175 もう少し続けても良かったが、残念だ
ネロの食事が終わるまでは膝から下りる事ができないらしい。もういいよ、諦めた。でも、レオさんの前でネロの膝の上は恥ずかしいんだもん。恥ずかしさを軽減させる為に、レオさんには話し相手になって貰おう。
「じゃぁ。レオさんが俺の質問に答えてくれるなら大人しく待つ。そうじゃないなら暴れる。」
俺の要求を聞いたレオさんがニヤっと笑ったのが見える。そして、爽やかな笑顔に変化した。その爽やかイケメンスマイルはレオさんには似合わないんだよ。ニヤッと笑顔が超お似合いなんです。そして、絶対何か良からぬ事を言うんでしょ。
「俺はどっちでもいいよ。ネロの上で暴れる琥珀で楽しめる。寧ろそっちの方がそそられるかもしれん。」
「何ソレ、卑猥。」
警戒して眉を寄せても、レオさんの言葉を止められる訳もない。微妙に俺の言葉を引用するレオさんの言い回しはイヤらしいんだよ。眉を寄せたままで睨みを追加して、軽く貶しておく事にした。レオさんの目が丸くなって、輝いた。
意味深な微笑みを浮かべながら、レオさんが頬杖を突いて眺めてくる。レオさんのその感じが凄くイヤらしいんです。このままだと、レオさんペースになってしまう。一旦落ち着こう。睨みをやめて、心静かに真顔になってみた。
「琥珀、フード浅めに被って、もっと冷たい眼をしながら、軽蔑した感じを出して。今の言葉をもう一回言ってみて。」
レオさんがほぅっと息を吐き出して、うっとりとしながらリクエストをしてきた。この男は一体何を言い出したんだ。また自然と眉が寄ってしまった。更には、少しだけ軽蔑の目をしてしまったかもしれない。
レオさんの目がうっとりと妖しい光を放った気がする。ヤバい、一部、レオさんのリクエストに応えてしまった。俺にはレオさんを止める術がない。ネロに頼るしかない。
「ネロ、レオさんが変態なんだけど。」
「レオは元から変態。」
レオさんに目を向けたままで、ネロに縋って泣きついてしまう。ネロが溜息交じりに辛辣な言葉を口に出した。驚いてネロを見上げると、ネロが悪戯っぽい笑顔になってる。
「ちょ、ネロまでそういう事を言うようになったの?泣いちゃうよ?」
「ネロもレオさんを虐めてるじゃん。ネロにもペナルティが発生しちゃったようですね。何の罰にしよっか。何がいい?」
レオさんの泣き言が聞こえる。ネロが悪戯っぽくレオさんを虐めた感じだ。さっきネロは、俺がレオさんを虐めたから罰って言ってた。って事は、ネロだって罰が必要じゃん。ニコっと笑顔でネロにも罰を言い渡してみた。
「琥珀の与える罰なら何でも。」
「そっか、じゃぁ。」
ネロは嬉しそうに目を細めて、罰を受け入れる姿勢だ。ネロは潔くていいですね。ストイックな性格がこんなトコロでも反映されてるんだね。ネロへの罰か、何がいいかな。
「そこの二人、お前らの方がよっぽど変態だろ。」
「俺は違うよ。ネロはそうかもだけど。」
レオさんの呆れた声が聞こえる。俺を含めて変態って言ってたね。むっとしながらレオさんを睨んでしまう。レオさんに引き摺られたネロは確かに変態になる時もあるよ。でも、俺は全く違う。毅然と言い返してみると、レオさんが少し怯んだっぽい。
「琥珀が絡むと変態になる時がある、かもしれない。多分。」
「多分じゃねぇよ。確実だろ。何、逃げ道を作ってんだよ。」
俺とレオさんの言い合いにネロが参加してきた。レオさんはネロに目を向けて呆れた顔になっちゃった。そして、軽口でダメ出しをしている。それを聞きながら、ネロは嬉しそうに微笑んでる。ネロとレオさんが楽しそうに話をしてるのを見てると、幸せな気分が俺の中にも流れ込んでくる気がした。
「あ、夕ご飯の間、ネロが食べさせてくれたから、俺も食べさせてあげようか?」
「では、頼む。」
ネロの食事が終わらないとネロの膝からは下りられないらしい。ネロは俺を抱えているから食事のペースがゆっくりになってる。という事で、ネロの食事を手伝おうかな。ネロの快諾を受けて、フォークに手を伸ばす。
残っているのはお肉とサラダだけだ。しかも、お肉はちゃんと切られている。レオさんが楽しそうに切り分けてくれてたからね。運ぶだけの簡単な作業です。
ネロの口にせっせと食事を運んでいく。膝の上に俺を置いて片手が塞がってたから食べにくかったよね。この状態で俺が満腹になるまで食べさせてくれたネロに感謝だ。さっきの食欲のなさだと、自分で食べていたらサラダでお腹いっぱいになっていたかもしれない。
レオさんの切ってくれたお肉は大きくて食べにくそうに見えるんだけど、ネロは大きな口でパクっと食べてくれる。大口を開けてるのに上品に見えるとか、ネロはヤバいですね。
「ネロには無理だったって何の事だったの?」
「ネロとお前の寝室でのイヤらしいじゃれ合いを白状させたでしょ。あの会話術の応用を試してたみたい。」
ネロが大きくカットされたお肉をモグモグしてる間に、レオさんに顔を向けて聞いてみた。レオさんは焦らす事もなく、あっさりと答えてくれる。成る程、あの拷問術の応用をネロは試したのか。ネロの行動には拷問っぽさは何もなかったんだけど、ホントに応用だったのかな。
「イヤらしいじゃれ合いなんてしてない。って、拷問ごっこの事だよね。あれに応用とかあるの?」
「あるから、お前はフードを外して、飯を食って、今、普通に会話してるんだろ。」
「おー、そういえばそうだね。」
疑問がいっぱいの顔で、更に聞いてみる。レオさんは苦笑して、ネロの行動による成果を羅列してくれた。確かにレオさんの言う通り、俺は今普通に会話をしてる。納得して、おーっとなってしまった。
「中々に手際も鮮やかで、尚且つ、有無を言わさない態度。満点を上げたかったけどな、最後の詰めが甘かった。」
レオさんはネロに目を向けて、絶賛した後で、駄目だったところも指摘している。でも、そっか。ネロが頑張ってくれたから、さっきの凹んだ感じがいつの間にかなくなってるんだ。全部ネロの手腕によるものだったのか。ネロは凄いな。
「ネロが変になったと思った。錯乱か、錯乱か、それか錯乱。」
「錯乱しか言ってねぇじゃねぇか。」
ネロが変になった訳じゃなくて良かった、って意味を込めて、当時のネロを評してみた。レオさんがボソッと突っ込んでくる。さっきのがネロの演技だったなんてホント凄いと思う。だって、いつもと全然違ったんだもん。チャラくなっちゃったと思って、錯乱以外には考えられない状態だったもん。
「だって、超優しい言葉遣いだったよ。目も優しくて、甘えてくる感じで、ちょっとだけ甘い感じがした。いつもの優しさとは系統が違う優しさだったもん。」
「へぇ、甘く感じたんだ。」
演技中のネロを思い出して、どう変だったのかを語ってみた。レオさんがちらっとネロに目を向けている。直ぐにレオさんの視線が戻ってきて、楽しそうに感想を漏らした。
「うん、甘く感じた。レオさんも拷問ごっこの時には超甘い囁きだったよね。鳥肌がブワッてなって、ぞくっとしちゃった。そして、心臓がバクバクになった。ネロのは心臓は大丈夫だった。怖くなかったし、優しかったから。でも、ネロが違う人になっちゃったかと思って、違う意味で怖かった。」
「成る程ね~。」
レオさんの感想は疑問っぽくも聞こえたから、答えてみる事にした。ついでに、レオさんもあの時はヤバかったって事をちゃんと伝えておく。レオさんはふむふむ、と聞いてくれて、最後に意味深な感じで相槌を残してくる。超気になる言い方じゃん。
「何が成る程なの?」
「ん?いやぁ、それを教えちゃったらね。興奮しないでしょ。ね、ネロ。」
「そうだな。」
意味深なレオさんはもう慣れてるよ。早く続きを話してみろ、と先を促してみた。レオさんはネロと目を合わせて楽しそうに答えてくれる。ただし、内容は何もない。ネロはレオさんと意思の疎通ができてるみたいで同意してる。
俺だけ分かってないらしい。レオさんに答えを求めるのは諦めて、ネロに的を絞る事にした。ネロをじっと見つめて、教えてって目で問いかけてみる。少し見つめ合った後で、ネロが大きな手でそっと目を塞いできた。
「見えない。離して。」
「では、食事に集中させてくれ。」
イキナリ目を塞いだネロに文句を言ってしまう。ネロは淡々と言葉を返して、それを聞いて気が付いた。フォークは俺の手に握られたままだ。その状態でレオさんとの話に熱中してた。
話の間、ネロには食べさせてない。つまり、ネロは食事をできてなかった。ネロが目から手を離してくれたから、レオさんを睨んでしまう。レオさんが片眉を上げて疑問の顔をしてきた。
「ほら、レオさんのせいで怒られたじゃん。」
「お前な、俺のせいかよ。責任転嫁をするんじゃない。」
唇を尖らせてレオさんに文句を言ってみると、レオさんがご尤もな返しをしてきた。レオさんの言ってる事は正しい。俺が悪かったです。けどね、何故かレオさんには素直になれなくて、謝れないんです。
「じゃあ、間を取ってレオさんの責任でいいよ。」
「マジで、お前は可愛い性格をしてるよな。」
レオさんは正しいんです。でも、レオさんには甘えちゃうんだよ。えへっと可愛く誤魔化し笑いを作って、レオさんに責任を押し付けてみた。途端にレオさんの目尻が下がった。優しい顔だ。目付きが悪くて怖いレオさんじゃなくなって、超優しいレオさんになってくれた。呟くレオさんの声も超優しい。
レオさんとの言い合いも一区切りついて、ゆっくりと食べさせていたら、漸くネロの食事が終わった。レオさんがお茶を淹れに席を立ってくれる。ネロの食事は終わったし、と、俺も移動する事にした。でも、立ち上がろうとしたのに、腰に回されたネロの腕は緩まない。
「食事は終わったじゃん。下りる。」
「茶を飲み終えるまでが食事だ。」
ネロを睨んで離してって訴えてみる。ネロは頬を緩めてくれたけど、腕は緩めてくれない。そして、しれっと食事の終了条件を提示してきた。まだ食事中と言い切るネロにむっとしてしまう。
「そんなの聞いてない。」
「今言った。」
言い返してみたけど、見つめ返してきたネロは嬉しそうだ。目も頬も口元も緩んでいる。微笑みが嬉しさを表現している。そして、嬉しそうなキラキラの微笑みで、更にしれっと言葉を返してきた。口調は淡々としているけど、表情が幸せそうで言い返せない。
「はいはい、琥珀の負け。大人しく茶でも飲みなさい。」
苦笑したレオさんがお茶を手渡してくれた。ネロのカップはテーブルに置いて、レオさんは自分の椅子をネロの横に運んできた。ネロの隣に座って、レオさんが覗き込んでくる。近くで観察されている気がして、超居心地が悪い。
居心地が悪い上に、近いんですけど。レオさんが超近くで見てくるんですけど。顔をくっつける勢いで近いんですよ。顔をくっつけている対象はネロだけど、ネロの胸元に顔を寄せているだけっぽいけど。俺は今ネロの膝に乗っているんだよ。
「なんでレオさんまでこっちに来たの。あっちでいいじゃん。」
「だって、俺の為に琥珀に罰を与えくれてるネロの傍に来たかったんだもん。」
レオさんに至近距離で観察されて、居心地が悪くて文句を言ってみる。レオさんはネロに視線を向けて甘える口調で答えてくれた。苦笑したネロがレオさんの頭に手を伸ばし、髪に優しく指を滑らせていく。
レオさんは気持ち良さそうに片目を細めている。ネロと目を合わせて幸せそうな顔のレオさんがヤバい。二人の距離が近い。恋人同士の距離感だよ。急に恋人の顔を出してきた二人を至近距離で見てて、ドキドキしてきた。
二人から視線をそっと外して、カップに口を寄せてふーっと息を吹きかけてみる。縁ぎりぎりまでお茶が入っているカップを慎重に口に運んでみた。少し冷めたトコロでコクっと飲んでみる。超熱かった、全然冷めてない。でも、ネロのお茶程ではないけど美味しいお茶だ。
「今回のお茶は失格。」
「手厳しいな。不味かったか?」
ちらっとレオさんに視線を向けて、失格を言い渡してみた。笑顔で美味しいって言えなかった。レオさんには素直になれないのはなんでなんだろう。レオさんはクスっと笑って、穏やかな口調で聞き返してくる。深い緑の瞳が穏やかで優しくて安心する。
「美味しい。けど、熱かった。」
「成る程ね~。いつになったら適温でばっちり淹れられるようになるんだろうな。」
レオさんのお茶はホントに美味しい。素直にちゃんと伝えたい。でも、やっぱり余分な一言を付け加えちゃう。でも、レオさんは納得してくれたっぽい。そして、ネロに視線を向けながら独り言のように呟いている。
視線の意味は分かる。ネロはお茶を淹れる際に温度調節ができるからだ。しかも完璧に。レオさんがネロに習えば、ネロとラブラブで楽しく過ごせる筈。ネロが優しく教えてあげて、二人の時間が作れる。これはいい考えですね。
「ん~、ネロに習えばいいと思うの。相手を思って温度調節のヤツ。」
「それもいいかもな。できるようになったら何かご褒美でもくれるの?」
ニコニコで提案をしてみると、レオさんが一瞬微妙な顔になった気がする。そして、胡散臭い程に爽やかな笑顔に切り替えたレオさんが成功報酬的なものを求めてきた。
うん、俺には分かるよ。その報酬を得る為って口実でネロと大手を奮って仲良くできるもんね。大義名分的な何かが欲しいんだよね。それを誤魔化す為に胡散臭い笑顔になっちゃったんだよね。仕方ない、俺も協力してあげよう。
「ん~、じゃぁ、9割成功できるようになったら考える。」
「成る程。まぁ、頑張るか。」
ニッコリ笑顔で了承してみると、レオさんはじっと見つめてくる。その視線の意味は何だろう。首を傾げたら、レオさんは頭を撫でてくれて、頑張るって言葉をくれた。
「ん。頑張って下さい。ネロ、もう下りる。お茶はソファでいいじゃん。」
レオさんはもういいや。俺は下りたいの。レオさんを適当に鼓舞して、ネロに再度解放を要求してみた。拒否する感じで、ネロが両腕でギュッと抱き締めてきた上に頬擦り迄してくる。ネロの猫耳が超至近距離にある。視覚での誘惑を振り切って、ネロの腕を掴んで、離してって身を捩ってみた。
「駄目だよ。折角レオが美味い茶を淹れてくれたんだから。茶を全部飲むまでは離さない。」
耳元で甘く響くネロの低い声にゾクゾクっとなってしまった。ってか、ネロは何故かまた話し方を変えてきたし。一体なんなの。もういいじゃん。普通に話してよ。睨んでしまうと、ネロはほうっと息を吐いて目を細めた。
「レオさん、ネロがまた変になっちゃった。」
「みたいだな。まぁ、茶をゆっくり楽しもうな。その為に熱いのを用意してやったんだ。」
また演技を始めてしまったネロに困惑して、レオさんに愚痴ってしまう。レオさんは俺の髪を撫でながらのんびりとした口調で答えてくれた。レオさんの話した内容を理解して、ゆっくりとレオさんに視線を移してみる。目が合ったレオさんはニッコリしてくれた。やっぱり、聞き間違いじゃなさそうだ。
「わざとなの?わざと熱いお茶にしたの?そんなのズルい。」
むっと口を尖らせて、レオさんにの悪行を追及してみた。レオさんは楽しそうに目を細めて頭を撫でてくれる。レオさんの仕草は我儘を言ってごねる子供を宥めてる感が半端ない。ヤバい、レオさんが大人に見える。大人な余裕が見える。悔しい。
「ズルくないでしょ?琥珀とゆっくり時間を過ごせるように、レオが気を利かせてくれたんだよ。そんな事を言ったらダメだよ。ね、琥珀。」
レオさんを睨んでいたら、耳に息が吹きかかった。甘く囁く低い声が聞こえる。ネロの話し方がヤバい。まだ演技は継続中らしい。ってか、ネロはこんな話し方ができる人だったのか。これなら普段のネロのほうが全然いい。こんなネロはどうしていいか分からなくて困ってしまう。
耳元で甘く囁かれた声は、同時に吐息も耳に運んできた。声のせいか、吐息のせいか、鳥肌がヤバい。困惑しながらレオさんを見つめると、レオさんは優しく微笑んで頬を撫でてくれる。優しく触れるレオさんの指の感触にもぞわぞわっと鳥肌が立ってしまった。
「ネロの声と話し方。ヤバいよな。興奮する。」
目を合わせながらレオさんが甘く囁いてくる。口説いているような口調は明らかにネロに向けた言葉なのに、俺に向けた言葉と錯覚しそうになる。レオさんの目が細められて口元が緩んだ。ふっと笑ったレオさんの顔が凄く大人っぽい。
耳に息が吹きかかってぴくっとなってしまう。ネロも笑ったらしくて、顔を寄せてるから耳に息が吹き込んだらしい。二人の大人な雰囲気に圧倒されそうになったけど、踏み止まる。
「分かった、ギブ。俺が悪かった。お茶を飲み終わるまでこのままでいいから、ネロもレオさんも普通になって下さい。」
「りょーかい。やったな。許可をもぎ取った。今回は間違いなく満点だ。」
「もう少し続けても良かったが、残念だ。」
降参を宣言したら、二人はスッと元に戻ってくれた。頬から手を離してにっこり笑顔のレオさんは楽しそうに勝利宣言をしている。対照的に、ネロは残念そうだ。ネロ的にはもうちょっと続けたかったらしい。何気にかなり楽しんでいたらしい。
ネロは色々な意味で万能って事が良く分かった。普段のネロは無表情で無愛想で冷たいとまで言える態度だ。家の中で家族の俺や恋人のレオさんと相対していても、基本は柔らかだけど冷静で落ち着いている事が多い。レオさんが絡むと微妙に熱くなる事はあったけど、あんなネロは知らなかった。
あんなに甘く優しく囁く事もできる人だったなんて知らなかった。甘えたような可愛い感じで話せるなんて知らなかった。いつもの話し方と全然違ったネロだった。
あ、そっか。俺の前では見せない恋人の顔ってヤツだったのかも。理解しました。レオさんの前で見せる顔だとしたら、レオさんが驚いてなくても不思議はない。ネロが普通に何の戸惑いもなく、普段と真逆になったのも不思議はない。謎が解けたみたいで嬉しい。
「レオさんと二人の時のネロはあんな話し方なんだね。中々エロいね。」
ニコニコの笑顔で感想を伝えてみた。ネロは驚いたのか、目を瞠って凝視してくる。ネロがなんで驚いたのか分からなくて首を傾げてしまった。
ネロの視線がゆっくりとレオさんに向けられていく。そして、困った顔になっちゃった。どうやら、ネロは照れちゃったみたいだ。流石に、面と向かって指摘されるのは、ちょっと恥ずかしかったのかもしれない。
ネロの視線を追いかけて、レオさんを見てみる。レオさんは嬉しそな笑顔になっていた。今はレオさんの視線は俺に向いているけど、さっきまではネロと見つめ合っていたんだと思う。ネロの困惑した顔で楽しめたんだろうな。
「琥珀。その服の着心地はどうよ。」
「めっちゃ着易い。着心地は最高。ただね、猫耳が自分で見えないのが不満。」
二人が落ち着いてくれたから、お茶を楽しむ事にした。レオさんものんびりお茶を飲みながら、服の着心地を確認してくれる。色々あって忘れてたけど、この服には助けられた。寒さからも守ってくれるし、フードが凄く役に立った。でもね、フードといえば猫耳なんだよ。自分で見る事ができないって事だけが不満なんだよ。
「まぁ、それはそうだよ、そこはしょうがない。着易いなら貰ってくれるか?」
「流石に貰うのは困る。」
レオさん的には俺の返しは想定内だったらしい。猫耳への不満はあっさり流されて、悲しい。そして、レオさんの家では受け取りの拒否を拒否られたけど、改めて、受け取りを求められてしまった。貰えって言われると非常に困ってしまう。
「じゃあ、ネロにあげるよ。な、ネロ、貰ってくれるか?」
「勿論貰う。」
レオさんは俺の困惑を受けてあっさりと引いてくれた。そして、ターゲットをネロに絞って、受諾を持ちかけて、ネロはあっさりと承諾している。恋人間の遣り取りであれば、俺は口を出せない。
ネロの手に渡った服はネロの家族の手に渡ると想定できる。でも、こんな遣り取りをされてしまっては口は出せない。流石レオさんだ。手腕が強引でスゴイ。口もよく回る。俺の手だしできない領分をしっかり見極めてる感がヤバい。
レオさんがちらっと俺を見てスッと目を逸らした。そして、目を伏せながらチラチラと盗み見てくる。その何か言いたげな態度は何なんだろう。まぁいい、一応反応してみようかな。首を傾げて、なぁにって疑問を態度で示してみた。
「アレも後で着てくれ。」
意を決したらしいレオさんが真剣な表情をしてくる。俺も聞く体勢を取って、レオさんを見つめる。レオさんが口を開いた。アレと言われても何の事か分からない。改まって真面目に聞く程の服なんてあったかな。
「アレって何?」
「最初に渡したケープ。アレはヤバいと思わん?可愛かっただろ。色的にも、琥珀にばっちりだから思わず買ってしまった。あ、これは俺の趣味で買った、俺の私物だから、値段は気にするなよ?」
疑問を口に出した途端、レオさんが饒舌に早口で話し始めた。レオさんの勢いに飲まれてぽかんとしながら聞いてしまう。成る程ね、アレ、とはケープだという事は理解した。そして、レオさんの勢いが凄かった。
「めっちゃ早口で説明してたけど、要するに俺の為に用意したって事?」
「まぁ、そうともいう。」
少しの間レオさんを見つめてしまう。一口お茶を飲んで落ち着いて、静かに質問をしてみた。レオさんはちらっとネロに視線を送った後で頷いてくれた。成る程、あのエロい感じの可愛い服を俺の為に、ね。
「では、それも俺が支払おう。幾らだ。」
「ネロ、マジで止めて。泣くよ?」
言い返そう、と口を開きかけたらネロが先に口を開いてしまった。しかも、支払うとか言っている。静かで淡々としているけど、有無を言わさぬ感じだ。もうね、俺の為にお金を使って欲しくないのに、ネロは分かってくれない。泣くよ、と言いつつ、もう涙目になっちゃった。
「ネロ、琥珀を泣かせるな。俺の私物って言ってんだろ。お前が払う理由なんてないんだよ。」
レオさんが俺の頬を優しく撫でて、ネロに抗議してくれた。レオさんの強い物言いでネロは怯んだっぽい。レオさんはやり切ったって感じで笑顔をくれた。レオさんが味方してくれたのは嬉しい。でもね、あなたにも言える事だからね。
「レオさんもマジで止めて。お金を使わないで。」
「え~、自分の趣味に金を使っちゃ駄目なの?」
レオさんにもちゃんと不満を伝えておく。レオさんは悪戯っぽい笑顔で質問を返してきた。緑色の猫目がキラキラ輝いて猫っぽい表情になってるんだけど。この猫ちゃんはあざと過ぎる。ネロみたいに素直に事が運んでくれない。
確かに、レオさんが自分の趣味の為にお金を使たとしても、俺には止める権利はない。でもね、その趣味が俺に向けた何かしらなら、結果的には俺の為にお金を使った事になるじゃん。言い回しがズルい。
「う。その言い方はズルくない?」
「ズルくない。な、ネロ。」
「そうだな。自分の趣味に金をかけるだけ。何も問題は無い、筈。」
及び腰になって文句を言ってみる。逃げ腰の姿勢がいけなかったのかもしれない。レオさんが強気な発言でズルくないと言い切ってきた。そして、ネロとも連合を組んだらしく、ネロもレオさんと同じことを言い出してしまった。ヤバい、ネロまでレオさんの手に落ちちゃった。
駄目だ。レオさんには口で勝てる気がしない。ネロだけなら泣き落としで折れてくれるのに。レオさんは手強い。かなりの強敵だ。流石ネロが選んだ恋人ってトコロなんだろう。見た目通りの、ただのチャラくてエロいだけの男ではないってのが良く分かる。
「琥珀。俺に失礼な事を考えただろ。声に出してみな?」
「流石ネロが選んだ恋人だ。見た目通りの、ただのチャラくてエロいだけの男ではないのかもしれない。ってちょっとだけ考えたけど、深い意味はありません。事実しか述べてないので問題ない筈です。以上。」
レオさんの静かに強要する低い声が聞こえて、観念してささっと棒読みで白状してみた。一瞬、呆気に取られた感じのレオさんだったけど、目が輝いて口元が笑みの形になっていく。
「ヤバいな。マジで可愛いわ。可愛すぎて俺の心がヤバい。」
「そうだな、可愛さしかない。」
頬を撫でながら甘い声で口説いてくるレオさんと、頭を撫でながらそれに同意しているネロ。因みに、頬も頭も対象は俺である。なんで、お互いに向かい合えないのか。俺を代償にしなくても、直ぐ触れるトコロにお互いがいるのに。まぁ、一応だけど。二人の視線は絡み合ってるから、よしとするか。
でもね、至近距離でこんな感じだと俺の心もヤバいんですよ。もうヤダ。二人が超ラブラブになってて身の置き所がない。俺を膝から退けて二人の世界に入ってくれればいいのに。早く移動したいのに。
お茶を飲み切るまでが食事。ネロの意見ではそうみたいだ。だから、一生懸命飲んでたのに、熱くて減らない上に今日は量が多いんだよ。お茶を飲まないと夕ご飯が終わらないルールなんて、いつからあったんだよ。
「ってかね、気が付いたんだけど。」
「ん?」
最初に手渡された時から気付いていたんだよ。ずしっと重いこの感覚がずっと手のひらに収まっているの。ずっと気付いていたんだけど、二人と会話していて忘れていたんです。
「お茶。カップになみなみに入ってた。いつもの倍くらいの量だった。こんないっぱい用意したのは故意でしょ。ネロとグルだったんだ。ズルい。」
「今気付いたのか。お前は可愛いな。ほら、ちょっとフードを被ってみな?」
改めて気付いた事実に沿って文句を言ってみると、レオさんがニヤっとしてくる。やっぱりワザとだったっぽい。レオさんはチャラい発言で俺の文句を受け流して、更にはフードを被れと強要してくる。
そして、レオさんが自ら被せてきた。俺の頭の後ろにあるフードに手を伸ばして、優しく被せてくれるレオさんの眼差しは優しい。フードを浅く被らせてくれて、前髪を整えてくれるレオさんの指がくすぐったい。目を細めてしまうと、レオさんも優しく目を細めてくれる。




