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185 そうだな、満足した

 二人には演技すらできない子って思われてたのは悲しい。でも、まぁ、器用の値は1だ。そこから導き出される答えは、不器用って事だ。実際に俺は不器用な姿しか見せてなかったから演技なんてできないって思っちゃいますよね。


 ってか、気が付いた。お茶が上手く淹れられないのって器用のせいな気がしてきた。そうだよね、器用の値が1だし。不器用だから仕方ないよね。


(器用が関係してくる項目は主に制作系、採取系になります。お茶は関係ありません。尚、戦闘においても器用は色々な項目に関係してきますが、こちらもお茶とは関係無い為、説明は省略させて頂きます。)


 くそぉ、追い打ちか。そこまではっきりと言われてしまっては仕方ない。ステータスのせいでお茶が不味い説はなくなってしまった。ってか、お茶を淹れるのってある意味、お料理じゃん。制作系っぽくない?


(お茶を淹れる作業は料理にはあたりません。)


 く、ダメか。普通に下手って事か。そういう事なのか。


(はい。)


「琥珀、いいか?そういう冗談はこの家の中か、俺の家の中だけにしろ。絶対約束しろ。返事は、はい。しか認めないからな。」


「うん。」


 スツィの言葉で傷心してるのに、レオさんがスゴイ勢いで何かを言い聞かせてきた。分からないながらも頷くと、レオさんがじっと覗き込んできた。だってね、俺のお茶は普通に下手って断言されたんだよ。悲しい。でも、スツィの事は秘密だから愚痴れない。悲しさ倍増だ。


「まぁ、その答えでもいいよ。絶対にあんな顔をして他の人を見るなよ?」


 しょんぼりしてたのが正解だったのか、レオさんの勢いが収まってくれた。でも、覗き込んで念押ししてくる。あんな顔をしてって何の話だよ。レオさんは一体何の話をしてるんだ。


「あんな顔ってどんな顔?」


「その質問は禁止。」


 レオさんを見つめて聞いてみる。レオさんが怯んだのが分かった。睨んでもないのに怯んだね、なんでだろう。目を逸らしたレオさんがボソッと答えてくれた。いや、答えじゃない。ただの禁止事項の通達だった。


「普通の質問じゃん。ネロ、どんな顔?」


「顔を逸らしていたから分らない。」


 レオさんが拒否る意味が分からなくてネロに質問をぶつけてみた。ネロはサクッと答えてくれた。でも、こっちも答えじゃない。でも、まぁ、見てなかったんじゃ仕方ない。


「あ、ズルい。そういう逃げ方はずるいぞ。そう、俺も顔を逸らしてたから見えなかった。」


 レオさんがネロの回答を聞いて眉を寄せてしまった。そして、ネロに文句を言い始めた。更には、ネロと同じだと言い切ってる。いや、あなたが禁止してきたんだから、見てるよね。見たから禁止したんだよね。


 ジーっとレオさんを見つめてしまう。レオさんの耳が少し倒されてしまった。レオさんは耳の感情表現が豊かだ。ネロに文句を言ってた時はネロに向かってピンと立っていた。今は後ろめたいのか少し倒されてる。言いたくないって事ですよね、了解です。もういいよ、話は終わり。


 レオさんにパウンドケーキを一切れ渡して、食べ途中のを食べきる。レオさんが空になったお皿を持ち上げて、少し体を前に倒してローテーブルの上のお皿と交換してくれた。


「レオさん。ちゃんと届くじゃん。騙したんだ。」


「別にいいでしょ。一緒のケーキなんだから一緒に食べようよ。あ、食べさせてよ。ネロの目の前で、ゆっくり俺の口の中に入れて。」


 俺がいるから食べられないって言ってたのに普通に食べられるじゃん。むっとすると、レオさんは長し目で囁いてくる。最後は甘い声でエロさを感じる言い回しになったレオさんを睨んでしまう。


 レオさんがお皿から一切れを摘まんで俺の口に押し当ててきた。ふわっと甘くていい香りが漂って口を開けてしまう。俺が齧った残りを自分の口に放り込んで、見つめ合いながらレオさんがもぐもぐと口を動かしている。


 甘くておいしいパウンドケーキの味で睨みが解除されてしまった。美味しいスイーツの時間だから、まったりがいいよね。俺の気持ちに呼応するように、ネロがカップを運んできてくれる。


 唇までカップを運んでくれたネロを見つめながらコクっと一口飲ませて貰う。ネロが嬉しそうに目を細めてくれた。美味しいお茶の香りでゆったりリラックスできた。


 少しの間、まったりとパウンドケーキを楽しむ。ネロもレオさんも優しい顔で俺を見守っている。ネロが親っぽいのは分かるんだけど、レオさんまで親っぽい眼差しになってる気がする。いや、気のせいじゃない。レオさんは確実に親っぽくなってる。


「レオさんは明日のお昼からお仕事なんでしょ。」


 パウンドケーキを一切れ食べ終わったトコロでレオさんに話し掛けてみた。レオさんは少し首を傾げながら頷いてくれる。レオさんにぴとっとくっついて、レオさんの胸に頬を押し付けてみる。レオさんがキュッと抱き締めてくれた。


「お昼まではいてくれるの?朝になったら家に帰っちゃうの?」


「ん~、どうしようかな。家に帰ってもいいけど、琥珀と離れたくない、かな。」


 レオさんに寄り掛かりながら、ネロを見つめて、甘えた感じを出しながら質問を続けてみる。ネロの眉が一瞬ぴくっと反応したのが見えた。ネロも帰って欲しくないっぽい。レオさんは困った口調で答えてくれる。レオさんも帰りたくないっぽい。俺を口実にしてるけど、ネロと一緒にいたいよね。分かります。


 って事はですよ。みんなの意見が一緒だ。嬉しくなって体を起こすと、レオさんが背中を支えてくれた。おぉ、腹筋が痛くない。実に快適である。レオさんの頭をぽふぽふっと撫でて、感謝を伝えてみる。レオさんは嬉しそうに目を細めてくれた。


「じゃぁ、この家からお仕事に行こうよ。で、レオさんが仕事行く時に俺も一緒に行っていいかな。」


 レオさんが仕事に行く時に一緒に行ければ、レオさんはこの家から出勤だ。って事は、出かけるまで一緒じゃん。しかも、夕ご飯も一緒なのは確定だから、ネロはずっとレオさんと一緒にいられる。


「琥珀も?なんで行きたいの?」


「アルさんが心配だから会いたい。」


 レオさんが優しく聞き返してくれた。レオさんと一緒にいたいって理由以外にも、レオさんと一緒に出掛ける理由はあるんです。アルさんが心配なんだよ。俺の家出っていう騒動でアルさんが犠牲になっちゃったんだもん。


「成る程ね~。俺はいいけど、ネロはどうだ?」


「俺も行く。一応成果を聞く。」


 レオさんは納得してくれたらしい。でも、ネロにも確認を取ってる。ネロは静かに答えていて、レオさんは頷いて返している。ネロとレオさんの視線の交じり合いは直ぐに解除しちゃって、二人の視線は俺に戻ってきちゃった。やっぱり、俺がいると二人の時間が持続しないっぽい。困ったものだ。


「後、お礼と謝らないと。」


 ネロの淡々とした返答に、補足を付け足してみた。ネロの代わりに頑張ってくれているアルさんへの感謝と、俺のせいで一人で頑張っているアルさんに謝罪。


 ちょっとだけ俯いてしまったら、レオさんが俺を抱き寄せて髪にキスをしてくれた。チャラい行動だけど、レオさんの優しい気持ちが伝わって癒される感じがある。


「謝るって何を謝るの?」


「俺が変な行動をしちゃったから、アルさんは一人で戦ってるんだよね?」


「族長は凄く喜んでると思う。でも、琥珀が謝りたいんだったら、そうした方がいいかもな。」


 レオさんは腕を離して覗き込んで、謝罪の方を聞いてくる。しょんぼりしながら話してみると、レオさんはクスッと笑ってしまった。ネロもちょっとだけ笑いを噛み殺してるっぽい。レオさんは笑みを消さずに、優しく俺の決心を肯定してくれた。


「喜んでるって、アルさんはホントのホントに外で暴れるのが好きなの?」


「そうだよ、ホントのホント。あの人はデスクワークよりフィールドワークの人だから。しかも、ネロより格段に強い。外で動き回ってる方が楽しいんだと。凍り付くような真顔で外に出てくるって言ってくる時があって、宥めるの苦労するんだよ。」


 一人で戦う事を了承してくれた時に言ってたアルさんの言葉を思い出してしまった。あれは真実なのだろうか。おずおずと質問をしてみると、レオさんは深く頷いて溜息を吐いてしまった。そして、俺を抱き寄せて頭を撫でながらしみじみと語り出した。


 最後の方は疲れさえ混じる話し方で、真実味が増してくる。でもね、凍り付くような真顔ってどんなだよ。ふんわり優しいアルさんがそんな顔するなんて想像もできない。


「アルさんはカッコいいね。あんなに可愛くて魔法も凄いのに、その上強いとか。スゴイね。」


「カッコいいってか、怖い。ネロの百倍は怖い。」


 レオさんの言葉を一部聞き流して、アルさんの凄さを口に出してみた。俺をキュッと抱き締めたレオさんがぶるっと震えて答えてくれた。レオさんはいつもアルさんの事を怖いって言うけど、いつもふんわり優しいアルさんじゃん。


「怖くないじゃん。怖い要素なんてどこにあるの。」


「お前の中の族長と俺の中の族長はやっぱり他人だな。」


 身を捩ると、レオさんが抱き締めていた腕を離してくれた。レオさんを見つめて聞き返してみる。レオさんは深い溜息を吐いて、見識の相違を結論付けてしまった。レオさんはいつも怒られてるからそんな風になっちゃうんだろうな。


「あのね。レオさんにとっては護衛の対象なんだから、ちゃんと見極めないと駄目だよ?」


「そう、だな。頑張るわ。」


 色眼鏡なしでちゃんとアルさんを見て下さいねって忠告をしておく。レオさんは戸惑った顔で、頑張るって言ってくれた。まぁいいでしょう。


 アルさんの話題で疲れちゃったらしいレオさんを労わってあげる事にしようかな。レオさんにパウンドケーキを差し出してみる。レオさんは手で受け取ろうとしたけど、首を振って、口元に運んでニコっとしてみる。


「レオさん、お口を開けて?」


 可愛い口調と可愛い笑顔を心掛けて、ちょっとだけ首を傾げてみた。レオさんの瞳孔がぶわっと広がったのが見える。まん丸になって超可愛い顔になってる。レオさんはぶりっ子に弱いからね、俺の演技は今回も完璧だった模様。


 その可愛い顔で素直に口を開けてくれたから、そっと差し込んでみる。口を閉じて咥えてくれたから、パウンドケーキから手を離す。にこにこと笑顔で食べる様子を観察していたら、目を逸らされてしまった。


 レオさんはパウンドケーキをゆっくりと味わって食べてる。一切れを時間をかけて味わった後で、漸くレオさんの視線が俺に戻ってきてくれた。レオさんを見つめて、にこっとしてみた。


「ネロの前でゆっくりレオさんの口に入れてあげたよ?満足だったかな。」


「不意打ちは良くない。楽しむ余裕が無かった。」


 レオさんの希望を叶えてあげましたよ。満足でしたか。笑顔で聞いてみると、レオさんがキュッと抱き締めてきた。耳元で囁く声は確かに余裕がなさそうだ。なんで余裕がないんでしょうか。レオさんはもういいや。


「ネロは満足した?」


 ネロの感想も聞いてみようかな。二人で楽しむプレイだろうし。感想は二人から聞かないとね。にこっと笑顔で問いかけると、ネロは少しだけ戸惑った顔をしていた。


 ネロの視線がゆっくりとレオさんに向けられた。レオさんがびくっと体を震わせたのが伝わってくる。俺を抱き締めてる腕に力が込められた。それ以上はダメだよ、ってぽんぽんしてみると、少しだけ腕の力を緩めてくれた。でも離してくれない。


 ネロはレオさんと視線を絡めてるっぽい。俺はレオさんの腕の中で拘束されてるからレオさんが見られない。ちょっと悔しい。俺もレオさんの可愛い顔が見たいのに。


 ネロが笑みを浮かべた。色気を感じさせる妖艶な笑みだ。綺麗な金色の瞳も少しだけ潤んで色っぽさを演出してる気がする。レオさんの体が緊張してるのが分かる。ネロが目を細めてレオさんの頭に手を伸ばしてきた。


 レオさんが逃げる感じで体を逸らしたのが伝わった。なんで逃げようとしてるんだろ。疑問に思う間に、ネロの手はレオさんの頭に到達して、頭を撫でてあげてるっぽい。突然、レオさんの体がぴくっと反応した。


 ネロはレオさんの頭を撫でてるんじゃないのかな。レオさんがめっちゃ緊張してるんだけど。まぁ、ネロの視線は威圧感っぽいのを感じるからドキドキなのかもしれない。色っぽくて威圧的とか、ネロは器用だな。


 レオさんの息遣いがヤバい。ネロは一体何をしてるんだ。顔を上に向けてみると、レオさんの耳を撫でているネロの綺麗な指が見えた。マジか。レオさんの耳を撫でてたのか。ヤバい。俺も興奮してきた。ドキドキだ。ネロの指使いから目が離せない。


 いいな、俺も撫でてみたいな。どんな感触なんだろ。レオさんの耳は大きくてネロ程は厚くないんだよね。モフモフじゃないけどシュッとした感じの綺麗な猫耳なんだよ。髪と同じでツンツンの毛なのかな。ネロの指と俺の指を今直ぐ交換したい。届くところに猫耳があるのに見てるだけとか、悲しい。


 俺の興奮と反比例するみたいに、レオさんの興奮は収まってしまったようだ。息遣いも普通になっていって、ぴくっと反応していた体も一切反応しなくなっている。そして、緊張もなくなった気がする。


 ネロに目を向けてみた。ネロは真顔になっている。さっきまでの妖艶さはどこに行っちゃったの。そんな真顔になっちゃったから、レオさんの可愛い反応がなくなっちゃったんじゃん。


「そうだな、満足した。」


 真顔のままでネロが淡々と答えてくれた。満足したって雰囲気じゃないじゃん。それにしても、ネロが大人な雰囲気でドキドキした。レオさんもドキドキだったと思うんだよね。レオさんの心臓あたりを触ってみた。鼓動はそんなに早くない。


「琥珀は大胆だな。いきなり胸を触るとか。急にどうした。」


「レオさんがドキドキしてたかチェック。」


 レオさんが腕を解放してくれて覗き込んできた。胸なんか触ってないよ。ドキドキを確かめただけなの。ってか、さっきのレオさんが緊張してた時に確認すればよかった。残念だ。


「結果は?」


「今はドキドキじゃない。さっき確認すれば良かった。ネロがあんな色気を振りまいて、レオさんがびくってなってたもん。絶対ドキドキだったと思うんだよ。」


 レオさんは苦笑交じりに結果を聞いてくる。溜息交じりに、今はダメだった事を伝える。さっきなら結果は違ったのに、悔しいです。


「へぇ、色気ね。」


 レオさんが低い声で呟いた。含みを持たせた長し目でちらっと見られる。何とも言えない感覚になる視線だ。ぞわってする視線。そして、レオさんの視線はゆっくりとネロに移動していった。と、同時にまたキュッと抱き締められてしまった。


 超意味ありげで気になる視線だった。今回はレオさんが邪魔でネロが見えない。子供は見ちゃダメって事か。くそぉ、二人の世界を作り上げやがって。リア充め。でも、二人は幸せっぽくて嬉しい。


 少ししてレオさんが腕を離してくれた。空になったお皿をローテーブルの上のお皿に重ねて、レオさんの上から下りる。ネロも俺の脚から手を離してくれたから楽々と脱出ができた。


 ん~っと伸びをした後で、二人の間の床に蹲る。二人を見上げると、ネロが頭を撫でてくれた。レオさんは優しい顔でその様子を眺めてる。


「レオさんは温かかったから、離れるとちょっと寒く感じるね。」


「戻ってきてもいいよ?」


 レオさんから離れたら急に寒くなった気がする。太腿がヌクヌクだったからだろうな。温熱座椅子だったんだよ。ただね、もう座椅子はいい。レオさんの誘いは丁重にお断りさせて頂きます。


「もういい。ネロの膝の上とレオさんの膝の上。夜の間は殆ど二人の上だったもん。疲れた。あのね、レオさんが個人的に抱っこが好きって事で正しいの?」


「それで正しい。抱っこが趣味みたいなところがあるかも。」


 俺の想像通り、レオさんが個人的に抱っこが好きみたいだ。抱っこが趣味ってなんだって思っちゃったけど、そうだよね。そうじゃなきゃ、こんな長時間抱っこをする筈がない。


 思い起こせば、全然面識のないお泊りの時も、膝に座らせようとしてきた。ってか、実際に座らせてきた。この家でもレオさんは何の抵抗もなく俺を抱っこしまくってる。


「ネロも抱っこしてあげたらいいと思うの」


「ネロは重いから止めとく。」


 俺を抱っこするってのが代償行為ってのは分かっているんだよ。大儀名分が欲しいなら俺がくれてやる。提案をしてみたのに、レオさんはあっさりと拒否をしてきた。まぁ、そうだね。レオさんよりネロの方が体格がいいからね。


「じゃあ、ネロが抱っこしてあげれば?」


「暑苦しいから止めとく。」


 ネロの方が体格がいいなら、ネロが抱っこすればいいじゃん。俺は天才か。ニコニコでネロに提案をしたら、真顔で拒否されてしまった。冷たい目でレオさんを見据えてる。そんな顔をしたら怖いでしょ。


「ちょ、レオさん聞いた?久しぶりにネロのツンが出た。やっぱいいね。」


「そうだな、何か安心するよな。」


 ちょっとだけテンションを上げてレオさんに報告してみる。レオさんはまったりと答えてくれた。このまったり感が幸せだ。二人の間のソファの座面に両腕を伸ばして頭を伏せる。ぐでーっとしていたら、髪を撫でられた。


「指の温かさと強さから判断して。レオさん。」


「正解。」


 顔を伏せたままで、レオさんだと判断して報告する。見上げるとレオさんがにこっと笑顔で正解をくれた。ネロも穏やかな微笑みで見守っている。和やかな空気でほわっとする。


「琥珀、眠いのか?」


 ネロが心配そうに覗き込んできたけど、首を振る。また頭を伏せると、今度は優しく撫でられた。これはひっかけな可能性もある。でもね、二人の指使いは完璧に記憶してるんだよ。


「今度は優しいから、ネロ。」


「正解だ。」


 ネロを見上げると嬉しそうに微笑んで、正解をくれた。微笑んでいるネロは凄く綺麗に見える。レオさんも優しい笑顔で見守ってくれてる。そして、二人を取り巻く空気が甘くて心地いい。


「二人の指の感触はマスターしてしまったのだよ。確実に見分けられる自信しかない。俺は天才かもしれない。」


「どこで、その特技を披露する機会があるんだよ。」


 どや顔で特技を披露してみると、ネロは楽しそうに目を細めてくれた。レオさんは呆れた口調で突っ込んでくる。流石レオさんですね、的確な突っ込みです。


「ん~、強いて言えば。この家の中でまったりな時。」


 どや顔を継続で突っ込みにも的確に答えてあげましょう。レオさんの目が楽し気に細められたのが見える。レオさんが俺の髪を掻き上げてくれる。指使いが優しい。ネロと勘違いしてしまいそうな優しい指だ。


「そっか、まったりもいいよな。また時々遊びに来たいな。こうやってネロがいる時に三人で過ごしたいね。」


 レオさんが淋しそうに呟くのが不思議で首を傾げてしまう。レオさんは俺の髪から頬に手を移動させて、指で優しく頬を撫でてくれる。ネロと過ごしたいなら、いつでも来たらいいのに。ネロもそれを望んでいると思うのに、なんでそんなに淋しそうなんだろう。


「普通に来たらいいと思う。俺は全く気にしない。ってか、俺がいない方がいいか。二人がいい的な感じだよね。ごめん。」


 普通にレオさんに答える形で話していて気付いた。来たらいいって言ったけど、俺は二人の邪魔になってるじゃん。ネロは俺がいるとなかなか恋人モードになってくれないっぽい。レオさんも困っちゃうよね。シュンとして謝ってしまう。


「問題無い。望むのであればここで過ごせばいい。琥珀も出ていく必要はない。」


「まじか。それは嬉しい。琥珀はここにいなきゃ駄目だろ。お前込みでネロがいいって言ったのを忘れたのか。お前がいなきゃ、この家で過ごす意味がなくなるんだよ。」


 ネロが頭を撫でてくれた。低い声が優しく響いてくる。レオさんの要望だけじゃなくて、俺も受け入れてくれるネロの言葉が嬉しい。ネロの言葉に続いて、レオさんも俺を受け入れてくれている。俺がいなきゃ意味がないって言ってくれた。


 二人の言葉に感動して、ぶわっと涙が出てきそうになっちゃって、顔を伏せて涙目を隠してしまう。二人が同時に頭を撫でてくれる。優しくて大きな手だ。この家が俺の居場所。帰る所があるっていいよね。


 ホント幸せ。顔を伏せたままで、パーカーのフードをもそもそと被って顔を隠す。二人の手を巻き込んでフードを被ったら、二人は手を離してくれた。深くフードを被った状態で、袖でコッソリ涙を拭く。


「琥珀、どうした?嫌な事を言っちゃったか?ごめんな?」


 レオさんの慌てた声が聞こえる。謝ってくれる声。理由も分からずに謝っちゃいけないんだよ。心の中で突っ込みながら、首を振る。無言の空間が広がる。二人は戸惑ってるっぽい。


 困った、空気が変わっちゃった気がする。単に感動してしまって、涙脆くなっただけなんですよ。超恥ずかしいんですけど。困って顔を上げられずにいたら、ひょいと抱き上げられてしまった。


 視線が上向いたお姫様抱っこで、金色の瞳が見下ろしている。ネロは頷いて、ベッドに移動していく。ぼんやりとネロを見上げていたら、ベッドに下ろしてくれた。


 ネロは隣に座って、俺の目元を手で覆って低く言葉を紡いでいく。ヒンヤリした水の感触と、ふんわりとした風の感覚が気持ちよくて目を閉じてしまった。手を外されて目を開ける。目の前にはレオさんがしゃがみ込んでいて、心配そうな顔をしている。


「正解は。レオさんが俺込みのネロを好き。って言ってくれた事に感動して泣いたら、二人はどういう反応をするかの実験でした。ネロは合格。レオさんは、ギリ合格。」


 レオさんだけじゃない。ネロも心配そうな顔をしている。二人の心が嬉しい。ニッコリ笑顔で軽口を叩いてみた。ネロの視線が緩んでほっとした顔になってくれた。レオさんは、と顔を向けてみる。


 レオさんが圧し掛かる形で乱暴に抱き締めてきて驚いてしまった。乱暴で強い力だ。いつもはそっと抱き締めて、気遣う感じで少し力を込めてくる。でも今回は最初から力を込めてる。


 息が止まる程の強い締め付けに驚きながらも、レオさんの背中をぽんぽんとしてみる。レオさんはパッと腕を離して、心配そうに覗き込んできた。あれ、レオさんの心配顔が解除されてない。


「もう、レオさんは乱暴なんだから。そんな事をすると、死んじゃうよ?」


「つい、本気で抱き締めてた。痛くなかったか?」


 もう平気だよってニコっとしてみる。そして、一応レオさんの行動を窘めてみた。レオさんは困った感じで笑顔を返してくれた。本気で抱き締めたって言葉付きだ。


 ぽかんとしてレオさんを見つめてしまう。レオさんは困った顔のままだ。レオさんは不器用だから手加減しないと無理って言ってたよね。だから、練習するって言ってた気がするんだけど。


 ふふっと笑みが零れちゃう。だって、手加減してじゃなくて本気で抱き締めてくれたんだもん。レオさんの反応からは、それが真実って伝わってくるんだもん。


 抱き締めた後の心配顔は、本気だったから、平気かどうか心配だったんだ。嬉しくて、笑みが零れて止まらない。変な顔になってる自覚がある。ってか、泣きそう。


 レオさんに抱き着くと、そっと抱き返してくれた。これは手加減有りの抱き締めだ。さっきのとは全然違う。さっきのは力強くて、息が止まる程だった。レオさんらしい抱き締め方だった。


「レオさんの本気って超優しいんだね。もっと強い力なのかと思ってた。痛くない、死んでないのが答えだよ。」


 レオさんにしがみ付きながら、話し掛ける。レオさんは片手で俺の背中を抱き締めながら、もう片手で頭を撫でてくれる。フードの上から、温かいレオさんの手のひらを感じる。つい、で抱き締めたのに俺は死んでない。ネロは器用だからできて当たり前っぽいけど、レオさんもしてくれたのが嬉しい。


「ごめんな、つい、やっちゃった。琥珀が死ななくて良かった。もし死んでたら、文字通りネロに殺されてた。」


 レオさんは謝ってくれるけど、俺は凄く嬉しいの。でも、言葉が出てこない。お礼を言いたいのに素直に言えない。レオさんが相手だと、時々素直になれない感じがある。でも、素直になり過ぎちゃう時もある。


「ネロはそんな事はしないよ。ね、ネロ。レオさんには絶対、物理的にも心理的にも危害は加えないよね。」


「そうだな、レオにはそのように対処しよう。」


 レオさんがギュってしてくれてたから落ち着いた。腕を離すと、レオさんも離してくれた。ネロに顔を向けて、レオさんの心配をなくしてあげる事にした。返ってきたのは、超事務的な答えだ。


 でも、これがネロの答えだ。レオさんが大事だけど、ネロも素直になれないらしい。俺もネロも素直になれないとか、レオさんは大変ですね。素直じゃない恋人と、素直じゃない子供とか。レオさんは可哀想。特に、ネロは放っておくとツンツン大変だからね。俺が適度に答えを導いてあげないとだね。


 ガトは結構乱暴ってのは知ってたけど、レオさんの乱暴な抱き締めで改めて理解した。俺に対しては二人は優しく接してくれるけど、それ以外には結構荒っぽいんだよね。ネロがアルさんやレオさんを放り投げたのを見た事もあるし、レオさん自身がもう乱暴者って感じだ。


 荒っぽいガトは喧嘩も荒っぽくなるのかな。レオさんとネロの喧嘩っぽいのはさっき見た。あの時は物理的な喧嘩じゃなくて、静かに睨み合うような喧嘩だった。


 でも、レオさんが怯えるくらいの精神的圧力をネロが与えていた。亜人は本能的な危機に弱いってのは聞いたけど、要するに、ネロが殺気に近い本能的な危機を呼び覚ます行動をしたって事だよね。

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