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204 何の勉強だよ

 何でこんな状況になっちゃったんだろう。今、俺は明らかにレオさんに拘束されちゃっている。俺の両手首はやんわりと一纏めに握られていて、肩に回した腕で俺の頭を抱き込みながら、レオさんの手が俺の頬に添えられている。しかも、レオさんは俺の顔をジリジリと自分の方に向けている最中だ。


 ちょっと前までは俺が優勢でレオさんを追い詰めていたのに。おかしい。いつどこで逆転しちゃったんだろう。うん、分かってる。深追いし過ぎたのがダメだった。でも、今更後悔しても仕方ない。抵抗するのは諦めてレオさんに目を向けると、レオさんは楽しそうに口元を緩めていた。


「琥珀はドSだな。挑発してるのか?」


 目が合うと、レオさんが嬉しそうにニコってしてくれた。爽やかに見せかけた意地悪な笑顔だよね。知ってます。そして、レオさんは優しい口調で揶揄ってきた。


 まぁ、ドSかって言われると、ちょっとだけそんな気もする、かな。でもね、挑発ってなんだよ。それ以前に、現状ドS顔でドSな事を実行中のあなたにドSなんて言われたくない。


「どこがドSなの。普通に聞いただけで挑発なんてしてないもん。」


「俺からは何もしてない。ノーラが抱き着いて、首に吸い付いてきた。その後は、ノーラを家に押し込んで逃げてきた。以上。」


 むっとして、両方否定しちゃったら、普通に聞いただけって言葉に反応したのか、レオさんが淡々と状況を説明し出した。焦ってる感じがどこにもなくなっちゃって、ちょっと悲しい。


 焦った感じのレオさんをニマニマ追い詰めるのが楽しかったのに。もうちょっと楽しみたかった。まぁ、それは置いといて、レオさんから何もしてないのは分かったよ。でもね、レオさんは何をしてるの。


「逃げてきたってなんなの。ノーラさんが可哀想じゃん。」


 余りに酷い行いを耳にして、思わずレオさんを非難しちゃった。あんなに可愛く甘えてきたノーラさんから逃げたのかよ。しかも、話を聞く限りでは、抱き着いて、首にキスまでしてくれたんでしょ。それも、熱烈なヤツを。


 それなのに、逃げてきたとか。ノーラさんが可哀想。さっきも冷たく突き放して悲しそうだったのに、もっと悲しい顔をさせちゃったのか。大人の関係は良く分からない。でも、悲しい顔をさせるのは良くないと思う。


「だって、琥珀と離れたくなかったし。ホントは送るのも嫌だったし。」


 強い口調で非難してしまったからか、レオさんがシュンとなっちゃった。嫌そうな顔をしながら、ボソボソと言い訳らしきものを言ってるレオさんだけどね、本心は違うでしょ。


「へぇ?」


 どう考えても、レオさんなら子守より女の子を取るでしょ。今回のシュンとなってるのは演技だって流石に分かりますよ。という事で、真顔で相槌を打ってあげる。


「信用してなさそうだな。でも、ちょっと遅くなって良かった。」 


 レオさんはちょっとだけ苦笑して、相槌に対してモノ申してきた。そして、はにかんだ笑顔で遅くなって良かったとか言い出した。早く帰ってきたから文句を言っているのに、レオさん的には遅くなった部類らしい。


「なんで?」


 レオさんの表情と言葉の意味が知りたくて、理由を聞いてみる。そうしたら、両手首を拘束していた手を離して、レオさんが優しい手つきで髪を掻き上げて額にキスをしてきた。頬に添えられた手はそのままだけど、冷え切っているから温かさが嬉しい。だから、拒否はせずにそのままにしておく。


「琥珀の寝顔が見られた。」


 レオさんは嬉しそうに頬を緩めて、本当に嬉しそうに理由を教えてくれた。レオさんの瞳は優しくて、少しだけ甘さを含んでる気がする。でも、そんな事より、唐突に飛び出した予期せぬ理由にポカンとなってしまう。


 寝顔って、寝てる時の顔だよね。それを見るのはそんなに嬉しい事なのかな。ってか、レオさんの言動は基本的にチャラくて困っちゃう。だって、額にキスからの、一瞬ドキッてしちゃうくらい、優しい眼差しと、甘くて優しい声だったんだもん。


 レオさんは感情表現が豊かだから、感情が表情に出てくれるんだよね。そして、感情を一番表現してくれるのが、澄んだ深い緑の綺麗な猫目。吸い寄せられてしまう程、綺麗な緑なんだよ。


 その目で優しく見つめられて、今みたいな事を言われたら、女の子はヤバいだろうな。そりゃ、ノーラさんやクロエさんみたいな可愛い笑顔にもなっちゃいますよね。ネロだって幸せな笑顔になっちゃうよ。


「レオさんはそうやって口説いて回ってるんだね。理解しました。成る程ね~、そんな顔で言われたらヤバいですよね。勉強になります。」


「何の勉強だよ。」


 ふむふむ、と頷いて感想を伝えてみたら、レオさんが真顔になってしまった。レオさんは表情の変化が顕著で、見ていて楽しい程にコロコロ変わるんだよ。レオさんの表情の変化を楽しんでいたら、ボソッと呟く声が聞こえた。


「あ、勉強っていえば、この家に本を置きたいんだけど、駄目かな。」


「本って、何の本?まさか、お前もアレ系を読みたくなったのか。そっか、あの家だとネロがいるから、おちおち読めない事に気が付いちゃったか。お前もお年頃だ。いいぞ、好きなだけ置け。で、一緒に楽しもうな。何だったら、俺が直接色々と伝授してやる。そっか、お前もその気になってくれたか。」


 レオさんの言葉で思い出したから、忘れないうちに。と、お願いをしてみた。レオさんは疑問の表情で聞き返してきたと思ったら、勝手に解釈して話が進んでいく。


 まぁ、そうだよね。唐突に言われても疑問だよね。でもね、レオさんの期待してる本じゃないから。お年頃はお年頃だけど、レオさんのはまだ早いお年頃だから。


 しかも、一緒に楽しむって何を言っているんだ。そして、何を伝授してくれる気なの。更には、その気、ってどの気だよ。もうね、レオさんの言葉全てがエロく聞こえちゃう俺は駄目なのかもしれない。いや、俺は駄目じゃない。今回に関しては確実にエロい表現でしょ。


 むぅっと睨んじゃうと、レオさんが楽しそうに頬を緩めたのが見える。じーっと見つめ続けると、レオさんの表情は変わらないけど、耳が伏せられていく。一応は俺の冷めた心が伝わってくれたらしい。


「また同じような事態になった時に、時間を潰せるように本を置いときたいんです。」


「小難しい本はやめて、俺の本を読めばいいでしょ。勉強になるよ?」


 レオさんを睨むのはここまでにして、改めてちゃんと説明をして本を置きたいと頼んでみる。レオさんはふむふむっと頷きながら聞いてくれて、最終的にはさっきの話に戻ってしまった。


 いい考えでしょって顔で首を傾げてるけど、読む訳ないでしょ。この人は一体なんの勉強をさせたいんだよ。まぁ、これでこそレオさんって感じがしてある意味、納得できちゃうのが怖い。


 でも、困っちゃった。レオさんが拒否を示しているのか、揶揄っているだけなのかが分からない。ただ、レオさんは変な拘りを持っているのは知ってる。その拘りで、この家の中にはエロい本しか置いちゃダメ、という条件付けがなされているのかもしれない。


「レオさん系の勉強はまだいいの。今は真面目な知識になる本を読みたいんです。ダメなら諦める。レオさんの矜持として、この家には際どい本しか置いちゃダメって制約があるなら仕方ないもん。」


 諦め半分で、一応、再度確認を取ってみた。レオさんが驚いた顔で見つめてくる。今回は何に驚いちゃったんだろう。もう驚かれる事にも慣れちゃった自分がいる。ん~、あ、図星だったのか。そっか、レオさんはやっぱり変な拘りと矜持を持って生きているんだね。


「そんな矜持も制約もねぇよ。置きたければ何冊でも置いていい。今後は十分気を付けるから、同じ事態にはならない、筈。暇つぶしの心配はしなくてもいいけど、琥珀がこの家に来るのは大歓迎だから、好きなだけ置けばいい。」


 驚き顔を解除したレオさんが頬を緩めた。矜持も制約も否定して、置き本も許可してくれた。しかも、遊びに来るのを歓迎してくれている。要求が無事通って、嬉しくてニコっとなっちゃったら、レオさんが頭を撫でてくれた。


 最早、子ども扱いをされるのも慣れてしまっている。人って、色々、慣れてくるんだなって思っちゃう今日この頃です。しかも、慣れるだけでなく嬉しいとすら思ってしまっている。この現象は何だろうか。


 まぁ、散々子ども扱いしてくるレオさんだし。子供として散々甘やかしてくれるレオさんだし。時々厳しく叱ってくれるレオさんだし。レオさんの前では子供でいたい症候群が発症しちゃってもおかしくはないのかもしれない。


「じゃあ、明日、本をどれか持ってこようかな。」


 レオさんの許可が取れたから、独り言を呟きながら、どの本を持ってこようかなって頭を悩ませてしまう。アイラさんに借りたのは薄くて運び易いけど、借り物だから移動させたくない。


 でも、ネロに買って貰ったのはどれも分厚い本なんだよね。ネロが選んだ料理と服の本は比較的手ごろな厚さだけど、あれはネロの本だもん。ダメだ。


「何も買うなって言われたけど。明日、本屋で安いヤツを一緒に選んだらダメか?」


「それはダメ。お金がかかるもん。」


 俺の悩みに便乗したのか、レオさんが恐る恐るって感じで提案をしてきた。本屋で選ぶって、買って貰うって事だよね。即答で却下をすると、レオさんがシュンとなっちゃった。


 耳を伏せちゃったのがめっちゃ可愛い。尻尾も先端だけふるふるって不安げに動いている。しょぼんと俯くレオさんが可愛くて、思わず頭を撫でちゃった。このお兄さんは時々ヤバい程の可愛さを見せてくるから困っちゃう。


「だって、デートだし。駄賃以外にもプレゼントを買いたいし。でも、金は使うなって言われたし。」


 レオさんが顔を上げて、拗ねた口調で思いを伝えてきた。喋り方がヤバい。シュンとした見た目と相まって、メッチャ可愛く見える。そうやって不安そうにお耳をプルプルさせるのをやめて下さい。超可愛くてソコに目が釘付けになっちゃうから。


 ヤバいな、レオさんの策って分かっているのに絆されてしまう。結局、懐柔されちゃいますよね。あの猫耳の可愛さは卑怯。レオさんの猫耳に免じて、ここは折れてあげましょう。でもね、ちゃんと注意点だけは言っておかないとだ。


「じゃあ、エッチぃの以外でレオさんも興味がありそうで、安い本。一冊だけ買って貰ってもいいでしょうか。」


「うん、勿論いいに決まってる。一緒に選べるとか、楽しみ過ぎる。一冊と言わずって言いたいトコだけど耐える。マジで明日が待ち遠しい。琥珀と一緒に選んだ本を、琥珀を膝に乗せて一緒に読む。とか、もう、期待に胸が高鳴り過ぎて、マジでヤバイ。」


 本を一冊買って貰う方向で話を進めてみたら、レオさんの表情がぱっと笑顔に変わってくれた。耳もピンと立って、嬉しさを表現している。こっちのお耳も可愛いですね。そして、レオさんは楽しそうに笑顔で答えてくれた。


 ただ、凄く気になる事を言っていた気がする。買うまでの所はいいよ。楽しみにしてくれるのも嬉しい。一緒に読むのもいいよ。でもね、なんで膝に乗せる必要があるのか。レオさん渾身のボケなのだろうか。ここは突っ込むべきところなのかな。


「お膝はヤダ。」


 スルーしようと思ったけど、ついボソッと突っ込みじゃなくて拒否をしちゃった。その途端に、レオさんの表情が愕然としちゃった。明らかにショックを受けて悲しそうな表情になっちゃっている。


 あれ、冗談じゃなかったのか。レオさんは子供を膝に乗せて読み聞かせる願望があった、と。心のメモに刻んで、取り敢えず放置しておこう。これ以上言うと、口で言い負かされてホントにレオさんの膝の上で本を読む羽目になりそうだし。


 それにしても、レオさんもネロと同じっぽい気がしてきた。俺が欲しいって言ったモノを、なんでも買い与えてきそうな気配を感じちゃうのは気のせいだろうか。お金持ちって、太っ腹になるんだね。俺もいつかこんな風に太っ腹になれるかな。


 ぼんやりと考えていたら、レオさんが髪にキスをしてきた。レオさんに目を向けると、笑顔のレオさんが見える。どうやら、さっきのショックからは立ち直ったらしい。


 まぁ、俺を膝に乗せて一緒に本を読みたいって、本気で思ってくれているのは分かった。ネロの子供としての俺を本気で可愛がってくれてる証拠だから、困った願望はともかくとして気持ちは嬉しい。


 唐突に、レオさんが肩に回した腕を外してしまった。レオさんの体温で温まっていたからか、急にヒンヤリと感じて淋しくなっちゃう。不満げな表情になってしまったらしく、レオさんがクスッと笑って髪にキスをしてくれた。


 レオさんが立ち上がって離れていってしまう。目で追いかけていると、レオさんは流しに移動していった。お湯を用意してくれるみたいだ。


 一人でソファにポツンと取り残されたら、レオさんの家の中は本当に寒いって実感してしまった。体温の高いレオさんが隣からいなくなったから、余計寒さを感じるのかもしれない。


 ぼんやりとレオさんを眺めていたら、レオさんは直ぐに戻ってきてカップを差し出してくれた。湯気が立ち上っていて熱そうなカップを袖を伸ばして間に挟みつつ、両手で抱える。両手とカップを置いている太腿がじんわりと温かくなってほっとしちゃう。


「やっぱり、この部屋は琥珀には寒い、よな。」


「うん、寒い。」


 カップにふーっと息を吹きかけて、立ち昇ってくる蒸気で温まっていたら、ぽつりと呟く声が聞こえた。レオさんに顔を向けて、正直に答える。間違いなく、寒い。それは正しい。


「ん~、俺の家でまったり過ごそうと思ったけど。困ったな。」


「じゃぁ、ブランケットに二人で包まって話せば暖かいかも?」


「流石琥珀。名案だ。ちょっと待っててね。」


 レオさんが困った様子で呟いたから、思いついたままに案を出してみる。レオさんが、おお、って感じで立ち上がった。そして、声を掛けつつ、寝室にささっと移動していく。


 直ぐに戻ってきたレオさんの手にはブランケットが1枚。レオさんは真っ直ぐに歩み寄ってきて、俺の持ってるカップをローテーブルに置いてくれた。そして、優しく丁寧にブランケットを巻き付けてくれる。


 レオさんが隣に戻ってきたトコロで、巻き付けてくれたブランケットを解いちゃった。そして、ブランケットの片側をレオさんの背中に回して、レオさんにぴたっとくっついちゃう。


 何も言わないレオさんが気になって見上げると、レオさんは戸惑った顔をしていた。目が合って直ぐに、レオさんがブランケットを俺に戻そうとしてくる。慌ててレオさんの腕に抱き着いて、首を振って拒否をしちゃった。レオさんが困惑の表情になって覗き込んできた。


「俺は寒くないから、琥珀一人で使っていいよ。しっかりと巻き付けとけば少しはマシになるだろ?」


 戸惑いと困惑を同居させて、心配してくれるレオさんは優しい。でもね、違うんです。俺がレオさんにブランケットを提供したのは、もっと打算的な事なんですよ。


「寒いからレオさんで暖を取ってるの。二人で包まってって言ったでしょ。レオさんの温かさを奪うつもりで言ったんです。」


 ニッコリ笑顔で説明すると、レオさんがふっと頬を緩めてくれた。優しい笑顔なんだけど、いつもより柔らかで穏やかで幸せそうないい笑顔だ。緑の猫目の優しさが半端ない。しかも、満たされたような幸せそうな眼差し。


 この自然な笑顔はドキッとなっちゃうヤバいヤツだ。ネロもこんな不意打ちのいい笑顔にやられちゃったんだろうな。あとは、女の子達も、この笑顔にやられちゃったのかもしれない。


「成る程ね~。じゃあ、俺の膝の上に来るか?もっと温かいし、もっと温めてやる。二人の体温が溶け合うまで、ゆっくりじっくりトロトロに温めてあげる。」


 レオさんは俺の肩を抱き寄せながら、髪にキスをしてくれる。そして、優しい声で卑猥な事を言い出した。納得してくれたのはいいけど、急にチャラくなるのはやめて欲しい。二人の体温が溶け合う必要はないんだよ。


 そして、一瞬ドキッとしちゃった心を返して欲しい。さっきのレオさんの清らかさと、今のレオさんの猥褻さ。本気で、この人の中にはギャップしか存在してないのだろうか。


「それは流石に恥ずかしい。ってか、発言が限りなくアウトだから。」


 眉を寄せて睨みながら拒否を伝えたら、レオさんが俺の目元を手のひらで覆ってきた。閉ざされた視界の中で、小さく息を吐き出すのが聞こえた。何でイキナリ目を塞がれたんだろう。


 レオさんの意図が良く分からなくて、両手でレオさんの手を掴んでソロソロっと引き剥がしてみる。そうしたら、レオさんは逆らう事もなく、手を退かしてくれた。


 ってか、掴んでみてレオさんの手のひらが超温かい事に気が付いちゃった。これはいい。湯たんぽに決定しました。レオさんの手を自分の太腿の上に誘導して、両手で握っちゃう。


「手も温まる。」


 にこっと笑顔で報告をしてみると、レオさんは無言で頷いてくれた。拒否されなかったって事は、湯たんぽとして手のひらを提供してくれるらしい。それに、気分を害して目を塞いだって事でもないっぽい。


 何かのプレイ的な事だったのかな。俺が嫌がる気配も、拒否する気配も、怒る気配もなかったから、もういいやってなっちゃったのかも。レオさんはドS系の人だからね、その可能性が高い。藪をつついたら大変な事になりそうだから、ここは触れるのはやめておこう。


 レオさんが改めて、片手で器用にブランケットで二人を包んでくれた。ブランケットとレオさんのおかげでぽかぽかになってきたから、まったりとお喋りの時間の始まりだ。


 レオさんを見つめると、レオさんが首を傾げてくれた。レオさんは基本的に、聞き役からスタートが多いんだよね。緑の瞳が優しく言葉を誘導してくれる感じがある。


「レオさんは普段ネロとどんな話をしてるの?」


「あんまり話さない、かな。」


 じゃぁ、ネロとレオさんについてを聞いてみようかな。俺がいない状態の二人きりの会話が気になって質問をしてみたら、レオさんは目を細めて、静かに答えてくれた。話さないってなんでだろ。ネロが寡黙だからかな。


「レオさんはお喋りなのに話さないの?」


「ん~、話さなくても大体通じるって感覚かな。俺も勘はいいし、ネロも同じようなもんだからね。ネロの場合は更に観察で見抜いてくるから、話す必要性は最低限しかない、かな。」


 首を傾げて更なる疑問を口に出してみると、レオさんが楽しそうに目を細めて説明をしてくれた。ネロの勘とレオさんの勘か。二人の勘は確かに鋭い。レオさんはかなり鋭敏に色々と察知してくるし、ネロはネロで恐ろしい程に心理を当ててくる。


 特に、ネロの勘は目で見て確認できている。それも、レオさんの行動を100%的中させるというスゴイ結果だった。更に観察を交える事で、常時100%近くの解析が可能になってくるのかもしれない。


 その結果、会話を必要としなくなる、と。言葉を使わずに意思の疎通ができる事自体が凄いのに、ネロとレオさんの間では細かい情報の遣り取りができるとか。話を聞いている限りでは、ある意味、テレパシーと言ってもいい気がしてくる。


「凄いね。全く話さなくても、以心伝心で事が進んでくの?」


「まぁ、そんな感じ、かな。」


 ちょっとだけ驚いて聞き返してみると、レオさんはあっさりと肯定してきた。確かに、思い返すと、ネロとレオさんは視線を合わせるだけで、無言の会話が成立していた時もあった。あれは恋人同士だから想いが通じ合っている、訳ではなくて、勘に裏付けされたテレパシー的な何かだったんだね。


 会話が余りないのであれば、レオさんはネロと二人きりの時は落ち着いているのかもしれない。だって、テレパシーでチャラい事を言う訳がないもん。レオさんの必殺の武器が封じられている以上、大人しくなっちゃう、よね。


 要するに、レオさんは本命ネロの前ではピシッとしているタイプの人な可能性が大きい、かな。ネロと二人きりで過ごす時は、仕事中のあのカッコ良さと、落ち着いた感じなのかもしれない。


 そして、ネロの前では猫を被っているから、ネロ以外の子の前では羽目を外しちゃう、と。チャラくて、エロくて、ヤバくなっちゃうのは、反動みたいなモノだったのかもしれない。俺と接する事で、ネロの前でも少しだけ、というか、大っぴらに素の自分を出せるようになったんだろうな。


 で、俺を揶揄うと、ネロが構ってくれるから嬉しい。俺とくっついていると、ネロの優しい顔が見られて嬉しい。だから、俺を可愛がりつつも色々してきたのかもしれない。


 まぁ、ネロは抜きにして、レオさん自身が俺を揶揄うのを楽しんでいる感はある。それに、抱っこするのやキスやハグ、それにチャラい言動の数々は、明らかにレオさん自身の性質によるもの、かな。要するに、趣味と実益が合わさって最高状態だったのかもしれない。


「俺と二人でも楽しい?」


 レオさんについて推察をしていたら、淋しそうな声が聞こえた。イキナリの質問に驚いちゃったけど、この台詞は聞き覚えがある。多少のニュアンスは違うけど、ネロも同じ事を聞いてきた記憶しかない。ネロとレオさんはどれだけシンクロしているんだろ。


「いや、琥珀はいつもネロの話題を出すから、少し疑問に思った。ネロがいなくて、俺と二人でも楽しめてるのかなって。俺と二人でも居心地が悪くないかなって。」


 無言で考え込んでいたら、レオさんが慌てた様子で言葉を継ぎ足してきた。ネロがいる時のレオさんは楽しいし、二人の幸せのお裾分けが嬉しくて居心地がいい。そして、ネロがいない時のレオさんも不思議な安心感があって居心地がいい。


 そうじゃなきゃ、家出の時にレオさんの家に向かわなかったと思う。あの時は、ネロの恋人って知らなかったけど、自然と足が向かっちゃったんだもん。レオさんはネロと同じくらい心から安心できる気がする。


 ネロと同じくらい心地良くて、ネロとちょっと違う感じで甘えられて、ネロとは全然違うけど安心できる。ある意味、ネロと同じくらい、親みたいに安心できる存在がレオさんなんだよ。心からそう思うんだけど、これをそのまま言ったらダメな気がする。


 だって、レオさんは保護者は嫌だって意思表示をしていたんだもん。だから、変な言い方をしたらまた気まずくなっちゃうかもしれない。レオさんが保護者を拒否してる以上、線引きは重要になってくる。


 俺のせいでネロとレオさんの関係を壊す事だけは避けたいからね。ただ、レオさんはネロ以上に親みたいになってる時があるんだよな。叱ってくれる時とか、言い聞かせてくれる時。それに、でれでれなパパさんモードや心配症のパパさんモード。


 悩んでいても仕方がない。本心を伝えるのが一番だ。ネロとレオさんの仲は簡単には壊れないって分かってるし、信じなきゃ。ブランケットの中で、レオさんの大きな手を握り締めてみる。


「えっとね。レオさんと一緒は楽しい。レオさんとのお話は楽しいし、色々と新しい体験ができる気がする。ネロとは違う意味で安心できて落ち着く。」


 優しく握り返してくれる熱い手を指で撫でながら、レオさんと目を合わせて、おずおずと答えてみる。レオさんと一緒に過ごす時間は、ネロと過ごす時間とは別の意味で楽しいって思い。伝わったかな。


「そっか、良かった。でも、ネロと二人だともっと楽しい?」


 ほっと息を吐き出したレオさんだけど、次なる質問を恐る恐るって感じで口に出してきた。どんだけネロと張り合ってるんだよって思ったら、クスッと笑っちゃった。笑いを溢しちゃったからか、レオさんが身を乗り出して覗き込み、手をきゅっと握ってくる。


 レオさんは不安そうに眉を寄せて、瞳も不安そうに揺らいでいる。俺が不安だったのと同じように、レオさんも不安だったんだ。そうだよね、恋人と子供っていう立場で、お互いの接点であるネロがいない状態だし。不安で当然だ。


 変な意味で笑ったんじゃないよって意味で、ニコっとしてみる。レオさんの表情が和らいで、眉も元に戻ってくれた。でもね、レオさんの首にある赤い点が目に入って顔を逸らしてしまった。


「まぁ、そうだよね。ネロと二人の方がいいか。」


「違う。またネロと張り合ってるって思ったら可愛いなって思って笑っちゃったの。あとは、あの、首のトコが見えて、あの、気まずくなっちゃった。」


 悲しそうに呟く声が聞こえて、慌ててレオさんに視線を戻す。顔を逸らしたせいで誤解を与えちゃった事が分かったから、早口で説明しちゃった。笑ったのは微笑ましかったからで、目を逸らしたのは気まずかったから。ただそれだけなんです。


「後ね、ネロと二人だともっと楽しいなんて考えてない。今回は、考えを読むのが失敗しちゃったみたいだね。レオさんだと楽しいし、ネロだと落ち着く。三人だと嬉しくて幸せです。以上。」


 続けて、レオさんの質問にもちゃんと答えておく。レオさんはある程度の思考を読んでくると思っていたけど、今回は駄目だったらしい。レオさんはうんうん、って頷きながら聞いていて、最後は嬉しそうな笑顔になってくれた。


「首?」


 話し終わった途端に、レオさんが不思議そうに聞き返してきた。一瞬恍けているのかなって思ったけど、自らに当て嵌めて理解した。そうだよね、自分では見えないから忘れちゃうよね。分かります。


 片手をレオさんの温かい手から引き抜いて、レオさんの首に目を向けて、首のキスマークを撫でてみる。優しく撫でたのがくすぐったかったのか、レオさんがほうっと息を漏らした。


 首から視線をレオさんに移して、分かった?って首を傾げてみる。緑の瞳は少しだけ熱を持ってるようにも見える。ふいっと目を逸らしたレオさんが頷いてくれた。レオさん的にも、首の状況を思い出して気まずくなったらしい。


「成る程、じゃぁ、着替えてくる。寒いかもだけどちょっとだけ待ってて。」


 レオさんの視線が戻ってきた。と思ったら、超テンションが上っている、気がする。イキナリどうしたの。レオさんは着替える宣言をしながら、俺の髪にキスをしてきた。


 どうぞ、着替えてきて下さいと、心の中で呟きながら頷いてみる。綺麗な緑の猫目をキラッキラに輝かせて、レオさんが俺の手をきゅっと握ってきた。マジで、何でこんな反応になってるの。


 レオさんは俺の手を握って、キラキラの目で俺を捉えたままで動き出す気配がない。少しの間見つめ合っていたけど、着替えに行くんじゃないのか、って首を傾げちゃう。


「あ、一緒に寝室に行こうか。こんな寒いトコに琥珀を残していけないし。二人で仲良く暖まった後で、ゆっくり着替えようかな。それもいい、そうしよう。色んな事をしようね。大丈夫、満足させてあげるから。抱っこの移動でいい?」


 レオさんの目のキラキラが光を増していく。眩しくて目を細めると、レオさんが優しく言い聞かせる口調で、俺も一緒にとか言い出した。まぁ、待て。卑猥だから。いや、違うな。言い方が卑猥なんだよ。二人で仲良く暖まるって表現がヤバさしかない。


 色んな事って言葉がレオさんの口から出るだけで、ヤバくなるのはなんでなの。ヤバくはないけど、レオさんが言うと全部ヤバく聞こえちゃうんだよ。満足させるってなんだよ。普通に、温まるまでベッドでブランケットを被ってゴロゴロするって言えばいいじゃん。


 抱っこでの移動でいいかを聞いてくるのもヤバい。もうね、レオさんの言葉全てが卑猥にしか聞こえなくなってきた。極論だけど、レオさん自身が卑猥な猥褻物に思えてくる。そりゃ、猥褻物なら、首にキスマークくらい付けてますよね。


「その目付き、そして、罵る言葉。ヤバいな。誘ってんの?」


「誘ってないし、心の声と会話しないで。」


 楽しそうな笑顔で揶揄ってくるレオさんを睨んで、言い返しちゃう。レオさんは俺の肩をギュッと抱き寄せて、髪にキスをしてから立ち上がった。そして、丁寧にブランケットを巻きつけてくれて、また髪にキスをしてくれる。


 ブランケットの隙間にレオさんが手を差し入れてきた。何をするんだと思っていたら、俺の手を引き出した上でカップを握らせてきた。どうやら、レオさんがいない間の湯たんぽ代わりらしい。


 ぼんやりとなすがままになっていたら、レオさんは口元を緩めて、また髪にキスをしてくれる。そして、俺の髪に優しく指を滑らせて整えてくれた後で、漸く寝室に移動していった。


 優しい行動とチャラい仕草が同席していた。レオさんがマジで遊んでる系の人ってのが確定した。いや、確定以前から知ってたんだよ。でも、この流れるような自然なチャラさはヤバいでしょ。


 ってか、レオさんのチャラさ度が上ってる気がするんだけど。確実に、前よりチャラくなってる。まさか、RUランクアップでもしたのだろうか。そもそも、チャラさにランクなんてあるのだろうか。


(チャラさという能力は御座いません。従って、チャラさにランクは御座いません。)


 スツィさんは冗談にも答えてくれる優しい子だね。超いい子。そうだよね、レオさんにしか存在しない特殊技能な気がするから、一般的にはないよね。あ、あれじゃない?レオさんの奥底に存在している、隠されし技能的なヤツ。


(はぁ。)


 スツィ、ノリが悪いじゃん。そんな呆れた口調は悲しくなっちゃう。最近お話してないから拗ねちゃったのかな?でもね、レオさんはヤバいと思わない?あのチャラさはヤバいよね。だって、普通に髪にキスをしてきたよ。髪にキスって普通なのかな。絶対ヤバいと思うんだけど。


(ヤバいか、ヤバくないかで言えば、ヤバいです。)


 あ、やっぱりそうだよね。ってか、聞いた事がある言い回しなのに、超引いてるじゃん。スツィもドン引きさせるレオさんは流石です。ある意味ネロと同じくらい凄い。凄さの方向性が真逆だけど、超スゴイ。


 立ち上がって以降のレオさんの行動は、ネロ並みに流れるような動作だった気がする。髪にキスというチャラい行動がなければ、ほぼネロだった。ネロと長時間一緒に過ごす間に、雑なレオさんが丁寧なレオさんに変わっていったという事なのだろうか。


 ネロは凄いな。一緒にいるだけでレオさんを変える力があるとか。相当なレアスキルな可能性が高い。俺には効果がないって事は、レオさん限定で変える能力。きっと世界に一つだけのハイパーレアスキルなんだよ。


 ってか、今気が付いた。二人が先回りして俺の事をやっちゃう環境はマズい。ネロだけの時より、更に何もできなくなりそうで怖い。ネロが面倒見がいいのは仕方ないにしても、レオさんも何気に面倒見がいいんだよ。


 なんでも受け入れてくれるネロと違って、レオさんはしっかり注意をしてくれる。ただ、ネロと同じでガッツリ甘やかしてくるんだもん。そして、レオさんも俺を子ども扱いしているから、結局のトコロ色々と先回りでやってくれる感がある。


 でも、レオさんは保護者になる事を嫌がってるから甘えちゃダメ。レオさんと一緒の時はちゃんと自立して自分でやらなきゃ。気合いを入れていたら、急にブランケットが解かれてしまった。自分の体温でも温まっていたらしく、ひやっとした寒さを感じる。


 レオさんは俺の手からカップを抜き取って、一口飲んだ後でローテーブルに戻してくれた。そして、俺の髪にキスをしながら隣に座ってくる。自然に俺の肩を抱き寄せながら、髪にキスをして、ブランケットで俺と自分を包んで形を整えてくれた。

 

 ふわっと温かいブランケットと、熱い程のレオさんの体温で心地いい空間にはなった気がする。ぬくぬくで頬が緩んじゃうと、レオさんはナチュラルに髪にキスをしてくれて、ニコっとしてくれた。

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