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176 お前の感想はヤバいだけかよ

 距離を取って、レオさんがフードを被った俺の全容を確認してくる。しげしげと眺めた後で、レオさんは目を輝かせた。しかも、口元が緩んで目尻も下がっている。レオさんが目を輝かせた意味が分からなくて首を傾げてしまった。


 レオさんがネロに視線を飛ばしたのにつられて、顔を横に向けてみる。ネロは至近距離で俺を眺めて、目を細めてくれた。ネロの視線の意味は分かる。満足って事だ。


「マジでね。その服を見た時に思った訳よ。琥珀の猫耳への情熱とはこれかって。」


「成る程?」


 ネロと目を合わせていたら、レオさんが語り始めた。顔をレオさんに戻してふむふむと聞いてみる。そして、話し終わったレオさんに相槌を打って先を促してみた。


「ネロはどうよ。この服はヤバくない?琥珀の為にあるような服だろ。そう思わないか?」


「言葉には表せない程、似合っている。」


 レオさんの話に先はなかったみたいだ。普通にネロに感想を求めて、ネロは深く同意している。あ、そういう事か。ネロが満足そうな理由が分かった。俺に猫耳が付いたから、ガトの子って感じがしてくれてるんだ。家族の人族の子、じゃなくて、家族のガトの子。そう考えると、ネロと同じ種族になれたみたいで嬉しい。


「そうだよな、ヤバいよな。」


「ヤバい服なの?」


 レオさんがまたヤバい服発言をしてる。このパーカーは普通に見えるけど、実はヤバい性能だったりするのかな。心配になって、恐る恐る、聞き返してみた。レオさんは俺の頬を撫でて優しい眼差しをくれる。


「ただの見た目装備。一級品じゃないからそんなに高くない。普通の価格。」


「良かった。一安心だ。」


 安心させる為か、レオさんは俺の頬を撫でながらゆっくりと高価な品じゃないって言ってくれる。レオさんは嘘も得意だけど、今回のは本当っぽい。ほっと息を吐き出すとレオさんは優しく目を細めてくれた。


「そうそう、気軽に着られる服で間違いない。ガトの村だし琥珀も時々は猫耳を付けたいだろ?」


 ネロが頭を撫でてくれたから顔をネロに向けてみた。レオさんが話している声を聞き流しながら、満足そうなネロと目を合わせ続ける。ネロが嬉しそうだから、俺も嬉しくなってきた。


「お~、そう言われるとそうだね。俺も仲間になれた気分になる。」


 ネロやレオさんと同じ種族になれたみたいで嬉しい。ネロが優しく前髪を摘まんできた。俺もネロの頭を撫でてあげる。ネロの耳がぴくっと動いてめっちゃ可愛い。


「うんうん。ガトの子だって思うとマジ、親近感が沸いてくるよな。じゃぁ、寝る時にケープを被ってみてね。で、可愛いガトの子になってよ。可愛い猫耳姿の琥珀を見たいな。」


「うん、分かった。そうだよね、猫耳は可愛いよね。俺に猫耳が付いてると思うとテンションが上がってくる。変じゃない?」


 レオさんは尚も話を続けているけど、ネロの猫耳に目が奪われてしまう。俺の視線を受けて、ネロが耳を倒してしまった。視線をネロの目に戻してみる。悪戯っぽく微笑んでるネロが見えて、レオさんに適当に返事を返しながら、俺の猫耳についても聞いてみた。


「メチャクチャ可愛いし似合ってる。ユリアも言ってただろ?似合ってるって。」


 ネロに口を開かせる暇もなく、レオさんがスゴイ勢いで褒めてくれる。ネロは口を開きかけたけど閉じちゃった。でも、レオさんの言葉にうんうん、って頷いているからネロも同じ気持ちっぽい。


「あ、そういえば、今日はユリアさんにバイバイしなかった。悪い事しちゃったかも。」


「気にしなくて大丈夫だって。ユリアも俺達を怒るので忘れてたと思うし。平気、平気。」


 ユリアさんと聞いて思い出した。俺は凹み過ぎていてユリアさんに挨拶もしなかった。レオさんは平気っていうけど、次に会ったら謝ろう。それにしても、ユリアさんはレオさんにもネロにも怒ってた気がする。レオさんにはいつも通りだけど、ネロにも結構強く言ってた、かな。


「レオさんは超怒られてたね。あと、何気にネロも怒られてた。」


「そうだな、怒ったユリアは少し強い。」


 フフッと笑いを零しながら、調理場での出来事を話してみた。ネロは困った感じで返してきて、言葉選びがちょっと面白いと思ってしまう。怒ったユリアさんの勢いを思い出したのか、ネロが耳を少しだけ倒してしまった。


 ネロの表情はユリアさんに怒られてる時みたいで、クスっとなってしまう。ネロに強いって言われるユリアさんだけどホントに可愛い。レオさんを怒るのと同じテンションで、ネロに対しても怒る事ができるのに、あんなに可愛いってのがスゴイ。


「ね。聞いてもいいの?」


「ん?」


 リラックスしているレオさんに聞いてみる事にした。お茶を片手に、のんびりと聞き返してくるレオさんは大人っぽく見える。落ち着いて穏やかな時は、深い緑の瞳が大人っぽさを演出してくれるらしい。


 食事場に到着する前、レオさんはマジ切れしてた。俺が理由も分からずにネロに謝ったら、レオさんはそれをちゃんと注意してくれた。レオさんは基本的にチャラくてノリが軽いけど、こういうトコロが凄くいい。俺が悪い時はちゃんと注意してくれるのが嬉しい。


「レオさんは何で怒ったの?」


「あ~、怒ったって言うか。ネロが心配過ぎて琥珀に気を使う余裕がなかった。ごめんね。」


 レオさんが怒った理由も、ネロが落ち込んだ理由も両方知りたい。でも、レオさんの理由からちゃんと理解したかった。レオさんは少しだけきまり悪そうな顔をして、謝ってくれた。コクっと頷くと、髪に優しく指を滑らせてくれる。


「ネロがあそこまで動揺したのを見たのが初めてで。イヤ、初めてではないけど珍しくて、心配になってしまった。で、琥珀を責めちゃった。ごめんな。」


 ネロが心配で俺を責めたって。その言葉を聞けたのが嬉しい。ネロを愛してるって告白したのも同然のセリフだ。嬉し過ぎる。レオさんはネロに対して、どちらかというと冷めてる気がしてた。レオさんに冷たいネロと同様で、レオさんはネロと距離を取ってるように感じちゃってた。でも、全然違った。


 少しだけ俯いて、目も合わせてくれないレオさんは凄く可愛い。俺にもネロにも目を向けてないけど、猫耳はネロに向けられているのも可愛い。ネロの音を聞き漏らしたくないって感じに見える。これはヴィジュアル的にもクルものがある。レオさんがネロを気にしてる証拠だ。


「レオさんはカッコいいね。ネロ、レオさんがヤバいんだけど。ギャップがヤバい。これはヤバいですね。ってか、超ヤバい。」


 ネロがぎゅっと抱き締めてくれた。ネロもレオさんの愛の告白っぽいのを聞いて感動したらしい。ネロに引き寄せられた状態で、レオさんを見つめながらテンションが上がってヤバいを連呼してしまう。ネロの腕に力が込められた感じがある。明らかにネロも反応した。そうだよね、ネロも嬉しいよね。


「お前の感想はヤバいだけかよ。」


「カッコいいも言ったよ。」


 レオさんはちらっとネロに視線を飛ばした後で、冷めた口調で俺の感想のダメ出しをしてきた。だって、ヤバいんだから仕方ないじゃん。最初にカッコいいって言ったもん。


「テンションが上がった割に案外冷静じゃないか。」


 レオさんは照れ臭いのか、素直に喜んでくれない。ネロが喜んでくれた姿を見てる筈なのに、なんでそんな冷静でクールな態度なのか。ネロもツンツンしてるけど、レオさんも案外ツンツンするタイプだよな。それより、テンション如きで俺の感情は揺れませんよ。


「俺はいつだって冷静だよ。」


 淡々とレオさんに受け答えたら、ネロがクスッと笑ったのが聞こえた。それにしても、ヤバい。普段はあんなにチャラくて軽いレオさんなのに。有事の際には、ここまで献身的に心配してくれるとか羨ましい。


 レオさんはマジでかっこいいし、ネロも可愛い。ネロもレオさんもちょっと羨ましい。二人のどちらにも言えるけど、こんな恋人がいたら幸せだと思ってしまう瞬間だ。


 ニコニコになる顔が止められない。レオさんを微笑ましく見つめていたら、レオさんが微妙な顔になってしまった。真顔に近いんだけど、なんでそんな表情になっちゃったの。そんな可愛くない顔をしなくてもいいじゃん。


 真顔のままでレオさんはネロに顔を向けてしまった。ネロと目を合わせたレオさんの瞳が潤んだのが見える。そして、超色っぽい目付きになっていってる、かな。レオさんのこの上気した顔を見ちゃったら、ネロは見られない。だって、ネロだって同じように色気のある顔をしてそうだもん。


「じゃぁ、次の質問です。なんでネロは動揺したの?」


「まぁ、それは後でソファに移動してゆっくり話そう。スイーツを食べながら、まったりのほうがいいでしょ。」


 ネロに顔を向けられないままで、次の質問に移ってみた。気が逸れたのか、瞬きをしたレオさんの目が普通に戻ってくれる。レオさんはゆっくりと視線を俺に戻して、それは後のお楽しみ的発言をしてきた。


「あ、そっか。そういえば、まだデザートを食べてなかった気がする。」


「もうちょっと後で、ゆっくりまったり食べながら話そう。」


「ってかね。今日の夕ご飯は何を食べたかも覚えてない。ご飯が楽しみだったのに、残念です。」


 スイーツと聞いて思い出した。今日は夕ご飯の後にデザートがなかった。レオさんはニコっと笑顔でスイーツのまったり時間で話す事を再度提案してくる。もう、レオさんの要望通りでいいよ。それより、デザートどころか、夕ご飯の内容すら思い出せない。俺は何を食べていたんだろう。


「あ~、そっか。今から何か食べるか?何食べたい?」


「もうお腹いっぱい。気が付いたらお腹いっぱいになってた。」


 悲しい顔で呟いたからか、レオさんが優しく聞いてくれた。慰めてくれているのか、レオさんは俺の頬を指で優しく撫でてくれる。レオさんも普通にスキンシップが増してきてる気がする。ネロの膝の上にいるから、撫で易いって事なのかな。


「へぇ。小人さんもいい仕事したね。良かったな。」


「今回は小人じゃなくてネロの仕事だから。」


 レオさんは俺に満腹を齎した存在を小人に擬えて揶揄ってくる。むっとしながらネロのお仕事だったからね、って言い返してみた。気が付かない間に行われていた事は、小人さんの仕業って言って躱したのを引用したらしい。過去の俺の言葉を引用するとか、レオさんは俺の話をよく覚えてますね。


「お前の散らかしたのを片付けてるのもネロだよ。小人じゃねぇからな。」


「散らかしてない。置いてるだけ。」


「俺も置いてただけだよ。その結果、あの部屋になったの。」


 レオさんがジト目になって、過去の俺の発言に突っ込んできた。散らかしてるとか、今は関係ないじゃん。それに、置いてるだけだもん。拗ねた口調でレオさんの発言を訂正すると、レオさんが溜息交じりにしみじみと自身の置かれた環境を教えてくれた。


 レオさんに聞いた状況はまさしく俺の状況と符合しそうだ。ぐうの音も出ない切り返しをされて、睨む事しかできない。もしかすると、レオさんの家での俺とネロの会話を、レオさんはこっそり聞いていたのかもしれない。そして、ネロに怒られる前に、俺と同じだって牽制しておいたってトコなのかも。


「片付けてくれてありがとね。俺だけだったらネロの家は相当ヤバい事になってた、かも。」


「俺がいるから問題無い。」


 ネロに顔を向けてみたら、目が合ったネロが首を傾げてくれる。ネロにはちゃんと感謝を伝えなきゃいけない。心からの感謝を伝えると、ネロは目を細めて頷いてくれた。しかも、問題無いまで言ってくれる。ネロは超優しい。


 ネロに寄りかかってネロの胸元に頭を寄せたら、ネロが両手でキュッと抱き締めてくれる。視線の先では、レオさんが俺達を眺めてるのが見えた。冷静に俺とネロの遣り取りを眺めていたらしい。


 レオさんのその冷めた視線を何とかしたくなっちゃった。ネロに寄り掛かりながら、ふふんっと半笑いを浮かべてみる。レオさんが少し驚いた顔をした後で、ニヤッと笑ったのが見えた。


「成る程ね。琥珀よ。」


「イヤらしい笑い方。」


 レオさんの低い呟きが聞こえた。ネロに寄り掛かったままで、レオさんを警戒しながら見つめる。レオさんはイヤらしい笑みを崩さない。体に回されているネロの腕にギュッと抱き着きながら、レオさんの笑みのイヤらしさ指摘してみた。


「イヤらしいのはお前の笑みだろ。煽ってんのは分かってんだよ。」


「煽ってなんかない。ちょっと寄りかかっただけ。あと、ちょっと優越感だっただけ。」


 そう。二人のイチャイチャを肌で感じて、チョットだけ意地悪したくなっただけなんです。レオさんにネロを見せつけたかっただけなんです。うちはネロが片付けてくれるんだって、羨ましいでしょって。


「そうかそうか。それを世間では煽るって言うんだよ。って事で、俺も煽ってもいいよな。但し対象はネロだ。ネロの報復は怖いかもな。でも、お前からふっかけた喧嘩を買うだけだから、仕方ないよな。」


 ヤバい、レオさんの目付きが怖い。ちょっとだけ本気モードじゃん。でも、弄んでる感もある気がする。怖いけど、超楽しそうな目付き。言うなれば、拷問ごっこの時の顔付きとちょっと似てるかも。


「なんでネロを煽るの。喧嘩を買うなら俺を煽ればいいじゃん。」


「お前は中々難しいんだよ。その点、ネロなら直ぐ釣れる。だろ。」


 及び腰になりながらも必死に言い返してみた。レオさんは軽薄そうに笑って直ぐに言い返してきた。そしてニコっと笑顔を作ってきた。だから、その顔は怖いの。レオさんの変な気迫の溢れる笑顔から、冷気が漏れ出している錯覚が怖い。


「ネロが怖いって言ってたじゃん。煽ったら怖い事になるんだよ?超怖いよ?またガクブルの子猫ちゃんになっちゃうよ?」


 最後の手段、本能的な恐怖とやらが残ってるじゃん。ネロが超怖いって言ってたじゃん。だからやめようよ。もう、腰が引け捲りながらレオさんを説得してみる。


「ん?ネロはもう俺に手をださない。平気だろ?」


 レオさんは平然と答えながら、椅子を寄せて近付いてくる。レオさんから逃れようと、後方に体を押し付けて距離を取ろうとしてみた。でも、ネロの腕のせいでコレ以上は離れられない。


 ネロを見つめてヘルプを求める。ネロの視線はレオさんに向けられていて、俺を見てくれない。マズい。レオさんがネロを味方につけてしまったようだ。背中にあるネロの腕はレオさんの差し金だったのか。くそぉ、こんなトコでも連携攻撃かよ。


 体を前に乗り出したレオさんは爽やかなイケメンスマイルを浮かべている。ゆっくりと手を伸ばしてくるレオさんの手首を両手で掴んで阻止してみた。


 レオさんは少し動きを止めて考えた風を装った感じがする。超演技っぽい、ちょっと考えましたよ風な表情だ。めっちゃ胡散臭い。そして、ニコっとキラキラな笑顔を浮かべて、もう一本の手をゆっくり伸ばしてきた。


 レオさんを睨んでフルフルっと首を振ってみる。視線と態度での拒否を受けて、レオさんの瞳孔が一瞬だけぶわっと丸くなってシュッと細くなった。そして、静かに目を細めた。スゴク、静かな迫力が満載じゃないですか。そんな本気になったら怖いから。


「レオさん、止めて。無理遣りは嫌なの。」


 涙目でレオさんに懇願してみると、レオさんは動きを止めてくれた。ほっとして安堵した瞬間に、レオさんがニヤッと笑ったのが見える。それを見て悟った。レオさんを止める最大にして最終の奥義が失敗した瞬間である。くそぉ。フェイントで効いたフリをするとか卑怯だ。


「その手は食わねぇよ。俺は無理遣りが好きなんだ。ごめんね。」


 チャラくて軽い口調でそんな事を言わないで欲しい。無理遣りとか絶対ダメだからね。軽い口調で心のこもらない謝罪の言葉がめっちゃチャラく聞こえる。それにしても、ネロはホントに助けてくれないっぽい。全く口を出してこないし静かに見守ってるだけみたいだ。


 レオさんは一体何をする気なんだろう。ネロを煽るって言ってたから、碌な事をしないのだけは分かる。だからこそ、怖いんですよ。強引に言い切った後は、またゆっくり、じりじりとレオさんの手が進行を始めた。レオさんの片手を両手で掴んでるから、その進行してくる手を止める術がない。くそぉ、ここまでか。


「レオさん、ズルい。」


「何がよ。」


 レオさんの進行を止める為には言葉を出すしかない。ネロの脇の下に潜り込む勢いで精一杯逃げながら、レオさんに文句を言ってみる。レオさんが律義に手を止めて聞き返してくれた。口元には笑みを浮かべてるから、超楽しんでる模様。


「両手を使うのはズルい。」


「お前も使ってるだろ。」


 もうね、言える文句は全部言っておこう。俺は今、レオさんの片手を抑えるので、両手を使っちゃってるんです。もう片手は防げないんです。だから、両手を使うのはやめて欲しい。涙目で甘えるように訴えてみたけど、レオさんは目を細めて正論を返してきた。


「俺はいいの。この家の子だからいいんです。」


「ほぅ?」


 正論ではあるよ。でもね、認めたら終わりなんです。試合が終わっちゃうんですよ。口を尖らせて自分を正当化してみた。目を細めたレオさんが低い声で威圧してくる。その静かな響きに、びくっとなってしまった。


「じゃぁ、片手だったら何をされてもいいんだな?」


「う、良くない。」


 目を細めたレオさんが低い声で言葉を続けてきた。そこを許可しちゃうと、何をされるか分からない恐怖が出てくるじゃん。プルプルしながら、レオさんの言葉を拒否するしかできない。


 めっちゃ怖いんですけど。レオさんが超怖くなってる。さっきの拷問ごっこと同じくらい怖い。お遊びの範囲って分かってるけど、マジで、スゴイ迫力じゃん。


「そう?じゃあ、両手を使わせて貰うね。」


 俺の拒否を受けて、レオさんはニッコリ笑顔になった。そして、楽しそうに軽い口調で両手を使う宣言をしてきた。そうだった。片手も両手も何をされるか分からないのは変わらないんだった。うぅ、レオさんには口では勝てない。どうする、どうすれば助かる。あ、そうだ。解決策はあった。目の前にあったんだ。


「あ、タイム。ちょっと待ってね。」


 タイムを通告したら、レオさんが腕を下ろしてくれた。受け入れてくれたと判断して、レオさんの腕を掴んでいた両手を離す。テーブルのカップに手を伸ばして、適温になったお茶を一気に飲み切ってみた。


 お腹がタプタプになっちゃったけど、これで食事終了。時間切れです。試合も終了ですよ。ニコっと笑顔でネロを見上げる。ネロは穏やかな笑顔を浮かべていた。この笑顔で、あの至近距離での緊迫する状況を眺めていたのか。ネロは凄いな。


「はい、食事の時間は終わり。ネロが俺を解放する時間がやってきたようだね。レオさんは時間切れ、残念でした。」


「レオの負けだ。」


 食事終了を宣言して、ネロに解放を要求する。ついでに、レオさんにも軽く終了を言い渡してみた。ネロはクスッと笑って、腰に回していた腕を解放してくれた。


 ネロの膝から下りて伸びをする。結構長い間拘束されていたからか、体が固まってしまった感じがする。首を倒しながらネロをに目を向けると、ネロは目に疑問を浮かべて微かに首を傾げてくれた。


「結構長い間、座らせて貰ってたけど脚は平気?重かったでしょ。」


「問題無い。」


 会話の時間がスゴイ長かったから、食事の時間も長かった。ネロの膝に置かれたのは食事が始まった時だから、長時間、ネロの上に座ってた事になる。ネロは平気かな、と心配になって聞いてみると、ネロは目を細めていつも通りの答えを返してくれた。


 まぁ、拘束してきたのはネロだし、平気なんだろうな、とは思ってた。でも、スゴイって思っちゃう。ネロの太腿の筋肉は凄いですね。マジで、羨ましい筋肉です。


「俺は体が固まっちゃった感じがする。」


「じゃあ、揉んでやるよ。」


 ネロの拘束の結果、俺は固まっちゃったって正直に申告してみた。レオさんがニヤっとしながら反応してくれたけど、プイっと顔を逸らしちゃう。だって、なんかイヤらしいんだもん。


「ヤダ。なんか言い方がそこはかとなく、ねぇ。」


「ねぇ、ってなんだよ。」


 一応は言葉を選んでみたよ。だって、レオさんは変なトコロが繊細だからね。流し目で軽蔑した感じを出したからか、レオさんが目を丸くして言い返してきた。それを俺に言わせるのはダメでしょ。ふいっと目を逸らすと、レオさんの溜息が聞こえた。


「琥珀、揉み解す。長椅子に。」


「うん、ありがと。」


 ネロが間に割って入ってくれたから、ソファに移動してうつ伏せになる。ネロが太腿のあたりに跨って、腰を揉み始めてくれた。ネロのマッサージは超気持ちいい。怠さや凝り固まったのが、ネロの手に吸い取られていくように薄れていく感じがする。


 レオさんが床に座って覗き込んできた。何か言いたげな目をしながら、少しだけ耳を倒してるのが、子猫ちゃんっぽくてちょっと可愛い。レオさんは何も話し出さないけど、何かを言いたそうな雰囲気を前面に押し出してる事だけは分かる。


「どしたの。」


「悲しくなった。」


 可愛い顔をして見つめてくるから、こっちから聞いてみる事にした。優しく問いかけてみると、レオさんはしょんぼりとしながら悲しそうに答えてくれる。めっちゃ悲しそうな顔で、頭を撫でてあげたくなる程、可愛くなってる。


「ネロにまた何かされたの?」


 なんでそんな事になったのかを優しく聞いてみると、途端に、レオさんの耳がピンと立ったのが見えた。寝かせてた猫耳が可愛かったのに、残念です。


「なんでそうなる。違うだろ?お前にされたんだよ。」


「何もしてないじゃん。」


 顔を寄せたレオさんが目に力を込めて、静かな口調で文句を言ってきた。でも、俺は何かをした記憶はありません。レオさんの勘違いですよ。小首を傾げてレオさんの言葉に異を唱えてみた。


 レオさんの目力が緩んだ気がする。少しだけ頬も緩めたレオさんは俺の頬に手を添えて、指で優しく頬を撫で始めた。頬に添えられたレオさんの手が熱くて、撫でてくれる指の刺激はちょっと擽ったい。目を細めてしまうと、レオさんは優しい顔になってくれた。


「なんでネロだったら素直に移動するんだよ。俺だと駄目なのに。」


 力なく呟いたレオさんの言葉を聞いて、ちょっとだけふふってなってしまった。そこを張り合ってたのか。可愛い猫ちゃんですね。でも、分かった。だから、俺にされた、のか。確かにそうだった。


 レオさんの張り合っている子供っぽい一面はめっちゃ微笑ましくて、笑みが零れてしまう。レオさんはフードそっと外して、指を俺の髪に絡ませてきた。そして、俺の髪をゆっくり撫でてくれる。他猫の毛繕いをして落ち着く猫ちゃんっぽい行動だ。レオさんは自分を落ち着かせる為に撫でているっぽく感じてしまう。


「ネロ、レオさんが拗ねちゃったみたいだから、レオさんに揉んで貰ってもいいかな。」


「分かった。」


 レオさんの行動が可愛くて、さっきのレオさんの希望を叶えてあげたくなった。ネロに声を掛けると、ネロは直ぐに俺の上から移動してくれる。レオさんの目が嬉しそうに輝いた。マッサージはされる側は嬉しいけど、する側も嬉しいのだろうか。良く分からないけど、レオさんにとってはそうなんでしょう。


 ネロが俺の上から移動した後も、レオさんは床に座り込んで動こうとしない。どうしたの、って首を傾げてみる。レオさんは俺の体に目を向けて、少し考え始めたみたいだ。何が引っかかってるんだろう。


「ちょっと、上着を脱げ。」


 レオさんは繁々と俺の体を眺めた後で、口を開いた。唐突にイキナリ脱げとか言われて、目を丸くしてしまう。レオさんが楽しそうに目を細めたのが見えた。ちょっと体を起こしてレオさんの目を覗き込んでみる。


「レオさん。言い方が卑猥なんだけど、ただのマッサージだよね。」


「うん、ただのマッサージ。服があるとやりづらいんだよ。」


 一応だけどね、確認をしとこうかな。まさかね、ネロの見てる前で卑猥な事はしないと思うよ。でも、レオさんだし。キスマークとか付けてきたレオさんだし。疑いの眼で見ちゃったけど、レオさんはキリっとした顔でただのマッサージって断言してきた。


「ヤルって何をする気なの?」


「だからマッサージだって言ってるだろ。」


 何をヤル気なんだろう。体を起こしてレオさんから距離を取ってしまう。再度質問をすると、レオさんの片眉が上がって、ただのマッサージって強調してきた。そうだよね、マッサージだよね。


「絶対変な事はしない?絶対に絶対?」


「しつこい、どんだけ信用ないんだよ。」


 一応ね、もう一度確認を取ってみる。苦笑したレオさんが軽く言い返してきた。ここまで言うなら平気かな。取り敢えずは信用して、猫耳パーカーを脱いでネロに渡しておく。再度うつ伏せになると、レオさんが太腿に跨って腰に手を添えてきた。

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