表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
201/580

201 こうなるのって何の事?

 少しして顔を上げると、レオさんの視線はまだ俺に固定されていた。お茶を飲みながらじっと見つめてくる視線が痛い。目が合うと、レオさんはニコっとしてくれた。爽やか系の中に、変な迫力を秘めた笑顔だ。レオさんはホント、器用な笑い方をするよね。


「さっさと話せ。ネロが仕事中に避けそこなって怪我をしてもいいのか?お前が話さないと、気になり過ぎて不安になるかもしれないだろ。で、普通なら喰らわない攻撃を喰らっちゃうかもだぞ?」


 レオさんの笑顔を分析していたら、レオさんがいつもの強制する言葉回しで説明を求めてきた。そこでネロを引き合いに出すのは酷い。しかも、怪我するかもって言われたら言うしかないじゃん。


 ってか、ネロもそこで不安な顔をするとかズルい。連携攻撃を仕掛けられちゃった気分だよ。でも、二人がどうしても聞きたいって意思は伝わった。


「う、怒らない?」


 一応ね、怒らないかの確認をちゃんと取っておこうかな。レオさんはこんな事じゃ怒らないって知ってるよ。でも、ネロの前で色々話しちゃう事になるからね。唐突な確認行動に驚いたのか、レオさんは戸惑った様子でこくっと頷いてくれた。


「ネロも嫉妬しない?」


「しない。」


 ついでに、ネロにも確認を取っちゃうと、思案する事もなく、ネロはあっさりと了承してくれた。ネロには寝取られ系の嗜好があるのは知ってるよ。でもね、ネロの心理を完全に理解できてない以上、どこまでの線引きがなされてるのかが分からない。レオさん関係の話をしていて、むっとしちゃうかもしれないもん。


「レオさんが遊んでる女の子達が食事場に何人かいたっぽかったのね。」


 二人の同意が取れたところでゆっくりと話し始める。言葉を区切って、ちらっとネロを見てみた。ネロは食事を続けながら頷いてくれる。ネロの顔には嫉妬の感情は全く見当たらず、淡々と聞いているように見える。レオさんにも目を向けてみると、レオさんが先を促すように首を傾げたのが見えた。


「その子達はレオさんに対して凄く可愛く笑いかけてた。大人っぽい綺麗な子達なのに、可愛いなって思った。で、レオさんに普通にモテるじゃんって言ってみた。そしたら、ネロが来たらその子達の反応が変わるって返された。」


 言葉を止めて、ここまでの内容に間違いはないよねって確認の為にレオさんに目を向けてみる。レオさんはコクっと頷いてくれて、ネロに視線を飛ばしている。レオさんの視線を追ってネロに目を向けると、ネロも頷いてくれた。二人とも淡々と聞いてるし、当たり前の事実として受け入れてるっぽくみえる。


「見てたら本当に反応が変わってた。ただ、ネロに対しては憧れに見えた。ネロがモテないとかじゃなくて、普通にモテると思うよ。でも、全く知らない赤の他人に恋愛感情はないでしょ。レオさんには、えっと。」


 ゆっくりと話していたけど、レオさんの交友関係に差し掛かって言い淀んでしまう。ネロは何も問題ないって感じで頷いて先を促してきた。凄く淡々としているんだけど、平気なのかな。恋人の交友関係だよ。そんなに平常心で聞けるものなのかな。


「あの子達にとって、レオさんは知り合いだから、ってか、えっと、あの。色々してるというか、あの。アレだから、女の子達がレオさんに対して恋愛感情を抱いてても不思議じゃないかなって。」


 ネロに促される形で、レオさんの少しだけ派手な交友関係を話してみる。話している間にちょっと恥ずかしいのと、話しても平気なのかなって感情から俯いちゃった。二人は一言も発しないから、多分静かに聞いてくれているんだと思う。


「レオさんは黙っていれば、普通にカッコいいし、優しいし、話も上手い。えっと、色々と手慣れてる感じもするし、安心感も少しはある。エロくて変態なのが好きな子もいると思うし。」


 俯いてもじもじとレオさんの交友関係に付随する説明を続けてみた。ちらっとレオさんを見ると、何か言いたげな顔をしている。でも、口を挟む気はなさそうだ。ネロは苦笑してた。嫉妬の感情を抱くまでもなく、レオさんにとっては日常茶飯事だから気にしないって事なのかな。


「昼にレオさんが言ってた。同じように可愛く笑いかけてくれる女の子を見て、ネロとは勝負にならないって。で、さっきの光景を見て色々と理解できた。」


 レオさんの交友関係パートで、ネロの嫉妬が発動しなくて良かった。ふーっと息を吐き出して、ネロ、レオさんと順番に目を合わせながら話を続ける。ネロは優しく微笑んで頷いてくれた。レオさんはやっぱり何か言いたげだけど、黙って頷いてくれた。


「レオさんはネロの心は自分にあるって分かってる。ネロがあの子達を知らないのも分かってるんだよ。でもね。」


 言葉を止めてネロを見つめちゃうと、ネロは食事の手を止めて真剣な顔で聞いてくれていた。レオさんに目を向けると、レオさんは興味深そうな顔で眺めているのが見える。


「それなのに、自分が遊んでる子達をネロに盗られた気分になっちゃって、尚且つ、あの子達にネロを盗られちゃうかもって気分になっちゃってる。で、レオさんの中では、盗られるってトコロにちょっと嫉妬するっていう、複雑な心理状態になっちゃってるって分かった。」


 残りを一息に話し切って言葉を止めて一息吐く。レオさんの内部ではこんな風に複雑な心理が働いているんです、って説明ができたから、あともうちょっとで説明が終わる。二人は静かに聞いているから、異論はないっぽいね。


「ネロもレオさんも寝取られ系の特殊な感じでしょ?だから、思ったの。ネロは普通に倒錯してるんだけど、レオさんはもっと複雑に拗れた感じで倒錯してるんだ、って。あとは、二人は奥底では似てるんだ、って。以上、ご清聴ありがとうございました。」


 ぺこりと頭を下げて、二人を順番に見つめてみる。一息には話し切れない複雑な内容だったから、長々と話し続けちゃった。視線の先では、二人が食事を中断して聞き入っていたらしい姿が見える。ってか、止まってる。うん、確実に止まってる。


 だって、レオさんは野菜炒めを口に入れる直前の、口を開けた状態で止まってるし。ネロもフォークを具に刺した状態で止まってるもん。レオさんは言い当てられて止まっちゃったのかな。ネロはレオさんの心理を聞いて驚いちゃったのかな。


「あ、でも、レオさんが言ってたよ?一番大切な子の嬉しそうな顔が見たいって。ネロは外では冷めた感じだから、嬉しそうな顔はしてくれないなって思って。ホントにそうだなって共感しちゃった。レオさんは言葉だけはカッコいいって思っちゃった。行動はまあ、アレだけど、時々ヤバいから困っちゃうよね。」


 にっこり笑顔で追加の情報も付け加えてみたら、止まっていた二人の時間が動き出してくれた。俺から視線を外して、二人はゆっくりと視線を交わらせていく。


 見つめ合って頬も目元も緩める二人の間には、穏やかな空気が取り巻いてる。レオさんの気持ちが伝わったみたいで、一件落着。って事で、お食事に戻りましょう。残っている魚介の餡掛けをゆっくり味わって、ご馳走様。


 食べ終わってお茶を飲んでいたら、レオさんがお皿にフルーツを取り分けて、盛り付けてくれた。レオさんの手によるものとは思えない程、綺麗な盛り付けで、またしても感動をしちゃう。嬉しくて目を輝かせちゃった自信がある。


 だって、こんな繊細で美しい盛り付けとか、ヤバいよね。レオさんはニコっとしてくれて、フルーツの大きなボウルを自分の前に置いて豪快に食べ始めた。とても目の前の繊細なアートのような盛り付けをしてくれた人には見えないトコロがギャップ、なのだろうか。


「ネロには分けてあげないの?」


「今日のは甘いから、ネロは無理。」


 レオさんがネロの事は全く気にしてない感じがして、思わず聞いてみちゃった。レオさんは楽しそうに口元を緩めて、ネロと視線を絡めながら答えてくれる。恋人だから分かるんですって雰囲気だ。


「ネロは無くて平気?」


「問題無い。見ているだけで楽しめる。」


 レオさんと視線を交わしているネロにも聞いてみたけど、レオさんの言う通りだった。恋人同士っていいね。お互いの想いを言葉に出さなくても受け取ってる感があるんだもん。


 二人の幸せが伝わってきて、ホンワカ温かい気持ちになる。ネロはお茶を飲みながらぼんやりとレオさんを眺めている。そんなネロを眺めながらゆっくりフルーツを楽しむ。


「今日は運動をしなかったから、ユリアさんのデザートはなしか。」


 フルーツを食べながら、ふと思い出して愚痴ってしまう。今日はこのフルーツでデザートは終了か。そう考えると味わってゆっくり食べようって思っちゃう。クスッと笑ったのが重なって聞こえて、顔を上げたら、ネロもレオさんも優しくて穏やかな笑顔で俺を見ていた。


「散歩の時に受け取れ。」


「マジで。注文してくれてたの?」


 ネロが優しく目を細めてサラッと言った言葉を理解して、嬉しくて目を輝かせちゃう。今日も夜のスイーツがあるって事ですよね。嬉しさを隠さずに聞き返してみると、ネロは優しく微笑んで頷いてくれた。ネロはマジで超優しい。嬉し過ぎる。


「ありがと、ネロ。」


 ニコニコでお礼を伝えたら、ネロは嬉しそうに目を細めてくれた。レオさんは穏やかな笑顔で俺達の遣り取りを見守っていてくれている。こんな雰囲気のレオさんは大人っぽく見えちゃう。


 ネロと並ぶと大人な恋人って感じで超お似合いになっちゃうんだよね。まぁ、可愛いレオさんもお似合いだし、変なレオさんもお似合いなんだけどね。一押しは大人なレオさん、かな。イヤ、どれも捨て難い気がしてくる。


 二人を眺めながらフルーツを味わった後は、ネロがテキパキと片付けていくのを椅子に座って眺める。レオさんもネロをぼんやりと眺めている。ピリピリとした緊張感から始まった夕食だけど、和やかになってくれて良かった。


 片付けを終えたネロがソファに移動するタイミングで、俺も移動する事にした。レオさんもカップを運んでくれて、夕食後のまったりタイムの開始だ。時間制限のあるまったりだから、思う存分まったりしたい。


 まったりを開始するにあたって、一番重要なのは残り時間の確認だとおもうんだよ。ソファに腰を下ろしたネロにくっつく勢いで隣に座ってネロを見つめちゃう。


「まだ時間は大丈夫?」


「今日はこの家から直接出る。時間はまだある。」


 ネロが小首を傾げてくれたから、素直に聞いてみる。ネロは嬉しそうに目を細めて答えながら、片腕を俺の後ろの背もたれの上に伸ばした。いつもは俺の肩に置くのに、何でそこなのって不満から、ネロを見つめちゃう。


 ネロがニコっと笑顔を返してくれた。その笑顔に誘われてネロの腕に収まる形で、ネロに寄り掛かっちゃう。ネロは当然の如く俺の肩に腕を回してきた。どうやら、俺に自分から来て欲しかったらしい。甘えさせてくれるって感じでこれもいいなって思っちゃった。


「良かった。夕食後のまったりっていいよね。落ち着く。」


「そうだな。」


 時間の確認が済んで、ほっと一息吐いて呟いちゃうと、低く穏やかなネロの声が相槌を打ってくれる。ネロはリラックスした感じで足を組み、俺の髪をゆったりと撫で始めた。


 レオさんはネロの足元の床に座って、ソファとネロの脚、両方に凭れ掛かかる形で座っている。斜めの角度で、俺を見上げてニコニコしてるのがちょっと可愛い。ネロに甘えられるのが嬉しくて上機嫌っぽい。


「琥珀?レオにしたように、抱き締めて送り出してくれるか?」


 ネロに凭れ掛かって緑の猫目を眺めながら、まったりとしていたら、低く静かな声が唐突に要望を伝えてきた。ちょっとびっくりして、体を起こして、ネロを見つめちゃう。ネロは少し困った感じで微笑んでいて、俺の視線を受けて可愛く小首を傾げてきた。


 今、俺に頼んでた気がするんだけど、気のせい、じゃないよね。足元にレオさんがいる状況でなんで俺に頼んできたんだろう。ってか、レオさんがいるんだから、素直にレオさんにして貰えばいいじゃん。


「なんで俺なの。折角レオさんが送り出してくれるんだから、レオさんにして貰った方がよくない?」


「レオは暑苦しい。」


 レオさんの前でそんな事を言い出しちゃうとか、なんでなの。怒ってるんです風に少し眉を寄せて、軽く拒否をしちゃった。ネロはちらっとレオさんを見たけど、ふいっと顔を逸らしてしまった。そして、ぼそっと呟いている。あ、成る程ね。理解しました。


 要するに、照れてツンツンしちゃってるネロなんですよね。このネロの不意打ちの可愛さはヤバい。こんなネロは可愛いよね。ね、レオさん。同意を求めて、レオさんに顔を向けると、レオさんはニコニコ笑顔で俺を見ていた。なんでネロを見てあげないの。レオさんはホント素直じゃない。


 まぁ、レオさんは上機嫌が継続中だから、取り敢えず放置しておこう。ん~、こんな可愛いネロのリクエストには答えてあげたいんだよ。でもね、レオさんの前でするのは恥ずかしい気がしてきちゃった。


 恋人レオさんに見られながらギュってするんでしょ。流石にヤバくないかな。いや、親子の触れ合いだしヤバくないし、恥ずかしくない。ん~、でも、恥ずかしい。


「じゃあ、恥ずかしいから、出かける時にね。」


 そっぽを向いて返事をすると、ネロはクスっと笑って、ギュッと肩を抱き寄せてくれた。そして、腕を緩めた後は、髪を撫でるのを再開して、ゆったりと俺の髪に指を滑らせてくれる。ネロの指はホントに気持ちいい。まったりが加速していく感覚がヤバい。


 ネロに髪を撫でられながら、ぼんやりと緑の猫目を眺めていたら、レオさんがネロに目を向けた。レオさんにつられて俺もネロを見ちゃう。


 ネロはちらっと俺と目を合わせてくれたけど、レオさんを見下ろして視線を絡ませ始めた。さっきまでネロは照れていたのに、急に見つめ合いに突入しちゃったんですけど。


「今日だけで何回ドキドキしたんだろうな。なぁ、ネロ。乱高下が激し過ぎると思わないか?」


「そうだな。今日は凄かった。」


 二人の視線の絡ませ具合にドキドキしていたら、レオさんが溜息、というか吐息交じりにネロと会話を始めた。そして、ネロも幸せそうな吐息に乗せて同意してる。


 急に事態が急変した感がある。超甘い空気が取り巻いてるんですけど。という事は、俺はここにいない方がいい筈。速やかに移動を開始するべきだと思うんだ。


 ソロソロっと体を離そうとしたら、肩に回されたネロの腕に力が込められて、引き寄せられちゃった。ネロは逃がしてくれないっぽい。要するに、ここにいろって事ですね。了解。


 逃げる事ができないなら、俺も会話に参加してみようかな。そうすれば、気まずさからは逃れる筈。って事で、俺にも分かってますよって、トコロを見せてあげようかな。


「ドキドキか。レオさんは久しぶりの仕事で、ネロは今からお仕事だもん。そうだよね、離れてる時間が淋しくて切ないってヤツだよね。そして、時間を空けて顔を合わせるとドキドキがヤバい、的な感じだよね。ラブラブな二人のその感じは凄くいいと思います。」


 二人の会話に加わる風を装って、二人の会話から推測できた結論を話してみる。ネロは俺の髪を優しく撫でながら聞いてくれて、レオさんは目をキラキラさせながら聞いてくれている。


「そうだな。」


「確かにそれもある。」


 静かに同意してくれたネロをちらっと見たレオさんも、同じく同意してくれた。ネロもレオさんも、会えない時間をそれなりに楽しんでるって事なのか。俺だったら、淋しくて無理ってなっちゃいそうな気もする。大人な恋って、凄いな。


 ネロに寄り掛かって、レオさんと目を合わせて、まったりと時間がながれていく。ふと、寄り掛かったままで、ネロを見上げてみたら、金色の瞳が見つめ返してくれた。優しい眼差しで傍にネロがいるって、安心できる。


 もう直ぐネロはお出掛けか。お出掛けというかお仕事、魔物討伐のお仕事だ。そうだった、魔物の討伐なんだ。魔物と戦うって事を頭で理解した途端に、ネロの胸に刻まれた深い傷痕を思い出しちゃった。そして、急に不安が押し寄せてきちゃう。


 ネロが強いのは知ってる。でも、討伐対象がもっと強かったら。もし怪我をして帰ってこれなくなったら。この前みたいな重症で動けなくなっちゃったら。知らない所で迷子になっちゃったら。不安がいっぱいで超怖くなってきちゃった。


「お仕事が危険なのは知ってるけど、怪我しないように気を付けてね。あと、無理はしないで。ネロが強いのは分かってるけど、知らないトコで怪我しそうで怖い。」


 不安を心配に置き換えて、ネロに伝えてみた。ネロは優しく目を細めて頷いて聞いてくれる。話し終わった途端に、レオさんが俺の手を握ってくれた。


「ネロなら心配ないって。大人しく俺と家でまったりしてような。まったりしてぐっすり寝て、起きたらネロがいる。何も問題は起きない。」


 優しく包み込んでくれる熱い手に目を向けると、優しく言い聞かせてくれるレオさんの声が耳に届いた。レオさんの声も口調も、そして言葉も凄く優しい。素直にコクっと頷いて、気が付いちゃった。


 俺が不安になっちゃったのと同じで、レオさんも不安になっちゃった。だから、俺の気持ちに共感してくれた。要するに、レオさんの言葉は俺に向けたモノじゃない、自分自身に言い聞かせている言葉だ。


「こうなるのが分かってたから、ネロがいない間、レオさんは俺の傍にいてくれることになったんだ。ネロの予言、っていうか、勘は凄いね。ん~、勘じゃない。レオさんを想う気持ちだ。ネロは凄いね。」


 ネロが先を読む力は凄いなって思いから、思わず感想を漏らしちゃった。途中で、先を読む力じゃなくて、レオさんを想う気持ちだって気が付いて、心が温かくなっちゃう。


「こうなるのって何の事?」


 ネロは一瞬だけ戸惑った感じがしたけど、直ぐに優しく微笑んでくれた。でも、レオさんはキョトンとした様子で聞き返してくる。どうやら、レオさんはネロの想いを分かってなかったらしい。


「レオさんの今の状況。要するに、ネロがいなくて不安で心配で怖くなっちゃう。って事ですよ。ネロはレオさんが心配だったから、こんな状況になるのを見越して、俺と一緒に過ごすようにしてくれたんだよ。流石ネロだね。」


 キョトンとしたレオさんの顔がちょっと可愛く見えて、頭を撫でちゃう。そして、ネロの想いを優しく言い聞かせてあげると、レオさんがびっくりした顔になっちゃった。


 目が真ん丸で耳がピンと立ってメッチャ可愛い顔になっている。ネロに可愛いね、って思いを込めて、ニコってしてみたら、ネロはちらっとレオさんを見た後で、ニコっと返してくれた。同意してくれたっぽい。以心伝心でちょっと嬉しい。


「え、あ~。うん。そう、そうだね。ネロの予言はすげぇな。」


「そうだな。」


 ネロがここまでレオさんを心配してるって事を、レオさんは知らなかったらしい。超動揺しているのが伝わってくる。めっちゃ棒読みなんだけど、嬉し過ぎて感情が追いつかないのかもしれない。対するネロはメッチャ静か。淡々としていて、適当にすら感じる。


 視線を絡ませている二人の間には少しだけ戸惑いが見える。でもね、俺には分かる。ネロはツンツンしていても、本心はレオさんが心配なんだよね。照れてツンツンしてるだけで、愛しいって思いが隠しきれてないもん。こんなに愛されて、レオさんは幸せですね。


 まったりと過ごしていたら、時間は直ぐ過ぎちゃうらしい。俺の頭から手を離して、ネロが立ち上がってしまった。もうネロがいなくなっちゃうって分かって、しょんぼりしちゃう。


「二人はどこで寝る予定なんだ?」


「どこって、俺はソファで琥珀は寝室だろ?」


「レオさんが寝室に行けばいいじゃん。俺はソファでいい。」


 立ち上がろうとする俺を手で制して、ネロが質問をしてきた。どこで寝るって、決まってるじゃん。口を開こうとしたら、その前にレオさんが答えちゃった。でもね、その返答には意義があるから。レオさんがいるのに寝室では寝られないんですよ。むっとしながら俺も自分の意見を伝えてみた。


「レオが寝室も、琥珀が長椅子も、駄目だ。」


「じゃあ、どうしよ。」


 ネロが俺とレオさんの意見を淡々と却下してきた。ネロの表情を見る限りでは、俺達の返答が予測できてたって感じがする。でもね、両方駄目っていうなら、どうすればいいの。困惑してレオさんに目を向けると、レオさんも困惑した様子でネロを見上げている。


「レオ、テーブルと椅子を動かせ。」


「へぃ。」


 ネロがレオさんに指示を出して、レオさんは気の抜けた返事と共に移動を始めた。レオさんが家具を移動している間、ネロは屈んで俺の髪を撫でてくれていたんだけど、俺の事が心配で堪らないって顔をしている。


 テーブルと椅子を端に寄せてできた空間に向かって、ネロが移動する事もなくその場で詠唱を始めた。でもね、ちらっとその空間に目を向けた後は、心配顔のままで俺を見続けている。そんなに心配しなくても平気なのに。ってか、レオさんを心配してあげようよ。


 ソファに座ってぼんやりとネロを眺めていたら、詠唱の旋律が変わった。顔を部屋の中に向けると、風のベッドに水が充填されていくのが見える。寝心地が最高な風と水のベッドだ。二人の意見の折衷案として、ここで寝ろって事ですね。了解です。


「魔力を余り使いたくない。温度調節はしないから、低温のままになる。琥珀、寒ければブランケットを体に巻き付けて、体の下にも上にも重ねて使え。予備のブランケットは寝室にある。足りなければ、レオに言って族長の所から取り寄せろ。後、服を着こんで寝るといい。必要であれば俺の服を着ろ、温度をある程度は遮断する。」


「心配しなくても適当に寝るから大丈夫。」


 ネロが俺の前でしゃがみ込んで、凄い勢いで心配の言葉を掛けてきた。マジで心配症の親モード全開だし。レオさんに見られていて恥ずかしいし。もういいです、何とかするから。ネロはまだ言い足りなそうだけど、適当に答えてニコってしてみた。


「そうか。レオ、琥珀を頼む。」


「分かった。」


 適当にって言葉で少しだけ眉を反応させたネロだったけど、納得はしてくれたっぽい。ってか、レオさんに託されてしまった。レオさんも普通に了承してるし。超恥ずかしいんですけど。


 俺はネロの中では小さな子供らしい。お家で一人でお留守番もできない子供だと思われてるっぽい。まぁ、ネロがいない時にソファで寝落ちしちゃったし。家出とかしちゃったし。仕方ないと言えば仕方ないのか。


 お留守番をできない子供と、淋しい思いをさせてる恋人。二人で過ごしたらいいじゃん的な発想だったのかも。しかも、恋人と子供の交流も期待できる。流石ネロ。一つの行動で沢山得るものがあった。


 何はともあれ、もう時間だよね。ソファから立ち上がって、しゃがみ込んでいるネロに手を差し出す。ネロが手を握ってくれたから、引っ張って立たせてあげた。ネロは俺を見下ろして、心配そうに眉を寄せたままで動こうとしない。


 しょうがないから、移動する気配のないネロの手を引いて入り口に連れていく。そして、ネロが靴を履く間、ネロをぼんやりと眺めちゃった。もう直ぐネロが行っちゃう。お見送りの時間が近付いてきちゃう。少しずつ俯いていくのを自覚しながら、ネロの支度が整うのを待つ。


「琥珀?」


 優しい声と共に、ネロに覗き込まれる。背伸びして腕を伸ばすとネロが屈んでくれた。首に腕を回して抱き着くと、ネロがギュッと抱き返してくれた。ネロの頬にキスをして、少し腕を緩める。


「気を付けて行ってきてね。いってらっしゃい。」


「すぐ戻る。心配するな。」


 ネロと目を合わせてお見送りの言葉を伝えたら、ネロは目を細めて優しく言葉を返してくれた。そして、頬にキスをしてくれて、もう一度ギュッと抱き締めてくれる。


 体を離して、俺の頬を優しく撫でてから、ネロはスッと出て行ってしまった。ネロはいつもあっという間にいなくなっちゃう。ネロに置いてけぼりにされた感覚に陥って、ネロが揺らした入り口をぼんやりと眺めちゃった。


 不意に後ろからギュッと抱き締められてハッとなった。熱い体温と熱い腕、髪にキスをしてくれるのはレオさんですよね。ってか、この家にはレオさんしかいないから、レオさんで確定だ。身動ぎするとレオさんが腕を少しだけ緩めてくれた。


 レオさんの腕の中でクルっと後ろに向き直って、レオさんを見上げる。ちょっとだけ淋しそうな目をしているレオさんが見えて、理解できた。レオさんの背中に腕を回すと、レオさんは抱き締めた腕に少しだけ力を込めてくる。


「レオさん、急にどうしたの。淋しくなっちゃった?ネロにギュってしておけば良かったね。行ってらっしゃいのハグ、ネロもして欲しかったと思うな。」


「そうだな。できなかったから、今こうしてる。」


 レオさんに抱き着きながら、レオさんを慰めつつ助言もしてみたら、レオさんは静かな声で答えてくれた。レオさんができなかったのを悔いてるのと同じくらい、ネロもこのレオさんの腕の温かさを感じたかったと思う。


 俺がお見送りをしちゃったから、レオさんは遠慮してくれたんだよね。ん~、違うな。遠慮じゃない、レオさんの事だからきっと素直になれなかったんだ。


「時々、超可愛くなるのに、何でこういう時は行動できないの。」


 レオさんの体に回した腕を離すと、レオさんも腕を開放してくれた。レオさんを見上げて、溜息交じりに文句を言っちゃうと、レオさんは楽しそうに目を細めて、屈んで目を合わせてくる。なんでそんな態度なんだ、と思っていたら、レオさんが頬にキスをして離れていった。


 唐突にキスをされてびっくりしちゃった。いや、レオさんの帰宅時には嫌という程キスをされたよ。でも、あれはテンションが上ってたからだよね。なんでイキナリしてきたんだ。


 ちょっと考えて分かっちゃった。レオさんがキスをしたのは、ネロがキスをしたのと同じ側の頬。要するに、間接キス的な考えだ。理解はできたけど、人の頬を間接キスに使うんじゃないよって思っちゃう。


 ってかね、レオさんは基本的にスキンシップが多いし、行動がチャラい。急に後ろから抱き締めてきたし、髪にキスをするのもサラッとしてきた。手慣れてるなんてモノじゃなく、もう、日常って感じが満載だ。


 それなのに、ネロに相対するとなんであんなに奥手になっちゃうんだろう。レオさんはホント素直じゃないなって思う。ネロがツンツンした態度だからレオさんも素直になれないのかな。


 でも、時々ネロの頭を撫でたり、ちょっと抱き着いたりってのが、頑張ってる感じに見えちゃうんだよね。バキバキの筋肉のデカくて目付きが悪いレオさんなのに、メッチャ可愛く見える。恋の力でレオさんが可愛く見えるんだろうな。あと、猫耳と、猫目と、尻尾のおかげもあるかも。寧ろ、そのおかげかな。


「じゃぁ、さくっと食器を返しに行っちゃう?デザートも受け取れば、その後はまったりできるよ?」


「そうだな、そうしよう。」


 レオさんを見上げて色々考えていたら、レオさんがまた腕の中に閉じ込めてきた。レオさんのお腹に手を突っ張って拒否しながら、お散歩に誘ってみると、レオさんはあっさりと腕を離して頷いてくれた。


 バスケットを運んできてさっさと靴を履き始めるレオさんの横で、サンダルに足を嵌め込んで、ベルトを止めて準備完了。でも、立ち上がった瞬間に、テーブルの上にぽつんと置かれている黄色い果実が目に留まっちゃった。


 カイムから貰った果実、レオさんと二人で食べるって言ったら、ネロが拗ねちゃった感じがしたんだよな。だから、ネロも一緒に食べられたらいいんだけど。料理かデザートで使って貰えたら、ネロも一緒に食べられる気がする。


 持っていって聞いてみようかな。駄目なら、後でレオさんと二人で食べよう。レオさんを見上げて、テーブルの縁に置いてある果実を指差してみる。レオさんはちらっと果実に目を向けた後で、疑問を浮かべた表情で軽く首を傾げてきた。


「あの果実を三人で食べたいんだけど、甘いからネロは無理でしょ、だから、お料理かデザートに使って欲しいんだけど。持ち込みは駄目っぽいかな?」


「全然大丈夫だと思う。駄目どころか、マスターにしろ、ユリアにしろ、気合いが入るんじゃないかな。」


 レオさんだったら分かるかな、っと持ち込み食材での料理も可能か聞いてみる。レオさんはニコっと笑顔で可能だって教えてくれた。じゃあ、聞くだけ聞いてみようかな。ネロも一緒に食べられる可能性が出てきた。


「良かった。じゃぁ、持っていって聞いてみる。」


 持ってく事に決定しました。ニコっと笑顔で嬉しさを伝えると、レオさんも笑顔になってくれる。サンダルを脱ごうとする俺を手で制して、レオさんがさっと靴を脱いで果実を取りに行ってくれた。


「コレどうしたの。テーブルを移動する時に気になってたんだよね。夕飯の時はそれどころじゃなかったから気付かなかったけどね。」


 靴を履き直しながら、レオさんが果実の事を聞いてきた。そこを聞いちゃいますか。えっとね、ん~。でも、レオさんだし、あんまり気にしない気もする。サラッと答えちゃえば平気かな。


「ネロとデート中に貰った。」


「マジで。デートなんかしてたの?」


 ちょっとだけ躊躇って、俯きながらこそっと答えてみたら、レオさんが屈んで覗き込んできた。すすっと目を逸らすと、レオさんはテンションが上った様子で楽しそうに聞き返してくる。


 あれ、全然気にしてないっぽい。というか、興味津々な態度だ。これは所謂、寝取られ発動ってヤツなのでしょうか。ネロとのデートっていう単語が、レオさんの心に火をつけてしまった可能性がある、のかな。


「えのね、ネロはレオさんとのデートに張り合っちゃったっぽい。ネロが今日は一緒に出掛けたいって。」


 顔を上げると、レオさんの楽しそうなキラキラした目が見えた。お出掛けはしたけど、レオさんに張り合っただけなんですって説明を、レオさんは笑顔でうんうんって聞いてくれている。


「ネロも可愛いトコがあるのな。」


 話を聞き終わったレオさんは目を細めて、楽しそうに呟いた。唐突に飛び出した言葉でテンションが上ってしまう。ヤバい、レオさんがデレた。レオさんの口からネロが可愛いって。本人がいない所で惚気るレオさんはヤバい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ