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178 今の状況が恥ずかしいでしょ

 テーブルの上に置かれてる小さなバスケットは多分デザート。だから、明日でいいよね。返却するバスケットを持ち上げたらかなり重い。両手で持ち上げて、いったん床の上に置いて、気合を入れて持ち上げてみる。あれ、全く重くない。


 ってか、俺以外の手がバスケットの持ち手を掴んでる。手を辿るとレオさんがバスケットを持ち上げていた。しかも、片手でやんわりと俺の手をバスケットから離して、取り上げられてしまった。ネロの詠唱が聞こえて、レオさんの体に沿って薄い風の膜が形成されていく。


「俺が一人で行ってくるから。」


「駄目だ。」


 一人で行ってくるって言ってるのに、ネロはあっさりと拒否をしてきた。ネロもレオさんも一緒に行きそうな気配しかしない。ネロに顔を向けると真顔で断固とした態度だ。こんなネロは説得できない可能性しかない。


「言ったでしょ。お前込みのネロがいいの。それに、外は暗いのに琥珀を一人で行かせられないでしょ。」


「琥珀これを着ろ。外套はどうする。」


 むぅっとネロを睨んでいたら、レオさんが頭をポンポンと撫でてくれる。顔を上げると、屈んだレオさんが優しく言い聞かせてきた。ネロはさっさとソファに移動して、さっき脱いだパーカーを運んできてくれている。


「その猫耳だけでいい。〈シール〉があったら結構平気だった。」


「分かった。」


 手渡されたパーカーを着ると、ネロが首元のボタンを留めてフードを被せてくれた。優しく前髪を整えてくれるネロは、めっちゃ親っぽい。しかも手のかかる小さな子供の親。ネロはいいお父さんになるんだろうなって思っちゃう程、慈愛に溢れている。


 髪を整えてくれた後で、ネロが言葉を紡いでいく。さくっと俺にも〈シール〉をしてくれて、そして、自分にも素早く〈シール〉をしている。ネロの外出の準備の手際が洗練されていってるのは気のせいだろうか。


 レオさんは先に外に出たらしく、部屋の中にはもういなかった。レオさんを追いかけて外に出ると、土砂降りの雨がまだ続いていた。一歩踏み出しただけなのに、俺の周りを水滴が束になって流れ落ちていく。俺の姿を、というか、パーカーの猫耳を見たレオさんが頬を緩めてくれた。


「ガトに見える?」


「見える、見える。メチャクチャ可愛い。」


「嬉しい。」


 ネロを待つ間に感想を聞いてみると、レオさんがニコニコで答えてくれる。レオさんやネロと同じ、ガトの一員になれた気分がしてちょっと嬉しい。素直に気持ちを言葉に出したら、レオさんが超でれでれな顔になってしまった。


 その、目尻を下げた優しい表情は、おめかしをした子供を眺める親の顔のような気がしないでもない。レオさんも何気にいいお父さんになれそうな素質はありそう。


 ネロが外に出たトコロでお散歩の始まりです。自然に俺の両隣りに並んでくるレオさんとネロを交互に見上る。レオさんは俺を見てくれたけど、ネロは視線を前方に向けていて俺を見てくれない。


 レオさんのバスケットを持っている手の方にすすっと移動して、ネロとレオさんが並ぶ感じにしてみた。ネロがレオさん越しに覗き込んでくる。さっきは俺を見てくれなかったけど、今回は俺の行動が気になったらしい。


「二人で並んだらいいと思うの。」


「そうか。」


 ネロの無言の疑問に、ニッコリ笑顔で答えてみた。ネロは静かに納得して態勢を戻してくれる。レオさんを見上げると、レオさんは不思議そうな顔をしていた。


「珍しいな、ネロ側に行くと思った。」


「レオさんは拗ねるからこっちに来たの。嫌ならネロの方に行く。」


 静かに呟いたレオさんの言葉で表情の意味は理解できたから、悪戯っぽい笑顔で言い返してみる。レオさんは苦笑して頭を撫でてくれた。俺がレオさん側に来たからか、ネロが小さな〈照明〉を発動してくれた。俺達の少し上を弱い光で照らしてくれるから、二人が良く見える。


 さっきまでいい雰囲気だった二人を邪魔しないように、黙っている事にしよう。暫く沈黙が続く中を黙々と歩き続ける。二人が楽しく会話をするかなって期待したんだよ。でも、二人は会話もなく超静かだ。見上げると、レオさんはちらっと見てくれたけど、直ぐに前を向いてしまった。


 身を乗り出してネロを覗いてみた。ネロは前を向いているけど、口元が緩んでいる気がする。あの顔は嬉しい時の顔だ。会話はなくてもレオさんも一緒のお散歩は嬉しいっぽい。二人で並んで貰って正解だった。


「ネロは明日の夜からお仕事でしょ?」


「そうだ。」


 二人は会話一つしてくれないから、俺から話題を提供してみようかな。ネロを覗き込んで話し掛けると、ネロは俺を見て静かに答えてくれた。会話は直ぐに終了しちゃったから、次はレオさんだ。


「レオさんはいつからお仕事なの?」


「明日は昼から。」


 レオさんにも同じ質問をしてみた。レオさんもネロと同じ静かなテンションで答えてくれる。こういうレオさんは落ち着いた大人感がある。ネロと同じ反応なのに、普段チャラいレオさんだから、落ち着いてるだけでカッコ良く見えてしまうらしい。


「じゃあ。夕ご飯はまた一緒に食べられる?」


 お昼からの仕事って事は、午後の仕事って事だ。多分だけど、夕方までだと思う。だから、明日も夕ご飯の時間は一緒に過ごせるかな。ワクワクで聞いてみると、レオさんがじっと見つめてきた。


 暫しの間、無言で見つめられた後で、レオさんは一旦、上の方に目を向けて考え込んでしまった。そして、ネロに視線を向けて、また俺に顔を戻してくる。何かを葛藤していたっぽくも見えた。


「いいのか?」


 レオさんは緊張感漂う口調と声色で聞き返してくる。ん、その一言の為に、めっちゃ考え込んでいたのか。そこまでの覚悟を持って聞き返す事だったのだろうか。


「ネロと一緒にいたいでしょ?あと、ネロのお見送りもできる。更には、お泊まりが確定だから、お迎えまでできちゃう。特典がいっぱいだね。」


「そうだな。嬉しい。」


 覚悟のレオさんに特典をいっぱい紹介してみると、レオさんは真顔で淡々と言葉を返してきた。やけにあっさりとした反応だ。あんまり嬉しくなかったのかもしれない。出過ぎた真似をしちゃったのかと後悔してしまう。


「それに、見送りとお迎えができたら、心配なのがちょっと薄れるでしょ?」


「マジで、お前は最高かよ。」


 俯いて、おずおずとレオさんも安心できるよね、って確認しちゃう。静かだけど、噛み締めるように呟く声が聞こえた。顔を上げると、口元を緩めているレオさんが見える。


 成る程ね。淡々とした口調なだけで、実は喜んでたのか。あっさりした反応だと思っていたら、内心は超喜んでいた模様。普段の嬉しい時のテンションじゃないから分からなかった。レオさんはマジで嬉しい時は、静かに喜ぶタイプらしい。


「喜んでくれて良かった。ね、ネロも良かったね。こんな喜んでくれたよ。」


 身を乗り出してネロを覗き込んでみる。レオさんをちらっと見た後で、ネロはふわっと柔らかな笑顔を浮かべてくれた。幸せそうなネロを見て、俺も嬉しくなってしまう。感情を表に出さないネロと同じで、レオさんも感情を表面に出さない事もあるんだ。それはそれで、内心を知っちゃった時にドキッとなっちゃう感がある。


 ホント、レオさんのイメージがもう何度くらい変わったんだろう。180度以上なのは確かだ。目付きの悪い怖い人でスタートして。雑で乱暴でワイルドな部屋の汚い人。かなりモテるチャラ男。気遣いもできる優しいお兄さん。そして、意地悪や揶揄うのを楽しむドSな人。更には、変な嗜好の倒錯した変態。お話上手の聞き上手で、異様に口が回る人。あとは、知力が高くて、頭もいいらしい。


 こんな人と一緒に過ごしてたら、確かに楽しいかも。ネロは見る目があるんだなって思う。ネロと一緒にレオさんと過ごしてきて、レオさんの良さがどんどん分かってきたもん。こんなレオさんを選んだネロは凄いな。


「そう言えば、なんで服を脱がしたの。」


「言い回しを気を付けような。その発言は誤解を受けるから。」


 ホンワカ気分で次の質問に移りますよ。レオさんをじっと見つめて、疑問を口に出してみた。レオさんが直ぐに慌てた感じで言い返してくる。誤解も何も真実じゃん。


「なんで触る前に、舐め回すように眺めてから、服を脱がしたの?」


「お前、わざとか。」


 ジーっと見つめながら真顔で言い直してあげたら、レオさんがスッと目を細めて言いがかりをつけてきた。レオさんは少しだけ鋭い目付きで片眉を上げている。この顔はかなりカッコいい。キリっと見える。


 レオさんはキツイ顔付きだから、キリっと顔が似合う気がする。この顔で普段はエロいとかもう、駄目でしょ。しかも、笑顔になるとスゴク親しみ易いから、ヤバいよね。性格も相まって、レオさんがモテるのが良くわかる。


「違うよ。そんな風に聞こえるレオさんがアレなんだよ?ね、ネロ。」


「そう、だな。」


 悪戯っぽく言い返して、ネロを引き込んで味方につけてみた。ネロは俺達を交互に見て、なんとなく同意してくれた感がある。レオさんがネロを睨んでしまった。レオさんの目力は結構凄いんだよ。目が怖いんです。そんなに睨まなくてもいいのに、ネロが可哀想。


 レオさんは怖いね~、ね、ネロ。ネロにニコっとしてみる。ネロは戸惑った感じで微笑みを返してくれた。ネロと見つめ合って、ネロと無言の交信を続けてみる。なんとなく以心伝心ができているような気がしてきた。


「理由は琥珀が脆いから。ぶかぶかの服越しだと力加減が怖いんだよ。運動用の服は体にぴったりだから、分かり易い。そういう事だ。他意はない。」


 ネロと目で会話をしていたら、溜息の後で、レオさんが話し始めた。レオさんを見上げて、ふむふむ、と頷きながら聞いてみる。成る程、そんな理由だったのか。でもな、レオさんは脱ぐのを要求したけど、ネロは服を着たままだった。これはどういう事なの。


「成る程~。でもね、ネロは服を脱がなくても大丈夫だったよ。」


「ネロは普通に凄いから、俺にできない事も普通にできるんだよ。」


「へ~、成る程。」


 不審な気持ちを残しての言葉には、レオさんがさっと答えてくれた。全く持って具体性に欠ける表現だけど、確かに、ネロなら普通になんでもできそう。なんとなく納得できた、気がする。


「しかし、その服は凄いな。そんなに薄いのに、少しの衝撃くらいなら吸収しそう。かなりヤバい。」


「そうなの?」


 レオさんの興味は俺の運動着にあるらしい。口調からも表情からも、凄さが伝わってくる。運動中にヤバいを連呼してたのはそういう事だったんだね。


「最高の素材で作らせた。」


「成る程?って、最高の素材ってどういう事。ネロの服のついでって言ってたじゃん。やっぱり高価なモノだったの?」


 ネロがコソっといった言葉を俺は聞き漏らしていませんよ。最高の素材って言ってたね。それは金額的にも最高って事なんじゃないのでしょうか。ネロの口から出た最高とか、もう言葉の響きがヤバいじゃん。レオさんの腕に掴まって、ネロを覗き込みながら文句を言ってしまう。


「保管していた素材。素材に金は使っていない。支払ったのは制作の費用だけ。従って、高価ではない。」


「へ~、そうなんだ。ネロが倒した何かの素材なの?」


「そうだ。」


 ネロは静かに反論をしてきた。それを聞いて、一応は納得できた。最高の素材ではあるけど、買った訳ではないと。偶々持ってたから、それを使ってくれたんだ。制作の費用ってのはもう気にするのはやめよう。素材か、ネロが採取した素材って事だよな。


「でも、保管してたなら、大切な物じゃなかったの?」


「効果が凄いから保管していただけ。大切ではない。」


 ネロは素材に関しては、ほぼ即売りするって言ってた。それなのに保管をしていたって事は、思い入れのある大切なモノだった可能性が高い。恐る恐る、聞いてみると、ネロは即、否定をしてきた。


 でも、効果が凄いのであれば、何かに使おうと保管してたんだよね。なんで俺なんかに、そんなスゴイ素材を使っちゃったの。しかも、運動着が欲しいって軽い要望だったんだよ。たかが運動着でそんなスゴイ素材を使っちゃうなんて。ネロの真意が知りたくて、眉を寄せてじーっと見つめてしまう。


「琥珀、ネロの気持ちだよ。琥珀が大切だからいいモノをって事だ。そんな顔をするな。」


 レオさんがポンポンと、頭を撫でて、ネロの気持ちを代弁してきた。ネロは頷いているから、その通りって事なんだろう。ネロの気持ち、か。その言葉で、レオさんの仲裁を素直に受け取る事ができる。ネロが俺を大切に思ってくれてるのは紛れもない事実だからね。


「そっか、ありがとネロ。大切に着させて貰うね。」


「そうしてくれ。」


 ネロの気持ちが嬉しくて、ニコっとしてお礼を言ってみた。ネロはほっとした感じで頷いてくれる。レオさんがまた頭を撫でてくれたから、レオさんにもニコってしておく。


 抱き着いていたレオさんの腕から離れて、パーカーの隙間からアンダーシャツを触ってみる。薄くて着心地がいい服だとは思ってたけど、そんなスゴイ服だったんだ。


 でもね、こうやってドンドン俺のモノが増えていく可能性が怖い。ネロの家がいつの間にかレオさんの家みたいになっちゃったらどうしよう。本ですら、望めば沢山買い与えられて、それを納める本棚まで買ってくれた。元々のネロの部屋は、最低限の家具と武器の保管庫しかない殺風景な部屋だったのに。


 食事場に到着して、キラキラの水滴を纏った風の膜を眺めている間にレオさんが調理場に向かっていった。今日はネロも隣で一緒に大きな風のテントの見学をするらしい。頭上の小さな〈照明〉の光の玉はネロに追随しているらしく、俺達の上でフヨフヨと弱い光を放っている。


「夜になると水滴が光を反射して綺麗だよね。」


「そうだな。」


「でも、昼間は昼間で綺麗なんだよ?」


「そうか。」


 レオさんを待っている間、ネロとの会話を楽しむ。ネロは静かに相槌を打って聞いてくれるスタイルで、まったりとした時間が嬉しい。レオさんの反応とは全然違うけど、ネロと話をしていると落ち着く。目を合わせながら優しく聞いてくれるネロが隣にいてくれるのが嬉しい。この食事場の光景を一緒に見てくれるのも嬉しい。


 ネロが食事場の明るい光に照らされてスゴク綺麗に見える。ネロ自身が光り輝いているみたいだ。風を纏ったネロの周りに付着した水滴が光を反射してるからっぽい。キラキラのエフェクトが追加されたネロが幸せそうに微笑んでいるとヤバい程綺麗。


「アルさんはこんな土砂降りで平気かな?」


「問題無い。」


 空を見上げると、ネロの〈照明〉の外側から大粒の雨が降り注いでいるのが見える。今は一人で戦っているだろうアルさんが凄く心配になってきた。ネロはいつも通りの返しだ。


 ネロの問題無いはどこまでが信用できるかが分からない。適当に言ってそうな時もあるし、正しい時もある。ネロをじっと見つめると、ネロは真っ直ぐに見つめ返してくれた。


 目を逸らさないって事は多分本当っぽい。ネロもレオさんも、アルさんは強いって言ってた。レオさんに至っては、アルさんは怖いって言ってた。族長さんだから、アルさんは実際に強いんだと思う。でも、心配なモノは心配だ。


「でも、アルさんはあんなにふんわり可愛いのに。怪我とかしないかな、心配。」


「森が破壊される事があっても怪我一つしない。」


 アルさんが心配で溜息交じりに呟くと、ネロが淡々と冷酷とも言える口調で答えてくれた。ネロの冗談がいきなり飛び出した感がある。森が破壊されても怪我しないなんて、そんな事がある筈がない、よね。


 真意を確かめようと、ネロをじっと見つめてみた。ネロは真顔で見つめ返してくる。眉を寄せて真剣に見つめていたら、ネロが片眉をぴくっと反応させた気がする。でも、ネロの真顔は完璧で何の感情も浮かんでない。ポーカーフェイスは完璧だった。


「何、見つめ合ってんの?帰るぞ。」


 真剣にネロの真意を探っていたら、手首を掴まれて声を掛けられた。顔を向けると、レオさんがにこっとしてくれる。俺の手を引いて歩き始めたレオさんに連れられて、帰りの散歩の始まりだ。歩き始めると、ネロが俺の隣にスッと並んできた。


「ネロはいつも真顔で冗談を言うんだよ。本気っぽくていつもびっくりしちゃう。」


「へぇ。どんな冗談?」


 レオさんを見上げて、愚痴を言ってみる。レオさんは楽しそうに目を細めて聞き返してきた。ネロはレオさんには冗談を言わないのかな。確かに、ネロはレオさんに対してはクールで冷たい姿勢を貫いてたっぽいからそうなのかも。


「森が破壊されても、アルさんは怪我一つしないって。そんな事がある訳ないと思わない?」


「ソレは冗談じゃないと思うぞ?」


 ネロの新作の冗談をレオさんに披露してみる。レオさんは楽しそうにニコニコしながら、うんうん、と頷きいて聞いてくれた。どうやら、ネロの冗談を楽しんでいるらしい。そして、スッと真顔になって、ネロに同意し出した。


「ん?」


「族長ならあり得る。ってか、確実。今頃は楽しそうに高笑いでもしながら倒しまくってる最中だろうな。何も心配をする事はない。寧ろ、森を心配しろ。」


 レオさんの表情の豹変についていけなくて、首を傾げてしまう。レオさんは屈んで俺と目線を合わせて、心情を込めた切なそうな顔で言い聞かせてくれた。えっと、そんな切ない顔で語る事なのだろうか。森を心配って、どういう事なの。まぁいい。深く聞くのはやめておこう。


 でも、成る程ね。二人のこの真に迫った感じで理解した。要するに、アルさんが強いってネタが護衛さんの鉄板って事みたいだね。了解です。でも、アルさんが一人で戦う事になっちゃって申し訳ない気持ちは消えない。それに、アルさんが心配な気持ちも消えない。


 アルさんのおかげで俺は楽しい二日間だった。でも、レオさんにもネロにも気を遣わせちゃった。誤解であんだけ派手に家出をした末の今だからね。ネロが心配症って思っちゃったけど、そりゃ心配にもなるか。ひ弱だし、その上、家出もするし。子供っぽいし。そんなのを見せちゃったら、レオさんまで心配症になっちゃっても仕方ないのか。


「琥珀。ユリアが軽いのを作ってくれたぞ?ってか、ユリアじゃねぇ、ユリアの指示でマスターが、だった。」


「軽いの?」


 いじけた気分になっていたら、レオさんが頭をポンポンとしてくれた。顔を上げると、レオさんが楽しそうに軽い口調で話しかけてくれる。軽いのって何だ。首を傾げて聞き返してみた。


「琥珀が落ち込み過ぎて飯を楽しめなかったって伝えたら、ユリアが可哀想って。で、軽いのを用意してくれた。デザートの前に軽く摘まもうな。」


「マジか。ユリアさんにお礼を言わないとだ。後、マスターさんにも。今戻る?」


 レオさんはニコニコで、手に持ったミニバスケットの事を教えてくれた。ユリアさんの気遣いが超嬉しい。お礼を言いたい。マスターさんにも会いたい。今ならまだ直ぐに戻れる距離だ。


 振り返って戻ろうとしたら、レオさんがダメって感じで掴んでいる手首を引っ張ってくる。一瞬、レオさんの熱い手のひらを感じて、気が付いた。レオさんにずっと手首を握られてたらしい。手の圧力も温度も感じなかったから気が付かなかった。


 圧力はともかく、レオさんの熱い手のひらの温度を感じないってなんでだ。手を持ち上げてレオさんが握っているトコロを観察してみる。レオさんは俺に触れずに手首を握っていて、風の膜がレオさんと融合してない。どうやら、〈シール〉の効果で温度がシャットアウトされていたらしい。器用な持ち方をしてるな、と感心してしまった。


「明日でいいって。今戻ったら俺がユリアにまた怒られる。」


「レオさんはいつもユリアさんに怒られてるね。」


 レオさんの握ってる手に気を取られていたら、レオさんがボソッと呟いた声が聞こえた。顔を上げると、レオさんは困った顔をしている。確かにレオさんはユリアさんに怒られてるイメージしかない。


「ホントにソレな。アイツは俺が悪戯か悪さしかしないと思ってやがる。」


「強ち間違ってないじゃん。ユリアさんは凄いね。」


 レオさんが溜息交じりに、幼馴染ならではって感じの愚痴を零している。悪戯か悪さって、その通り過ぎてクスっとなってしまった。ニコニコでユリアさんを褒めてみたら、レオさんが困った感じで笑ってくれる。


「少ししかしてねぇだろ。悪さは、まぁしてる。うん。」


「ユリアさんだけじゃなくてネロにも怒られないようにね。程ほどにしようね。」


 全く悪びれないレオさんを静かに窘めてみると、レオさんは心当たりがあり過ぎるらしく黙ってしまった。シュンとなっちゃったレオさんが可愛い。耳は伏せちゃって、尻尾もだらんとなってて、猫っぽさが強調されてる。メッチャ可愛い。


 レオさんを眺めてニコニコしていたら、ネロに手首を掴まれた。驚いてネロに顔を向けると、ネロはぼんやりと前を向いて歩いていた。手首を握ってきたモノの、ネロは無言を貫いている。このままでは疑問は解決しない、可能性しかない。


「びっくりした。どうしたの。」


「レオに手を引かれてる、俺が掴んでも問題無い、筈。」


 何の意図があって手首を握っているのかを聞いてみると、ネロがちらっと視線を合わせてくれた。ネロは直ぐに視線を前方に戻して、ボソッと答えてくれる。めっちゃ不機嫌そうに聞こえるんですけど。なんでそんな態度になっちゃったの。


 まぁ、でも分かった。どうやら、ネロはレオさんに対して対抗心を抱いているらしい。レオさんが俺の手を握ってるから、自分もそうする、って事みたいだ。めっちゃ子供の喧嘩状態になってる。


 まぁ、いいよ。それはそれで二人が楽しそうだから、それでいい。でもね、二人から手を引かれているのは、トテモ歩きづらいんですよ。そして、背の高さも相俟って、二人の子供みたいな立ち位置になってる気がするんです。両親と子供が手を繋いで家に帰る、の図になってる気しかしない。


「分かった。じゃぁ、同時に二人で手を離したらいいと思うの。」


「なんでよ。このままでいいだろ。」


「そうだな。このままでいい。」


 普通に張り合いを仲裁するしかない。同時に手を離せと要求をしてみたら、二人は同じ言葉を返してきた。なんで、こういう時は息がぴったり合うんだよ。仲良しか。


「手首が熱いから手を離していいよ。迷子にはならないから平気なの。」


 手首は風の膜で全く熱くない。でも、言い訳として使わせて貰おう。レオさんを見上げて、再度解放を要求してみた。レオさんの口元がニヤっと笑ったのが見える。微かな疑問を抱いた瞬間に、レオさんは手首から手を離してくれた。ニヤってのは気のせいだったらしい。


「そう?じゃあ、これならいいよね。」


 ほっと気を抜いた途端に、レオさんの低い声が聞こえた。と、同時に手のひらに熱い温度を感じた。目を向けると、レオさんが俺の手を握っている。しかも、指を絡めた、いわゆる恋人繋ぎってヤツだ。


 驚いて固まってしまうと、二人も立ち止まって見下ろしてくる。レオさんはニコニコの楽しそうな笑顔だ。ネロはレオさんに目を向けて、レオさんと繋いだ手を覗き込んできた。そして、無言で俺の手のひらに自分の手のひら合わせて指を絡めてくる。


 無言の二人は立ち止まっている俺の手を引いて歩き始めた。ゆっくり進んでいくネロとレオさんに連れられて少し歩いて、はっとした。二人の手を離そうと引っ張ってみるけど、二人は離してくれない。


「良くない。手を離して。」


「え~、だって肌寒いでしょ。人肌が恋しいってヤツ?」


「そうだな、触れ合うのもいい。」


 二人を睨んで、離してって要求を突き付けてみる。レオさんはニコっとして、まったりとした口調でやんわりと拒否をしてきた。ネロはレオさんに同意して嬉しそうに目を細めている。


 だから、何で息がぴったりなんだよ。仲良過ぎだろ。そして、〈シール〉をしてるんだから寒くないだろ。それどころか、さっきは熱さを感じなかったのに、今は熱いんだよ。特に、レオさんの手のひらが熱いんですよ。


「じゃぁ、二人で手を繋いだらいいと思うの。」


「それは恥ずかしいから、やめとく。」


 そんなに手を繋ぎたいなら二人で繋げばいいじゃん。ってか、それがいいと思う。最適な解を提案をしてみたけど、レオさんはぷいっとそっぽを向いてボソッと拒否ってくる。なんで、そこで照れるんだよ。


「今の状況が恥ずかしいでしょ。」


「これは恥ずかしくない。そう思わん?なぁ、ネロ。」


「そうだな。」


 普通に今が恥ずかしい状況だから。恋人と手を繋ぐのと、他人と手を繋ぐの。どう考えても、恋人と繋ぐ方が恥ずかしくないだろ。でも、俺の考えと二人の考えは違うらしい。


 でも、こういう時は気が合ってしまう二人の仲の良さが嬉しい。それを見られただけで、心が温かくなる気がする。でも、そうじゃないんだよ。手を離して欲しいの。


 ぶんぶん手を振り払っても、二人は全く離してくれなくて諦める。多分だけど、これも代償行為の一環なんだと思う。外だもん。隠してる関係なのに、大っぴらに手を繋ぐのはアレだよね。だから、子供っぽい俺を介して、二人で手を繋いでいる気分になってるんだよね。もういいよ、好きにしてくれ。


「ん~、じゃぁ。家に帰ったら二人でハグして、愛の語らいを見せてくれるなら、このままでもいいよ。俺がいて二人でゆっくりできなかっただろうから、今夜くらい触れ合ったらいいと思うんだ。」


 諦めはした。でも、せめてレオさんには試練を与えようと思います。この試練を乗り越えて欲しい。そして、これは、ネロへのメッセージでもあるんだよ。家族の顔もいいけど、レオさんにはちゃんと恋人として優しくしてあげてねって。


「マジか。触れ合うとか、お子様の前でそんな事をしていいの?ヤバい、興奮してしまう。」


「そんな事って何の話をしてるの。ただのハグだよ?それ以上でもそれ以下でもないよ?」


 どうだ、ネロに対してだけは純情になってしまうレオさんには試練になるでしょ。って思った案なのに、了承されてしまった。しかも、俺の意図していたのより、進化した内容になってる。レオさんの過激な変換に困って、直ぐに言い直しておいた。


「なんの話、って。そりゃ愛の語らいだろ。琥珀の前で語らっていいって事だろ?」


「じゃぁ、語らいは無しで、ほっぺにちゅってしたらいいと思う。」


 レオさんが超楽しそうなんだけど。テンションがめっちゃ上がってるんだけど。そして、手のひらをニギニギしてきて気持ち悪いんだけど。屈み込んで、近い距離で甘く囁くのはやめて欲しい。レオさんの愛の語らいが教育上、宜しくない方向性なのは理解できた。即、消去で、違う内容を上書きしておこう。


「琥珀は何気に結構大胆だな。」


「ほっぺだけだから。挨拶のキスだよ?」


 なんでほっぺにちゅってするだけで大胆って言われないといけないんだよ。むっとしたら頬を撫でられてしまった。冷静に淡々と、挨拶のキスだから大胆じゃないって言い直しておく。レオさんが至近距離でニヤっとしたのが気になる。


「まぁいい。ネロがいいならいくらでもやってやるよ。」


「問題無い。」


 スッと体勢を戻したレオさんが了承したトコロで、ネロも了承の意を伝えてきた。マジか、俺は二人のドキドキのキスシーン(ほっぺ)をみる事ができる訳ですね。楽しみだ。


「マジか、問題あるだろ。琥珀の前だぞ?」


「大人の色気を出さなければいい。ただの挨拶。」


 レオさんが一瞬慌てた感じでネロに詰め寄って、ネロはレオさんをあしらう感じでしれっと返している。ネロの発言からもう色気が凄いんだけど、どうなってるの。普段、俺がいない時には、二人でどんな事をしてるんだよ。


 大人って怖いわ。レオさんの方が大胆でエロくてチャラいと思ってたのに、実は純情。冷静で大人っぽいネロの方が実は大胆とか。普通に、二人のギャップ感が凄いです。

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