205 そんな能力者はいないし、そんな変な趣味もない
着替えて戻ってきた後のレオさんの行動は流れるようにスムーズで、あっという間にレオさんに肩を抱かれてヌクヌクになっていた。ただ、行動を起こす度に髪にキスをしてくるのはどうかと思うんです。しかも、自然に流れ作業でしてくるトコロが、手馴れてるって感じでヤバかった。
あ、でも、ネロにやってるトコロを見てみたい。今度して貰おうかな。ネロに接する度に、優しく丁寧なキスをするレオさん。いいと思います。レオさんにキスをして貰って嬉しそうな顔をするネロを思い浮かべて、俺も嬉しくなっちゃう。
「萎える事を考えるんじゃねぇ。」
ボソッと呟く声が聞こえて、レオさんを見つめちゃった。全然萎える事じゃないでしょ、寧ろ、レオさんなら興奮する事でしょ。恥ずかしいからってそんな風に言わなくてもいいのに。そして、しれっと心を読んでこないで欲しい。心の中でダメ出しをしながら、そっとレオさんの腕の中から抜け出てみた。
「なんで逃げるの。抱かれてた方が温かいでしょ。」
「抱くとか、表現がアウト。失格。」
不満そうな顔で、優しく微妙な言い回しで囁くのはやめて下さい。むっと眉を寄せて失格を宣言しておく。レオさんの表現方法は独特過ぎて、ホント、エロにしか結び付かないのが困っちゃう。心配してくれる優しい言葉だってのが理解できるんだけどね、表現方法が問題ありなんだよ。
「いきなり失格とか、厳し過ぎるだろ。まぁいいや。これなら大丈夫?」
レオさんはクスッと笑って言い返してきたけど、大して堪えてなさそう。そして、続く言葉と一緒に、自分に巻き付けてあるブランケットを捲って、これでどうだと首元を見せつけてくる。レオさんが着替えてきた服は俺の運動着に近い感じの服だった。
体の線が出る程ピッタリとした濃い藍色のシャツだ。ハイネックだからレオさんの首の中程にあった痕はしっかり隠れてる。首に関しては全く問題ない。でもね、体の方が凄い。首に向けていた視線をレオさんの体に向けて固定しちゃった。
ピッタリし過ぎて、尚且つ、薄手の生地らしく、レオさんの胸も腹も腕も筋肉の凹凸がくっきりと浮き出て見える。裸より裸感が満載な服である。なんというか、セクシーに見えちゃうのはなんでなんだろう。
同じピッタリとしたアンダーシャツ的な服なのに。筋肉がないまっ平な俺の体と比べて、筋肉でバキバキなレオさんが着ると見栄えがする服な事は分かった。
「ん~、首のトコは合格。」
「その言い方だと、他は不合格?」
自信満々に見せつけてきたけどね。確かに首はちゃんと隠れてるよ。でもね、レオさんの存在自体が卑猥なんです。ニコっと笑顔で首だけは合格を上げましょう。レオさんは苦笑して、含みの部分を追及してくる。
「レオさんは凄いね。俺の考えてる事が分かっちゃったんだ。」
今回もレオさんには思考が筒抜けであったか。無念。恥ずかしさを隠してえへっと愛想笑いをしながら、素直にレオさんを褒めてみた。レオさんの眉がぴくっと反応したのが見えた。
あ、これはあれか。陽動作戦だった可能性しかない。悔やんでも、何かを考えてる事はばれちゃった模様。レオさんが爽やかスマイルでいい事を聞いちゃったって顔をしてるもん。もう駄目だ。
「考えてる事、か。琥珀の可愛いお口で言ってごらん?」
レオさんが俺の肩を抱き寄せて、耳に顔を寄せてきた。息のかかる距離で、レオさんが何故か甘い声で優しく囁いてくる。どうやら、揶揄っているらしい。いつもレオさんにやられっぱなしは悔しいから、ちょっとだけ反撃をしてみようかな。
レオさんの腕から抜け出して、レオさんに向かって身を乗り出すように膝立ちになってみた。さっきまで俺の肩に回されていたレオさんの腕が俺の腰に回されたのを感じる。ソファのフカフカなトコロで膝立ちになったから、体勢を崩さないように、抱えて支えてくれているらしい。
レオさんの肩に手を置いて、息のかかる距離までレオさんの猫耳に顔を寄せてみた。こんな間近で猫耳が見られるなんて、幸せ過ぎる。モフモフじゃないけど、シュッとした大きな猫耳でカッコいい。って、違う、今は猫耳じゃない。
「裸でいるよりエロく見える服。興奮しちゃう。」
レオさんの耳にそっと口を寄せて、内緒話の要領でこそっと囁いてみる。意図的に息を吐きながら囁いたからか、レオさんの耳がぴくって反応しちゃった。ヤバ、至近距離で見る動く猫耳、メッチャ可愛い。
「ちょ、待て。なんでそう見えるんだよ、普通に動きやすい服だろ。」
「冗談です。」
レオさんは俺の腰からパッと腕を離して、慌てた様子で抗議をしてきた。慌てたレオさんが見られて大満足です。レオさんの隣に座り直して、ぴとっとくっつく。ついでに、レオさんを見つめて、てへぺろで可愛く冗談ですって教えてあげた。
その瞬間、レオさんの動揺がピタって止まった感じがする。だってね、ぱたぱたと音を立てて忙しく動いていた尻尾がピタって止まっちゃったんだもん。レオさんにくっついたままで見上げていたら、レオさんが片手で顔を覆ってふーって息を吐き出しちゃった。
「お前な、態度がもう冗談じゃねぇんだよ。」
「はい、反省します。ごめんなさい。」
顔の覆いを覆いを外したレオさんが低い声で静かに言葉を出した。ちょっと悪乗りして、レオさんの真似の応用をしたら怒られたでゴザル。悔しい。でも、一応は謝っておこうかな。しゅんとした態度で、謝ってみたら、レオさんが肩に腕を回して髪にキスをしてくれた。
殊勝な態度で謝ったのが良かったらしく、レオさんの頬が緩んでくれたし、許してくれたっぽい。でもね、思い返すと、レオさんも甘く囁いて揶揄ってきたのに対抗しただけだし。俺だけ怒られるとか、解せない事に気が付いちゃった。という事で、反撃したくなっちゃいますよね。
「だって、レオさんがエッチぃのがいけないんだもん。俺だってそんな気分になっちゃうじゃん。」
「待って。あのな、エッチくないだろ?そんな気分って、お前。」
涙目風の流し目でレオさんをちらっと見て俯いちゃう。そして、ちょっとだけ甘えた感じも込めた悲しい声で呟いてみたら、レオさんが肩を抱いた腕を引き寄せてきた。レオさんは心配そうに覗き込んで、慌てた感じで言い繕ってくる。俺の演技は捨てたもんじゃなかったらしい。レオさんが釣れた事で大満足です。
「ん~、超エッチぃ。エロエロで困る。だって、首にそんな、ねぇ。」
って事で、顔を上げてニッコリ笑顔で演技でしたってネタ晴らしをして、ついでに、レオさんがエロいのは確実ですって断定もしっかりしてあげる。レオさんは呆気に取られた感じでポカンとした後で、直ぐに立ち直っちゃった。
レオさんの目が細められたと思ったら表情が変わっていった。基本は笑顔が多いレオさんだけど、今は違う。刺すような鋭い視線と、笑みが一切ない冷めた表情で冷たく見据えてくる。
睨むように射竦められて、怖さとは違う別のドキドキを感じてしまう、気がする。でもね、この表情は怒ってる、かもしれない。反撃は止めておけば良かったって、今更後悔しちゃう。
無言で見据えてくる緑の猫目に絡めとられたように視線が外せない。しかも、深い緑の猫目は静かな冷たい光を放ち始めて、その光を知覚した瞬間にゾクッとなっちゃう。怖さでゾクッとしたのもある。でも、それとは違う意味のゾクッとした感覚もある、気がする。
ネロが集中した時も光るって言ってた。多分だけど、今のレオさんは集中して怒っている、って事かな。興奮している時の光とは全然違う静かな光。興奮の時はギラギラとして眩しいくらいだけど、今は静かに光っている。
凍るように光っているって表現が近いかもしれない。凍るって言いたいくらい、冷たくて静かな綺麗な光。冷たい光が引き立てる深く澄んだ緑の瞳の綺麗さに見入ってしまう。
怒っているとは思うんだけど、怖さは一切ない。ただただ、惹き付けられる綺麗な緑の瞳。その目で冷たく見据えらえているとゾクゾクッと鳥肌が立ってしまう感覚がヤバい。
瞳の綺麗さに気を取られていたけど、目に集中していた視線がレオさんの顔を認識して、鳥肌が立ってしまった。感覚じゃなくて完璧鳥肌。怖くてとかじゃなくて、余りのカッコ良さにびっくりしちゃったらしい。
表情を消した真顔なんだけど、ただの無表情とは違う、一種の緊張感がある感じの顔。仕事の時のあのカッコいい顔と少し似てる気もする。ちょっと前だったら確実に怖いって思っていたと思う。でも、今は、何故か惹かれちゃう、気がする。
怒らせちゃったのは分かってる。だから、こんな事を考えちゃダメだって分かってるんだよ。でもね、普段のチャラいレオさんとは違う一面が見られて、ちょっと嬉しいって思っちゃった。
「仕事の時はずっとそんな顔?」
「ん?」
話の取っ掛かりが欲しくて、おずおずと話し掛けてみたんだけど、レオさんは表情を一切崩す事なく、静かに聞き返してきた。たったの一言にも満たない短い言葉だけど、低く冷たい声色で突き放す感じだった。
ホントに怒っちゃったのかもしれない。調子に乗り過ぎた事は事実だから、気を悪くさせちゃったならちゃんと謝らないとダメだ。ブランケットの中でレオさんに向き合って正座をしてみる。
レオさんに向かって真っ直ぐに見つめると、レオさんの表情に変化が出た。って言っても、片眉が上がっただけなんだけど。ただ、謝ろうとする気持ちが一瞬でどっかに持ち去られちゃう程の衝撃で見惚れちゃった。この冷めた表情で片眉を上げたレオさん。カッコ良過ぎて、ヤバい。
レオさんはキツイ顔付きだから、冷めた顔をしているとシャープな印象になってめっちゃカッコいいのかもしれない。しかも、今は綺麗な緑の目が静かな光を放っている。ネロはこんなレオさんにドキドキしちゃうんだろうな。
少しの間、レオさんに見惚れちゃったけど、改めて気持ちを引き締める。でもね、さっきまで謝る気分だった筈なのに、素直に謝る事ができない自分に気が付いちゃった。レオさんに相対すると、いつもは素直になり過ぎて甘え捲っちゃうのに、時々素直になれなくて捻くれちゃうのはなんでなんだろう。
「その顔は凄く好き。カッコいい。」
「へぇ?」
素直に言えたのは、レオさんがカッコいいって思いの方だった。レオさんは眉をぴくっと反応させたけど、表情も眼差しも変わらず冷ややかで、突き放すように冷たく言葉を返してきた。
やっぱり、怒ってるっぽい。だって、いつものレオさんだったら、テンション爆上がりでぎゅーってされちゃってるトコなのに、こんなに冷たいんだもん。
まだ謝る事もできてないのに、レオさんが冷たく突き放してくるのが悲しくなってきちゃった。その瞬間、俺の感情を読んだのか、レオさんの眉がぴくっと反応をしたのが見える。
怒っているけど、心配もしてくれてる、のかな。だって、明らかに俺の悲しい気持ちに反応して眉がぴくってなったもん。もしかすると、これはレオさんの演技なのではないだろうか。
そうだよ、レオさんがさっき程度の悪戯で真剣に怒る訳ない、気がしてきちゃった。俺が悪乗りし過ぎたのは事実だから、レオさんもちょっとだけむっとなって、お仕置きモードで怒ったフリをしてるのかもしれない。
というか、このレオさんはヤバい程カッコいいんだけど。こんな顔でネロと一緒に仕事をしてるんだよね。こんな眼差しで見据えられちゃったらヤバいと思うんだよ。ネロは仕事に集中できるのかな。
ん~、こんなカッコいいレオさんだと視界に入ってくるだけで、もう無理だよね。チラ見しまくって集中なんてできる訳がない。でもな、ネロだったらガン見して仕事もこなしちゃいそうな気もしてくる。
そういえば、レオさんはネロと仕事中に隠れて色々するって言ってた。こんな顔でネロと隠れて、とか。こんな顔でも中身はレオさんだし、えっちぃ筈。ネロもえっちくなるんでしょ。ヤバい、これはヤバい事態だ。
ちょっと想像しただけなのに。最初はレオさんのカッコ良さについて想像しただけなのに。途中からレオさんのえっちぃ感じに引っ張られて、超恥ずかしくなってしまった。
「その顔で仕事中に、隠れてネロとえっちぃ事をしてるって考えたら、恥ずかしくなっちゃった。顔が赤くなっちゃう。」
ちょっと赤くなっちゃった頬を両手で隠して、もじもじしながら想像した事を一部だけ話してみた。淡々としていたレオさんが目を丸くしちゃった。どうやら、真実を言い当てられて驚いちゃったらしい。
緑の瞳から急激に冷たい光が消えていく。唖然となった様子のレオさんを観察していると、少しして驚きから回復したらしく、レオさんは優しい笑顔になってくれた。
さっきまでの冷めた顔とは全然違う、優しくて嬉しそうな温かい笑顔だ。レオさんは優しく目を細めて、俺の頭をちょっとだけ乱暴にくしゃくしゃと撫でてきた。撫でるのはいいんだけど、撫で方をどうにかして欲しい。髪がぼさぼさになるから乱暴に撫でないで。
「悪い、髪が乱れたな。」
言葉で文句を言う前に、レオさんが謝ってくれた。考えを読んだのか、表情から推測したのか。何れにしても、不満は伝わってくれたっぽい。ゆっくりと優しく髪を整えてくれるレオさんを見つめると、俺の髪に指を滑らせながら、レオさんも優しく見つめ返してくれる。
「勘で分かったの?」
「顔に書いてあった。イヤ、目が物語っていた。」
ちょっとだけ気になって聞いてみると、レオさんは楽しそうに目を細めて答えてくれた。ほぅほぅ、成る程ね。目が物語る、ですか。中々詩的な表現ですな。全くレオさんらしくない表現なトコロに違和感を覚えちゃいますね。ってか、そんな能力を持ってたなんて初耳だから。
「目を見たら、考えが筒抜けになる新能力を入手してたの?いつの間に、どのタイミングで入手したのかを教える義務があると思います。」
むっとしながら、さぁ今直ぐ吐けと強要しちゃった。その途端に、レオさんが面白そうな、興味深そうな顔になっていくのが見える。しかも、珍獣を見る目で見られている気がする。なんでそんなに面白そうな顔をしてるの。
「そんな能力はない。お前の目はよく話をしてくれるんだよ。」
レオさんの視線の意味を考えていたら、レオさんが静かに言い返してきた。耳に届いたレオさんの言葉を理解して、驚きから目を瞠ってしまう。まじか、俺の目は話をしているんだ。知らなかった。
「ああ、成る程。目と会話ができる能力者だった訳ですね。分かります。えっとね、レオさんの趣味とかを否定する気はないんだよ。でもね、目を収集するとかは、ドン引き案件だから止めといた方がいいと思うの。」
ホントに心配になっちゃって心からの忠告をしてみると、レオさんの眼差しが珍獣を見る目から呆れた目に変わっていく。どうやら、レオさんは目に籠る感情を変える事によって、注意を逸らす作戦に出たらしい。そんな悪足掻きをしてもばれちゃってるんだから駄目ですよ。
それにしても、前に、この部屋と寝室を片付けた時には、目系のモノはなかった気がする。気になったのはエロい本と女の子の服くらいだった。って事は、どこかに隠し持ってるか、これから収集を開始するのか。
レオさんは変な性癖を持っているから、もしかすると変な方向に突っ走っちゃうかもしれない。そして、最悪なケースに発展して、もし犯罪者になっちゃったら、ネロが悲しむと思うんだ。勿論、俺も悲しい。
もうね、この際、俺の目が話をしていてもいい。でもね、目と会話ができても、性癖が歪んでいても、レオさんには真っ当に生きて欲しいって思っちゃう。ネロの傍で幸せに暮らして欲しいって願っちゃうんですよ。
「そんな能力者はいないし、そんな変な趣味もない。」
静かに反論をしてくるレオさんの言葉は真実なのだろうか。レオさんの目をじっと見つめて観察してみたけど、レオさんは呆れを含んだ眼差しを返してくれるだけだった。
ん~、目から判断は難しかった。それに、レオさんはネロみたいに嘘を吐かないタイプの人ではない。寧ろ、言葉巧みに嘘に真実を織り交ぜたり、逆に真実に嘘を織り交ぜて翻弄してくるタイプの人な気がする。要するに、今の言葉にも何か裏の意味があるのかもしれない。
でもね、もしレオさんが何かを隠しているのだとしても、俺はレオさんを見捨てない。レオさんが俺を受け入れてくれたように、俺もレオさんを受け入れる覚悟がある。
「レオさん、隠さなくてもいいんだよ。俺はどんなレオさんでも受け入れるから。勿論、ネロも受け止めてくれると思う。心配しなくていいからね。でもね、犯罪だけはやめてくれると嬉しいかな。」
レオさんを見つめて、本心を言葉に乗せて伝えてみる。目と会話ができるなら、俺の心も分かるよね。もしくは、勘だとしてもこれが俺の本心だって分かってくれるよね。
「へぃへぃ、ありがとさん。こんなもんでいいか。髪が整ったぞ。」
レオさんは少し頬を緩めて、適当な感じで一応、お礼を言ってくれた。なんでそんな適当に反応してきたんだ。これは、もしかするとだけど、目と会話するというのは冗談だった可能性が出てきた。ん~。
そ、そうだよね。うん、勿論。そりゃぁ、知ってましたよ。そんな、ねぇ、目と会話するなんて荒唐無稽な事がある訳がない。ええ、当然の如く知ってるに決まってるじゃん。ねぇ、スツィ。決まってるよね。
(そうですね。でも、大変興味深く拝見させて頂きました。面白かったです。)
くそぉ、スツィもそうやって皮肉で揶揄うようになっちゃったのか。まぁ、そんなスツィも可愛いからイイと思います。でも、そうだよね。スツィもこう言ってるって事は、やっぱり目から情報を仕入れる変態的能力者はいないって事なんだろうな。
「あ、ありがと。」
あ、髪を整えてくれたお礼を言わなきゃだった。ってか、ちょっと恥ずかしくなってきちゃった。だって、レオさんの冗談に対して熱くなって語っちゃったんだもん。目を伏せてお礼を伝えてみちゃうと、レオさんが髪にキスをしてくれたのが分かった。
「やっぱり、お前には敵わないな。」
優しく呟いた声が聞こえて、目を上げると、優しくて穏やかで、慈愛に満ちている深い緑の猫目が見えた。さっきの冷たい視線、からの、この柔らかな視線はヤバい。ギャップがヤバいですよ。レオさんがモテるのが良く分かる。そして、ネロの気持ちが良く分かる。
「レオさんはエロくない時がヤバい。」
こうやって緩急をつけてくるレオさんは相当ヤバい。優しい眼差しを見ているとドキドキしちゃいそうで顔を逸らして、感想を漏らしてしちゃった。レオさんは黙ったままで何も言ってくれない。
ちらっとレオさんに目を向けてみると、超優しい顔をしていた。眼差しだけじゃなくて、表情全てが超優しい。めっちゃ照れちゃうんですけど。この感情はナニ。ネロの気持ちが本当に良く分かった瞬間である。
「ネロの気持ちが分かっちゃった。」
「どういう事?」
心の声が漏れちゃったらしく、即行でレオさんが聞き返してきた。でもね、それを聞いちゃうのは野暮だと思うんですよ。ネロの気持ちはネロの気持ち。俺からじゃなくてネロから聞くべきなんだよ。返事の代わりにレオさんの頭を撫でてあげる。
そして、落ち着く為に、カップに手を伸ばす。もう冷えちゃったお湯を一口飲んでカップを両手で抱えたままで、ぽふっと背もたれに寄り掛かっちゃった。レオさんが手を差し出してきたから、大人しくカップを渡してあげる。
レオさんは一口飲んで、立ち上がった。レオさんの行動が気になって見上げると、レオさんが屈んで髪に優しくキスをしてくれる。さっきからずっとそうなんだけど、めっちゃ普通にキスをしてくるじゃん。行動の合間に流れ作業で髪にキスとか、レオさんはマジでチャラい。
流しに向かうレオさんを眺めていたら、カップに水を入れ直して戻ってきた。レオさんが隣に腰を下ろして詠唱を始めたのをぼんやりと眺める。レオさんの魔法はいつ見ても新鮮に見える。そして、詠唱をしながら見つめ返してくれる眼差しが優しくて温かい。
「で?ネロの気持ちって何。」
「秘密。」
湯気の立つカップを手渡してくれながら、レオさんが質問を繰り返してきた。超気になってる模様。そうだよね、ネロの気持ちだもん、気になりますよね。微笑ましい気持ちがいっぱいになって、ニコニコしながら答えてあげる。秘密の一単語だけどね。ネロの真似をしてみました。どうでしょうか。
「ほぅ?俺に秘密なんて通用すると思ってんの?」
「ネロの気持ちが知りたかったら、自分で聞いたらいいと思うの。」
低くい声で静かに威圧する感じの喋り方はレオさんお得意の戦法だ。それに少しだけ目力の強いにっこり笑顔で。いつも通りの答えを強要するスタイルの完成。そんな戦法には慣れっこになってるから、俺も負けずに、にっこり笑顔で応戦してみる。
「そうだな、それはそうだ。全くの正論だよ。だけどな。」
静かに淡々と話すレオさんは威圧する風の雰囲気を出してくる。怖いですね。言葉を切ってじっと見つめてくるレオさんにコクっと頷いちゃう。だけどな、の次にくる言葉が知りたいんです。
レオさんは弄ぶ時はいつも勿体付けて話してくる。普段はサクッと明瞭で明快なのに、揶揄う時は非常にねちっこくなるんだよね。これがレオさんがモテる秘訣なのかな。ドS全開なレオさんとかヤバいもん。好きな人は好きなんだろうな。
レオさんが俺の肩を抱き寄せて、顔を近付けてくる。暑苦しいからやめて欲しい。レオさんの手を払って距離を取ると、レオさんは離れた分だけ体を寄せてきた。えっと、ドSなのが顔にも出ちゃってますよ。爽やかな笑顔なのに、目が楽しそうに細められていて怖いです。
凄く楽しそうにプレイに突入してる感のあるレオさんだけど、俺に巻き付いてるブランケットをサラッと解いてくれる優しさもある。何気に丁寧なのが凄いって思っちゃう。でも、迫力のある笑顔のままで視線は一切逸らさない。
「ネロの気持ちを理解した琥珀の気持ちはお前に聞かなきゃ、分からないだろ。いいから吐け。」
レオさんは俺の上に圧し掛かる勢いで顔を寄せてくる。そして、静かに持論を展開し出した。まぁね、確かに、ネロの気持ちを解釈した俺の見解は俺にしか説明できない。でも、その論法はちょっと乱暴な気がするんですけど。
「その論法は強引過ぎるでしょ。」
溜息交じりに窘めてみると、レオさんの口の端が上がっちゃった。あらら、ドS度が上がってしまった感がある。そんな顔で女の子に迫ったら、怖くて泣かれちゃうよ。レオさんはホント怖いですね。
「強引なのが好きなんだろ。お前の好みは把握済みだ。」
ドS顔はキープで声だけ優しいとか何なの。レオさんはマジで器用な事をしてくるから困る。そして、好みを把握されちゃってる件について。そっか、知られちゃってたのか。だからレオさんは何かと強引だったのか。
「ん~、好きと言えば好き。かも?」
まぁ、ばれてるなら今更取り繕っても仕方ないか。大人しく認めちゃう事にしよう。ってか、レオさんが強引なのがいけないんだよ。いつも強引だから、それもいいなってなっちゃったんだもん。
「マジで。そうなんだ。」
あれ、レオさんの目が丸くなっちゃった。完全に驚いてる顔なんですけど、何でなの。言葉も表情も驚きに満ちてる気がするんですけど。どうやら、引っ掛け問題だったらしい。くそぉ、騙された。
「騙してねぇよ。で、お前はどんな気持ちだったの。」
こんな時まで勘を発動させて、さらっと俺の心と会話してくるレオさんには文句しかない。そして、やっぱり言わされるよね。この押しの強さがレオさんだよな。よし、誤魔化すのはやめて、単純明快に端的な言葉でさらっと言えば大丈夫、な筈かな。
「冷たい視線からの優しい顔にドキっとして照れちゃうの。」
スッと顔を逸らして、小さな声でササっと端的に説明してみたら、レオさんが俺の頬に手を添えてきた。また強引に視線を合わせてくる手法を取ってくるらしい。レオさんはホント、無理遣りが好きですね。
自主的にレオさんの目を見つめると、レオさんが頬から手を離して頭を撫でてくれた。よくできましたって感じだ。子供扱いが不満で頬を膨らませちゃうと、レオさんが片手で俺の両頬を軽く掴んできた。そして、やんわりと空気を抜かれてしまう。くそぉ。こんなトコも子供扱いか。
「ん?」
目を合わせた状態で、レオさんが楽しそうに聞き返してくる。目を見てちゃんと詳しく説明しろって事ですか。成る程。レオさんは強要して辱めるのが好きなドSタイプの人で確定だ。
そうじゃないかなとは思ってたんだよ。でも、これで確定しちゃった。ネロもこうやって追い詰められてヤバいって思っちゃうのかな。あ、違うな。ネロが相手だとレオさんはされる側な気がする。
涙目なレオさんは可愛いからね。ネロのドS魂に火が付いちゃうのかもしれない。ってか、ネロはドSと程遠い優しさの塊みたいな人なんだけど、レオさんの前ではドSになったりするのかな。どうなんだろ。超気になる。
「お前は脇道に逸れるのが得意だな。人目に付かない場所で虐められたい願望でもあるのか?ん?」
レオさんの低い声が聞こえてはっとなる。まさか、読んだ、とか、そんな事ないよね。えへって可愛く誤魔化し笑いをして、すすっと目を逸らしてしまう。ってか、人目に付かない場所で虐めるって、犯罪ですから。
あ、でも、合意の元なら平気か。へぇ、レオさんはそんな高尚なご趣味があったんですか。成る程。ネロともそうやって隠れた場所で色々してますよって暗喩的なアレですね。理解しま・・・。
不意に耳に唇が当てられた感覚でびくっとなっちゃう。慌てて耳を抑えながら距離を取って睨んじゃった。そうしたら、にーっこり怖い笑顔のレオさんと目が合ってしまった。睨みが通用しないどころか、反対にレオさんの迫力で気圧されちゃう。
明らかに俺の思考が筒抜けだった可能性しかなくて、へらって薄っぺらい笑いをしてしまう。うん、脇道に逸れるのが俺の得意な分野なんです。ごめんなさい。
「焦らさないで教えて、くれるよね。」
肩にレオさんの腕が回された、と思ったら、引き寄せられちゃった。そして、耳元で低い声が強要してくる。さっきの冷たい眼差し以上にゾクゾクする怖い声だ。なんという迫力のある声を出してくるんだ。怖いですね。
「怒らせちゃったかもって思ったくらい、冷めた態度と冷たい視線の後で、レオさんが超優しい顔になったからドキッとしてヤバいって思っちゃったの。で、目が合ったら優しいレオさんだったから、ちょっと照れちゃったの。ネロもこんな気分なんだなって思っただけ。以上。」
最終的にしっかりと説明させられちゃった事実が恥ずかしい。一気に話し切った後は照れも手伝って、ぷいっと顔を逸らしちゃう。視線を外した途端に、レオさんが移動した事に気が付いた。隣の温かさがなくなったから気が付く程度の、スッと移動する感がヤバい。
正面にレオさんの脚越しに揺れる長い尻尾が見える。顔を上げると、レオさんが俺の真ん前に立ちはだかっていた。静かに見下ろしてくるレオさんと目を合わせるのが恥ずかしくて、俯いて視線を逸らしちゃう。
俯いた瞬間に、フワッと体が浮いた気がした。浮く感覚にもう慣れてしまっている自分か怖い。そして、あっという間にレオさんの太腿の上にふわっと着地していた。レオさんが好きっぽい、向かい合わせでレオさんの太腿に跨るお膝抱っこ。あっという間に移動が完了していた。
レオさんが俺の背中にそっと腕を回してきた。いきなり抱き上げられた抗議を込めて、レオさんを睨んじゃう。レオさんは何故かニコニコで凄く嬉しそう。
ん、ニコニコどころじゃなかった。目尻が下がって、でれでれな顔になってた。なんでイキナリそんなテンションになったの。レオさんの笑顔に一瞬怯んじゃったけど、諦めずにまた睨んでみる。
「マジでね、ヤバいわ。もう、うちの子になっちゃいなよ。寒いのが嫌だったら、俺も部屋の温度を弄れるようにするから。寒くても、こうやってくっついてれば温かいし安心するだろ?ホント、可愛過ぎてヤバい。」
レオさんがハイパーなテンションで、猫目をキラッキラに輝かせて、勢いよく口説いてくる。いや、口説くって言葉は語弊があるね。養子を貰い受ける的な事を言い出した。
レオさんが仕事終わりの時のテンションと同じになっちゃってる。めっちゃパパさんモード全開になってるんですけど、何がきっかけでこうなったんだろう。あ、ネロの気持ちを代弁したからか。子供が恋人の想いを届けたって事実が嬉しかったんだろうな。
でもね、イキナリのお膝抱っこに対しては怒ってるんです。レオさんのイキナリのテンション爆上げに若干引きながらも、無言で睨み続けてみた。俺が怒っている事に気が付いたのか、レオさんが小首を傾げて疑問を伝えてくる。
ヤバ、レオさんが小首を傾げた事により、猫耳が超可愛い角度で傾いてる。しかも、ぴくってなったのがめっちゃ可愛い。でもね、そんな可愛い顔をしてもダメですよ。今回ばかりは猫耳にも耐えてみせます。だって、怒ってるんだからね。
レオさんは、なんで一々、俺を膝の上に乗せるのか。ネロがいたらヤキモチを妬いて欲しいって分かるけど、今はいないでしょ。テンションが上がって抱っこしちゃっただけなんでしょ。子供扱いにも程があると思うんです。
そして、俺はネロの家の子だから、この家の子にはなりません。絶対にならないって決めてるんです。だって、女の子関係が大変そうなんだもん。さっきのノーラさんみたいな事とか、この前のクロエさんみたいな事とか。この短期間で気まずい思いを何回した事か。だから、絶対嫌です。
「どうした、琥珀。そんな可愛い顔をしてたら襲いたくなっちゃうから、やめなさい。何か言いたい事でもあるのか?それにしても、お前は可愛いな。」
むぅっとしながら心の中で沢山文句を言っていたら、優しく言い聞かせるレオさんの声が聞こえてきた。デレデレな顔のままだから、パパさんモードはキープしてるっぽい。
そして、落ち着いた口調に聞こえるけど、超ハイテンションはキープしている感はある。だって、若干のチャラさが加わって、発言がカオスな事になってるし。
「言いたい事しかない。」
「成る程。当ててやろうか。」
「じゃあ、当ててみて。」
睨みをジト目に変更してボソッと呟いちゃうと、レオさんは思考当てクイズに挑戦すると言い出した。自ら志願するとか、いい根性だ。そうだね、レオさんなら俺の不満も全部当てられるよね。ジーっと見つめながら、テンション低めでゴーサインを出してみた。
「分かった。じゃぁ、当てるよ。当たったら好きなトコにキスしてもいい?」
レオさんは当てる気満々らしく、ニコニコ笑顔でちょっと小首を傾けて成功報酬を要求してきた。でもね、マジでチャラい。好きなトコってどこだよ。こんなレオさんには、怒ってるって分からせる為に塩対応をしてやる。
「当たった際のキスを許可します。ただ、一つ忠告しておきます。外れた場合、レオさんには恥ずかしい事をネロにして貰います。詳細はレオさんが外れた時に説明します。以上。」
静かにレオさんを見据えてみる。そして、当たったらどこでもキスを受け入れる代わりに、外れたら恥ずかしい事を実行する案を、淡々と打ち出してみた。レオさんの表情が変わって、笑顔が消えちゃった。そして、テンションも下がって、思案する様子を見せてくれる。
「マジか。恥ずかしい事ってなんだよ。」
「今は言えません。」
困った様子で、葛藤してるレオさんの様子が可愛くて、ちょっとだけ溜飲が下がった気がする。でも、詳細を聞いてくるレオさんに、ツーンと冷たい態度で対応してみた。
「じゃあ当てない。分かりません。」
「その答えでいいんですね?」
俺が怒っているのが漸く伝わったらしく、神妙な顔でレオさんが回答を断念してきた。へぇ、諦めちゃうんだ。でもね、俺は追い打ちをかけるよ。だって怒っているんだもん。少しくらい、いいよね。ニッコリ笑顔で、かつてユリアさんがレオさんに向かって発した言葉そのままを借りてみた。
「ユリアの真似をするな。卑怯だぞ。」
レオさんのテンションは地に落ちちゃったらしく、めっちゃ低い声でボソッと文句を言ってくる。でも、レオさんは直ぐにユリアさんの真似って分かってくれた、ちょっと嬉しい。




