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184 護衛の仕事は演技も必要なの?

 髪を触ってくるレオさんに顔を向けると、ネロの詠唱の声が聞こえてきた。視線をネロに戻して、レオさんと一緒にネロの魔法を眺める。広くなった空間に手をかざしたネロが低く詠うように言葉を紡いでいく。


「ネロの魔法を唱えてる声は綺麗だよね。」


「そうだな、普段より厳かに聞こえない事もない。」


 レオさんも同じ感覚を共有してくれてるかな。淡い期待と共に話しかけてみた。ちらっとレオさんに目を向けると、レオさんは目を細めてネロを見つめている。そして、同意してくれた。そうだね、レオさんの言う通り。厳かって感じだ。レオさんがゆったりと髪を撫でてくれてる。ネロっぽい優しい指使いだ。


「因みに、レオさんの声も魔法の時は結構カッコいい。」


「ほぅ?なんか違うのか?」


 レオさんを見つめて悪戯っぽく褒めてみたら、レオさんは俺を見つめて聞き返してきた。少しだけ丸くなった緑の猫目が可愛い。キョトンとした表情もメッチャ可愛く見える。


 髪を撫でる手が止まっちゃったから、疑問がいっぱいらしい。レオさんがびっくりしてるのが面白くて、ニコニコ笑顔になったら、レオさんが眩しそうに目を細めてしまった。


「ん~、怪しげな呪文を唱えてる感じ。」


「なんだそれ。怪しげなのにカッコいいのか?」


 ちょっとだけ茶化して伝えると、レオさんがクスッと笑ってくれた。そして、静かに聞き返してくる。怪しげって表現も当て嵌まるけど、普段のイメージとかけ離れてるのがカッコいいんです。


 髪を撫でながら優しく見つめてくるレオさんは大人っぽい。やっぱり、ネロとちょっとだけ雰囲気が似てる気がする。ネロの家族モードと同じ優しい顔だ。大人っぽくて、親っぽい。安心できる雰囲気で、深い緑の瞳と相まって、メッチャ落ち着く。


「普段のチャラい感じじゃなくて、怪しげになる。」


「成る程?じゃあ、ネロはどんな感じなの。」


 チャラくて軽い感じの喋り口調とはガラッと変わって、凄くカッコいい声になるんだよ。ニコっと笑顔で、普段と違うんだよって短めに答えておく。レオさんが髪を撫でる指を止めてしまった。首を傾げると、レオさんがネロについて聞いてきた。客観的に見て、ネロがどんな感じかが気になった模様。


「ネロは普段を倍くらい綺麗にした感じ。」


「へぇ?どういう事だ?」


 少し考えて、思ったままを言葉に出してみる。レオさんは目を細めて疑問を返してきた。でも、優しく髪を撫でる指が復活してくれた。ニコっとしてみると、レオさんもニコっと返してくれた。


「ネロは普段から落ち着いていて、魔法も完璧に使えそう。で、詠唱を始めたらやっぱり綺麗ってなる。レオさんは魔法を全く使えなさそうだけど、使えるからおお、ってなっちゃう。そして、カッコいいってなるの。」


 ネロとレオさんの違いを丁寧に説明してみた。レオさんはふむふむ、と頷きながら聞いてくれる。この、レオさんの聞いてくれるスタイルが好き。スゴク話し易い。ただ、その結果、色々余分な事も話しちゃう危険性もはらんでいる気がする。


「成る程ね、ってか。お前は何気にナチュラルに貶してくるよね。魔法くらい使えるわ。」


「なんで〈浄化〉は覚えないの?高いから?」


 話を聞き終えたレオさんが苦笑して、言い返してきた。口調は凄く優しい。言い返す、というよりは呟くって感じだ。レオさんの優しい雰囲気に引っ張られて、質問を続けてしまう。


「高いって、別に高くないだろ。普通に不要だったから覚えてないだけだよ。でも、そうだな。琥珀に汗臭いって言われるし、覚えとくか。〈浄化〉と〈乾燥〉は必須だよな。また、雨の中を家出されても困るし。」


 レオさんはふっと笑って、答えてくれた。優しい眼差しで、穏やかに優しく話すレオさんの感じが違和感で、背筋がモゾモゾとしてしまう。レオさんの口調と表情が一致していて恥ずかしくなってきちゃった。もじもじして俯いてしまうと、レオさんが覗き込んできた。


 それでも目を逸らしていたら、レオさんが俺の顎に手を添えてきた。そして、顎クイですよ。無理遣り上向かせるやつ。間近に見えるレオさんはちょっとだけ意地悪な笑顔だ。俺の反応が楽しかったらしい。レオさんを軽く睨んで視線をネロに戻してみる。


 思い返せば、ほんの二日前には誤解とはいえ、この家に帰ってくる事は無いと思っていた。家出して、みんなを振り回して、気が付いたらレオさんがこんなに近くにいる。戻って来られて良かった。


 ネロだけじゃなくて、レオさんもいてくれるこの家は心地いい。家族の恋人と仲良くできるっていいなって思う。レオさんがクスッと笑ったのが聞こえた。レオさんをちらっと見ると、ぎゅっと肩を抱いて、直ぐに解放してくれた。


「ネロのトコに戻って来られて良かったな。」


 レオさんの優しい声が聞こえる。俺の考えを読んだらしいけど、ちょっと違うんですよ。ネロのトコに戻れて嬉しいのは事実。それ以上に嬉しいのはレオさんもいるからなんだよ。


「うん、良かった。レオさんもいてくれて良かったって思ったんだよ。レオさんの勘もまだまだですな。」


 ふふん、と、レオさんの未熟さを笑って指摘してみた。レオさんは苦笑して、優しく髪に指を滑らしてくれた。めっちゃネロっぽい行動だ。そして、レオさんはネロに目を向けてしまった。レオさんの視線を辿って、俺もネロを眺める。


 ベッドはもう完成していた。ネロはベッドに手を添えて真剣な顔をしている最中だった。レオさんはそんなネロをじっと見つめていて、レオさんも真剣な表情になってる。レオさんのきりっと顔はホント、カッコいい。


「ネロ、何をしてるの?」


「温度調節。」


 二人の真剣な表情を交互に眺めて、疑問を口に出してみた。ネロはこっちに顔を向けて、頬を緩めて優しい顔で直ぐに答えてくれた。丁度終わったらしい。さっきまでの真剣な表情はなくなってふんわり柔らかな顔だ。レオさんはまだ真剣な顔を継続中である。


 ネロはゆったりとこちらに向かってきて、ひょいっと俺を抱き上げた。腕に座らせる抱っこで、背中に片腕を回してギュってしてくれる。俺もギュっとし返すと、嬉しそうに頬擦りをして離してくれた。


 そして、レオさんとは反対側のソファの端に下ろしてくれる。俺の髪を優しく整えてくれて、ネロは真ん中に腰を下ろした。レオさんが不満そうな顔になってしまっても、ネロは涼しい顔だ。


 結局のところ、レオさんが俺を膝の上に拘束していたのは、色々な感情が交錯した結果だったっぽい。ネロに対する対抗心。俺とネロがくっついている事への嫉妬心。そして、俺といるとネロの表情が優しくなる。


「それでは、お楽しみの時間の始まりですね。」


 身を乗り出して、二人を交互に見つめて一番の楽しみの始まりを宣言してみた。二人がリンクしたように目を丸くしている。なんでびっくりなの、驚かす事は言ってないでしょ。


 二人の反応が疑問で、首を捻って疑問を伝えてみる。ネロはレオさんに顔を向けてしまって、レオさんはネロにちらっと視線を向けた後で、俺をじっと見つめてくる。何故か緊張感のある真剣な眼差しだ。


「因みに、それは。どういう意味で言ってるのかな?」


「ん?スイーツの時間の始まりでしょ?」


 レオさんの喉仏が動いたのが見える。恐る恐るって感じで疑問を口に出すレオさんを、不審な目で見てしまった。なんでそんなに緊張感を持って聞いてるんだろ。眉を寄せながらレオさんの質問に答えてあげる。


 俺が答えた瞬間にレオさんの表情が安堵に変わった。なんで安堵したんだろう。疑問過ぎてネロに目を向けてしまった。ネロはレオさんをじっと見つめているっぽい。俺を見てくれない。


「え、あ。そう、そうだったな。忘れてたわ。琥珀はよく覚えてたな、偉いぞ?」


 レオさんの気の抜けた声が聞こえる。レオさんの言動が不審過ぎて、レオさんを観察してみた。レオさんの視線はもう俺にはなかった。ネロに向いている。そして、何かのアイコンタクトを取っている模様。


 ネロの太腿に手を突いて身を乗り出してネロを見てみた。ネロはゆっくりと視線をくれて、ニコっとしてくれる。超普通じゃん。何を交信してたんだよ。眉を寄せて不審さをキープしつつ、レオさんに戻してみた。レオさんも俺と目を合わせてくれたけど、不満顔になってしまった。


 なんで不満そうなの。眉を寄せてレオさんを見つめていたら、黒い髪が視界を遮ってきた。ネロの唇が眉間に押し当てられて離れていく。ネロはレオさんの真似をしたらしい。即ち、眉を寄せるんじゃない、と。


「琥珀はレオの上で食うのか?」


「えっ、なんでよ。ここでいいよ。」


 ネロが至近距離で普通に聞いてくる。なんで、レオさんの上に戻らなければならないのか。静かに拒否を伝えると、ネロがクスッと笑った。さっきまでのレオさんに対する不審な気持ちが、ネロの笑顔で消え去っていく。ネロの笑顔はホンワカ優しくて幸せな気持ちになる。


「琥珀、そんなに俺とくっついてるのは嫌なのか?」


 ネロの笑顔に癒されていたら、悲しそうなレオさんの声が聞こえた。しょんぼりしたレオさんの猫耳に絆されてしまう。くそぉ、姑息な真似をしやがって。猫耳をそんな風に使うなんて、卑怯だ。でも、悔し過ぎるけど従ってしまう自分が怖い。


「う、じゃぁ。食べる間だけ行く。」


 ネロがレオさんの頭を乱暴に撫でるのを見ながら、小さな声で呟いてみた。レオさんの耳がピンと立った。絶対演技だったじゃん。卑怯だ。俺の弱点を知り尽くしているレオさんには勝てないのかもしれない。


「そっか、来てくれるか。おいで、自分から乗りたい?それとも、俺に迎えに来て欲しい?優しくシてあげるよ。」


 テンションが上がったレオさんが優しく甘く囁いてくる。変な選択肢を突き付けて選ばせてくるレオさんの目がイヤらしい。言葉の響きも甘さを含んでてイヤらしい。


「何か卑猥。」


「うん、そういう感じで言ってみた。できればお前から乗ってきてくれると嬉しいんだけどな~。」


 内心ドン引きで、外面もドン引きで、口調もドン引きになっても仕方ないよね。でも、レオさんは全く気にしてない。ノリノリのテンションを継続中だ。


 レオさんがヤバい感じでノってきてるよ。困ってネロを見ると、ネロは苦笑してる。見守る姿勢のネロは助けてはくれないって分かってる。もういい。こうなったら、俺もレオさんのノリについていけばいいと思う。


 一人で恥ずかしがっていても仕方ない。これは、多分だけど、二人のプレイ的なヤツだ。明日からはお仕事で一緒にいられないから、最後のお楽しみタイムなんだよ。寝取られプレイ的なヤツの真骨頂なんだよ。俺は小道具的になりきったら平気な筈。


「自分からは恥ずかしい。レオさんにして欲しい。」


 目を伏せて、恥じらいの表情を作り、おずおずと呟いてみる。二人が息を吸い込む音が重なった。普段は息をしてる音も全く聞こえない二人なのに。溜息と、息を吸い込む音と深呼吸はこの二日間で良く聞いた気がする。


 音についての考察をしていたら、フワッと体が浮き上がった。顔を上げると、レオさんが見える。優しい光を湛える深い緑の瞳がメッチャ近くに見える。恥ずかしくてそっぽを向くと、レオさんの腕に力が込められた気がする。抱く力を強めた訳ではなく、腕の筋肉がギュッと絞まった感覚だ。


 レオさんは俺を抱えたまま無言で移動して、胡坐をかいた膝の間に下ろしてくれた。そして、黙々とクッションで背もたれを作ってくれる。顔を上げると、俺を凝視している二人が見えた。


 金色の瞳も、緑の瞳もキラキラというか、ギラギラと眩しい光を放ってる。うん、二人は興奮してる模様。やり過ぎた事を悟ってしまった。小道具なのに興奮させ過ぎてしまったらしい。


 レオさんは何気に、弱々しくてぶりっ子っぽいのがお好みっぽいんだよ。だから、それ系の演技に力を入れちゃった。レオさんを釣るのが成功した結果、レオさんの興奮はネロをも興奮させてしまった、と。連動性の興奮はヤバいですね。


「さて、ケーキを食べましょうかね。」 


 にっこり笑顔で演技を終了する。二人は瞬きをして、目の輝きが薄れていってくれた。俺の要請に従って、ネロがバスケットを引き寄せて中身を取り出してくれている。


「どうだった?俺もちょっと卑猥に聞こえた?」


「お前な。そういう冗談は止めろ。」


 スイーツの準備はネロに任せて、レオさんに感想を聞いてみる。レオさんは目を丸くして絶句してしまった。そして、少しの間を置いて、静かにダメ出しをしてきた。小さい声でぼそっと呟いたレオさんを睨んでしまう。睨んだら、レオさんの猫耳が少しだけ倒されちゃった。ちょっと可愛い。


「レオさんだって卑猥に言ってたじゃん。あと、その猫耳は卑怯。」


「俺はそういうキャラだろ。ってか、猫耳ってなんだよ。」


 自分だって同じ事をしてるのに、俺にはダメ出しをするレオさんを睨んじゃう。レオさんは怯みながらも言い返してきた。猫耳は猫耳だよ、その頭についてる可愛い猫耳ですよ。


 ゆっくりと視線をレオさんの耳に向けてみた。可愛い猫耳を凝視して、この猫耳なんですよって視線で教えてみる。レオさんの表情が少しだけ強張った気がする。そんな強張るほど変な視線は送ってないでしょ。失礼しちゃうな。


「可愛過ぎてオッケーって言っちゃうじゃん。」


「不可抗力。付いてるんだから仕方ないだろ。」


 レオさんの目に視線を戻して、文句を言ってみた。レオさんは目を合わせて何かを考えたみたいだ。そして、言葉が決まったのか、文句を返してきた。仕方ないって言ったね。今、確実にそう言った。


 レオさんが猫耳を演技に使っているのは知っているんだよ。俺は全てを見ているからね、全部知っているんですよ。でも、仕方ないって言葉を使っちゃったか。成る程ね~、そっか、仕方ないか。


「そう、仕方ないの。付いてるんだから目が行っちゃうのも仕方ないの。可愛いから仕方ないの。」


 レオさんの言葉を最大限利用させて貰いましょう。ニマニマと猫耳を眺めて呟いていたら、レオさんの猫耳がどんどん倒されてく。めっちゃ可愛い。パタンって伏せられちゃった猫耳の可愛さと言ったら、もう、ヤバいね。


「お前の目付き、イヤらしいからな。誘ってるのか?」


 ぱっと目を塞がれたと同時に、耳元で囁く声が聞こえた。言葉の意味合いと甘い響きが理解できてむっとなっちゃう。目を覆ってるレオさんの手を両手で引き剥がして、レオさんを睨んでしまった。


「全くイヤらしくない。純粋な好奇心。」


「はいはい、ケーキが用意できたみたいだよ。食べな。」


「あ、ありがと。」


 文句を言ってみたけど、レオさんはさらっと躱してしまう。同時に、ネロがお腹の上にお皿を置いてくれた。ネロに向かって、ニコっと笑顔でお礼を伝える。ネロは嬉しそうに笑顔を返してくれた。


 恋人の膝の上に俺が乗っていても全く気にしてない。それどころか、ネロは嬉しそうな笑顔を浮かべてる。多分だけど、この状況に興奮しているのかもしれない、


 ってか、かも、ではなく確実にそうだと思う。でも、ネロとレオさんの線引き加減が、今一分からない。やり過ぎるとネロは本気で怒っちゃうっぽいから困ってしまう。


 さて、今日の寝る前のスイーツはなんでしょう。フギンとムニンが教えてくれたので合ってるかな。ネロの置いてくれたお皿の上にはプレーンのパウンドケーキが乗っている。ネロの前には薄紫色のゼリーの入ったガラスの器。レオさん用にもパウンドケーキの乗ったお皿がローテーブルに置かれている。


「フギンとムニンの情報は正解だったね。お酒無しのパウンドケーキとゼリーだ。あの子達は凄いね。」


「そうだな。」


 情報が正しかったのが分かってフギンとムニンを褒めると、ネロが優しい笑顔で頷いてくれる。注文する前のデザートをなんで分かってたんだろ。不思議だ。あの時点でユリアさんが既に用意してくれてたとかかな。どっちにしても正確な情報だった。


 今日のスイーツも美味しそう。顔を上げると、二人が同じように優しい眼差しで見守っていた。さぁ、お食べって言ってくれてる眼差しだ。それでは遠慮なく頂きますよ。パウンドケーキを手掴みでパクっと一口食べてみる。


 バターの香りが最初にどんっ、ときて、ふわっと蜂蜜の香りが広がった。やっぱり、ユリアさんのケーキは笑顔になっちゃう美味しさだ。


「めっちゃ美味しい。」


 もぐもぐ、ごっくんと最初の一口を味わって、ほわっと笑顔で美味しさを伝えてみた。小さく息を吐き出す音が重なった。顔を上げると、二人はまだ優しく見守っていてくれていた。ネロもレオさんも超優しい顔をしている。


 これがお互いを見ていたら、新婚さんっぽい雰囲気だと思うんだけどな。惜しむらく、二人の視線は俺に集中している。視線のベクトルを変更したい気分に駆られながら、にこっと笑顔を贈ってみた。二人は目を丸くした後でまた小さく息を吐き出した。


「ネロもレオさんも、見てないで食べてよ。見られてると恥ずかしい。」


 拗ねた口調で二人にも食べてって促してみる。ネロは頷いてゼリーの器に手を伸ばしてくれた。レオさんは動かずに俺を眺め続けている。優しい眼差しだけど、駄目ですよ。みんなで楽しみたいんだから。


「レオさんは食べないの?」


「琥珀が乗ってるから取れない。」


 レオさんを軽く睨むと、首を傾げられた。キョトンとした顔が可愛いけど、静かに聞いてみる。レオさんは嬉しそうに目を細めて答えてくれた。あぁ、確かにそうだった。俺が乗ってるから取れないよね。睨んじゃうとか悪い事をした。


「あぁ、そうだった。ごめん、下りる。」


 謝りながら、ワタワタと慌てる俺の頭を、レオさんが優しく撫でてくれる。ただし、腰に回した腕は離してくれない。動きを止めてレオさんを見つめると、レオさんは嬉しそうな笑顔で見つめ返してきた。優しくて嬉しそうで幸せそうな笑顔だ。心からの自然な笑顔。レオさんの緑の瞳がキラキラしてめっちゃ綺麗。


「このままでいて。今幸せ過ぎて胸がいっぱいなんだよ。」


 溜息交じりに呟くレオさんの言葉を聞いて瞬きをしてしまう。俺の髪を優しく撫でながら、俺の目を見つめて、レオさんが幸せを囁いた。これは、どう考えてもネロに向けた言葉だと思うんだけど、なんでネロに言わないんだ。


 まぁ、それがレオさんなんでしょう。ネロはこんなレオさんが可愛くて、愛おしいんだね。うん、そう考えると超可愛く見えてきた。潤んだ緑の猫目が超可愛い。


 ネロとのラブラブ新婚生活中で幸せで胸がいっぱいか。レオさんは純情で乙女チックな事が判明してしまいましたね。ここら辺もギャップ感が出てていい気がする。


 あ、レオさんが弱々しいぶりっ子な演技に弱い理由が分かった。レオさん本人がネロに対してそうしてみたいって感情があるんだ。レオさんは弱々しさからかけ離れた存在だから、自分ではやるには抵抗感があるのかもしれない。


 それにしても、レオさんは倒錯しまくってる気がする。恋人がすぐ隣にいるのに、俺を代償行為の相手にするとかヤバいよね。しかも、その代償行為で、レオさんは俺の中に自分を見出しているっぽい。確実に倒錯してる。


「レオさんは倒錯してますね。でも、それも可愛いよね、ネロ。」


 レオさんの心情を理解した上で、ネロに笑顔を向けてみる。ネロはスプーンを咥えたままでびっくりした顔をして止まってしまった。目が丸くなって可愛いけど、なんでびっくりしたんだよ。


 レオさんをちらっと見てみる。レオさんは唖然としている様子だ。あ~、理解しました。そうだね、演技だ。きっと、驚きの演技をしてるに違いない。


 今までも、オーバーアクションをしてくれてたんだろうな。二人とも演技が上手い。特にびっくり顔が上手い。思い返せば、この二日間で何度も見た表情だもん。ネロはクールなのに、驚くのが多いと思ってたんだよね。


 唖然とした顔のレオさんに、パウンドケーキを一切れ手渡してみる。レオさんは受け取って一口で食べてしまった。一口がでかくて少し驚いちゃった。そして、驚きの表情は一瞬で消え去ってる。やっぱり演技だった事が判明しちゃったね。


 だって、直ぐに唖然状態を解除できたもん。本気で驚いてたら、無理な筈。って事は、ネロも。ちらっとネロを見てみる。ネロは美味しそうにゼリーを味わっている。ほらね、やっぱり驚いたフリだったんだ。


「護衛の仕事は演技も必要なの?」


「いきなりどうした。」


 パウンドケーキを齧りながらレオさんを眺める。レオさんは楽しそうに目を細めて見つめ返してきた。護衛さんってのは演技も必要なのだろうか。サクッと聞いてみたら、レオさんがキョトンとして聞き返してきた。


「二人が驚く顔をよく見るから。驚く練習でもしてるのかなっと。」


「あ~、まぁ。族長の前で大人しくする演技は必要で間違いない。」


 普通に思った理由を話してみると、レオさんが納得って感じで頷いてくれた。そして、一定の演技は必要って事を教えてくれた。レオさんらしい答えでクスっとなってしまった。大人しくする演技ってちょっと面白い。


「俺もこんなだらしない姿を見せちゃったら、アルさんに幻滅されちゃうよね。アルさんの前では猫を被りまくらなきゃだから、めっちゃ大変。」


「族長はどんな琥珀でも受け入れると思う。ネロと俺も、どんな琥珀でも受け入れちゃうだろうな。」


 俺も結構大変なんですよ、って話してみる。レオさんがクスっと笑って頬を撫でてくれた。手が温かくて気持ちいい。レオさんの手のひらに顔を摺り寄せてみる。優しく囁くレオさんの声が耳に心地いい。どんな俺でも受け入れてくれるのか。


「俺が敵国のスパイだったらどうするの。ネロが暗殺されちゃうかもよ?」


「ん~、その時は。どうするよ、ネロ。」


 成る程ね~。嬉しくてニコニコになりながら本当にそうなのかを試しちゃう。突拍子もないお話を聞いたレオさんが少し困った顔になってしまった。流石に、暗殺するような子はダメだよね。レオさんは困ったのかネロにヘルプを求めたようだ。


「監禁して洗脳する。俺だけしか必要としないように、時間をかけてゆっくりと。最終的には暗殺をする気も起きなくなる。問題無い。俺の傍で俺だけを見ていればいい。指令を出した相手は始末する、何も問題は起きない。」


 ネロはどう答えてくれるのかな、とワクワクと見つめてみた。ネロが俺の頬に手を伸ばしてくる。見惚れるような凄く綺麗な笑顔で、ネロが楽しそうに答えてくれた。


 嬉しそうに笑っているネロの表情と、うっとりと語る艶のある声と、内容のギャップで背筋が寒くなってしまった。優しい笑顔だけど超怖い。ネロは拷問っぽいのもできる人って事なのかな。それとも、ただの冗談なのかな。まぁ、冗談だと思うけど。冗談だよね?


「ネロの冗談は超怖いね。」


「あ、そうだな。」


 何とかぽつりと感想を呟いてみると、レオさんが反応してくれた。レオさんも若干引き気味に聞こえるのはなんでだろう。ネロの冗談なんだよね、そうだよね。レオさんを見つめてみる。


 レオさんは緊張感の漂った笑顔を浮かべていて、ぎこちなく頭を撫でてくれた。それ、その怯えた感じも演技ですよね。ネロの冗談だよね。ねぇ、ホントに冗談だよね。


 涙目でレオさんを見つめると、レオさんがニコっとしてくれる。優しくて落ち着く深い緑の瞳を見ていたら、今度は優しく頭を撫でてくれた。やっぱり、ネロの冗談で会ってるよね。


 ネロが危ない冗談を言うから、レオさんがピリピリし出しちゃったじゃん。パウンドケーキを齧りながら二人を眺める。新婚っぽいラブラブな甘い雰囲気だったのに、二人の間を緊張感が走ってる。俺が変な話題を出したからだ。申し訳ない事をしてしまった。


「ネロはもうちょっと、冗談の方向性を考えた方がいいかも。」


「それは、お前も一緒だろ。さっきのアレはなんだよ。」


 静かにネロに苦言を呈してみた。ネロはふわっと幸せそうに笑ってくれる。さっきの危ない冗談を言った人と同一人物には見えない。ネロの笑顔に癒される。俺もネロの笑顔につられてほわほわ笑顔を浮かべていたら、レオさんに苦言を呈されてしまった。


「あれって?」


「顔を赤らめて、自分からは恥ずかしいって言ってただろ。アレはヤバいぞ?」


 あれって言われても分からないよ。首を傾げると、レオさんが言葉を続けてくれた。お膝に乗る際の演技の事だったらしい。まぁ、渾身の演技でしたし。俺にできる全てを出し切りましたし。顔は赤らめてはないけど、赤らめた感じに見えたのか。俺の演技も捨てたもんじゃないって証明になったね。


「アレね。俺の演技はどう?上手かった?」


 よくぞ聞いてくれました。俺の演技も凄かったでしょ。ニコニコで聞き返してみると、レオさんの目が丸くなってしまった。レオさんは良く目が丸くなりますね。ちらっとネロを見ると、ネロも目が丸くなってる。めっちゃ可愛い。


「演技って、演技か?演技だったのか?お前は演技なんてできるのか?」


 ニコニコとネロの驚き顔の演技を眺めていたら、レオさんが俺の頬を両手で挟んできた。そして、優しくだけどやんわりとレオさんの方を向かされてしまう。目があったレオさんが勢いよく話し掛けてきた。そのテンションは何なのってくらい、変なテンションになってる。


「レオさん、どうしたの。演技って四回も言ったよ?俺だって演技くらいできるよ、多分。」


「なんでそんな演技をする必要があったんだよ。」


 俺の頬を包み込むレオさんの手を離そうと、手首を掴んで引っ張ってみる。ビクともしない。引っ張りながらのんびりと答えてみたら、更に質問を返されてしまった。もういいや。レオさんの手首から手を離してレオさんの目をじっと見つめてみる。緑の猫目がキラキラになってて超綺麗。


「また二人の寝取られプレイ的なのが始まったのかなって思ったの。だから、二人の邪魔をしない小道具になりきって演技をしてみたんです。レオさんの好みっぽい感じを模索したんだよ。臨機応変に対応できる俺。凄くない?」


 ニコニコで俺は頑張ったんだよって主張してみた。レオさんの瞳から発する光が増していく。ちょっと眩しいんですけど。目を細めながら話を続けていたら、レオさんが頬から手を離してくれた。


 話し終わるのと同時に、レオさんが下を向いて長い溜息を吐き出している。意味が分からなくてネロに目を向けてみた。ネロは戸惑った顔で俺を眺めていた。俺は演技もできないって思われてたらしい。

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