いたら、レオさんがキョトンとして首を傾げてきた。その顔は卑怯。ってかね、さっきから甘えた感じで猫耳をあざとく使うとか、キョトンと猫目を丸くするとか。


 デカくて筋肉がバキバキな目付きの悪い兄さんなのに、なんで可愛く見えちゃうの。ホント、猫補正は怖い。まぁ、レオさんの可愛さは置いておこう。それより、今は生クリームへの感動でいっぱいなんだから。


「レオさんが齧ったのに、全く崩れてなくて綺麗なままだもん。不思議な生クリームだなって思ったの。」


「俺の方を褒めようよ。」


 気が付いてしまった新発見を報告してみたら、レオさんがクスッと笑って頭を撫でてきた。そして、耳元に口を寄せて甘い感じで囁いてくる。ん、その言い方だと、レオさんの功績っぽく聞こえちゃうんだけど、違うでしょ。


「えっ、クリームのおかげでしょ?」


「そう思うの?」


 レオさんの目を見て、俺の発見の方が正しいと主張してみた。レオさんは楽しそうに目を細めて、甘さを含めた揶揄うような口調で聞き返してくる。コクっと頷くと、レオさんがニコっとしてくれた。


「じゃぁ、お前も齧ってみろ。」


 優しい口調だけど強制する声と共に、レオさんが自分のシュークリームを差し出してくる。求めに応じて、顔を寄せて齧りつく。結果としては、口を閉じた圧力で生クリームがはみ出て、俺の唇の端とレオさんの指に付いちゃった。


 うん、レオさんの意見が正しかった事は分かった。生クリームは普通に柔らかくて、普通の生クリームだった。レオさんは苦笑しながら、少し形の崩れちゃったシュークリームをお皿に戻して、自分の指に付いた生クリームを舐め取っている。


 そして、反対の手を伸ばして、俺の唇の端についた生クリームを指で拭ってくれた。と思ったら、それも躊躇する事なくペロっと舐め取ってしまう。スローモーションの映像みたいに、レオさんの舌が指に付いた生クリームを絡めとっていく。それをぼんやりと眺めちゃった。びっくりし過ぎて、止める事すらできなかった。


 ん。超チャラかった。めっちゃチャラい行動を生で見ちゃった。しかも、されちゃった。でもね、ここは触れずに放置しておこう。だって、反応すると揶揄われそうだもん。


 ってか。こっちはレオさんがサラッとチャラい行動をしてきたから動揺してるっていうのに。レオさんは涼しい顔で、何事もなかったかのように、流しに移動してるじゃん。しかも、全く動じた様子もなく手を洗ってる。なんでそんなに平然としてられるの。怖いわ。


「結論、レオさんは少し凄いかった。合格。」


「だろ?」


 レオさんの後ろ姿を眺めながら、多少の動揺を隠して、淡々とレオさんの凄さを評価してみた。レオさんは手を洗いながら、超嬉しそうにニコってしてくれた。緑の猫目がキラキラってしてメッチャ綺麗。嬉しそうな笑顔を浮かべるレオさんからそっと視線を外して、チーズケーキに戻る事にした。

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