183 軽蔑してないか?
二人は疲れ切っているようだ。この状態でレオさんの膝の上に座っているのは負担でしょう。そろそろとネロの太腿から足を引き抜く途中で、ネロに足首を掴まれてしまった。くそぉ、捕まってしまった。
じゃあ、一旦、ネロの方に移動しようかな。で、隙を見て下りるか。そろそろと体を起こしてみたら、とレオさんに肩を抱かれてクッションに押し付けられてしまう。
「腹筋が痛い。離して。下りる。」
「痛くなる程の腹筋は無いだろ?」
疲れ切って魂が抜けかけてたのに、なんでこんな力強いんだよ。レオさんを見上げて文句を言ってしまう。レオさんは楽しそうに目を細めて言い返してくる。
「腹筋くらいある。少しだけどあります~。無い訳ないじゃん。」
「ほぅ?じゃあ力入れて見ろ。触って確かめてやる。」
むっとしながら言い返すと、レオさんが頬を緩めて頭を撫でてくれた。そして、パーカーの隙間からお腹を触ってくる。お腹をヤワヤワと揉んでくるレオさんの手のひらはめっちゃ温かい。
「なんかイヤらしい。目付きもイヤらしい。」
「それで正解。イヤらしいんだよ、俺は変態だからな。さっさと腹筋に力入れてみろ。もっとイヤらしく揉んで欲しいのか?ん?」
レオさんを睨んで感想を述べてみた。レオさんは気にした様子もなく、腹筋を確認する気が満々だ。ってか、顔は真面目なのに手つきがイヤらしいんだよ。
お腹を撫でていた手を臍の辺りに固定したレオさんが首を傾げる。観念してお腹に力を入れてみた。レオさんは筋肉を確かめるように、少し上下に動かした後でフニフニッと揉んできた。
「やっぱねぇじゃねぇか。一応は気持ち程度にはあるみたいだけどな。」
「気持ちって大切だよね。うん。だから、その気持ちが痛いの。離して。下りる。」
一応はあるって言ってくれた。やっぱりあるじゃん。ニコニコになったらレオさんが怯んだ気がする。レオさんの弱点は、一番は涙目で、二番目に笑顔なんだろうな。
この調子でレオさんの弱点を把握していけば、俺はいつかレオさんに勝てる日が来る。気がする。レオさんが俺をじっと見つめて微妙な顔になってしまった。もしかすると、読まれてしまったのだろうか。少し不安になったら、レオさんがポンポンと頭を撫でてくれた。
「ん~、じゃあ。一旦下りていいよ。スイーツの時に戻ってきてね。じゃあ一旦休憩。15分後に集合。」
「分かった。じゃあ解散します。ネロも離して。」
束の間のとはいえ、レオさんは俺を解放してくれた。短時間だけど自由を獲得できた。俺の脹脛を掴んでいるネロにも声を掛けてみると、ネロは直ぐに手を離してくれた。レオさんとは大違いである。
解放されてほっと一息吐いて、レオさんの膝から下りる。ん~っと伸びをしていたら、すかさずネロに抱き上げられてしまった。ネロは俺を膝の上に置いて、後ろからギュッと抱き締めて、肩に頭を乗せてきた。
解放されたと思ったら、直ぐに捕獲された件について。ってか、軽々と持ち上げてくるけどね。俺は普通に普通の体型だよ。まぁ、平均よりは小さい自覚はあるけど、体重もちゃんとある。
ぬいぐるみを抱き上げる感覚で持ち上げるってどんな筋力だよ。ネロもレオさんも筋肉がおかしい事になってる可能性しかない。ガトは凄いな。ガトというか、この二人が凄いの間違いか。
「ネロ、離して。休憩時間だよ。」
ネロに解放を要求してみたけど、ネロは俺の肩に頭を置いたままで黙り込んでいる。どうしたのかが分からなくて、ちょっと困ってしまった。レオさんに顔を向けると、レオさんはにこっと笑顔をくれて、お茶を淹れに行ってしまった。ネロはどうしたんだろ。顔も見られないし、何も話してくれないから、何も分からない。
「ネロ、ちょっとだけ腕を緩めて。離れないから。」
ネロにお願いをしてみたら、ネロが顔を上げて緩めてくれた。ネロの腕の中でクルっと振り返って、ネロと向かい合わせになってみた。レオさんが好きな、向かい合わせで太腿の上に座る体勢だ。
向かい合わせで、ネロの頬を両手で挟んで覗き込んでみた。ん、真顔だね。感情が無くて何も分からない、ネロお得意の無表情な顔だ。ポーカーフェイスのネロはかなり手強い。
「何か不安になっちゃったの?俺が原因で魔法が変になったのが分かって、やっぱり不安になっちゃった?」
ネロと目を合わせながらゆっくりと優しく聞いてみる。ネロは耳をきゅっと倒して、小さく首を振って答えてくれた。ん~、どっちだろ。魔法が不安じゃないって意味なのか。言いたくなくて首を振ったのか。
「ネロ、俺は勘も観察する力もないから、言葉で言ってくれないと分からない。」
「軽蔑してないか?」
目を合わせてゆっくり話しかけると、ネロは不安そうに眉を寄せて答えてくれた。ネロの言葉の意味合いが理解できなくて首を傾げてしまう。軽蔑って何に対してなんだろ。
「なんで?軽蔑する事なんてなかったでしょ。」
「変態って、断定。」
理解はできないながらも、言葉は分かる。どういう意味なのかを優しく問いかけてみる。金色の瞳が揺らいだのが見えた。ネロが負の感情をストレートに瞳に出すのは珍しい。言葉よりその瞳に気を取られてしまった。
そして、ネロの言葉を理解して、思わず唖然としてしまう。フギンとムニンの言葉を引き摺っていたって事みたいだ。ってか、さっきまで普通だったじゃん。ショックを受けた様子もなく、全然普通に冷静なネロだったよね。なんでイキナリこんなに落ち込んじゃったんだ。
ネロに答える事ができずに止まってしまう。ネロが悲しそうな顔をして俯いてしまった。一旦、立ってくれていたネロの耳も、また倒されてしまう。あぁ、ネロの言葉を肯定した訳じゃないのに、沈黙は肯定って取られちゃったっぽい。
「だから言っただろ。俺とネロは瀕死になったんだよ。反省しろ。」
ぼんやりとネロを見つめていたら、戻ってきたレオさんが頭をわしゃわしゃっと撫でてきた。そして、静かに反省を促してくる。レオさんはネロの頭も乱暴に撫でている。大きな手で耳も髪も一緒にわしゃわしゃってしている。でも、レオさんが手を離しても、ネロの耳は畳まれたままだ。
レオさんが隣にドカッと座って、カップを手渡してくれる。お茶を飲んで落ち着いたら理解できた。瀕死になる程のショックを受けたけど、ネロの精神力で持ち堪えていた。そして、全てが終わった瞬間に、その精神的苦痛が一気にきたって事みたいだ。
レオさんが乱暴に撫でたせいで、ネロの髪がぼさぼさになってる。レオさんにカップを返して、ネロの髪をゆっくり整えてあげる事にした。髪に指を滑らせると、ネロの耳がそろそろ、と少しずつ立ってきてくれる。焦らずゆっくりとネロの髪を撫で続ける。
ネロが顔を上げてくれる気になるまで、優しく髪を撫でる事にした。ネロの髪は少し柔らかくて芯がある感じで指通りが気持ちいい。ネロは耳を完全に立てた後で、ゆっくりと顔を上げてくれた。
目を合わせて気持ち良さそうに目を細めているネロを軽く睨んじゃう。ネロは目を丸くしてしまった。睨まれるとは思わなかったらしい。
「ってか、レオさんと付き合ってる時点で、ネロは変態が確定してるんだよ。断定されたくらいで瀕死になってたら、いつでも瀕死になっちゃうよ?それに、俺も変態って言われちゃった。ネロは俺を軽蔑するの?」
驚いた表情のネロが口を開く前に、話し掛けてみる。ゆっくりと、穏やかに優しく声を出す。でも、睨みはやめない。ちょっとだけレオさんのギャップを出す手法を真似してみた。脳が混乱してくれるかな。
「琥珀は可愛い変態と言われた。」
ネロはふっと笑ってくれた。驚いていた顔が微笑みに変わってくれた。俺も睨むのをやめてニコっとしてみる。ネロがコソっと呟く声が聞こえた。目を細めて楽しそうに笑ってくれてる。
「あ~、ソレを聞いた時のネロの顔は可愛かった。面白い事を聞いたって感じで、笑ってた。」
「琥珀に良く似合ういい表現。」
ネロが嬉しそうに俺の話を聞いてくれた。いつもの包み込んでくれるような優しい眼差しで答えてくれる。そして、ネロはレオさんが乱した俺の髪を優しく整えてくれた。優しい指とふわっとネロの香りに包まれてスゴク落ち着く。
「マジか、俺に似合うってヤバいね。まぁ、あれだけ尻尾とか耳とか言ってたらそうだよね。ね、ネロ。それと一緒だよ、変態にも色々あるんだと思う。だから、ネロが変態だとしても、レオさんみたいなヤバい変態じゃないんだよ。ネロはね、言うなれば、綺麗な変態だね。」
ネロに落ち着いて欲しかったのに、俺が落ち着いてしまったでゴザル。ネロに髪を撫で慣れながら、目を見てゆっくりと語り掛ける。ネロは目を細めて静かに聞いてくれている。
話し終わってにこっとしてみたら、ネロも笑顔になってくれた。ちょっとは元気になったみたいで良かった。解決したトコロで、ネロの膝から下りようとしたけど、腰を引き寄せられてしまった。体がネロに超密着してる。
文句を言う前に、ネロがしがみ付くように背中に腕を回してギュッと抱き締めてきた。密着した体勢に少し驚いちゃったけど、ネロがまだ不安ってのは分かった。安心して欲しくて、目の前にあるネロの首に軽く唇を当ててみる。ネロの腕が少し緩んでくれたから、思いは伝わったかな。
「ネロ、下りる。」
「駄目。」
ネロの頭を撫でて、下りるよ、って伝えてみた。ネロは顔を上げて悪戯っぽい微笑みを見せてくる。そして、レオさんみたいに拒否を示しながら腕を解放してくれた。レオさんの真似っこらしい。お茶目なネロは可愛いですね。
「例えネロがレオさんと同等の変態だとしても、軽蔑なんてしない。俺の中のネロはどんなネロも同じネロだから。」
「そうか。」
ネロの上から下りる前に、もう一回、俺の気持ちを伝えておく事にする。ネロは嬉しそうに笑ってくれた。俺の心はちゃんと届いてくれたっぽい。ネロにギュッと抱き着くと、ネロもきゅって力を込めて抱き締めてくれた。ネロの力が心地いい。本当に自然に俺に合わせた力加減になってる感じが嬉しい。
腕を離すと、ネロも離してくれた。ネロの太腿の上から移動して、もう一回、ん~と伸びをする。レオさんに抱っこの次は直ぐにネロに抱っこされちゃったからね。ちょっと体を伸ばしたくなったんです。でも、抱っこの時間が長かったけど、思ったより体は固まってない。不思議だ。
「さっきから黙って聞いてたら、ネロを慰めると見せかけて俺を貶してただけじゃねぇか。もう時間だ、さっさと俺の上に戻ってこい。」
「ヤダ。まだ休憩してないもん。」
伸びをしていたら、レオさんから戻ってこいの要請がかかってしまった。レオさんをちらっと見て、プイっと顔を逸らす。そして、拒否を伝えてみた。15分休憩でレオさんの上に戻るって、冗談じゃなかったのかよ。
「時間は過ぎたんだよ。捕まえてほしいのか?ん?あ、成る程ね~。琥珀はそういうのが好みなのか。それは俺が悪かった。」
言い返してきたレオさんが何かを勝手に納得してしまった。レオさんがゆらっと立ち上がったのが分かる。顔を逸らしていても、レオさんの尻尾が見えるんだもん。今立ち上がったよね。じりっと後退ってしまう。俺の動きに合わせて、レオさんが少し近付いた気がする。
「まだネロと大事な話をしてるの。邪魔しないで。ね、ネロ。」
「そうだな、邪魔をするな。」
腰が引けながら、ネロに助けを求めてみた。今回のネロは俺の味方だ。そう理解できて、レオさんを見上げると、レオさんは静かに俺を見下ろしていた。
だからね、その顔は怖いから。なんで爽やかに笑ってるのに、目だけは怖いの。そんな風に細めたら、睨んでるみたいに見えちゃうよ。また、じりっと後退ってしまう。レオさんが片眉を上げて少し近付いてきた。
怖い迫力のレオさんから逃げ腰になっていたら、レオさんの迫力がなくなった。そして、しゅんと肩を落としてしまう。耳も寝かされて、尻尾もだらんとなってしまった。
「どう聞いても終了してただろ。ネロは完全復活。対する俺はまた瀕死だよ。」
「また瀕死?何かあったの?。」
そして、悲しそうに呟くレオさんが不思議で首を傾げてしまった。また瀕死、って言ってたね。何があった。少しの間でネロが何かをした可能性がある。
ちらっとネロを見てみると、ネロは美味しそうにお茶を楽しんでた。メッチャ寛いでるじゃん。超リラックスじゃん。こっちは何故か緊迫してるのに、ネロの周りだけ和やかなんですけど。
「ん?続きが聞きたかったら、俺の上に来るか?」
「何かイヤらしい。床でいい?」
レオさんが力なく答えてくれる声が聞こえて、レオさんに顔を戻す。元気なく微笑んでるレオさんだけど、ちょっとだけ胡散臭い。演技の可能性しかない。首を振って、床でいいと主張しておく。
話なら床に座って聞けるし、それでいい。許可を取る風を匂わせたけど、ささっとネロの足元に腰を下ろしてしまう事にする。レオさんが溜息を吐きながら、カップを渡してくれた。
笑顔で受け取って一口頂く。しゃがみ込んで俺を眺めてるレオさんに、美味しいよってニコってしてみる、レオさんの頬が緩んで嬉しそうな笑顔になってくれた。レオさんにカップを返すと、当たり前のように一口飲んでローテーブルに置いてくれる。
「ってか、さっきは俺の上に長くいたけど、体が痛いとかはない?張ってるとか凝り固まったとかは平気?」
「うん、平気。痛くないし、凝ってもない。かなり居心地が良かった。温かくていい座椅子でした。」
レオさんは俺をぼんやりと眺めながら気遣う感じで聞いてくれた。ニッコリ笑顔で平気だよって返してみる。思い返すと、スゴク居心地がいい空間だった。
背中にクッションを置いてくれたからか、座る角度も完璧でリラックスできた気がする。あとは、温かくて安心する空間だった、気もする。途中暴れたら腹筋がめっちゃ痛かったけど、それ以外は文句なく満点の座椅子感があった、気がする。
「ほぅ?」
レオさんが目を細めてニヤッと笑ったのが見える。それを見て悟った。くそぉ、嵌められた、と。スッと立ち上がったレオさんの次の行動が分かり過ぎる。ネロの脚に縋り付こうと思ったけど、レオさんの行動の方が早かった。
抵抗虚しく、レオさんに楽々と抱き上げられて、さっきと同じ、レオさんの胡坐の間に置かれてしまった。背中にクッション置かれて、座り心地も完璧である。
ネロも当たり前のように、俺の足首掴んで自分の太腿の上に乗せている。更には足を組んでリラックスした様子だ。足を組まれると、角度的に俺の脚がかっちりと嵌まるんだよ。
レオさんとネロの連携が取れ過ぎていて怖い。めっちゃ連携攻撃を仕掛けてくるようになっちゃった。ネロは俺の脚を抑えていて動けないし、レオさんは俺の背中から腰に掛けて腕を回してるし。二人による連携の拘束は完璧だった。
全ては無言の中の数秒で完了していた件について。もうね、何も言えない。レオさんの強引さの前には、抵抗の全てが無駄になる気がしてくる。眉を寄せてレオさんを見つめたら、レオさんは楽しそうに見下ろしてきた。
「レオさん、忠告しておく。」
「ん?どした?」
もうね、レオさんには忠告しかできない。俺にできる事はそれだけだ。せめて、レオさんには理解して欲しい。静かに語り掛けると、レオさんの片眉が上がった。静かで落ち着いた声が問い返してくる。
その顔はカッコいいですね。キリっと顔ですよ。シャープなレオさんが知的に見える瞬間である。そっか、ネロはこんなレオさんに落ちてしまった訳ですね。成る程~、ネロが惚れた顔か。ふむふむ。
「無理遣りは良くないと思うの。俺だからまだ許されるけどね、他の人にしたら犯罪だからね。地位のある護衛さんなのに、掴まるとかはイヤでしょ?ネロも泣いちゃうよ?」
ネロを悲しませる事態だけは回避して欲しい。俺の心は伝わったのだろうか。レオさんが楽しそうに目を細めたのが見える。この顔は揶揄い顔だ。って事は、確実に伝わってない。
レオさんはチャラいから、絶対ヤバい事をしでかしそう。そして、いつか掴まっちゃう未来が見える。俺がちゃんとレオさんを諌めないとネロが泣いちゃう可能性しかない。レオさんをキッと睨んでみた。
レオさんが目を丸くして、そして、優しい顔になってくれた。俺の頬を指で撫でてくれるレオさんからは、変態の要素が消えた気がする。どうやら、俺の真剣な気持ちが分かってくれたようだ。
「そうだな~、気を付けるわ。」
静かなレオさんの声が聞こえた。気を付けるって言ってくれた。やめるとは言わなかったのが気になるけど、レオさんなりの頑張りなんだと思う。レオさんにとっては、ここら辺が妥協点かな。
レオさんの頭を撫でて頷いてみる。レオさんがネロに顔を向けて黙り込んでしまった。真剣に考えてくれてるらしい。俺は嬉しい。レオさんはいい子だね。ちょっと嬉しくてレオさんの頭をワシャワシャとしちゃう。
ネロが戸惑った顔をしてるのが気になる。そして、レオさんの肩が震えてる。あ、泣かせちゃったのかな。体を起こしてレオさんを覗き込もうとしたけど、レオさんの腕が許してくれない。俺には見せたくないらしい。
ネロがふわっと優しい笑顔になった。レオさんを撫でてる俺の手の上に、ネロが手を重ねてきた。そして、俺の手を握ってレオさんの頭を撫で始める。
レオさんは未来の自分の犯罪を思い描いて、肩が震える程の動揺をしちゃったのかもしれない。ネロはレオさんを安心させようとしてるっぽい。ネロの愛が伝わって、心がぽかぽか温かくなってくる。
まぁ、レオさんは反省をしてくれたみたいだから、これ以上はいいか。それより言いたいのは、ですよ。もうね、ずっと思ってた。二人は俺をぬいぐるみ並みに軽々と運んでいくんだけど、どんな筋肉なんだよ。
「そうして下さい。ってか、聞きたいんだけど。二人は俺をぬいぐるみでも持つみたいに抱き上げたり、持ち上げたりするじゃん。俺はそんなに軽いの?」
「まぁ、控えめに言っても軽い。」
「軽い。」
不思議に思っていた疑問に対して、二人はあっさりと答えてくる。二人の答えはほぼ一緒。ん~、俺はこの世界に来てから質量が変わったりしたのかな。余りに軽々と運ばれ過ぎてる気がしてたんだけどな。俺自身は行動する上で体感は何も変わらないから、重力的な何かではないと思うんだよ。
(琥珀様の体重は微減していますが、概ね変わってはいません。ガトの個体『ネロ』、『レオ』、お二方の力の値はとても高く、筋力が異常に発達している為、軽く感じるのだと思われます。)
力の値も高いし、筋力が異常に発達してる。見た目通りに筋肉が凄くて、筋力もヤバいって事だよね。凄いな。レオさんの二の腕を掴んでみる。見た感じは細いのに、案外細くないんだよ。骨太で筋肉ムキムキ。脂肪の類は一切無さそうな腕だ。
胸を触ってみる。ネロよりは薄い気もするけど、がちがちの筋肉がヤバい。ネロの服のおかげか、体温がそんなに高く感じない。だから居心地がいいのか。いつもだとレオさんの熱い体温のせいで、抱きかかえられてると熱く感じてた。今日はほんのり温かくて居心地が超いい。
「何、どしたの。イキナリ胸を触るとか、琥珀は大胆だな。」
「違う。筋肉の触診をちょっと。あのね、気が付いたんだけど。ネロの服は体温を外に伝えない効果とかがあるの?」
レオさんは反省から立ち直ったらしい。揶揄い交じりの軽口をたたくレオさんを睨んでしまう。そして、気になった服の事をネロに聞いてみた。
「ある。」
「やっぱそうなんだ。だから、居心地がいいんだね。」
「成る程?」
ネロが静かに同意してくれた言葉を聞いて納得できた。やっぱり思った通りらしい。ネロが可愛く首を傾げて疑問を伝えてくる。レオさんは口を挟まないけど、ネロと同様に疑問の視線を投げかけてきた。
「いつもだとレオさんが熱くてイヤってなってそうなのに。今日はいい温度なんだもん。」
「へぇ、そうだったのか。俺も何気にこの服を着てると暑くない。ネロの服はすげぇな。」
レオさんに視線を移して説明をしてみる。レオさんはふむふむっと頷いて、レオさんの体感も教えてくれた。レオさん的にも快適な服だったらしい。二人で同時にネロを見てみる。ネロは優しい笑顔で頷いてくれた。ホンワカするいい笑顔だ。
「で?レオさんはなんでまた瀕死になったの。」
「なんでってお前。あんだけ俺を貶して落とした上に、ネロとイチャラブしやがって。」
話を戻して、レオさんの瀕死の謎に迫ろうかな。短時間で再度瀕死とか、ネロはどんな攻撃を仕掛けたんだよ。って思ったら、俺も要因の一部だったらしい。話を聞く限りは嫉妬的な感じっぽい。それに加えて、俺の発言がちょっとだけ加わって瀕死になったのか。成る程。レオさんは変なトコロで繊細だからね。
「貶してないし、イチャラブもしてないじゃん。」
でもね、訂正はしておきたい。レオさんのいう事は何一つ当たってない。どう変換したらイチャラブになるんだよ。貶すってのも分からない。
「さんざん俺を変態呼ばわりしてただろ、しかもヤバい変態って。あとな、向かい合わせで膝の上とか。ヤバいだろ。しかも最後は腰を引き寄せられて密着してただろ?確実にヤバい、思い出しただけでも興奮してくる。」
レオさんは俺の言い分を聞いた上で静かに反論を始めた。そして後半はテンションを上げてきてしまう。貶すとは、ヤバい変態呼ばわりをした事らしい。まぁ、ソコは認める。
でもね、向かい合わせで座るのはレオさんだってしたじゃん。寧ろ、レオさんの大好きな体勢っぽいじゃん。ヤバいってなんだよ。腰を引き寄せられて密着は、俺も驚いたけど。ネロが不安でくっつきたかったんだと思うから、仕方なかったの。レオさんの考えてるような興奮する事態ではないから。
レオさんだって不安になった時に、俺を大きなヌイグルミ扱いして抱っこしたじゃん。それと一緒だと思うんですよ。結論としてはヤバい事も、興奮するような事も一切なかった。
「レオさんは全然瀕死じゃない、超元気じゃん。それに、ヤバい変態ってのは、どう聞いてもレオさんへの褒め言葉でしょ。後、言いたいのは。レオさんも散々向かい合わせで俺を膝の上に座らせてきたよね。」
レオさんの反論に対して、更に反論を返してみた。じと目でレオさんを睨むとレオさんが目を逸らしてしまう。レオさんを見続けると、目を泳がせたレオさんは最終的にネロに目を向けてしまった。
俺の意見の方が正しい事が証明されましたね。レオさんのテンションも落ち着いたようで何よりです。まぁ、ネロのお膝抱っこは普通に嫉妬に発展しても仕方なかったかなとは思う。
ってか、今のこの状態がお膝抱っこじゃん。ネロは嫉妬とかしてないよね。平気かな。俺もネロを見てみる。ネロは優しい瞳で俺達を見守っている。あ、そうだよね。嫉妬とかになる訳がない。どう見ても子供を抱っこしてるの図だもん。
「聞きたいんだけど、いい?」
「ん?」
ってか、疑問に思わずに今まで過ごしてきたけど、急に気になってしまった。今のこの状態で聞くのが一番な気がする。レオさんを見上げると、レオさんは視線を戻して首を傾げてくれた。
「ネロもレオさんも抱っこが好きだよね。ガトの習慣なの?」
「え、あ。うん。そうだよ、そう。家の中ではぎゅってするんだよ?」
普通に聞いたんだよ。それなのに、レオさんは急に狼狽え始めた。これはどうだろ、レオさんは真実を言っているのだろうか。レオさんをじっと見つめてみる。
レオさんは目を泳がせた後で、目を合わせてきた。スッと真剣な顔になったレオさんがじっと見返してくる。ん~、真面目な顔になったって事は、ホントの事だったのだろうか。
「じゃぁ、お膝抱っこもガトの習慣?」
「う、うん、そう。」
更に追及をしてみたら、レオさんがまた歯切れ悪く返してきた。目は真剣なままだけど、眉がぴくっと反応をしたのが見える。言葉の上では肯定してるけど、言動はそうは言ってない。じーっとレオさんの目を見て真意を探ってみる。いつもなら饒舌に説明をするレオさんの口はもう開かれない。
「ネロ、ホント?」
「う、違う。」
諦めてネロに聞く事にした。レオさんを見つめ続けていたから、ネロは自分に話を振られるとは思ってなかったらしい。ネロが歯切れ悪く答えてくれる声が聞こえた。
ネロの言葉を聞いた瞬間に、レオさんの表情が変わった。ヤバいって感じで耳を伏せてアワアワし出した。さっきまでキリっと真面目顔をしてたのに、超焦ってるじゃん。キリっと顔は演技だったらしい。
「レオさん、どういう事なの。ネロは違うって言ってるよ。」
「だって、琥珀とネロがべたべたくっついてたから、ちょっと妬けた。」
慌てるレオさんを見据えて、静かに聞いてみる。レオさんがシュンとなって、元気なく答えてくれた。俺は負けない。こんな可愛い神妙な態度を取っても、今回は負けないからね。
「ヤキモチを妬いたなら、ネロにくっつけばいいじゃん。なんで俺を膝に乗せる必要があるのかな。」
レオさんを睨み続けると、レオさんの伏せられた猫耳がプルプルし出した。めっちゃ可愛い。でも、負けない。猫耳の可愛さに絆されそうになる心を叱咤して、強めにレオさんを非難してみる。
「ネロは重いし。琥珀は軽いから丁度いいでしょ。」
「別に膝に乗せなくてもいいじゃん。俺はもう下りる。」
レオさんが目を伏せてしまった。そして、拗ねた口調で言い訳を始めた。ってか、なんで膝に乗せる事に拘るんだよ。そりゃ、ネロをお膝抱っこしてたら重そうだけど。それは完全に同意できるよ。でも、膝に乗せなくても普通にくっつけばいいだけじゃん。
「じゃぁ、スイーツの間だけ。その間だけこのままでいいだろ?居心地いいって言ってたし、もうちょっとだけまったりしよう。」
レオさんが覗き込んできた。そして、じーっと見つめる俺の様子を窺いながら恐る恐る、提案をしてくれた。俺が居心地がいいのと同じで、レオさんも居心地が良かったのかな。
俺達を見守っているネロの視線が温かいからかもしれない。俺とくっついてると、ネロの優しい視線が自分に向いてくれるのが嬉しかったんだ。レオさんがこんな気分になっちゃう程、ネロは普段はツンツンしてるって事だ。ツンツンというか、クールな感じという方が正しいか。
レオさんは嘘を吐いてまで俺を抱っこしてたかった。それは、ネロを感じたかったから。これが最終結論だ。そう考えると、これ以上は非難できなくなっちゃう。
「ん~、どうしよっかな。」
レオさんの気持ちがちょっとだけ分かって、レオさんの提案に乗るか迷ってしまう。だって、俺が膝にいる事でレオさんもネロも幸せになれるんだよ。それを傍で感じる俺も幸せになれるじゃん。
「レオ、一旦琥珀を解放しろ。ベッドを作る。テーブルと椅子を動かせ。」
「へぃ。」
ネロがニコっとして、足を解放してくれた。立ち上がったネロがレオさんに指示を出している。レオさんは素直に従って、俺をそっと持ち上げてソファに座らせてくれた。
ネロは考える時間をくれたみたいだ。俺をよく見ていて気持ちを理解してくれるってのがよく分かる。レオさんはテーブルと椅子を端に寄せて戻ってきた。そして、俺の隣に腰を下ろして、肩に腕を回し髪を撫で始める。




