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208 お前はドSで確定だ

 嬉しくて笑顔になっちゃうと、レオさんが眩しそうに目を細めて体勢を戻してしまった。勘違いだった事が判明して、レオさんに嫌われてないって分かったら涙が引っ込んでくれた。


 そっか、そうだったね。確かに、ネロがいない間はレオさんがいてくれるって話をしていた。レオさんに嫌われているかもしれないって思っちゃったら、ショック過ぎて、すっかり頭から抜け落ちてしまったらしい。


 俺の事が心配でレオさんの事も心配なネロの気持ちと、ネロが心配で淋しいレオさんの気持ちが合致したんだった。その結果、レオさんが一緒にいてくれる事になったんだった。


 ただ、レオさんはネロの前で、おおっぴらに浮気の方で淋しさを軽減します、なんて言えなかっただろうし。俺の事が心配なネロに押し切られる形で、今のこの状況になっているのは確実なんだよな。


 多分だけど、レオさんが淋しさを軽減するって意味なら、俺じゃない方がいい気がする。レオさんは色々とアレだから、女の子と一緒の方が色々な意味で癒される気もするんだよ。でも、ネロと約束しちゃったから、レオさんの行動が制限される結果になった感じ、だよね。


 実際に、制限さえなければ、レオさんは今頃ノーラさんに癒されていたと思う。ノーラさんはレオさんを癒してくれそうな気配に満ち満ちていたし。


 ノーラさんの甘える感じが可愛くて、もう癒される事が確定しているって感じだった。あんなに綺麗な人と一緒にいたら、淋しさなんてどっか行っちゃう筈。

 

 今日のノーラさんの時みたいにレオさんの行動を制限しちゃって、疎ましく思われるのは嫌だ。だって、レオさんに嫌われているのかもって思っただけで、泣いちゃう程辛かったんだもん。


「用事って俺と過ごす事だったのか。それだとめっちゃ悪い事をしちゃってるね。ごめんなさい。」


「悪い事って、どういう事?」


 ちゃんと謝らなきゃって決心して、おずおずと言葉を出してみた。レオさんは静かに見下ろしているらしく、シルエットの猫耳が可愛い。少しの間を置いて、レオさんが不思議そうに聞き返してきた。


「だって、俺のせいでレオさんは女の子とあんまり遊べなくなっちゃうでしょ。その結果、あの子達の嬉しそうな顔も見られなくなっちゃう。だから、遊びたかったら、俺の事は気にせずに行ってきて下さい。ネロには秘密にするから。」


 勘のいいレオさんなら、俺の思考と言葉を両方理解してくれると思っていた。まさか聞き返されると思ってなくて、焦りながら説明をしてみる。それに加えて、レオさんの行動を制限するつもりは一切ないって伝える事ができた。


 クスッと笑ったのが聞こえて、レオさんが俺の髪を自分の指に巻き付けて弄び始めちゃった。くすぐったい刺激に耐えながら、なんで笑ったのって意味で首を傾げてみる。


「琥珀が気にしなくても、俺が気になっちゃうんだよ。それに、ネロに秘密は通用しない。」


 レオさんは俺の髪で遊びながら、楽しそうに軽い口調で答えてきた。軽い口調なのに、決心を語るような強い意思を感じる声だった。レオさん自身が望んで遊びを断つって決心してるみたいで、ちょっとほっとしちゃう。


 それに、ネロに秘密は無理って言葉もホントその通りだ。秘密にしてもネロにすぐばれちゃうのは確実だと思う。その場合、怒られるのは確実にレオさんだけだ。


 浮気に対して怒られる訳ではなく、子守を放り出して遊びに行った事に対して怒られる。俺は多分、怒られる事すらない、筈。共犯者にすらなれない、被害者の立場になるのは確定だ。


 レオさんだけを悪者にするのが嫌なら、大人しくレオさんとネロの決めた事に従うしかない、のかな。でも、ホントにレオさんは子守を優先して平気なのかな。本心では嫌って思ってないのかな。


 疑念がどんどん膨らんじゃう気がする。こんなに悲観的になっているのは、レオさんに嫌われた可能性の恐怖を体験しちゃったから、かもしれない。嫌われる事を避けたいって心理で悲観の堂々巡りに陥っちゃっている、気がする。


「嬉しそうな顔、ね。確かにアレはヤバい。」


 頬に唇が触れた感触がして横に顔を向けると、レオさんが屈んで覗き込んでいた。優しい緑の瞳がキラッと光って綺麗。ぼんやりとレオさんを見つめていたら、レオさんが悪戯っぽく笑って口を開いた。


「へぇ。」


 沈んだ気持ちが一気になくなって、思わず冷めた反応を返してしまった。多少、目に力を入れて睨んじゃった自覚はある。そして、少しだけ、蔑んだ目をしちゃった自覚もありますよ。


 だって、レオさんの表情も、口調もイヤらしかったんだもん。甘く囁くような声にもイヤらしさがあったんだもん。レオさんの存在自体がイヤらしいんだもん。仕方ないじゃん。


 それに、俺の意味する嬉しそうな顔、と、レオさんの思い描く嬉しそうな顔、に乖離がある気がしたんだもん。俺が言っているのは嬉しそうな可愛い笑顔って意味なのに。レオさんが言うと、違う意味にしか聞こえないんだもん。


「お前はドSで確定だ。」


「いきなり何て事を言うの。」


 ボソッと呟かれたレオさんの声ではっとしちゃった。唐突に変な称号を付けないで欲しいんですけど。むっとしながら詰め寄って、文句を言っちゃったけど、レオさんは体勢を戻して、ポンポンと頭を撫でて適当にあしらってくる。


 どうやら、称号を引き下げてくれる気はないらしい。悲しい。ドSなんて、レオさんの為にあるような言葉なのに。俺は駆け出しの下っ端でドが付く程の功績はまだないのに。


「誘導しといてドン引きとか、お前はネロかよ。」


 しょんぼりしていたら、レオさんが突っ込むような口調で付け加えてきた。レオさんのあっけらかんとした物言いにびっくりして、慌ててレオさんの腕を掴んで体を寄せちゃう。


「レオさん、シーっ。」


 レオさんにぴったりくっついた状態で、声を潜めて自分の唇に指を一本当てる。話しちゃダメってジェスチャーをしてみたら、レオさんがコクっと頷いてくれるシルエットが見えた。


 壁に耳ありって教えてあげたのに、レオさんは迂闊過ぎる、かな。人が全くいないとはいえ、こんなお外の道端っていう不用心な場所で、大っぴらにネロとの事を話をしちゃうんだもん。


 あ、でも。面白い事を聞いちゃった。ネロは誘導しておいてドン引き、とか楽しい事をしてるんだ。そんな興味深いエピソードは是非、詳細まで聞かなきゃですよね。でも、ここでは聞けない。なんという、焦らしのテクニック。まぁ、約束を取り付けて絶対に後で聞いてやる。


「帰ったら教えてね。」


 詳細は帰宅後に聞かせて貰いますよ。こそっと囁いて要望を伝えてみたら、レオさんの視線を感じる。暗いから分からないけど、レオさんはじっと俺を見ているっぽい。


 シルエットが見下ろしている感じなんだもん。かなり長い間見下ろしていたけど、レオさんは何も答えずにふいっと前を向いてしまった。あらら、約束を確定してくれなかった。悲しい。


 それにしても、成る程ね~。レオさんはネロに誘導されてドン引きされた経験があるのか。ネロのドン引きの顔とか、ちょっと見てみたい気もする。ただ、ネロは感情表現が薄いんだよね。レオさんの言うようにドン引きではなく、若干引き気味程度なのかもしれない。


 でも、レオさんだったら、ホントにネロをドン引きさせる事態を引き起こしそうな気もしてくる。だって、フギンとムニンに変態って確定されてたし。ネロをドン引きさせるなんて、レオさんの手にかかればお手の物かも。


 あ、ネロも同じで変態って確定されてたんだ。という事はですよ。ネロはドン引きしたフリで、焦ったレオさんの表情を楽しむ系ってトコロなのかも。ネロも何気にイヤらしいですね。でも、戯れている二人を想像すると楽しそう。


「うん、楽しそうだね。」


「一つ言っておく。」


 レオさんの低い声が聞こえて顔を上げる。警告的な響きに聞こえたけど、何なの。小首を傾げて、微かに光る緑の瞳を見つめてみる。レオさんが耳元に顔を寄せてきて、内緒話のスタイルを取ってきた。


「心の声らしきものが口に出てたからな。」


 聞く体勢を取ったら、レオさんがこそっと囁いてきた。心の声が口に出たとか、ヤバい。俺は何を口走ったんだ。ぶわっとレオさんに顔を向けると、至近距離でレオさんが驚いた顔になっちゃった。


「マジで。どこまで出てたの?ヤバい感じ?」


 でもね、レオさんの驚きなんて今はどうでもいい。俺は何を口走っちゃったの。勢いよく問い掛けた先で、レオさんがふっと頬を緩ませたのが見えた。なんでそんな楽しそうな顔をしているの。俺が口走った内容のせいなのかな。


「ヤバいってどんな事を考えてたの。そっちが気になってしまう。大人しく吐いてみようか。」


 楽しそうな弄ぶ口調でレオさんが揶揄ってくる。どうやら、レオさんの趣味の時間の始まりらしい。レオさんは超楽しそうだけど、そんな事に付き合っている暇はないんです。それより、何を口走ったのか教えて下さい。


「心の声って何が出てたの。」


 レオさんの腕にしがみ付いて教えてってせがんじゃう。まぁ、落ち着けって感じで、レオさんが髪にキスをしてきた。今気が付いたんだけど、レオさんは髪にキスが好きらしい。


 ただ、そんな事は今はどうでもいいんだよ。答えが欲しいの。レオさんの腕をギュッと抱き締めて、早く教えてって目で訴えちゃった。少し明るいから、レオさんの表情が良く見える。慈愛溢れる緑の瞳が超優しい眼差しで見返してくれる。


「にこにこしながら、楽しそうだねって。」


「あ、普通じゃん。良かった。」


 レオさんが落ち着いた穏やかな声で漸く教えてくれた。あ~、それか。変なトコを口走ってなくて良かった。ほっと胸を撫で下ろして、安堵の言葉と一緒にレオさんの腕を解放してあげる。


「成る程ね~。普通じゃない事も考えてたって事だよな。楽しみになってきた。」


 俺が腕を離したのと入れ替わるように、レオさんが肩に腕を回して抱き寄せてきた。そして、テンション高めに楽しみ宣言をしてくる。ほぅ、楽しみ、ね。その言い方は聞いて欲しいんでしょ。俺だって少しくらい思考が読み解けるんですよ。


「何が楽しみなの?」


 肩に回されたレオさんの腕を掴んで、抜け出る方向で頑張りながら聞き返してみる。レオさんの手は俺の肩に吸い付くように置かれていて、全く離れない。でも、何の圧力も力も重さも感じない。感じるのはレオさんの腕の熱さだけ。


「聞きたいの?」


 レオさんの腕から逃れようと悪戦苦闘していたら、レオさんが聞き返してきた。レオさんお得意の、質問に質問で返してくるスタイルである。経験則から、これに反応するとろくなことにならないって分かっている。


「いいです。止めときます。絶対言わないで下さい。」


「そんな事を言うなよ。別に普通の事だから、言わせて。」


 という事で、淡々と返してみたら、レオさんが悲しそうに言い募ってくる。シュンとしたのが目に見える錯覚が怖い。伏せられた猫耳と、だらんと垂れた尻尾。そして悲し気に光る綺麗な猫目。想像だけで絆されちゃうとか、ヤバいよね。


「じゃぁ、言ってみて。」


 とはいえ、一度想像しちゃったレオさんの可愛い幻影からは逃げられず、話を続けるように促してみた。レオさんは声だけでも感情を揺さぶってくるから凄いって思っちゃう。


「帰ったら攻守を入れ替えての拷問ごっこ。どう?楽しそうでしょ。」


 さっきの悲しそうなのは演技だったらしい。嬉しそうに輝く目が見える、気がする錯覚の中で、レオさんが楽しそうにこの後の予定を語り出した。


 多分だけど、レオさんの家で俺が拷問官をやって、レオさんが陥落した事実が相当悔しかったらしい。だから、リベンジ的な感覚で拷問ごっこパート2をする気みたいだ。


「レオさん。忠告してあげるね。俺以外にそんな事を言ったら、ドン引きされちゃうよ。ホント、気を付けようね。」


 悔しかったのは分かるよ。ただね、普通にドン引き案件だから。拷問ごっこなんて、普通の会話では出てこないワードだからね。眉を顰めて、蔑んだ目で忠告だけはしておいたから、きっと平気でしょう。


「お前も普通にドン引きしてるじゃねぇか。さっきはお前もノリノリで攻めてきたのに悲しいな。」


 レオさんが淡々と突っ込んできちゃった。でも、一応は、俺がドン引きしたのは無事伝わってくれたらしい。まぁ、レオさんの言う通り、拷問官の役が楽しかったのは事実だ。あと、俺の言葉でレオさんが動揺するのも楽しめた。


「確かに楽しかった。」


「じゃあ、俺も楽しい事、してもいいよね?」


 ニコっと笑顔でサクッと認めてみたら、丁度辿り着いたネロの家の前で、レオさんがにっこり笑顔と優しい声で威圧をしてきた。爽やかにも見える笑顔だけど、迫力が半端ない。ネロの家から漏れる淡い明かりに照らされて、迫力が更に強調されている、気がする。


 声色とか表情とか、レオさんは一体どうなっているのだろうか。なんでこんなに器用に威圧や迫力を自由自在に出してこれるんだろう。レオさんの圧力に屈して、結局頷いちゃった。


 レオさんは俺を見つめて動かない。何か言いたい事があるのかなって、見つめ返してみたけど、無言が続いていく。もういい、と入り口を開けてみたら、レオさんが先にスッと入っていっちゃった。


 でも、レオさんはただ家に入っただけじゃなかった。いつの間にか、レオさんの手は俺の手首を握っていた。えっ、っと手元に視線を向けた瞬間に、クイッと軽く手を引かれた気がする。少しだけ手を引かれる感覚はあったけど、引っ張られるって感じではなかった。


 それなのに、家の中に連れ込まれる形で引き寄せられて、気が付いた時にはレオさんの腕に抱き留められている。そして、何が起こったのか分からない混乱の中で、ふわっと抱き上げられてレオさんの腕に座っていた。


 俺と目を合わせながら、レオさんが短く言葉を紡いで〈シール〉を解除してくれる。風の膜がなくなったトコロで小首を傾げるレオさんの頬に、求められるままに、ありがとうのキスをしてあげる。そうしたら、レオさんはニコっと笑顔を返してくれて、そっと下ろしてくれた。


 自分の靴をササッと脱いで、レオさんが俺の足元に跪いた。当然の如く、俺のサンダルまで脱がしてくれる気らしい。ぼんやりしていたからか、レオさんの行動が当たり前の気分になってきちゃった。


 レオさんの肩に手を置いてバランスを取りながら、ぼーっとレオさんを眺めちゃう。こげ茶色の綺麗な長い尻尾がパタパタ楽しそうに動いているのが見える。


 尻尾を眺めながらちょっとだけ考えちゃう。レオさんはホントに変な体術を身に付けているな、って。今の手を引かれたのもそうだし、抱き上げるのもそう。一番凄いのが、お膝抱っこのヤツだ。しかも、バリエーションも多彩。


 ネロがレオさんをお手本にして技を盗む程に、華麗な体術なのは確実なんだよ。ただ、それの方向性は何というか、際どい感じがしないでもない。ってか、寧ろ、際どい事にしか使わなさそうな体術なんだよな。


 サンダルを脱がせてくれて、レオさんが離れていった。レオさんを目で追いかけながら、ソファに移動する。レオさんはテーブルにミニバスケットを置いて、本棚に向かうみたいだ。


 レオさんが本棚の前でしゃがみ込んだのが見える。そして、本棚の一番下の収納の扉を開けて、脇に抱えていたバッグの中身を取り出し始めた。着替えの服を仕舞っちゃうらしい。


 レオさんの事だから、バッグごとそこらへんにポイっと放置かと思っていたのに。めっちゃテキパキと、お片付けができるじゃん。まぁ、ネロの家だし、そこらへんはしっかりやりますよって事かな。結論、レオさんはやればできる子、かもしれない。


「レオさんのその体術っぽいのは、どうやって上達したの?鍛錬とかで練習するの?」


「体術って何の話?」


 レオさんをぼんやり眺めながら質問をしてみる。服を収納する手を一時止めて、レオさんがこっちに顔を向けて聞き返してきた。体術って言葉では伝わらなかったらしい。って事は、体術じゃないのか。


「手を引いて家の中に連れ込むっぽいのとか、いきなり音もなく近付いて抱き上げるとか、膝の上にフワッて乗せるのとか。そんなヤツ。」


「成る程?俺が答えを言う前に少し考えてみな。必要な状況ってヤツを想像してみれば、自ずと答えは出てくる。」


 気付いた範囲の体術っぽいのを羅列してみると、レオさんは納得してくれたらしい。ただ、答えを直ぐにはくれないみたいだ。ってかね、言い回しがカッコいいんですけど。スゴク落ち着いた大人な意見に聞こえてしまう錯覚が怖い。


「レオさんが珍しくスゴク大人な事を言ってる気がする。先生っぽくてカッコよく見えちゃう、かも。」


「俺だって真面目な時くらいあるんですよ。」


 ほぅっと息を吐き出して、珍しいレオさんが見られたって感想を漏らしてみた。レオさんは苦笑して、反論をしながら服を収納する作業に戻っちゃった。


 必要な状況を想像する、か。ソファに凭れ掛かって、自分が出した言葉を反芻してみる。家に連れ込んで、音もなく近付いて抱き上げて、膝の上に乗せる。成る程ね、改めて客観的に考えると分かり易い。


 って、そのまんまじゃん。女の子とイチャイチャ的な状況ですよね。レオさんだし、色々やってるっぽいもん。その過程で、どんどん研ぎ澄まされた結果って事だったのか。すぐ分かっちゃった。確かに自ずと答えは出てきた。


 ん~、でもな。答えが単純明快過ぎて何かが引っかかる。レオさんは少し考えろって言ってた。って事は、少し捻って考えないといけないパターンだ。別の要素がレオさんの体術の根底に潜んでいる可能性がある。捻って考えるとか、俺の推理力が火を噴く時がやってきたようだね。


 レオさんは真面目な時もあるって言ってたし、裏をかいて、エロ要素が全くない可能性もあるのかもしれない。ん~、エロなしのレオさんか。全くイメージができない。仕事中のレオさんを思い浮かべてみようかな。


 冷めた感じの冷静な視線。にこりともしない、冷たさを感じる感情のない表情。微動だにしない姿勢。細くてすらっとした筋肉質な体躯。音もなく移動する姿。あ、暗殺者っぽい。ヤバい、イメージにぴったりじゃん。レオさんは目付きも鋭いし、怖い顔だもん。間違いない、きっとそうだ。


 家の陰に潜んで、対象が家に入る直前で音もなく忍び寄る。そして、口を塞いで静かに家に連れ込む。その後で、気を失わせた対象を抱き上げて、然るべき場所で始末。闇に紛れて姿をくらます。


 膝の上に座らせるっていうのは、暗殺では使わないテクニック。体術の研究を重ねた結果、できるようになっただけでソコに特化している訳ではない。あくまで派生形の体術の一種だったんだ。


 レオさんは暗殺者だった、これが解だ。それが一番辻褄が合う。レオさんの家での、あの冷たく光る瞳も、集中した時の光と考えると納得できる。恐ろしい程に冷たくて怖い光と、殺す事に特化した者の研ぎ澄まされた鋭い眼差しは集中した時に出ちゃうって事か。


 でも、深い緑の猫目から放たれる、静かで冷たい光はとても綺麗だった。あれを見ながら殺されるとしたら。最期に目に入るのがあの綺麗な光だったら。少しだけ幸せなのかもしれないって思っちゃう。


 あ、だとするとマズい。マズいどころの話じゃない。俺はなんて事をしちゃっていたんだろう。あの時のレオさんは本当に怒っていた、って事だ。今までは自制心で心の中に留めていた怒りが面に出ていた、って事だと思う。


 淡々とした冷たい口調と鋭い眼差し、それに冷たい態度と冷めた表情。あの時のレオさんは、怒りが勝り過ぎて暗殺者の顔になっちゃっていたんだ。俺は殺される寸前だった、筈。あの後、レオさんは何とか怒りを内側に収めてくれていただけで、今も、怒りは継続中だと思う。


「ごめんなさい。」


 改めて気付いた可能性にぶるっと震えて、涙目になって俯いちゃった。あの時は言えなかった謝罪の言葉を、何とか口から絞り出す。同時に隣が沈み込んで、レオさんが隣に座ったのが分かった。俺の謝罪はレオさんに届いたのだろうか。


 レオさんが優しい笑顔で覗き込んでくる。おどおどしながらレオさんに目を向けると、レオさんはカップを差し出してくれた。考え込んでいる間に、レオさんは服の収納を終えて、お茶を用意してくれていたらしい。


 差し出されたお茶に手を伸ばす事もできずに、震えながらレオさんと目を合わせ続ける。カップを受け取らない事に対してか、謝罪に対してか、涙目に対してか、震えている事に対してか。どれに対しての疑問かは分からないけど、レオさんが首を傾げてきた。


 優しく細められた深い緑の目は穏やかで落ち着く色だ。でもね、こんなに優しい顔をしているけど、レオさんは実は非情な暗殺者だって気が付いちゃった。しかも、俺はさっき怒らせちゃっている。今も継続中で怒っている。


 ネロの子供扱いだから、生かされているだけだった。きっと、馴れ馴れし過ぎて、内心では激おこ状態だったりするんだと思う。暗殺者だから、ネロよりポーカーフェイスが上手くて、怒りの感情を笑顔で覆って隠しているんだ。


 レオさんの威圧や気迫の意味が分かった。暗殺者だから、対象が暴れないように威圧する力に長けているんだと思う。ネロと一緒にいても、時々気迫を出してきたのは怒りが漏れ出していたからだったんだ。


「まず、言いたい。」


 スッと目を細めたレオさんにビクッとなりながら、じりじりと距離を取って肘掛けにしがみ付く。ソファの端っこで震えていたら、静かな声が聞こえてきた。これに答えないと、俺はヤバいかもしれない。怖くて震えながらも、聞いていますよって意味でコクっと頷いてみる。


 受け取らないと判断したらしく、レオさんは俺のカップをローテーブルに置いてくれた。そして、自分のカップからクイっとお茶を飲んで、俺のカップの隣に並べて置いている。無言で行動するレオさんから目が離す事ができずに、恐々眺めちゃった。


 スッと立ち上がったレオさんにビクッとなって、見上げると、レオさんが無言で手を伸ばしてくる。怖さから、体を固くしていたら、ひょいっと抱え上げられてしまった。


 ガチガチに緊張している俺の態度に思う事でもあるのか、お姫様抱っこの状態でレオさんが見据えてくる。蛇に睨まれた蛙の如く、レオさんの目から視線を外す事ができない。


 少しして、レオさんが抱っこの体勢を変えて腕に座らせてきた。そして、屈んでソファにクッションを沢山集めて座る場所を作り始めたのが見える。不安定な体勢が怖くて、レオさんも怖い。


 背中を支える腕はなくなっちゃったけど、怖くて肩に掴まる事もできない。グラグラする不安定な状態で固まっていたら、レオさんは俺が座っている腕を引き寄せてきた。その結果、レオさんに寄り掛かる形で密着させられちゃった。


 座る場所が整ったのか、レオさんは優しく丁寧にソファに座らせてくれた。背中にはレオさんが設置してくれた沢山のクッションがある。肘掛けを背にして足を投げ出せる、ぐでっとなれる体勢だ。背中のクッション達が居心地のいい空間を作っている。


 でも、怖くて足を抱えてクッションに体を押し付けるようにして、レオさんから距離を取っちゃった。レオさんは俺に向き合う形でソファに座ってくる。覗き込む感じで目を合わせて、レオさんが手を伸ばしてきた。


 イヤって精一杯下がってみたけど、これ以上は下がれない。肩にそっと置かれたレオさんの手に、またビクッとなっちゃう。緑の目は優しくて、手のひらは温かい。気付く前なら安心できた筈なのに、今は凄く怖い。


 目を逸らす事ができずにいたら、レオさんの優しい眼差しは真剣なモノ置き換わっていった。レオさんの眼差しが鋭い視線に変わった事で緊張感が更に高まってしまう。究極に張り詰めた心のせいなのか、肩に置かれたレオさんの手のひらの熱さも感じない。


「答え合わせを兼ねて、さっきの回答を言う。そして、琥珀が何を想像していたかは後で話して貰う。いいな、異論は認めない。」


 レオさんが真剣な表情で淡々と言葉を出していく。両肩を抑えられて逃げ場はない。反応を示さなければ殺される。冷たい光を放つ瞳で一瞬睨まれて、びくっとなって反射的に頷いちゃった。


 さっきはドキドキしたこの顔も、真実が分かってしまうと怖さしかない。冷たい眼差しも、感情の見えない表情も、淡々とした口調も、全部レオさんの怒りが表れたモノ。


 あ、そっか。もう、レオさんの次々と変化する表情は見られないんだ。心配そうだったり、不安そうだったり、意地悪だったり、悪戯っぽかったり、焦っていたり、慌てたり、ちょっとエロかったり、嬉しそうだったり、楽しそうだったり。


 後は、ネロと目を合わせて幸せそうで、俺と目を合わせて凄く優しそうで。レオさんの表情の変化は見ていて楽しかった。それに、レオさんのレパートリー豊かな笑顔も、もう見られないと思うと悲しいし、怖い。


「体術が上達したのは、そうだな。基本的には、鍛錬や戦闘で培われた経験に基づいている。」


 レオさんが静かに淡々と説明する声が聞こえる。視覚と聴覚だけが異常に研ぎ澄まされている感覚の中で、レオさんの冷ややかな低い声が耳に入ってきた。目の前には鋭い眼差しの緑の猫目がある。


 レオさんの言葉を噛み締めて理解できた。やっぱり、仕事関係で上達したって事で間違いなかった。戦闘って言っているけど、戦闘には色々種類があるのは知っている。暗殺も戦闘の一種、だと思う。って事は、やっぱりそうなんだ。


 静かに見据えてくるレオさんは怖い程に無表情だ。無表情なのに、冷たく光る瞳が鋭くて怖い。ネロの無表情と違って恐怖を感じてしまう。距離を取りたくても、俺の肩に添えられたレオさんの手がそれを許してくれない。


「そして、琥珀の言っていた技術は。」


 レオさんが話を再開した。でも、直後に言葉を止めて、スッと目を細めたのが見える。冷たく光る瞳の輝きが一瞬強くなって、ぶわっと鳥肌が立っちゃった。レオさんの本気が垣間見える眼差しを目の当たりにして、悟ってしまった。俺は最悪、ここで殺される、と。


 でもね、良く考えたら、俺は殺されても必ず復活するんだった。ここで殺されたとしても、微かな痛みだけで直ぐ復活する。少しだけ、ほんのちょっとだけ、レオさんとの楽しい思い出を引き摺って精神的ダメージがあるかもだけど、きっと平気。


 今まで楽しくて幸せな生活ができていたのはネロのおかげ。でも、この数日間でレオさんに貰った幸せは計り知れない程大きかった。ネロと過ごした期間の全部を合わせたくらい、レオさんとの数日は幸せだった。俺は幸せだったんだよ。


 それに引き替え、レオさんには今までストレス一杯の生活をさせちゃっていた。甘え捲って暴言や我儘の限りを尽くしちゃった。それなのに、レオさんは怒りを押し殺して面倒を見てくれていた。優しく見守ってくれていた。と思ったけど、内心ではイラっとしちゃっていたよね。


 家出以降のネロの言葉や態度で、ネロが俺を家族のように大事にしてくれているのは理解できた。レオさんも俺の事を家族のように思ってくれている、気がしていた。でも、違ったみたい。俺の想い込みだったみたいだ。


 レオさんがテンションの高いパパさんモードになったり、チャラさ全開で触れてきたりしたのは、怒りを違う形で発散していたんだと思う。俺を抱き締めてくれたのは、ネロが反応してくれるからだった。俺に優しくしてくれたのは、ネロが嬉しそうにしてくれるからだった。


 レオさんの前でネロにべたべたと甘えたり触れたりしちゃっていた。しかも何回も繰り返していた。レオさんはイヤな気持ちになっただろうし、神経を逆撫でする行為だったと思う。俺は殺されても仕方がない事をしていた。


 レオさんが俺を殺したいのであれば、その気持ちを受け入れる覚悟がある。だって、それだけの事をしてきちゃったって分かっているから。レオさんが耐えて我慢をしていた分を俺に返すだけの事。受け入れる事が俺にできる唯一のレオさんへの恩返しになる、筈。


 でも、ネロと喧嘩だけはしないで欲しい。俺を手にかけちゃったら、ネロはレオさんに激怒するかもしれない。するかもしれないというか、確実にすると思う。そんな未来が想像できるから悲しい。


 殺されたら、あの神殿の前にネロが迎えに来てくれる、かな。でもね、レオさんはもう俺の顔も見たくない筈。だから、連れ戻されないように、ネロが帰るまでは神殿に籠ろう。


 ネロはあそこを神聖な場所って言っていたし、神殿に籠っていたら入ってこられない筈。ネロの姿が消えたら神殿から出て、できるだけ遠くに行こう。レオさんの目に触れない程遠くに行かなきゃ。

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