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207 暗いし、誰にも見えないから

 匂い移り、といえば、とっても気になっていた事があったんですよ。なんでかな~って思っていたんだけど、色々と気を取られる事があって聞くのを忘れちゃっていたんだよね。


「確か、レオさんはノーラさんを送っていく前に、〈シール〉をして出ていった記憶があるんだけど。間違いないでしょうか。」


 問い質しモードに移行して、速やかに聞いてみる。闇の中で緑の目が一瞬キラッと光ったのが見えた。そして、レオさんは俺の髪から手を離して肩を抱き寄せてきた。


 今はイヤなのって意思表示で、レオさんの手を掴んで体を離しちゃう。その上で、素早くレオさんの腕から抜け出て距離を取ってみると、レオさんが小さく溜息を吐いたのが聞こえた。


「間違いない。濡れて帰ったら、琥珀は煩いでしょ。後、濡れてたら、帰って直ぐに抱き締められない。帰宅後の触れ合いが俺の癒しなんだから、〈シール〉くらいするよ。」


 淡々と答えてくれたのはいいんだけど、煩いから〈シール〉をしたってなんなの。濡れない為じゃないのかよ。そして、抱き締めるってなんだよ。


 触れ合いが癒しって、子供と触れ合いたいパパさんモードが残っているのだろうか。レオさんは保護者を拒否していた気がするんだけど、なんでパパさんモードになってるんだろ。


 ん~。あ、分かった。パパさんモードじゃなくて、チャラさ全開の方のレオさんなのかもしれない。そうやって女の子を口説いて回ってるんだ。イヤらしいですね。


「へぇ。そう。」


 ジト目で淡々と返事をしてあげる。ここで恥ずかしがるとレオさんの思うつぼだからね。俺だって学習しているんです。経験に基づいた的確な対処方は、恥ずかしさをなくして淡々と冷めた反応をする。これに尽きるんです。


 レオさんがほぅっと息を吐き出すのが聞こえた。そして、再度、俺の肩を抱き寄せて髪にキスをしてくる。イヤ、って腕を突っ張って離れようとしたら、腕を緩めてくれた。


 でも、手は肩に添えられたままだ。レオさんは息をするように軽薄な行動をしてくるから困ってしまう。ってかね、マジでチャラ度が凄く上がっている気がする。ノーラさんと遊べなかったから、気分的に引き摺っているとかなのかな。


「その冷めた態度が堪らない。最初は悲しかったのに、最近ではもっとして欲しくなってる。」


 レオさんが屈んで目を合わせてきた。緑の猫目が民家の微かな明かりを反射してキラキラしている。そして、興奮を抑えた感じでゆっくりと口を開いた。その口調は熱を持っているような、甘いような、適度なヤバさがある。なんでそんな話し方になった。


「レオさんはヤバいですね。」


 対処に困って、眉を寄せて貶しておく事にする。レオさんはふっと笑みを零して体勢を元に戻してしまった。できるだけ冷めた反応を心掛けて貶したんだけど、ヤバい事に気が付いてしまった。


 俺もレオさんと同類なのかもしれない。いや、同類まではいかない筈。レオさんの気持ちがちょっとだけ分かっちゃうくらい、かも。どっちにしても、俺もヤバい。


 まぁ、もっとして欲しいまではいかないから、ちょっと分かるくらいなんだよ。ただ、レオさんに冷めたい目で見据えて欲しい、とか思っちゃうのは明らかにヤバいよね。


 ずっとじゃなくて時々だよ。ホント時々でいいから、あの目を見たい、とか。冷たく突き放して欲しい、とか。アブノーマル一歩手前だよね。うん、一歩手前で踏み留まっているから平気な筈。


 でも、あのぞくっとした感覚をまた味わいたいって思っちゃう。まぁ、俺のは興味本位だからね。本気で言ってそうなレオさんとは同類じゃない筈。うん、きっとそう。


「で?〈シール〉をしたから何なの。」


 レオさんと自分のヤバさについて考えていたら、レオさんの問い掛けが聞こえてきた。冷めた態度で貶してあげたのに、それをサラッと受け流しちゃった。俺は自分の攻撃で瀕死になっていたというのに。


 レオさんの突っ込みや軽口が楽しかったりするから、もうちょっと絡んでくれても良かったのに。まぁいい。話を続けたいって言うなら、本題に入るとしようか。


「俺の今までの経験によると、〈シール〉をしてたら匂い移りってしないと思うんです。」


「う、あ~。うん、そういう事もあるかな?」


 淡々と、経験則に基づく推測を確認してみた。レオさんは少し焦った様子で、一応は肯定をしてくれた、感じかな。疑問形だけど、俺の意見が正しいって事であっている筈。


 太腿に何かが当たる感覚がして、目を下に向けてみる。大きく振られている尻尾の動きが可愛い。ん~。そんなに尻尾をぶんぶんさせちゃってどうしたのかな。何か疚しい事でもある、のかな?


 微かな明かりの中でレオさんの尻尾に目を向けて、その後で見上げてみる。仄かにレオさんの表情が見える。頑張って笑顔を作っているっぽいけど、動揺してますね。だって、可愛いお耳が動揺してプルプルしているんだもん。


「うん、あると思うの。それでね、そうすると、疑問が出てきちゃうんだよね。どうして、ノーラさんからレオさんに香りが移ったのかな?」


 淡々と話をして、最後の疑問でニッコリ笑顔を贈ってみる。レオさんは目を逸らす事なく最後まで聞き終えたけど、疑問を聞いて気まずそうに目を泳がせてしまった。


 なんとまぁ、分かり易い反応です事。何かをしたって如実に語ってくれる行動ですな。俺でも分かる程に動揺してるのがちょっと可愛く見えちゃう。


 それに、尻尾のぶんぶんが最高潮で、メッチャ可愛い。レオさんの尻尾を眺めていたら、尻尾の動きがピタッと止まった。顔を上げると、文字通り、目を輝かせたレオさんが見える。


 キラッキラに瞳が輝いているんだけど、何に興奮したんだよ。あ、短時間だったけど、ノーラさんと濃厚な時間を過ごしてきたのを思い出しちゃった、とかなのかな。


「それを言わせるとか、琥珀はドSだな。言い方がもう、普通にエロい。香りが移るとか、想像力を掻き立てられる表現がマジ、ヤバい。」


 レオさんは興奮を抑える事もなく、テンションを上げ捲って楽しそうに話していく。へぇ、普通にエロい、か。想像力を掻き立てられる、か。って、何の話だよ。俺は普通の質問しかしてない。


「普通にエロいってなんだよ。普通の質問でしょ。」


 眉を寄せて睨みながら言い返すと、レオさんが顔を寄せて髪にキスをしてきた。ガトは外では大人しいんじゃなかったのかな。今日のレオさんは屋外なのに、普通に肩を抱き寄せたりキスをしたりしてくるんだけど、なんでなの。


「暗いし、誰にも見えないから。」


 クスッと笑ったレオさんが楽しそうに答えてくれた。一瞬ポカンとしてしまう。だってね、言葉に出してないし。もうヤダ、なんでレオさんは普通に俺の心と会話してくるの。


 レオさんはあんまり読めないって言ってたじゃん。嘘だったんだ。心を読まれた恥ずかしさと、レオさんの行動を非難する意味で顔を覆って泣き真似をしたら、レオさんが頭をポフポフっと撫でてくれた。超子供扱いである。


「〈シール〉を解除する状況になったって事で正しい?まぁ、首にキスマークが付いてる時点でそれしかないだろうけど。」


 もういい。本題に戻ろう。顔を上げて淡々と質問を続けてみた。凄く気になっていた、エロさなんて欠片もない、純粋な疑問なんです。だって、一度〈シール〉を解除しないと香りは移らない筈なんだもん。どうして送って行っただけで、そういう状況になったんだろう。


「ヤキモチか?可愛いな。家の前でノーラが無理遣り解除して抱き着いてきた。しょうがなかったんですよ。ある意味、事故みたいなものだったんです、疚しい事は何もしてません。」


 レオさんは苦笑交じりに、当時の状況を説明し始めた。でもね、無理遣りとか、事故って言葉は苦しい言い訳かもしれない。だって、レオさんは脳筋でスピードタイプだと思うから、レオさんの反応速度なら躱せる気がするんだもん。


「へぇ。」


 レオさんは優しいから、甘んじてノーラさんの抱き着きを受け止めたってのが正しいんだと思う。まぁ、状況は理解しましたよって意味で、軽く相槌を打っておく。


「抱き着かれたら、離れてくれるまで何もできないでしょ。ノーラは琥珀よりは脆くないけど、柔らかい体をしてるし。あとは、まぁ、触っちゃったら声とかヤバいし。」


 俺の相槌を先を促す言葉と受け取ったのか、レオさんが更に話を続けてくれる。ふむふむと頷いて聞いていて、途中からポカンとなってしまった。ってか、今回のこれは明らかに際どい表現だよね。


 レオさんだから卑猥とかじゃなくて、誰が言っても卑猥系のアレだよね。柔らかい体とか、声って、明らかにアレ系を示唆しているって事で間違いない筈。レオさんはイヤらしいですね。


「うぁ、生々しい表現ですね。レオさん、アウト。」


「お前が言わせたんだろ。もっと生々しく表現してやろうか?」


 本気でドン引きしつつ、レオさんにアウトを言い渡しておく。レオさんが呆れた口調で言い返してきて、更に冗談も付け加えてきた。レオさんなら本気で生々しい表現で語ってくれそうなトコロが怖い。


 ってか、もっと生々しいって何を語ろうとしているの。それに、声って何だろう。抱き着いて来られたのを引き剥がしたら、嫌がる声はされるかもだけど、ヤバい声はされないよね。そういうプレイ系の何かなのかな。


「そもそもな話。離れて貰うのに、声ってトコロが分かんない。レオさんは嫌がる声で興奮しちゃうタイプの人なの?」


 俺の思考はレオさんに筒抜けな可能性もあるけど、ちゃんと言葉で聞いておこう。その方が精神的なダメージがない。普通の会話を普通にしたい。ホント、ネロもレオさんも一方的な以心伝心ができる程に鋭いから困っちゃう。


「それはアレだよ。あの子は煽ってそんな感じの声を出してくるだよ。そういう系のノリでヤったりする事もあるでしょ。で、あの子の声は何というか、色々な意味で相当ヤバいんです。」


「ああ、成る程。」


 レオさんがクスっと笑って、ゆっくりと楽しそうに説明をしてくれる。内容がもう、生々しい表現じゃなくても分かっちゃう感じの世界だった。レオさんの生々しい世界を垣間見ちゃった気がして、呆然としながら、何とか理解しましたって言葉を絞り出した。


 俺がショックを受けちゃったってのが分かったらしく、レオさんが優しく髪にキスをしてくれて、頭を撫でてくれる。うん、俺はこんな風に子供扱いでいい。生々しいレオさんより、優しいパパさんなレオさんの方がいい。


 ってか、レオさんはマジで大人な人だった。大人な人というか、大人な世界を知っている人。そりゃそうだよね、遊び人な方だし、ネロともお付き合いをしているんだし。倒錯した変態さんなんだから、大人な世界くらい知ってるよね。


「だから、離してくれるまでノーラを放置してたら、首に吸い付かれたって訳です。という事で、今回のこれは不可抗力だったってのが結論。」


 レオさんが更に話を続けて、結論に達していた。ぼんやりと聞いていたけど、理解できた気がする。レオさんが手を出してないってのはホントに正しそう。ノーラさんが積極的だったのも良く分かった。


 その上で、引き剥がそうとして手を触れると、ノーラさんのセクシーな声による反撃でヤバくなる状況だった、と。それは手を出せないね。でも、そうなると、また1つ気になる事が出てきちゃった。


「ちょっと待って。聞いていいの?」


「うん、何でも聞いて。」


 レオさんをクワっと見上げて、質問の形式を取った許可を強制してみると、レオさんがまったりとした口調で先を促してくれた。暗くてレオさんの表情は見えないけど、緑の目が微かに光ってるのが見える。


「家に押し込んで逃げてきたって言ってなかった?」


「うん。確かに言った。」


 まずはレオさんの言葉に間違いはないのかを確認してみたら、レオさんは頷いて、肯定してくれた。そっか、間違いないのか。だとすると、レオさんとノーラさんは屋外で堂々と抱き合っていたって事になる。


 レオさんの話によると、ノーラさんが抱き着いてきたって事だった。でも、レオさんの事だから、ナチュラルにノーラさんの背中に腕を回すに決まっている。


 結果、色気たっぷりのナイスバディのノーラさんとイヤらしいレオさんが、屋外で熱い抱擁を交わすって状況になっちゃうと思うんだ。しかも、レオさんの話を聞く限りでは、ノーラさんの熱烈なキスがレオさんの首元に発動する、と。


「家に入る前にそんな事をしてたの?」


 屋外でなんて事をするのって思いから、非難の口調で問い質しちゃったら、レオさんがクスッと笑っちゃった。なんで笑ったの、って首を傾げると、レオさんが優しく頭を撫でてくれる。


「まぁ、首に吸い付かれたのはノーラの家の中、だったかな。正確に言うと、家の外で〈シール〉を解除されて、抱き着かれた。で、濡れるのがイヤだったから、ノーラを家に押し込みつつ、俺も入った。で、首に吸い付かれた。以上。」


 レオさんは少しの間俺の髪を指で弄って遊んでいたけど、実のトコロ、一部は家の中での出来事だったと白状してきた。とっても落ち着いた口調、且つ、堂々としている。疚しい事は一切ないと言わんばかりの声色だ。


 そうだよね、ノーラさんは例え首に熱烈なキスをしてきたとしても、可愛いから許されるかもしれない。でも、レオさんはただのハグから派生して猥褻な事になりかねない。その点で考えると、家の中の出来事だったのは一安心だ。


 ただ、家の中っていう状況だと、それはそれで問題なんですよ。家の中でノーラさんに抱き着かれて、多分レオさんはノーラさんを抱き留めた上で、ノーラさんがレオさんの首に艶めかしくキスをしてくる。うん、大問題だ。それに、レオさんに聞いていた話と違うんだもん。


「家に入ってるじゃん。それはもう浮気で間違いないと思うの。」


 もう確実に浮気だった、そう確定して強い口調でレオさんを非難しちゃった。レオさんは無言を保ったまま、こっちに顔を向けている。暗くてどんな表情かは分からないけど、沈黙が続くこの状況が答えな気がする。


 黙り込んだレオさんを見上げていたら、少し明るい空間でレオさんの顔がよく見えるようになった。反省をして黙っていたのかと思っていたけど、違った。


 レオさんは意外そうな顔で、俺をまじまじと見つめていた。そんな表情で見てくるとかどしたの。レオさんの思考が掴めなくて、ちょっとだけ困惑しちゃう。


「ほぉ。」


「どしたの。」


 不意に、レオさんが驚きと、意外性と、嬉しさを混ぜ込んだ複雑な表現で言葉を漏らした。短い言葉にそんなに沢山の感情を込める事ができるんだ。変なトコロに感心しながら、聞き返してみる。


「いや、浮気の言い訳をするのって新鮮だなって思って。」


 レオさんが感無量って感じでぽつりと呟いた。その嬉しそうな口調とは裏腹に、内容的にはどう聞いても浮気を認めている。表情は嬉しそうなのに、内容はダメだった。


「うぁ。やっぱ浮気だったんだ。レオさん酷い、嘘吐いたんだ。」


 今度は眉を寄せて、レオさんを非難しちゃう。レオさんが浮気三昧なのは知ってたよ。でもね、今回は違うって言ってたじゃん。何もなかったって言ったのに、浮気してたとか酷い。


「マジで嬉しい。もっと責めてみてよ。甘えた口調だと尚いい。あ~、でも。怒ってた方が、それっぽくていいかも。どっちも捨てがたい。でもな、琥珀だと拗ねたのも可愛いんだよな。ヤバい、嬉し過ぎて困る。」


 ちょっとの間黙っていたレオさんだったけど、急に目をキラキラさせて腰を抱き寄せてきた。この態度の急変は何、と思っていたら、嬉しそうに語り始めた。


 ってか、肩を抱き寄せるのは、もう慣れてきちゃった感があるからいいよ。でもね、何で腰を抱き寄せてくるの。超歩き辛いんですけど。しかも、話しながら優しくキスを織り交ぜてくるのはやめて。


 髪だけなら、チャラい行動の一環、的な感じでもう諦めた。でも、額とか頬とか、目尻とか態々してこなくていいよ。視界を塞がれてめっちゃ歩き辛いから。そして、丁寧で優しいキスとか、ドキドキするからやめようよ。


 イヤなのってレオさんのわき腹に手を突っ張って上半身を離したら、レオさんのキスが止まってくれた。でも、腰に回した手は離してくれない。レオさんの手を握って抜け出ようと試みたら、反撃みたいに首にキスをされてしまった。


 もういい、抜け出るのは諦めた。それより、レオさんは何を口走っているんだろう。浮気を責めて欲しいって言っているんだけど、新手のプレイ的な何かなのかな。


 プレイのメニューは、浮気シチュエーションで責められる。希望の感情としては、怒る、甘える、拗ねる。かなりマニアックなプレイ内容な気がするんだけど、俺は何に付き合わされているんだろう。


 怒るのは分かる。浮気されたら怒って当然。拗ねるのも、まぁ、感情としては分かる、かな。でも、甘えるはないでしょ。浮気されて甘えて非難とか、ない、よね。あ、いや。あるかもしれない。レオさんは寝取られ系の変態だった。そういう場合は、甘えて責めるって事もあるのかも。


 そもそもの話、一体何がツボにはまって、レオさんはそんなに嬉しそうになっちゃったの。今、レオさんは非難されていたんだよ。俺が眉を顰めて非難した、で正しかった筈。そこでテンションが爆上げになる心理が分からない。


 ん~、あ。そうか、分かった。俺はネロの代わりの代償行為の対象だったんだ。つまり、ネロの代わりに、俺に浮気を非難されて責められたのが嬉しい。もっと責めて欲しい。できる事なら、希望のシチュエーションで攻めて欲しい、と。そういう訳でしたか。成る程。


 ネロは浮気云々に対して、言葉に出して非難する事はなかったんだろうな。嫉妬はされるけど、面と向かって非難をされた事はない。ましてや、責められる事なんて一度もなかった、と。


 そもそも、ネロはレオさんの浮気に対しては、どうでも良さそうな態度を貫いていた。マジで興味なしの態度だった。稀に嫉妬が発動するくらいで、静観の視線を貫いていた。ネロが浮気を非難してくれた事がないから、レオさん的には、この状況が新鮮で嬉しかったんだと思う。


 更に言うと、レオさんはネロに浮気をやめて欲しいって言って欲しかった。その事からも、ネロに対しての罪悪感は持ち合わせている筈。罪悪感はあるのに、ネロは全く責めてくれないから悲しかった筈。


 ただ、不思議なのが、罪悪感と責められたい欲求があるのに、レオさんは浮気をやめる気は全くなさそうなんだよね。いや、不思議じゃないか。罪悪感と責められたい欲求、非難される喜び、それがあるから浮気を続けているんだ。


 多分、レオさんにとっては、倒錯したプレイの一環なんだ。あと、多分だけど、ネロにとっても、レオさんの浮気は寝取られ欲求を満たせる、かもしれない。全然分からない心理だけど、まぁ、大人の倒錯した世界ってヤツ、なんだろうな。


 レオさんの嬉しそうなニコニコの笑顔を眺めながら、一応の結論付けができた。唖然とした展開だったけど、蓋を開けてみると、実にレオさんらしい複雑なアレでした。もういい、話題を変えよう。


 レオさんの腕を掴んでポイっと捨てて、少し距離を取ってみる。今回はあっさりと腕を離してくれたレオさんだけど、体を離した分だけ歩み寄ってきた。ただ、腰にも肩にも腕を回してこないからよしとしよう。って思ってたら、髪にキスをしてきた。マジで、チャラい。


「ってか、ノーラさんは待っていてくれたって事だよね。あんなに綺麗で可愛い、タレ耳のお姉さんが待ち伏せする程会いたくて、レオさんの事を待っていてくれたの?」


「ここ数日は遊んでなかったから、帰ってきそうな時間に待ってたのかな、っと。」


 さっきの話に戻って、待ち伏せってどういう事なのかを聞いてみる。レオさんは今まで上機嫌だったのに、何故かそっぽを向いてボソボソと答えてくれた。


 急に変化したレオさんの反応に戸惑ってしまう。にこにこで嬉しそうだったのに、何で急にばつが悪そうにそっぽを向いちゃったの。照れてるって感じでもないし、良く分からん。


 ってか、ここ数日って言葉を使う程、頻繁に遊んでいた子って事なのかな。まぁ、ノーラさんはレオさんの好みのど真ん中を貫いている感じだったし、分からないでもない。そして、言葉を返せば、ネロはそれだけレオさんを放置して淋しがらせていた、と。


「ここ数日って、何で遊ばなかったの?」


「直近の三日間はネロの家にいたし、その前は琥珀といた。更に前は他の子達とちょっとアレだったかな。で、その前は琥珀が泊まりに来ただろ?まぁ、その前あたりに合ってた気はするけど、そんなトコだ。」


 レオさんはそっぽを向いた気まずい状況だけど、世間話風で先を促してみようかな。前方に目を向けて、さりげなく話し掛けると、レオさんがぽつりぽつりと話してくれた。


 えっとね、俺が泊まりに行った時から、俺が家出をするまでの期間はたった数日なんですけど。しかも、その数日間の殆ど毎日、レオさんは夜に俺とお散歩をしていた記憶があるんだよ。


 レオさんはそんな数日の間に、他の子達、つまり複数の子と遊んでいたって事なのかな。あ、でも、確かに、クロエさんと遊びかけていたのを邪魔しちゃった事があった。更には、キスマークだらけの日もあった。


 後は、凄くいい香りの日もあった。今更ながら、レオさんのいい香りは全部女の子経由な事に気が付いてしまった。ってか、それでいくと、ほぼ毎日、誰かしらと何かしらをしていた計算になってしまうんですけど。


「レオさんは本当に爛れた生活をしてるんだね。」


「う、そうかも。ごめん。」


 素直に思いついた言葉をそのまま口に出してみたら、レオさんが慌てた様子で気まずそうに謝ってきた。なんで俺に謝るの。謝るなら、ネロに対してでしょ。思わず心の中で突っ込んじゃった。


 ただ、俺はネロの連れ子の立場だった。しかも、今は親睦を深めている最中だった。レオさん的には自分をよく見せるアピールの場で、浮気を指摘されたんだもん。そりゃ謝っても当然だったかもしれない。


 でもね、ネロが気にしてないのに、俺が何かを言える立場にはない。今のはあくまでただの感想。さっきの浮気に対する非難も、浮気じゃなくて嘘を吐かれた事に対する非難だった。レオさんが誤解して受け取っている以上、訂正はしておかないとだ。


「なんで俺に謝るの。ある意味、爛れた生活をしているって事に何の違和感も抱かない程、実にレオさんらしいから気にしなくて平気だよ。それに、ノーラさんもクロエさんも、食事場にいた子達も。みんな大人っぽくて綺麗で可愛いかった。あんな子達と遊べるレオさんは凄いね。超モテモテ、引く手数多ですね。」


 気まずさを払拭して欲しくて、明るい口調でレオさんをフォローしてみた。レオさんの視線を感じる。真っ暗でシルエットしか見えないんだけど、どんな顔をしているんだろう。レオさんがふっと息を吐き出したのが聞こえた、笑みを零したって感じかな。


「まぁ、普通に遊ぶ程度には相手はいる。」


 レオさんが静かに呟く声が聞こえた。そっか、そうだね。遊ぶ程度以上にいた気がするんだけど、レオさんは謙遜もできる人なんだ。ってか、謙遜とかできる人なんだ、そっちに驚いちゃう。


 でも、あんなに大勢の女の子達と遊んでるんだもん。そりゃ、ナチュラルに抱き締めたり、自然に髪にキスしたり、普通に肩や腰に腕を回して抱き寄せたり、できますよね。


 レオさんという人物を知れば知る程、色々な顔が見えてくる。優しくて頭もいい、話が上手くて人当たりがかなりいい。エロかったり、チャラかったり、雑だったり、ワイルドだったりってトコロすらもレオさんの魅力の一部なんだなって思っちゃう。レオさんがモテるのが本当に良く分かる。


 初めてレオさんを見た時の印象は冷たくて怖そうな人に見えたし、硬派な人だと思った。キツイ目付きで睨まれて超怖かった。でも、今は真逆の印象になっちゃった。レオさんの冷たく鋭い眼差しも、今はカッコいいとすら思えちゃってるんだもん。人の印象って変わるもんなんだね。


「でも、遊ぶのはもうあんまりしない。時間も無いし。」


 感慨深くレオさんの印象の違いを思い起こしていたら、レオさんがぽつりと呟くのが聞こえた。あんまり遊ばない、って浮気をあんまりしないって事なのかな。


 決意を語っているらしいけど、あんまりって付けているのが実にレオさんらしい。完全には断ち切れないってトコロか。まぁ、レオさんにしては上出来なのかもしれない。それにしても、時間が無いってどういう事だろう。


「時間が無いって何で?何か用事でもあるの?これから忙しくなるって事なの?」


「うん。」


 浮気はこの際どうでもいい、それより時間が無いについて詳しく教えて欲しい。矢継ぎ早に質問を重ねてみると、レオさんが一言で肯定してきた。うんって、どこにかかるの。両方に対しての肯定、つまり、用事があって忙しくなるって事なのかな。


 そうだよね、レオさんは護衛さんだし、仕事も不規則だもん。忙しくなるなら、今までみたいに俺の相手は無理だよな。でもね、ネロとの恋人関係がなくなる訳じゃないんだし、時々は仲良くしてくれるといいな。


 ホントは淋しいって言いたいけど、俺には口を出せない領域だもん。あくまで、俺は恋人ネロの付属品、連れ子の立場だから口は出せない。でも、二日間、いや、今日で三日間、ネロにもべったりだったけど、レオさんにもべったりだったから、本音は超淋しい。


「そっか、淋しくなっちゃうね。また時々は会いたいな。」


 淋しいって言葉は言っちゃダメって思っていたのに、止める事ができなくて口から出ちゃった。辛さを堪えて言ったから、泣きそうな声になっちゃたけど、ばれてないよね。目を合わせたらばれちゃいそうで、顔を上げる事ができず、俯いてしまう。


「えっ?何で?」


 沈黙が少し続いた後で、レオさんが驚いた声で聞き返してきた。その返答で絶望してしまう。俺的にはレオさんと過ごす時間は凄く楽しかったのに、レオさんはそうでもなかったらしい。レオさんが驚いて聞き返す程、意外な質問だったみたいだ。


 ネロがいるから一緒にいただけで、俺との時間はウザいだけだったのかも。ネロがいない間の交流も、レオさん的には面倒な時間だったんだ。ニコニコ笑顔で可愛がってくれていた、と思っていたから、かなりショックだ。


 まぁ、そうだよね。よくよく考えると、俺はレオさんにとってお邪魔虫な存在だったじゃん。俺がいない状況で、レオさんはネロと二人で過ごしたいに決まってるじゃん。レオさんが優しいから甘えて、レオさんの本心を見抜けてなかった。


「あ、そうか。そうだよね、忙しいのにごめんなさい。えっと、あのね。アルさんのトコに遊びに行った時に会えたら、嬉しいです。イヤだったら言って下さい。あの。うん、俺からは話し掛けないからね。ホント、ごめんなさい。」


 今度こそ泣きそうになっちゃった。震える声で何とか、レオさんに言葉を伝える。レオさんに嫌われていた可能性は全く想定してなかったから、悲しくて何度も言い淀んじゃった。俯いたままの狭い視界が涙で滲んでくる。


 こんな風に泣かれても、レオさんは困るよね。ネロの子供って立場なだけで、邪魔な存在に泣かれてもウザいだけじゃん。レオさんの手を煩わせたくない。涙を止めなきゃ。


 焦れば焦る程、涙は止まってくれないどころか、どんどん溢れてきちゃう。俺の涙腺は緩過ぎるんだよ。心の中で自分に悪態を吐きながら、袖で涙を拭いて何とか涙を止めようと頑張る。


「いや、お前は何を言ってるんだ?」


 無言が続いた後で、レオさんが心底疑問って感じで聞き返してきた。言葉が脳に届いて、レオさんが何を聞いているのかが分からなくて、顔を上げちゃう。レオさんこそ何を言ってるんだろ。


 俺からは暗くてレオさんの顔が見えない。でも、レオさんには俺の泣き顔がばっちり見えてたみたいだ。レオさんが慌てた感じで俺の肩を抱き寄せてくれる。しかも、ギュッと力強く、レオさんの力が感じられる程の抱き寄せ。


 そして、レオさんは優しく髪にキスをしてくれる。片手を俺の頬に添えて、指で涙を拭いてくれる仕草は優しさに溢れている。えっと、レオさんに嫌われていたんじゃなかったのかな。なんでこんなに優しいんだろう。


 ってか、このナチュラルにチャラさ全開で慰めてくる仕草がヤバい。俺は背が低いから、つい、女の子を慰める態度になっちゃう、とかなのかな。頬を撫でる指も髪にキスをしてくれる仕草も、優し過ぎてヤバい。


「用事があって忙しいから遊ぶ暇がなくなるんでしょ?で、俺とは会いたくないんだよね。」


 レオさんの優しい仕草に勇気付けられて、恐る恐る、聞き返してみた。だって、俺の認識とレオさんの認識にずれがありそうだったんだもん。


「用事があるのは正しい。遊ぶ暇がなくなるのも正しい。お前に会いには行く。ほぼ毎日会って、癒しの時間を過ごす。」


 レオさんは屈んで、目を合わせながらゆっくりと俺の質問に一つ一つ答えてくれた。用事があって、遊ぶ暇がなくなるのは正しかった。最後の答えだけが俺の認識と違ったらしい。しかも、超嬉しそうな笑顔で答えてくれている。


 でも、俺と毎日会う、って何を言っているんだろ。用事があって忙しいんでしょ、で、遊ぶ暇がないのに、俺に会える訳ないじゃん。混乱した状態で小首を傾げちゃうと、レオさんが目尻にキスをしてくれた。


 優しいキスだけど、全然分からない。近距離で優しい笑顔のレオさんが、とびっきり優しい眼差しで見つめ返してくれている。そして、愛しいって感じでまた目尻にキスをしてくれる。


「どういう事?」


「雨が止むまで、夜間はネロの家で世話になるって言っただろ。従って、お前には毎日会うんだよ。逃げても追いかけるから覚悟しろ。俺の癒しの時間を潰して堪るかっての。」


 しつこくキスをしてくるレオさんの顔を両手で止めながら、言葉で聞き返してみると、レオさんは嬉しそうな顔で、優しく言い聞かせてくれた。レオさんの言葉を噛み締めて、明らかに俺の認識が間違っていた事が分かった。


 逃げても追いかけるって冗談を付け加えてくれる程。癒しの時間って言ってくれる程。レオさんも俺の事を気に入ってくれているって理解できた。超嬉しい。嫌われてないどころか、好かれているって事実が嬉しい。

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