179 はいはい、じゃあ終り
もういい、色気のある話題はこれくらいにしておこう。俺がドキドキしちゃうからね。違う話題、で思い出したのが、レオさんの素材箱に溢れていた素材達だ。
「レオさんがキープしてる素材は、何かに使う為に取ってあるの?」
「ん~、売るのが面倒で放置してたら貯まった。」
何気なさを装って聞いてみると、レオさんらしい返答が返ってきた。面倒って、素材を売る為には面倒臭い手順を踏む必要があるのだろうか。確かに、価格を調べていた時に、本の中では素材に関しては買い取りの価格が記載されてなかった。何かしらの面倒臭い何かがあるのかもしれない。
「面倒ってなんで?普通に売るだけじゃなくて、変な手順があるの?」
「ちまちま売るのは面倒だろ。貯まったら纏めて売れば一回で済む。」
素材の売却には複雑な手順があるのかと思ったら違ったらしい。言葉通りのそのままの意味で面倒だからだったみたいだ。実にレオさんらしい返答だった。でもね、纏めて売るのはいいけど、持ち運べるのかよ、って程の量だったけど、平気なのかな。
「成る程。合理的だね。」
「そそ。そんな事に時間を使うなら、もっと有意義に使いたいだろ。」
レオさんの言い分はある程度納得のいくものだった。うんうん、と頷いていたら、レオさんが更に言葉を重ねてくる。有意義な事、か。そうだね。時は金なりって言葉もあるから、そういわれるとそんな気もしてきた。レオさんも偶には普通に普通の事をさらっというんだよな。
「有意義ってどんな事に使うの?」
「それはアレだよ。まぁ、気持ちいい系の事とか?」
「なんで疑問系なの。キモイ。」
素朴な疑問を投げかけてみると、レオさんが凄くいい笑顔を浮かべた。胡散臭い程のいい笑顔で、実にレオさんらしい返答を返してくる。まぁ、そうだよね。レオさんが普通に普通の事を言う訳はなかった。ジト目で見据えて、本心からの言葉を口から出してみた。
レオさんは堪えた様子もなく、楽しそうにニコっとしてくれる。爽やか過ぎるレオさんの笑顔が堂々とし過ぎていて、俺の方が恥ずかしくなって目を逸らしてしまった。レオさんは追随するように覗き込んでくる。
レオさんは恥ずかしがっている俺の表情を楽しむつもりらしい。レオさんの意図が分かって、今度こそ本気で睨んでしまった。レオさんの目が丸くなった後で、嬉しそうにニヤッと笑ったのが見える。
「マジで、その目付きはヤバい。ゾクゾクする。その顔でなんか卑猥な事を言ってみな?」
顔を寄せたレオさんが囁くように少し低い声で揶揄ってくる。レオさんが変態になってしまった。目付きがイヤらしいし、表情もイヤらしいし、言葉もイヤらしい。ネロはこんなレオさんも好きなのだろうか。うん、きっと好きなんだと思う。ネロはどんなレオさんも大好きなんだろうな。
「ネロ、レオさんが痴漢で変態で変質者なんですけど。」
「いつもの事だ。」
「ネロはいつでも冷たいよな。さらっと貶してくるとか、凹むわ。」
ネロ側に精一杯寄って、レオさんの視線から逃げてみる。ネロを見上げて泣き付くと、ネロは嬉しそうに目を細めてサラッと答えてきた。俺の言葉を一つたりとも訂正しなかった。やっぱり、ネロはこんなレオさんが好きらしい。そして、レオさんがぼやく声が聞こえる。
ネロはレオさんに目を向けて嬉しそうに口元を緩めた。レオさんもネロと目を合わせて楽しそうに目を細めている。見つめ合う二人の空気はホンワカして温かい。ネロの圧倒的な包容力が目で見える錯覚がスゴイ。レオさんを包み込むネロの愛を感じた。
「レオさん、ネロは大人だね。怒らなくて良かったね。」
「そうだな、ここら辺で止めておくか。」
二人の雰囲気が嬉しくてにこにこでレオさんに話し掛けてみる。レオさんは俺を揶揄うのをやめてくれるらしい。ネロの気を引きたかったから、俺を揶揄ってきたって事が良く分かる展開だった。
ネロは前方に目を向けてしまったけど、横顔は楽しくて嬉しそう。こんなレオさんも好きとか、ネロは懐が深いなって思う。ってか、こんなレオさんがいいの間違いか。ネロも中身はレオさんと一緒って言ってたからね。納得。
ずっと二人に手を繋がれて歩いていたけど、熱いんだよ。特にレオさんがヤバい。レオさんの握ってる方の手をぶんぶんと動かして振り払おうとしてみたけど、離してくれない。
「手が熱い。そろそろ離して。」
「唐突だな。でもいいの?もう直ぐ家だよ?ここで離しちゃったら、俺とネロは家に帰って抱擁できなくなっちゃうんだけど、悲しくない?明日は離れ離れになっちゃうのに、超悲しくない?」
言葉でも離すように促してみると、レオさんは切々と語ってくる。レオさんの話を聞いていて、納得しかけちゃった。けど気付いた。別に手を離したからといって、ハグをしちゃいけない訳じゃないじゃん。
「勝手にハグでもなんでもすればいいじゃん。」
「え~。折角、琥珀が許可をくれたのに。それを違えるのは気分的に嫌だな。」
ちょっとだけ突っ込んでみたら、レオさんは悲しそうな顔で更に言い募ってくる。それを見ていて理解しましたよ。要するに、ですよ。屁理屈を並べてまで、ネロと手を繋いでいる感覚を共有していたいって事ですか。成る程ね。
少し困ってネロを見上げてみる。ネロは前方に向けた視線を俺に向けてはくれない。でも、嬉しそうに口元が緩んでる。ネロからレオさんを窘めて貰おうと思ったけど、ネロもレオさんと同じ意見っぽい。
レオさんの想いは重々分かりました。でもね、熱いんだよ。もういい、許可を出そう。手を繋ぎたいなら、ネロと家に帰って繋げばいいじゃん。
「じゃあ、許可する。手を繋ぐとかは気にせずに、家に帰って好きなだけ抱き合って下さい。」
「抱き合うとか言っちゃうんだ。琥珀は大胆だな、興奮する響きだった。」
改めて許可を出して、さっさと手を離してと促してみた。でも、レオさんはニコニコ笑顔で見返してくるだけで離してくれない。そして、しみじみと俺の発言を振り返った後で、満足そうに頷きながら興奮するとか言ってきた。でもね、俺は興奮する事なんか何も言ってないから。
「う~、ネロ。レオさんが意地悪な事しか言わなくなっちゃった。」
「レオは元から意地悪。」
ネロに泣き付いてみたけど、ネロはレオさんの味方らしい。ってか、何気にネロにもずっと手を握られてたんだった。ネロの方の手もブンブンと振ってみたけど、駄目だ。
「はいはい、もうすぐ家だからね。手は握ったままでいいよね。」
レオさんは慰めるように優しい口調で言い聞かせながら、頭を撫でてくれる。そして、にっこり笑顔で覗き込んできた。レオさんの笑顔の迫力に押されてつい頷いてしまう。
レオさんの言葉通り、少し歩いて家に到着。そこで漸く二人は手を離してくれた。両手が凄く熱くなってるのに、汗はかいてなくてさらっとしてる。ずっと握られていた割に、全く不快ではない。
いつも通り、ネロが入り口を開けて待機してくれてる。ニコっと笑顔でお礼を伝えると、ネロは嬉しそうな笑顔で応えてくれた。中に入って直ぐに、レオさんが俺の〈シール〉を解除してくれる。
レオさんは持っていたバスケットを床に置いて、何かを待っている感じだ。どうしたんだろう、とレオさんを見上げて首を傾げてしまう。レオさんはニコっとしてくれた。意味深な笑顔である。
そして、徐にレオさんはネロに近付き、向き合った。ネロはレオさんと目を合わせて、無表情ながらも片眉を上げて疑問を伝えたみたいだ。レオさんはネロには答えずに無言でネロの首に腕を伸ばした。
目前で、レオさんがネロの首に腕を絡めて、しな垂れかかっている。緑の瞳はネロを見つめて、挑発的に細められている。対する金色の瞳は冷たくも感じるけど、静かに受け止めているみたいだ。言葉を変えると、レオさんがネロに抱き着いている。しかも、熱く見つめ合っている。
突然の展開に目を丸くして二人を見守ってしまった。ネロがレオさんの背中に腕を回して引き寄せている。しかも、レオさんの肩に顔を埋めて超密着になった。レオさんの片手がネロの頭に移動していく。
レオさんの手がネロの髪を撫でて、指先が耳の縁をそっと滑っていく。ネロのピアスを這う様に滑らすレオさんの指先の動きが、なんというか、とてもエロく感じる。明らかにラブシーンである。これは俺が見てちゃダメなヤツだ。
「琥珀、お前には見てる義務があるんだぞ?」
目を逸らして、サンダルを脱いでいたら、レオさんが声を掛けてきた。声を掛けるというか、強制するという方が正しいか。低く色気のある声は俺に向けられている。でも、レオさんはネロと抱き合っていて、ネロの頭を優しく撫でている。
「二人で勝手にすればいいじゃん。俺は関係ない。」
「お前が見せろって言ったんだから、大人しく見ていろ。」
勿論反発しちゃいますよね。なんで二人のラブシーンを見てなきゃいけないのか。レオさんの顔がゆっくりとこちらに向けられた。少し潤んだ艶のある緑の瞳が見据えてくる。そして、低くて甘さを含ませた声がもう一度、今度は少し強い語調で強制してきた。
威圧的に命令されてしまったでゴザル。しかも、レオさんの瞳は妖しく淡い光を放っていて、目が引き寄せられる。視線でも強制してくる感じだ。確かに言った。くそぉ、言葉尻を上手く利用しやがって。
でも、このまま言い返していてもレオさんに勝てる気がしない。言い合っていたら、二人の抱き合う姿を見る時間が延びるだけな気がしてきた。
だって、レオさんが少し体を離そうとしてるのに、ネロはしっかりとレオさんの体を抱き締めて離さないんだもん。レオさんだけじゃなくて、ネロもその気になってるっぽいんだもん。
しょうがないから見守るとしましょう。諦めが二人に伝わったのかは分からない。ネロがレオさんの肩から顔を上げた。レオさんと視線を絡めたネロの目は少しだけ熱を孕んでいる気もする。言葉を変えると、メチャクチャ色っぽい。
ネロはレオさんに顔を近付けて、頬に軽くキスをした。背の高さがほぼ一緒だから、背伸びしなくていいんだね。レオさんは応えるようにネロの頬にキスを返している。そして、そのまま唇を滑らせて、ネロの首筋に頭を移動させていく。
なんなの、超エロい感じになってるじゃん。レオさんが手馴れ過ぎてて怖い。いつもこんな事をしてるのかよ。ヤバい。これはこのまま見続けていいものなのだろうか。いや、駄目に決まってる。
「はい、アウト。そこまで。」
「マジで、ここからがいいトコなのに。」
強制終了ですよ。レオさんはなんてモノを見せようとしてるんだ。ってか、純情レオさんはどこ行ったんだよ。ネロが相手なのに、堂々としてエロさ全開になってるじゃん。ヤバいでしょ。レオさんは不満そうに言い返してくるけど、いいトコってなんの事だよ。
「ネロは大人の色気は出さないって言ったのに。今、二人は色気バリバリだったじゃん。アウトです、今直ぐ止めましょう。」
淡々と二人がアウトな理由を説明させて貰いますよ。二人は抱き合った形のままで、俺の話を聞いてくれてるけど、その手を今直ぐ離せ。目の毒なんだよ。超ドキドキのラブシーンは今の俺にはまだ早いの。
「色気って、なぁ。ネロ。出してたか?」
「出してない。」
レオさんがネロに顔を向けて、ネロもレオさんに目を向けて見つめ合った。レオさんが恍けた感じを出しつつネロに聞いて、ネロは静かに返している。ネロはともかく、レオさんは俺を揶揄ってる気しかしない。
「嘘だ。絶対エロかった。ネロもレオさんもエロエロで見てたら恥ずかしくなったもん。」
眉を寄せて、どれだけ二人がエロかったか、俺視点での感想をお届けする。レオさんが楽しそうに目を細めて、ネロもちょっと楽しそうに目を細めた。うん、レオさんだけじゃなかったみたいだね。ネロも俺を揶揄ってたらしい。レオさんに釣られて、ネロまで意地悪になっちゃったみたいだ。
「はいはい、じゃあ終り。」
ネロを見つめて涙目になりかけたら、レオさんが終わりを宣言してくれた。レオさんがネロの首元からぱっと手を離すと、ネロもレオさんの背中からすっと手を離してくれた。
ネロは靴を脱ぎながら〈シール〉を解除して、ソファに移動していった。あれ?超あっさりしてるんだけど。ネロがあっさりし過ぎだよ。さっきまで濃厚なラブシーンを繰り広げてたのは間違いないよね。ネロはあっさりタイプなのかな。
ネロを目で追いかけていたら、レオさんが頭をぽふっと撫でてくれた。顔をレオさんに向けると、レオさんも靴を脱ぎながら〈シール〉を解除していた。靴を脱ぎ終わったら、レオさんはバスケットを持ってスタスタとソファに向かっていく。
えっと、レオさんもあっさりしてるんですけど。さっきまでネロと濃厚なラブシーンを繰り広げていたのは間違いだったのだろうか。えっちぃ顔をしてネロの耳を撫でてたじゃん。手慣れた感じで超エロエロに、ネロの首に唇を滑らせてたじゃん。
ん~、これが普通なのかな。恋人同士だと普通に日常的な感じなのか。今のは恋人の挨拶的なのだったのかな。いや、でも、色気が凄かった気がする。色気を出してない事はなかった。
「琥珀、どした。こっち来いよ。」
レオさんは純情じゃなかった。ネロに対して超純情だった筈なのに、今のはどう見ても純情さは皆無だった。確実にエロかった。純情の欠片すらなくて、寧ろ大胆だった。
マジで、レオさんはギャップしかない。恥ずかしさであんなに可愛い子猫ちゃんになっちゃうレオさんなのに、今回は大胆だった。あんなに大胆になれて、しかも超手慣れてるとかヤバい。
ネロは分からないけど大人だからね。レオさんに合わせて色気を出してきたんだろうな。まぁ、色々使い分けるのかもだけどね。それにしても、レオさんがヤバかった。あんなにエロいとかダメだと思うんだ。
レオさんのヤバさについて考え込んでいたら、体がふわっと浮いた気がする。顔を上げたら、レオさんが覗き込んでいた。顔を動かすと、レオさんに抱き上げられてソファに連行されている最中だった。
あ、やっぱり、レオさんの抱っこだと移動の時に動きを感じる。ネロはなんであんなに滑らかに動けるんだろう。滑らかという言葉は的確じゃない。振動も動きも何も感じない。目を閉じてると動いてるのか止まってるのかすら分からないくらい、何も感じない。
レオさんは抱っこのままでソファに腰を下ろした。そして、胡坐をかいた自分の膝の間に、俺を横抱きのままそっと下ろしてくれる。そして、クッションを俺の背中に置いて、座り易い体勢を整えてくれた。
「どした、琥珀。ちょっと刺激が強かったのか?」
「そう、刺激が強かった。後、レオさんは振動があるのにネロはないなって思ってたの。」
レオさんは俺の体に腕を回して固定しながら覗き込んでくる。首を傾げると、レオさんが心配そうに聞いてくれた。素直に頷いて、レオさんの言葉を肯定しておく。更には、ネロとは違うねって事も付け加えてみた。
「振動?」
「うん、振動とか揺れ。抱っこで移動の時、レオさんは普通に揺れるけど、ネロは走っても何もない。目を瞑ってたら移動してるかすら分からないんだよ。」
不審そうに聞き返してくるレオさんに頷いて、説明を加えてみた。話を聞いてる間に、レオさんの目が輝いていく。ネロの凄いエピソードでテンションが上がってしまったらしい。
「マジか、ネロは凄いな。魔法かな?」
魔法か。この世界は魔法がある世界だった。そっか、そういう魔法を使ってる可能性もあったんだね。どんな魔法だろうね。レオさんと目を合わせて二人で目をキラキラさせてしまった。レオさんの気持ちが凄く良く分かる。そして、レオさんも俺の気持ちを共有してくれてるのを感じる。
ネロはいつの間にかお茶を淹れる為に席を立っていたらしい。ネロがカップを手にソファに戻ってきた。カップを手渡してくれて、もう1つのカップはローテーブルに置いている。
そして、徐に、伸ばしていた俺の脹脛を掴んできた。何をするのかと見守っていたら、ネロはレオさんの横に腰を下ろして、俺の脚を自分の太腿の上に乗せている。
「魔法ではない。」
足を組んだネロが俺の脹脛をヤワヤワと揉みながら、きっぱりと言い切った。どうやら、さっきのレオさんの呟きに答えたらしい。お茶を飲んでまったりしていたから、一瞬ネロが何を言い切ったのか分からなかった。
「技術って事か。体移動が滑らかなだけって事かよ。凄いな。」
「凄いの?」
レオさんが感嘆交じり呟いて、ネロをキラキラした目で見つめている。レオさんの発言を聞いて首を傾げてしまった。俺には何が凄いのかが分からない。普通に凄いとは思うんだけど、本質の部分を理解してないんですよ。体移動が滑らかって言われても分からない。
「そりゃ、凄いだろ。」
レオさんが俺に顔を向けて、呆れた表情で答えてくれる。そんな顔をされたって分からないんだもん仕方ないじゃん。頬を膨らませたら、レオさんの目尻が下がった。レオさんは俺の頬を撫でて頬の膨らみを解除させてくる。緑の瞳から漏れる眼差しが凄く優しい。
ってかね、お茶を飲んでまったりしてたんだけど、今気が付いた。俺は今、レオさんの膝の上に座ってるんですけど。座り心地が最高だったから、気が付かなかったっぽい。更には、さっきまで考え事をしてたから、全然気が付いてなかった。ナチュラル過ぎて全然気が付かなかった。
「へぇ、そうなんだ。ってか、下りる。なんで当たり前みたいに膝の上に置いてるの。」
カップをネロに渡して、文句を言いながら、身を捩って下りようと試みる。でも、腰に回されたレオさんの腕ががっちりと固定していて動けなかった。レオさんは嬉しそうに目を細めて見守りの体勢らしい。ネロも嬉しそうに俺の脹脛を揉み続けている。
マジでね、知っていた事実だけど、レオさんが確実にチャラいってのが理解できた。レオさんはこんな風に、抱っこからの膝乗せを普通にさらっとしてくる人だったんだ。どう考えても、こういうのを日常茶飯事でやってる人だ。チャラ過ぎる。更には、ネロの首にキスしたのもチャラかった。
「駄目。食事の時はネロに取られたからな。今回は俺が貰う。」
レオさんの腕を掴んで引っ張ったり、ジタバタ暴れてみたけどビクともしない。しかも、ネロが脹脛をヤワヤワ揉んでくるから、脚を動かしにくい。暴れている間のレオさんの発言を聞く限りでは、また張り合いだしたっぽい。どんなライバル関係だよ。
暴れつかれてグタっとなったら、ネロがカップを返してくれた。ネロの甘くて落ち着く香りに加えて、お茶のいい香りもする。受け取って、お茶を一口飲んで美味しさに頬が緩んでしまう。
「あのね。えっと、俺が乗ってたら重いだろうし。上に乗ってると俺も後で体が痛くなっちゃう。あとね、ネロが見てるし、レオさんの上だと恥ずかしいの。だから離して。」
お茶を飲んで落ち着いたトコロでもう一回交渉をしてみよう。ちょっとだけもじもじしちゃっても仕方ないよね。だって、客観的に見て、今の状況は恥ずかしい。俺は今、レオさんの膝の上に座ってるんだよ。ヤバい、超恥ずかしくなってきた。
「マジでヤバイから。言葉の響きだけで意味合いを想像すると興奮してしまう。しかも、その態度。確実にヤバい。」
「キモイ事を言わないで。意味合いって何だよ。」
レオさんが目をキラキラさせて、意味不明な事を言いだした。テンションが爆上がりしてる事の方がヤバいでしょ。この男は一体何を言ってるんだ。恥ずかしさは消えて、ジト目で言い返してしまう。でも、レオさんのテンションは全然削がれた気配はない。寧ろ、喜ばせてしまった感すらある。
もういいから、下りるの。腰に回されてるレオさんの腕を掴んで、上体を少し持ち上げてみる。脚を引こうと思ったけど、ネロが脛を掴んでいて動けなかった。そして、レオさんはニコニコで楽しそうに見下ろしてくる。
「ネロ、腹筋が痛いから離して。」
ヤバい、腹筋がプルプルしてきた。ネロが足を掴んでいるから体が起こせないの。離して。ネロを睨んで解放を要求してみた。ネロは目を細めて、足の裏を揉んでくれる。違うから。離して、俺の腹筋がもう持たないんだよ。
「体を起こさなければ痛くないでしょ。大人しくしてな。この体勢なら痛くならない筈だから。ほら、俺に体を預けて力を抜いてみな、楽になるから。」
レオさんが優しく囁いて、俺の体を背中のクッションに押し付けてくる。どっちにしても、腹筋が限界を迎えて、レオさんの為すが儘にクタっと力が抜けて、身を預けてしまった。
「ってか、ヤバい。俺の言葉自体もなんかヤバい。マジで色々とヤバい。更には、こんな風になるのかってのが、ヤバい。な、ネロ。ヤバいと思わん?」
暴れ疲れてレオさんを見上げると、レオさんが優しく髪を撫でてくれる。その間もヤバいを連呼しながら話し続けていて、そして、何故かネロに確認を取ってる。
「そうだな、自重しろ。」
ネロが冷たい目でレオさんを睨んで低く呟いた。レオさん曰く、何かがヤバかったらしい。更にはネロもヤバいって思ったらしい。そんなにヤバいを連呼する程何がヤバかったのか。
「何がヤバいの?」
単純に気になって聞いてみると、レオさんの目が丸くなった。目を泳がせた後で、ネロと目を合わせたレオさんがスッと冷静な顔になった。ネロの冷たい視線がレオさんを冷静にさせたらしい。
ってか、ネロの目が超怖い事になってるんですけど。ネロの眼差しの強さが気になって目を留めてしまうと、ネロの視線が俺に向いて柔らかで優しい眼差しに変わってくれた。
「お前の腹筋が痛くなってヤバかったなって事。体が痛くなったらまた揉んでやるから、ここでいいだろ。それより、ユリアが用意してくれたのを食うか?」
レオさんの声が聞こえて、顔を戻してみる。レオさんがめっちゃ優しくなってる。目尻がスゴイ下がって、きつい目付きのレオさんなのに、タレ目ちゃんみたいになってる。どうしたんだ。そして、言葉遣いも声の響きも優しい。髪を撫でてくれる指使いも優しいんだけど、何かを企んでいるのだろうか。
ちらっとネロに目を向けてみる。ネロはレオさんをじっと見ていた。観察してるっぽい雰囲気があるんだけど、何を観察してるんだろう。あ、理解しました。うちの子を可愛がれ、って無言の圧力ですね。レオさんの全ての行動を監視してるからな、って無言の圧力だ。
「うん、食べる。下りていい?その方が食べ易いと思う。」
「駄目、食わせてやるよ。その方がゆっくりまったりできるだろ?」
食べるか、って聞かれると、食いしん坊の俺は食べたくなってきちゃうんです。反発はせずに素直に頷いて、更には下りるって伝えてみた。レオさんは優しいモードを継続しながらも、離してはくれないっぽい。
「流石に自分で食べるよ。何を言ってるの。」
「ネロのは食べてたのに、俺のは駄目なのか?」
今回は流石に反発しちゃいますよ。なんで食べさせられなきゃいけないんだ。子供じゃないんだから、自分で食べられるっての。むっとしてしまったけど、レオさんの返しで理解した。レオさんはここでもネロに張り合ってたらしい。
夕ご飯はネロが食べさせたんだから、今回はレオさんが食べさせるって事みたいだ。ネロもそうだったけど、レオさんは特に対抗心が強いっぽい。ネロと同じ行動をしないと負けちゃう症候群に陥ってるのかもしれませんね。
しゅんとなっちゃったレオさんはメッチャ可愛い。違う、レオさんが可愛いんじゃない。レオさんの猫耳が可愛いんだよ。伏せられてプルプル震えるレオさんの猫耳に目が向いてしまう。猫耳を武器に使うとか、卑怯過ぎる。
「う、ちょっとならいい。」
「大丈夫。ちょっとしか用意されてないし。スイーツも食わせてやる。楽しくなってきたな。」
俺はレオさんの猫耳に屈してしまった。だって、超可愛いんだもん、仕方ないじゃん。俺の許諾を受けて、レオさんの猫耳がピンと元気よく立ち上がった。瞳もキラキラ輝いて嬉しさを表現してる。
さっきのシュンってなったのは絶対演技だった。ズルい、演技は良くない。嵌められた事に気が付いて睨んでしまったけど、うきうきと楽しそうなレオさんが超嬉しそうに目を細めてくる。超楽しそう。
ネロがバスケットからお皿を取り出してくれた。軽いのって言葉通りの美味しそうな軽食だ。小さなクラッカーの上に色々な具材が乗せられていて、色とりどりで可愛い。生ハムっぽいのやチーズと砂糖漬けの柑橘。蛸や大海老のマリネ。卵や炙った燻製肉。
一口か二口くらいで食べられそうな可愛いクラッカー達が大皿に沢山用意されている。めっちゃ美味しそう。まったりちまちま食べるのに最適な軽食である。可愛くて美味しそうで、目を輝かせてレオさんを見上げると、レオさんも嬉しそうな笑顔を返してくれた。
「どれ食べたい?」
「じゃあ、ネロのおススメ。」
レオさんはウキウキと楽しそうに、リクエストを受け付けてくれる。ちょっとだけ意地悪心が芽生えてしまって、プイっと横を向いてネロのおススメを所望してみた。レオさんが不満そうに覗き込んでくるから、ツーンとそっぽを向いてみる。
「なんでネロのおススメなんだよ。俺のおススメじゃだめなのか?」
レオさんの文句を聞き流していたら、ネロがカナロアのマリネの乗ったクラッカーを差し出してくれた。俺の望みを叶えてくれたらしい。ネロと目を合わせて口を開けると、ネロがそっとクラッカーの端を口に差し込んでくれる。はむっと咥えたら、ネロは手を離してくれて、優しく目を細めてくれる。
一口か二口の大きさって思ったけど、実際は具材が多くて結構なボリュームだった。一口では食べられなくて、自分で持ってウマウマ食べるのを、ネロが優しく見守ってくれている。
その眼差しは優しくて慈愛が溢れている。見守るって言葉しか当て嵌まらない程に優しい顔だ。そして、レオさんも優しく見守ってくれていた。
レオさんの膝の上で横向きに座っているから、二人の表情が良く見える。二人を眺めながら食べていたら、ネロがローテーブルの上に手を伸ばした。自分も食べるのかな、って思ったけど違った。
ネロはラングストのマリネの乗ったクラッカーをレオさんの口元に運んであげている。レオさんは一瞬、戸惑った感じでネロに目を向けた。そして、ネロと視線を絡めて止まったレオさんがゆっくりと口を開けている。
ネロはレオさんの口にクラッカーを適当に押し付けて、、視線を俺に戻してきた。にこっとしてくれるネロが幸せそうで嬉しくなっちゃう。レオさんを見上げると、口を動かしながら俺を見てくれる。一緒に食べてる感じが美味しさを倍増する気がしてきて、幸せだなって思えた。




