206 だからしてねぇっての
レオさんの拗ねた態度で俺の怒りは霧散した。違うな、レオさんの態度のおかげじゃない。ユリアさんの真似をしたってレオさんが直ぐに気付いてくれたからだ。まぁ、実際はそこまで怒ってなかったのかもしれない。
どっちにしても、レオさんとユリアさんの会話を思い出しちゃったから、怒りが消えたんだろうな。レオさんを叱る口調のユリアさんは超可愛かったし、気圧されるレオさんも可愛かった。幼馴染ならではの空気感は見ていて微笑ましかった。
昔馴染みの気安い戯れ合うような関係性が凄く良かった。あんなに可愛いユリアさんの幼馴染なレオさんが羨ましいって思っちゃった。それに、レオさんとあんな風に接するユリアさんを羨ましいって思っちゃう。妬ましいって意味じゃなくて、純粋にいいなって思えるいい関係性だなって。
「可愛く言えてた?」
「可愛過ぎてヤバい。ユリアのあの言葉も琥珀が言うと全然違うんだなって思った。」
ニコっと笑顔で感想を求めると、レオさんも嬉しそうな笑顔で答えてくれた。多分、俺に答えている風だけど、レオさんの本心は説明の方にこそあるんだろうな。つまり、俺とユリアさんの言葉の重みが違う、と。
しみじみと語っていたけど、ユリアさんへの畏怖と同時に愛情も感じられる深い言葉だった。ユリアさんに対する、レオさんの思いの重みと愛を感じちゃった。幼馴染っていいですね。
「全く違う。お前が言うと数万倍可愛いって意味だよ。」
ナチュラルに心の声に答えないで欲しい。ってか、明らかに冗談って分かるけど、チャラいんだよ。ユリアさんの方が数万倍可愛いの間違いでしょ。比較対象と比率をもうちょっと考えないと、冗談として成立しないから。結果、失格。
「そうですか、良かったですね。下りていい?」
心の中で失格を言い渡し、冷静に淡々と、疑問の形をとった決定を言い渡してみた。返事を待たずに下りようとしたら、レオさんがキュッと抱き締めて阻止してくる。
「待って、今、脅されてドキドキしてる最中だから、ちょっと落ち着かせて。」
そして、レオさんは疲れた声で囁きながら、俺の肩に頭を乗せてきた。どうやら、普通に話していたと思ったけど、いきなりドンっときちゃったらしい。
視界の端っこでレオさんの耳がキュッと伏せられちゃったのが見える。レオさんのこの反応から察するに、ユリアさんのあの台詞は、怒られている時の定番ってトコなのかもしれない。しかも、最強に怒られている時の定番ワードの可能性が高い。だから、怖さがピークを超えちゃったと。
怒っているユリアさんは可愛かった。そして、怒られているレオさんも可愛かった。可愛い二人なのに、レオさん的にはこんなにドキドキする程のトラウマワードだったんだ。パブロフの犬状態で恐怖を引き起こすワードなのかも。と、すると。どれだけ怒られてるんだよって突っ込みたくなっちゃう。
「ユリアさんはそんなに怖いの?」
俺の肩で休息中のレオさんに素朴な質問をしてみる。だってね、レオさんが恐怖する程の言葉をユリアさんが発したんだもん。これは即ち、レオさんが本能で恐怖する程の怖さを、ユリアさんが持っているって事になるんじゃないのだろうか。
「なんでユリアの話になるんだよ。」
「あれ、違った?」
レオさんは少し沈黙した後で、戸惑った様子で突っ込んできた。この素の反応から察するに、誤魔化している訳ではなく、どうやら違ったらしい。戸惑ったのは俺も一緒で、思わず聞き返しちゃう。
ユリアさんの真似をした台詞で、レオさんの心の奥底にある恐怖を引き出しちゃったんだと思ったんだけどな。違ったのか。じゃぁ、脅されてドキドキってのはなんなんだ。
「全然違うだろ。恥ずかしい事ってなんだよ。恐怖しか感じない。ネロに対して何をさせようとしてたのかを考えるとヤバい。動悸がヤバい。」
レオさんがぶるっと震えて答えてくれる。視界の端にある猫耳は伏せられたままで恐怖する心を伝えてくれる。でも、レオさんの説明で理解できた。成る程ね、そっちだったのか。
まぁ、恥ずかしい事って言葉が問題だったかな。恥ずかしい事って言っても可愛く甘えるとかその程度なのに、そんな怯えなくてもいいじゃん。レオさんが可愛く甘えたら、ネロも照れずに応えてくれると思うんだよ。デレたネロと、甘えるレオさん。超見てみたいって思っちゃったんだもん。
レオさんはネロに対して純情だし、べたべたするのは恥ずかしがる。だからこその、俺の気遣いなのに。そう、罰ゲームの名前を借りた気遣いなんですよ。決して無理強いして嫌がるレオさんを楽しむとか、そういう趣向じゃないんです。
片手をレオさんの首に絡めて抱き着きながら、もう片手でレオさんの後頭部をポフポフと撫でてあげる。少しの間撫でていたら、レオさんの猫耳がソロソロっと立ち上がって、顔も上げてくれた。
最後の一押しで、レオさんの頬にキスをして元気を届けてみると、レオさんが笑顔になってくれた。よしよし、レオさんが立ち直ったトコロで、さっきの再開ですよ。途中で諦めるなんて許しません。自分の言葉は自分で回収しましょうね。
「恥ずかし過ぎてドキドキしちゃったんだね。もう大丈夫かな?じゃぁ、そろそろ、俺の思考当てクイズを再開しようか。」
「お前はそんな可愛い顔して、マジでドSだな。」
優しくレオさんに共感した後で、ニッコリ笑顔で強要してみると、レオさんが真顔でボソッと呟いてきた。目に力がないレオさんなんて、片手で捻って手の上で転がせちゃいますよ。
それに、生粋のドSの方にそんな事を言って貰えるなんて光栄ですね。俺なんてまだまだ、レオさんの足元にも及びませんよ。って事で、まだまだ精進しなきゃだから、練習あるのみだよね。
「そうなんだよ、俺も目覚めちゃったみたいなんだよね。そんな事より、当ててみようか?」
笑顔を絶やさず、レオさんの言葉をそっくり認めてあげた。そして、レオさんの真似をして、威圧的に強要を続けてみる。レオさんが目を丸くして固まっちゃった。いつもしている事をされる側になった気分はどうかな。
「レオさん?さぁ、そのお口で言ってごらん?」
レオさんの首に絡めていた腕を引き寄せて、顔をグイっと寄せてみる。そして、レオさんの真似をして甘く囁いてニコっとしてみた。レオさんがスッと息を吸い込んで、天井を見上げちゃった。
へぇ、目を逸らすんだ。クスッと笑うと、背中に回されたレオさんの手がぴくっと反応したのを感じる。でもね、こんな場合の対処法も、ちゃんとあなたに教えて貰っちゃってるんですよ。
レオさんの首に絡めていた腕を解いて、レオさんの頬に両手を添えてみた。レオさんがふーっと息を吐き出したのが見える。そして、両手に力を入れるまでもなく、レオさんは観念してこっちを見ちゃった。もうちょっと楽しみたかったのに、残念。
「早く聞きたいな。お願い、教えて?」
自主的に目を合わせてくれたレオさんに向かって、小首を傾げて甘えた声で聞いてみる。因みに、甘えた声はノーラさんとクロエさんを参考にさせて貰っちゃった。だって、あの子達はレオさんの好みを把握してそうな感じがするんだもん。
そして、食事場のあの綺麗なお姉さん達をイメージして、可愛い笑顔を作ってみた。レオさんの好みはきっと大人っぽい綺麗な子。そして、可愛い笑顔をしてくれるのが萌えポイントなんだと思う。みんな綺麗系なお姉さんだったのに、笑顔は可愛かったからね。
至近距離で見える深い緑の猫目の中で、瞳孔がぶわっと広がったのが見えた。耳の毛もちょっとだけ逆立っている気もする。可愛くなっちゃったレオさんを間近で楽しませて貰う。
じっくりと観察していたら、レオさんは目を閉じちゃった。そして、俯いて、ふーっと深く息を出しているのが見える。レオさんが顔を上げた時には、瞳孔はもう細くなっていた。
動揺する程にはレオさんの心を揺さぶる事ができたっぽい。多分だけど、レオさんの好みを知り尽くした女の子達を参考にした演技が、大好評だった可能性が高い。やっぱり、お手本がいると演技が生きてくるのかもしれない。
「お前、楽しそうだな。」
「うん、マジ楽しい。レオさんの拷問ごっこを真似してるんだけど。これヤバいね。超楽しくて、俺も極めてみたくなっちゃった。」
レオさんは平常心になったらしく、静かな口調で感想の言葉を伝えてきた。全くその通りで、めっちゃ楽しい。ニコニコの笑顔で完全同意した後で、抱負まで語ってみると、レオさんが困った顔で頭を撫でてくれる。
ネロも真似をした拷問ごっこ、俺も真似をしたいって思っても仕方ないと思うんだ。それに、俺の言葉と態度で、レオさんの動揺を誘えたって事実が楽し過ぎる。普段は遣り込められる事が多いのに、こんな風にレオさんを追い詰められるとか。ぞくっとする程の何かを感じてしまう、気がする。
「お前にソレをやられたら、直ぐ口を割ってしまう自信がある。今のお前はかなりヤバかった。」
お世辞だと思うけど、レオさんが俺の手腕を褒めてくれた。でもね、お世辞でもいいの。今はレオさんの言葉に乗っかって続けちゃおうかな。だって、今の俺はヤバいんだもん。
ニコっと笑顔でレオさんの首に両腕を絡めてみたら、レオさんが困った顔をしながらも背中に添えた手で補助してくれる。無言ながらも、レオさんの同意も受けられたみたいだし、続けるよ。
「そう?じゃあ、大人しく口を割っちゃおうね。このお口で言って欲しいな。」
顔を寄せて、片腕を離してレオさんの唇に指を当ててみる。そして、そっと唇を撫でながら、優しく言い聞かせるように強要をしてみた。唇を見ていた視線を目に戻すと、レオさんが俺の手を掴んで、唇を撫でるのを止めちゃった。
間近に見えるレオさんの瞳がキラキラからギラギラに変わっていくのをぼんやりと眺めちゃう。でも、眩しくなってきたから、握られてない方の手でレオさんの片目を塞いじゃった。
片目だけになったレオさんの目をじっと見つめていたら、光が少しずつ薄れていく。最後に、レオさんが目を伏せて握っていた俺の手に優しく丁寧なキスをして、目を上げた時には光はなくなっていた。
「何で膝の上に乗せるんだ的な文句だろ。」
レオさんの目から手を離すと、レオさんは抵抗する事なく諦めた感じでボソッと答えてくれた。やった。俺は拷問官になれるらしい。あのレオさんを負かして、答えを強要する事に成功しちゃった。達成感が半端ない。
「結果発表をします。ソレも言いたい事の一部ですが、言いたい事を全部当てる事ができませんでした。最終結論は外れ。罰ゲームが決定しました、残念です。」
という事で、さっそく結果発表をしちゃいましょう。笑顔で結果を伝えている間、レオさんは静かに聞いていた。やけに静かじゃん、と思いながらも、ふふん、と勝利の笑みを零してしまう。
最後で罰ゲーム決定の結論が出て、耳がぴくっと反応した以外は、レオさんは終始静かに淡々と耳を傾けていた気がする。表情は真顔に近く、感情を敢えて消しているのが分かる。
俺に屈するという屈辱を耐えているのかもしれない。どうせなら、涙目でぷるぷるしてくれた方が可愛いのに。俺は優しいから、ネロみたいにツーンと突き放さずに優しくしてあげるんだけどな。勿論、涙目ぷるぷるをある程度堪能した後だけど。
「他に何の不満があったのか、答え合わせなんだから詳細を教えてくれるよね。」
涙目でぷるぷるするレオさんに思いを馳せていたら、レオさんの唇が歪んで笑みの形を作った。超怖い。ぞくっとして体を離そうとしたけど、背中に添えられた手が許してくれない。そして、レオさんが静かに正論を言ってきた。静かだけど威圧的にも聞こえる口調だ。
表情は冷静に見えない事もない冷めた真顔、それなのに、口元には軽薄な笑みが浮かんでいる。深い緑の目は静かだけど見据えてきて、超怖い。ってか、普通に目力がヤバい。睨むとかじゃないのになんで目力があるんだよ。ヤバいでしょ。結果、レオさんの迫力に気圧されてコクっと頷いちゃった。
ってか、俺の考えていた事が不満って言い当てているんだよな。不満だけじゃない可能性もあるのに、考えていた事、じゃなくて、不満、に言及してるんだもん。
もしかすると、普通に平常心だったら全部を当ててきた可能性すらあったかも。その場合、レオさんはどこにキスするつもりだったんだろう。そして、レオさんの勘はやっぱりヤバい。
「ネロがいない状況で妬いてくれる相手もいないのに、一々膝の上に乗せるのが不満ってのと。子供扱いにも程があるってのと。この家の子には絶対ならない、何故なら女の子関係が大変そうだから。でした、3点満点中0.5点だったので、失格です。」
「へぇ?」
レオさんの要望通りに正答を伝えている間、レオさんは感情の籠らない目で見据えてくる。超冷たくて鋭い目付きなんですけど。その目付きはヤバい。あと、その相槌の言い方、ぞくっとする声色なんですけど。
あの仮定は正しかったのだろうか。ホントにこれが性癖として俺の中に刻まれてしまったのかな。レオさんの冷たい視線と冷めた表情。それに冷たい口調と、突き放す態度。ゾクゾクし過ぎて、ヤバい。ってか、違う。ネロの恋人にそんな感情を抱く訳がない。うん、間違いだ。
「成る程ね。」
レオさんが何かを納得したらしく、低い声で呟いたのが聞こえた。低く冷たい響きにびくっとなっちゃう。何を納得したの。超怖い。っま、まさか。今俺が考えていた事をそっくりそのまま、勘で理解した、とかじゃないよね。
「う、何が成る程なの?何も考えてないよ。気のせいだよ。」
動揺しながらもなんとか誤魔化してみると、レオさんは片眉を上げて口元に笑みを浮かべた。冷酷な笑みとしか言いようがない、冷たい眼差しの作り笑い。
視覚で捉えた瞬間に、背筋がゾクゾクっとしてぶわっと鳥肌が立っちゃった。恐怖からの反応だと思いたい。きっと怖かったから。うん、怖かった。レオさんの顔をじーっと見つめてみる。うん、超怖い。これは鳥肌が立っても仕方がない。だって、マジ怖いし。
でも、レオさんはこんな冷たい笑みを浮かべられる人だったんだ。ネロの方が似合いそうな冷たい笑顔なんだけど。あ、でも、ネロがすると普通に綺麗そう、かも。レオさんはなんでこんな迫力があるんだろう。ってか、その片眉を上げた顔が悪人っぽくてカッコいい。
「へぇ、そう?」
レオさんの表情に一旦混乱して冷静になって観察していたら、、レオさんが感情の籠らない声で相槌とも疑問ともとれる呟きを返してきた。冷静になった心を乱すレオさんの声で、心がざわついてしまう。
えっと、これはマジでばれている可能性も。いや、ばれてない。落ち着け、これはレオさんのブラフだ。演技な可能性も高い。こうやって翻弄する作戦なんだ。落ち着いて冷静に対処すればきっと平気、な筈。
こんな時は逆にレオさんを揺さぶってしまえばいい。って事で、話題を元に戻して、罰ゲームの内容を発表してあげようかな。もし、これがレオさんの演技だとすれば、レオさんが恐怖を感じる程ドキドキだった罰ゲームの発表で、演技が終了しちゃう筈。
「じゃあ、ちゃくちゃき発表しますよ。罰ゲームの内容は。」
「うん、いいよ?」
期待を胸に言葉を出してみたけど、レオさんの表情は一切変わらない。しかも、あっさりと了承してきた。これはどういう事なんだろう。罰ゲームって聞いても平然としてるんだけど、平気なのかな。
さっきはガクブル状態だったよね。お耳を伏せてぷるぷるだったよね。何でこんなに平然としてるの。レオさんから視線を外して、ちょっとの間考えてみる。
考えても分かる筈もなく、諦めて罰ゲームの発表に戻る事にした。ってか、レオさんを動揺させる作戦だったのに、俺の方が動揺させられちゃってるとか。これすらも、レオさんの作戦なのだろうか。
「ん~、えっと。明日、ネロに。」
動揺は言葉にも出ちゃって、言い淀みながらレオさんをちらっと見てみる。レオさんの冷たい緑の瞳がじっと見据えてきて、ゾクっとなっちゃう。実は怒ってるのかな。しかも、本気で怒ってる可能性がある。どうしよう。
「怒ってないから、さっさと言いな。」
思考での焦りに反応したのか、レオさんが冷たい口調で答えてきて、びくっとなっちゃう。チラ見していた視線をゆっくりとレオさんに固定して、涙目になっちゃった。
どう考えても、今の言葉は思考に対して答えてきた。って事は、さっきも読んでたって事だよね。超恥ずかしい。どれくらいの精度で読まれちゃったんだろう。感情の機微くらいなのかな。一言一句間違わずに分かる、とかないよね。
「考えを読まれると恥ずかしい。」
恥ずかし過ぎて眉を寄せて、本心からの言葉をぽつりと呟いちゃった。だって、レオさんのこの冷たい視線にゾクゾクするとか、口調がヤバくてドキっとするとか。ばれたら恥ずかしいじゃん。もうばれてる可能性があるってのもヤバい程恥ずかしい。
涙を堪えてレオさんを見つめていたら、急にギュッと抱き締められちゃった。唐突な行動に反応もできず固まっちゃう。それに、驚きで涙が引っ込んでしまった感がある。
「マジで、その顔はやめて。あと、どんな顔って聞くのは禁止で。」
レオさんの優しい声が耳元で聞こえる。ちょっとだけ慌てたような、焦ったような、優しい声だ。冷たい響きは一切ない。優しいレオさんの声と、温かいレオさんの体温でほっと息を吐き出してしまった。
怒ってないって分かって安心したところで、罰ゲームの発表だ。まぁ、そんなハードな内容でもないしさらっと言っておけばいいよね。可愛く言えば怒らない筈。身動ぎをするとレオさんが腕を緩めてくれた。
体を離してレオさんと向き合う。レオさんはもう冷たい視線じゃなかった。深い緑の瞳からの優しい眼差しに癒される。レオさんと目を合わせてニコっとしてみたら、レオさんが疑問を示す感じで軽く首を傾げてきた。
「ミッション1、ネロが帰って来た時に可愛くお出迎えしてギュって抱き着く事。ミッション2、その服の首元を捲って首のトコを見せて、浮気しちゃいましたって可愛く報告。ミッション3、淋しかったって想いを伝えて、ネロにギュってして貰う事。以上三点が罰ゲームとなります。二点以上の達成でミッションクリア。頑張りましょう。」
タメや焦らしは一切入れずに、笑顔で罰ゲームの発表をしてあげる。レオさんは不意打ちを食らった感じでキョトンとした後で、眉を寄せちゃった。めっちゃ怖い顔になってるから。さっきの冷たい真顔じゃなくて、キツイ目付きを活かした恐ろしい睨みになっちゃってる。超怖い。
「は?」
そして、レオさんが低い迫力のある声で聞き返してきた。だから、そんな声と顔は怖いの。眉を寄せちゃダメだよ。レオさんに教えて貰った通りに、眉間の皴解除のキスをしてあげる。顔を離したら、レオさんの怖い顔はなくなっていた。代わりにでれでれな顔になっていてちょっとびっくりしちゃう。
「だから、罰ゲームのネロにする恥ずかしい事。可愛さを心掛ければ大丈夫だよ。」
これが罰ゲームの内容ですよ、ってレオさんの髪を軽く撫でながら、優しく言い聞かせてみる。そうしたら、レオさんがまた眉を寄せてしまった。でも、怖い顔じゃないからいいか。
実際は罰ゲームでも何でもない、レオさんなら普通にできる事だと思うんだけどね。ネロに対しては奥手になっちゃうのを知ってるから、後押ししてあげるんです。俺も偶には二人の役に立ちたいんだもん。
「浮気はしてねぇし。そもそも、ネロが帰って来る時間、お前は寝てるだろ。俺が家を出る時もまだ寝てる筈。お前はそのシーンを見られねぇけどいいのか?」
レオさんが静かに反発と反論をしてきた。首に痕を付けている時点で、もう浮気決定なのに往生際が悪いな。でも、俺が寝ているってトコは正しい。
でも、確かに、寝ていたら見られない。急に提案したのに、レオさんは良く気が付いた、と褒めてあげたい。発案者の俺すらも気が付かなかった盲点だったのに。
「あ、そっか。レオさんが浮気したって告白した時の、ネロの驚いた顔を見てみたかったのに。残念。」
「やっぱ、ドSじゃねぇか。」
ふーっと息を吐き出して哀愁を漂わせつつ、残念さをアピールしてみる。そして、悲しさを言葉に出したら、レオさんが目を細めたてボソッと呟いた。
それは呆れの表情に見えるんですけど、そんな顔したらヤダ。そして、そんなしみじみと感想を言わないで下さい。冗談に聞こえないから。寧ろ、真実味しか感じないから。
「違う、軽い冗談だったの。あれだよ、ネロが可哀想だから、絶対そんな事は言ったら駄目だよ?浮気とかはちゃんと隠してしてね。」
「だからしてねぇっての。」
レオさんが呆れちゃったのが分かって、慌てて訂正しておく。これで俺の提案は冗談だった、で片付けられる筈。自分の発言を回収して安堵していたら、レオさんが言い返す声が聞こえた。あくまで浮気はしてないってスタンスらしい。
まぁ、そう言うならそれでいいよ。そんな事より俺は下りたいの。もう下りるって意思表示で、レオさんの腕をポンポンしてみた。レオさんは一旦、ギュッと抱き締めて首にキスをした後で、両脇から包んでいた腕を開放してくれた。
笑顔のレオさんには、さっきの冷たい視線の面影はない。冷酷さの欠片すらない。優しいレオさんが嬉しくて、俺からも一回ギュって抱き着いちゃう。抱き返してくれるレオさんの手を背中に感じながら思ってしまう。あれはぞくっとしてしまうから、できれば封印しておいて欲しい、かな。
「じゃあ、そろそろ帰ってネロの家でスイーツでも食うか。」
「いい考えですね。今日はまったりして、そしてそのまま寝られるね。」
膝から下りたのを機に、レオさんが帰宅を提案してくれて、二つ返事で頷いちゃう。今日のレオさんはお泊りだから、ずっと一緒にいられる。一人で淋しく過ごさなくていいんだ。
嬉しくて笑顔になっちゃうと、レオさんが俺の髪を掻き上げて、額にキスをしてくれた。いつもならむっとしちゃうトコだけど、子供扱いの行為すらも嬉しく感じちゃう。
「そうだな。寝落ちしていいよ。ずっと傍にいてあげるし、抱き締めていてあげる。怖い事は何もしないから、安心して俺に体を預けて。優しく丁寧に扱うから、心配しないで。」
そして、レオさんは優しい口調で寝落ちしちゃっても平気、的な事を言ってくれている。でもね、何故か言い回しも、口調も、表情も全てがエロく感じちゃうんだけど。いや、もしかすると、普通に普通の事を言っているだけなのかもしれない。
寝落ちしたらベッドに運んで一緒に寝てくれるって事を言っているんだと思う。傍で寝てくれるって事なんだと思うんだよ。それなのに、全てエロく聞こえちゃうのは、レオさんの一種の能力的な何かだろうか。
レオさんの特殊能力的な何かを考えながら、一足先に入り口に向かい、サンダルを履いて待つ事にした。レオさんはカップを手早く片付けて、ミニバスケットを手に、俺の傍に歩み寄ってくる。
片腕で俺を抱き寄せて、詠唱を始めようとするレオさんを止めちゃう。ってか、いちいち抱き寄せるとか、何なの。レオさんのチャラさがヤバい事になってる気がするんだけど。
明らかにチャラさ度が一段階上がってる、よね。スツィはRUはしないって言ってたけど、きっとレオさんだけは上がる仕様になってるんだよ。スツィすらも把握していない特殊技能持ちとか、レオさんは凄いのかも。
まぁ、冗談はそれくらいにしておこう。レオさんはスキンシップが多めな人って分かっているから、もう気にしない。ただ、これをネロにも発揮できればいいのに、とは思っちゃう。なんでネロには一歩引いた態度になっちゃうんだろう。
レオさんのチャラさがネロに発揮されない事が悲しくて、溜息を吐いちゃった。レオさんがよしよしって感じで頭を撫でてくれて、はっとした。脇道に逸れちゃってた。
「レオさんの着替えの服。もうちょっと持って行った方が良くないかな。一着しか置いてないよね。」
「お~、そうだな。あ、そうだ。アレも持ってくか。じゃあ、ちょっと待ってて。あ、でも寒いよな。一緒に寝室行くか?で、寝室で温まる事をしようね、優しくするから大丈夫だよ。抱っこでいい?」
不思議そうに首を傾げてくるレオさんを見上げて、お着替えをもうちょっと持っていきましょう、と提案してみた。レオさんは納得してくれたらしいけど、一言付け加えてきた。更に一言どころか変な事まで付け加えてる。
アレって、何を持ってくつもりなの。着替え以外はいらないでしょ。あと、今回は明らかに卑猥だった。意図的に卑猥な事を言ってるって分かっているんですからね。
「遠慮させて頂きます。」
むっと睨んで、断固とした拒否を伝えると、レオさんが頭をぽふぽふっと撫でてくれた。あくまで冗談だったらしく、無理強いをされる事もなくレオさんは離れていった。
離れる直前で、レオさんがふっと口元を緩めたのが見えた。お前はお子様だなって意思が見て取れる笑みだった。俺も少しだけ思考を読み取る事ができるようになったみたいだ。
ミニバスケットをテーブルに置いて、レオさんは寝室に入っていった。レオさんを待っている間に、入り口を開けて外を覗いてみる。霧が凄く濃くなっている。少しの先も見通せない程の濃い霧だ。
外を覗いちゃったからか、外で戦っている筈のネロの事が心配になってきちゃった。ネロは大丈夫かな。ネロが強いのは知ってるけど、こんな濃い霧だもん不意打ち的な感じでヤバくなったらどうしよう。
ぼんやり外を眺めていたら、急に後ろから優しく抱き締められちゃった。びくっとなった後で、背中に感じる温かい体温にほっとしちゃう。レオさんの移動は音がないから、接近に気が付かないんだよね。
レオさんは俺を腕に収めて無言を保っている。静かなレオさんが気になって見上げてみると、レオさんは静かに外を眺めていた。少しだけ切なそうなレオさんの視線で理解できる。レオさんもネロの事が心配になっちゃったんだ。
「こんな霧でもネロは大丈夫かな。」
「普通に問題ない。ネロは耳の性能も段違いにいいし、身体能力は桁外れ。そこら辺の適当なヤツなら、苦戦するイメージが全く沸かない。」
レオさんの心配が俺にも伝わって、不安な心が増大しちゃう気がした。ぽつりと、ネロを心配する言葉が出てきちゃう。レオさんは感情を込めずに淡々とネロが平気な理由を話してくれる。
レオさんもきっと不安なんだと思う。淡々と客観的に言う事で、大丈夫って自分に言い聞かせている気がする。俺も自分に言い聞かせる感じで大きく頷いてみた。レオさんはクスっと笑って髪にキスをしてくれる。
後ろから抱き締められたままで、レオさんの詠唱の声が聞こえてきた。顔を動かしてみると、レオさんの手にはミニバスケットが握られていて、脇には小さめのバッグを挟んでいる。
足は靴を既に履いていて出発の準備は整っていた。音もなく帰宅の準備を終えていたレオさんをちょっとだけ凄いなって改めて思ってしまう。
俺達の外側を風の膜が包み込んでいく。レオさんの詠唱は頭上で朗々と響いていて、静かで低い声が耳に心地いい。二人を包む風の膜が完成した段階で、レオさんが腕を離してくれた。レオさんの家から出て、もう歩き慣れたネロの家までの散歩の始まりだ。
「今日は悪かったな。まさか、待ち伏せされてるとは思わなかった。」
「ん?」
「いや、いきなりノーラが来ただろ?」
のんびりと歩いていたら、レオさんが急に謝ってきた。待ち伏せって何の事だろう。小首を傾げてしまうと、レオさんが頭をポンポンと撫でてくれた。そして、困った口調でノーラさんの名前を出してきた。
あぁ、あの綺麗な色っぽいお姉さんの事か。タレ耳の存在感が半端なくてとても良かった。子供のタレ耳ちゃんは多少レアだけど、時々見かける。でもね、大人のタレ耳ちゃんはほぼいないんだよ。子供の時にタレ耳でも、大人になったら立ち耳になっちゃうのかもね。
「あの、めっちゃ綺麗なタレ耳のお姉さんの事か。あんな綺麗なお姉さんなのにレオさんは冷たいんだもん。可哀想だった。あと、レオさんに向ける笑顔がヤバいくらい可愛かったね。」
「まぁ、可愛いと言えば可愛い。」
ノーラさんを思い出してちょっとだけテンションが上っちゃった。勢いよく、ノーラさんに抱いた感想を伝えてみたけど、レオさんは適当に返してきて、全然乗ってこない。なんでそんなどうでもいいって態度なの。超レアなタレ耳ちゃんなのに、このテンションとか、ヤバい。
「あと、セクシーだった。レオさんがよく言ってるアレだよね。あんな感じがレオさんの好みなんだって納得できた。」
「まぁ、いい体もしてる。」
それなら、とレオさんなら乗ってきそうなセクシーだったって感想も付け加えてみた。それなのに、レオさんはまた、適当な反応だ。なんでそんなに冷めた感じなの。あんな綺麗なお姉さんでテンションが上らないとか、ヤバいでしょ。
暗くて見えないけど、レオさんをじーっと見つめてみる。そうしたら、どういう意図か分からないけど、レオさんが俺の髪を自分の指に絡めてきた。くるくるっと髪を指に巻き付けてくる仕草は、ネロが拗ねた時の行動に似ている気もする。
「あと、可愛かった。」
「何故同じ事を二回も言った。」
無言のレオさんを見つめて、念押しでもう一回言ってみる。少しの間を置いて、レオさんがぼそっと突っ込んできた。その低い声はセクシーに聞こえない事もないけど、超ぶっきら棒の方が正しいかも。そして、何故二回も言ったかって?それは決まっているでしょう。
「大事な事なので。」
「そうか。」
キリっとした顔を作ってきっぱりと言い切ってみたら、レオさんは恐ろしい程冷めた相槌を返してくれた。日本に於いては有名な台詞も、このモーティナに於いては余り効果がないようだ。反応が冷めていて悲しい。もういい、ノーラさんの話に戻ろう。
「今夜はノーラさんと一緒に過ごせば良かったのに。ちょっと一緒にいただけで、ちょっとフローラルないい香りになって帰ってきたって事はですよ。一晩一緒だったら、凄くフローラルないい香りになったかもしれないのに。」
ニコっと笑顔でノーラさんの香りに絡めて、レオさんの行動を軽く非難しちゃった。だって、ホントにノーラさんと過ごしていた方が、レオさんにとっては有意義な時間だった気がするんだもん。
少なくとも、ノーラさんはレオさんと過ごしたかった訳だし。あんな綺麗なお姉さんと過ごしていたら癒されるに決まっている。そして、淋しさなんて感じる暇もなかったと思うんだよな。
余り話したくない話題なのか、レオさんが無言になっちゃった。静かに俺の髪を弄んでいるんだけど、くすぐったいんだよ。でも、まぁ、ネロと同じ拗ねた行動の可能性もあるし、そっとしておいてあげよう。
それにしても、ホント、レオさんが遊んでる子達はみんないい香りがする。あんないい香りの子達をあんな汗臭い部屋にいれるとか、マジでレオさんはダメな人だった。
ってか、ネロも何気に汗臭い部屋に入って、レオさん臭に包まれてた時もあったのかな。ネロのいい香りがレオさんの汗臭さで上書きとか、マジでレオさんは碌な事をしない。
「今回は匂いの事を何も言ってなかったから、移ってないと思ってた。騙したのか。」
「騙してない。言わなかっただけ。首元のアレに驚いて言うのを忘れてたの。」
「成る程。」
静寂の中をゆっくりと進んでいたら、レオさんが静かに文句を言ってきた。騙したって、酷いな。びっくりしてそれどころじゃなかったんだよ。むっと睨んで言い返すと、レオさんはあっさりと引き下がってくれた。




