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173 呼び出しただけ

 突っ込みどころが満載なままで動けずにいたら、レオさんとネロが戻ってきた。レオさんがしゃがんで、俺の片足の足首を掴んで持ち上げる。ぐらっと傾いた体を、ネロがふわっと抱き上げくれた。ネロが抱き上げている間にレオさんがサンダルを俺に履かせてくれている。


 抱き上げられた状態で外に出た時点で、はっとした。ネロの腕をぽんぽんして下ろして貰った。やっぱり、二人の連携の精度が半端なく上がってる気がする。


「言いたい事は山ほどあったけどね。」


 ネロに手を引かれて歩き始めながらレオさんを見上げる。レオさんは俺に顔を向けて首を傾げてくれた。俺の話を聞く姿勢はあるらしい。


「一番言いたいのは。」


「うん。」


 マジで、ホントに、これだけは言いたい。一番重要なんだよ。レオさんは静かに相槌を打ってくれた。ネロは前を向いたままで耳だけ俺に向けてくれている。


「猫耳が欲しかったけど、自分では見られないじゃん。超悲しい。」


「えっ、そこ?お前はやっぱ可愛いな。まぁ、気にするな。ユリアに見て貰おうぜ。」


 俺が一番言いたいのはこれなんだよ。マジで、猫耳ってのは見えるからいいんだなってのが良く分かる。悲しい。俺の悲しさはレオさんには伝わらなかった。でも、ユリアさんに見て貰う提案はいいと思います。


「あ、そうだね。ユリアさんの反応を見れば分かるよね。あのね、変じゃないかな。大丈夫かな?」


 だって、レオさんはチャラくて参考にならないもん。ネロは親の欲目なのか、何でも褒めてくれるから、こっちも参考にならない。ユリアさんの反応で全てが決まる。ってか、二人以外に見られるって考えたら凄く気になってきた。もじもじしながら、もう一度変じゃないかを確認してしまう。


「メチャクチャ可愛いし、超似合ってる。」


「問題なく可愛い。」


 レオさんはいつも通りチャラくてダメだ。ネロもいつも通りでダメだ。可愛いかなんて聞いてないのに。なんかね、レオさんがネロっぽくなってる気がする。そして、ネロがレオさんっぽくなってる気もする。


「可愛いか可愛くないかじゃなくて、変か変じゃないかを聞いてるの。」


「変じゃないし、可愛い。」


「全く変ではない。そして、可愛い。」


 もういい、疲れた。会話にならない。そもそもの話だけど、この人達は猫耳に対してそんな情熱はなかった筈。いきなりどうしたんだ。急に目覚めたのかな。


「レオさんもネロも猫耳に対して超冷めてたじゃん。急にどうしたの。」


「その服を見た時に気が付いた。そして、琥珀の言いたい事が理解できた。」


 不信感を滲ませながら、二人を問い質してみた。レオさんの意見はなんとなく理解できた。客観的に服という形で猫耳と対峙して、初めて種族という枠を超えて猫耳の良さを理解できたんだろうね。


「マジで、それは単純に嬉しい。レオさんも分かってくれたか。」


「俺は前から知っていた。琥珀には似合う筈だと。」

 

 レオさんの猫耳への情熱を喜んでいたら、ネロもスッと会話に加わってきた。レオさんは理解できたよ。でも、ネロは違うじゃん。ネロには思考の転機になる事はなかったでしょ。 


「でも、ネロもいつも冷めた態度だったじゃん。」


 ネロにも不信感を滲ませて反論してみる。ネロは黙ってしまって、答えてくれない。暗くて見えないけど、ネロをじっと見つめてみる。ネロのシルエットがふいっと前を向いてしまった。


「琥珀、ネロは何に対しても基本的に冷めた態度だろ。武器に対しても結構そうだった筈。って事はだ、態度で示してなくても心の中に情熱はあったんだよ。」


「そう言えばそんな気がしてきた。レオさんは頭いいね。」


 何も言わないネロに代わってレオさんがネロの胸中を説明し始めた。めっちゃ信憑性がある言い分だ。確かにネロは全てに冷めた態度だ。それは間違いない。思わずレオさんを褒めてしまった。


 よくよく思い出してみると、俺が猫耳とか尻尾をって話の時のネロは楽しそうだった気がする。って事は、表に出してないだけで情熱を秘めてたんだ。レオさんはネロの事をよく見てるな。流石恋人だね。


「うん、俺は頭もいいんだ。」


「それが無ければ、レオさんは凄くいいのに。残念です。」


 レオさんを褒めてみたらしれっと受け入れてきた。これがレオさんである。こういうレオさんは大好き。でも、素直に言えなくて、やっぱり憎まれ口になってしまう。でも、レオさんとネロ、猫耳信者が一気に増えた感がある。いい事だ。


「因みになんだけど。俺とネロの猫耳への理解度はそこまで進んでないからな。一応補足だ。」


「どういう事?」


 ニマニマしていたら、レオさんが補足を言い渡してきた。意味が理解できなくて聞き返してしまう。レオさんがぽんぽんと頭を撫でた後で、ネロもポンポンと頭を撫でてくれた。ん、つまりはどういう事だ。


「お前が猫耳を付けたのがヤバいって事だよ。」


「琥珀限定。それ以外は魅力の欠片すら分からん。」


 二人を交互に見上げて、言葉で教えてって訴えてみる。クスッと笑ったレオさんが答えてくれた。そして、ネロも同じ事を言ってくる。ん~、要するにですよ。本来猫耳のない人族が猫耳を付けた事に対するフェチって事なのかな。


 二人はより高度で複雑なフェチを持ってる事が判明してしまった。俺は自分にないモノに対してのフェチ。これは、まぁ、普通に理解できる感覚だと思う。自分にはない猫耳に惹かれるとか、尻尾モフモフしたいとか。そういう感覚だからね。みんなが多かれ少なかれ持ってるフェチだと思う。


 問題は二人のフェチだ。俺のと似てるけど、ベクトルが逆方向に向かってる。対象に本来備わってないモノを持たせる事に対してのフェティシズム。やっぱり高度だ。高尚で哲学的な感じすらある。レオさんはともかく、ネロらしい崇高なフェチってのは理解できた。凄いな。


「二人がより高度な高みを目指してる事だけは理解できた。俺は足元にも及ばなかった。」


 二人が崇高なのは理解できて、二人へ尊敬の言葉を投げかけてみた。二人が顔を見合わせたのが見える。民家の明かりに照らされて、戸惑った顔をしている二人が無言で頷き合っている。


 どうやら喧嘩を経て、以心伝心度も上がったみたいだ。喧嘩って凄いね。そんなトコまで絆が深まるんだ。でもいいや、フェチの話はもういい。


「ネロ。さっきの話の続きをしてもいい?」


 フェチの話より、結晶の事がもっと知りたいんです。レオさんと見つめ合っていた視線を俺に移してくれたネロが頷いてくれる。


「結晶の作り方は分かったけど、触媒って何?」


「特性を移動させる際に、性能や効果が移行の前後で変化する事が無い、若しくは変化が限りなく少ない物質の事。」


 真面目な質問だからか、ネロも淡々と答えてくれる。ただ、まったく分からない。言葉の意味合いは分かるんだけど、イメージできないというかなんというか。


「成る程?」


「モンスターや魔物、一部の動植物から得られる素材は、それぞれ、個々に様々な特性を秘めている。その特性を一部の装備品やアイテム、結晶等に移す際に、変化する事の無い、若しくは限りなく変化しない特性を持った素材の事を触媒と呼んでいる。」


 一応は相槌を打ってみると、ネロはさらに説明を続けてくれた。少しだけ説明を補足してくれたけど、さっきの説明とほぼ同じだ。


 素材の特性をそっくりそのまま、別のアイテムに移す事ができる場合、それが触媒と呼ばれる素材って事みたいだ。自分で言い直しても、全然イメージできなかった。


「特性を移すって、移し終わった時に、元の素材はどうなっちゃうの?」


「素材の抜け殻。特性のない物質。多くの場合は、素材自体も特性の一部として合成の際に消失する。」


 合成をしたら素材は消えちゃうのかと思ったけど違うらしい。消える場合もあるけど、残る場合もあるんだ。素材の抜け殻ってなんだ。ってか、合成でもモノによって反応が違うって事だよね。消失する場合と残る場合、どんな違いが作用して変化が起きるんだろう。不思議だ。


「残った場合、見た目は一緒?」


「同じ。」


 素材の抜け殻とやらは、普通に見た目は同じなのか。成る程。って事は、超レアアイテムがあったとして、それが残る素材だったら大変だ。特性を移行した後、素材だけを特性付きですって詐欺るって事もできちゃうじゃん。 


 まぁ、この世界は優しい世界で、そんな不正をするって概念はないのかもしれない。そう考えると、俺は薄汚れた精神の持ち主なんだろうな。ゲーム脳って怖い。ネットに毒された俺の精神も怖い。この純粋な世界で過ごしたら、きっと綺麗な精神になれる筈。


「じゃあ、特性がついてない抜け殻のアイテムをスゴイ特性がついてるよって売っちゃったりできちゃわない?」


「それを見極められない者は商人にはなれない。商人になる事は可能でも、商売は成功しない。それだけの事。」


 一応ね、不正とか詐欺とかは平気なのか聞いてみちゃおう。質問を最後まで聞いたネロは静かに冷静な声で冷たく言い切った。冷たい言い方だけど、それが真理なんだろうね。


 まぁ、一応はそういう詐欺行為もなきにしも非ずって感じなのか。商売人系の人は自分の実力がモノを言うって事なんだろうな。商売人はともかく、一般人にも影響があったりするのかな。


「じゃぁ、店側が不正でそういうのを流したりとかはない?」


「無い事も無い。一応は、取り締まる事にはなっている。保障される場合もあるが、不正に際限はない。最終的には、買う方も見極められなかった自分の能力の落ち度という事になる。」


 商売人が一般人相手に詐欺を働く事はあるのか。軽く聞いてみると、ネロは淡々とした口調で教えてくれた。まぁ、そうですよね。それも1つの商売の形って事か。この世界は綺麗な世界ではないって事だ。不正の概念はない、とか。詐欺なんてない世界、とか。そんな訳なかった。俺の精神は綺麗にはなれないようです、残念。


 詐欺や不正なんて、現実なら誰だって思いつく手法だもん。現実なら、甘い汁を吸いたくて悪事を働く人はいますよね。俺はまだ、この世界を現実とは受け入れてないのかもしれない。いつになったら現実だって思えるんだろう。


「物の価値とかって、どうやって見極めるんだろう。」


「魔法の〈鑑定〉で調べる。知力が高ければ、触っただけで素材に流れる特性の波のようなものを拾う事もある。それ以外では、自動で見極められるスキルも存在している。」


 ネロの説明を聞いていて、見極める能力が大切って分かった。俺も一人になったら騙されないように見極めなきゃだよね。そんな考えから、ぽつりと独り言を呟いてしまった。疑問の形を取った訳じゃなかったけど、ネロは静かに答えてくれる。ネロの話を聞いてびっくりしてしまった。


 そうだった、この世界は魔法がある世界だったんだ。見極める力は普通に経験と勘だと思ってた。まさか、魔法で調べるとは思わなかった。他にもスキルとか知力とか、あるんだ。そうだった、ここは地球じゃないんだよね。


「〈鑑定〉すら騙す〈フェイク〉って魔法もあるけどな。」


 絶句してネロを見上げていたら、黙って俺達の話を聞いていたレオさんが会話に加わってきた。魔法を騙す魔法があるのか、スゴイ世界だ。


「〈鑑定〉と〈フェイク〉は何属性なんだろ。」


「両方、幻だったかな。」


「それで合っている。両方とも幻。」


 そんなスゴイ魔法の属性が知りたくて問いかけてみると、レオさんが直ぐに答えてくれた。ただ、自信はなさ気だ。レオさんはちらっとネロに視線を飛ばしたっぽい。ネロがレオさんを肯定して、両方、幻なのが確定した。


「幻で唯一スクロールがあるのが〈鑑定〉だった気もする。幻の魔法は、文字通り幻なのが多いんだよ。」


 レオさんが追加情報で補足してくれて、ふむふむと頷いてしまう。幻の魔法は幻、か。抽象的過ぎてあまり分からなかった。俺からすると、すべての魔法が幻みたいなモノなんだよ。


「幻っていうと〈認証〉をネロが使ってたよね。」


 聞いた事のある幻属性の魔法って事で、ネロの〈認証〉を思い出した。そのまま口に出して確認を取ってみると、ネロが俺を覗き込んでじっと見つめてきた。ネロの反応が不思議で、首を傾げてしまう。ネロは首を振って考え込んだみたいだ。


 あれ、間違ってたかな。あ、アレだ。あの時、ネロには説明をして貰ってなかったんだ。『認証文字』を見ただけで、スツィに説明をして貰ったのを忘れてた。普通にネロに説明をして貰ったと勘違いしてた。しくった。


「〈認証〉は一定金額以上を持ってるヤツに自動的に配られる魔法だからな。スクロールに近いと言えば近いよな。厳密にはスクロールじゃないから、俺が言ったのは間違ってない筈。因みに、消失するとメチャクチャ高い金額を払って再習得する事になる。らしい。」


 ネロへの言い訳を考えていたら、レオさんが〈認証〉の魔法について説明してくれた。意識がネロからレオさんへと移って、レオさんの説明をふむふむ、と聞いて理解した。〈認証〉ってのはそうやって取得するのか。成る程。


 お金が一定額無ければ取得ができない魔法って事か。取得条件が限定条件下の魔法ってのもあるんだね。しかし、お金持ちの人へ配られる魔法ってのもあるんだ。凄いな。クレジットカードが配られるみたいなものでしょ。この知識を持ってるって事はレオさんもあるのかな。


「って事は、レオさんも〈認証〉を持ってるの?」


「うん、あるよ。金を持っての移動は面倒だからな。」


 サラッと聞いてみたら、レオさんもサラッと答えてくれた。マジで持ってるんだ。一定額ってのがどれくらいかは分からないけど、普通に高額なのは確定だよね。ネロは元から大人に見えてたけど、レオさんが凄く大人に見える。


「大人だ。そして、レオさんだと所持金不足になりそうで怖いね。」


「それな。ありそうで怖いわ。」


 ワイルドなレオさんはお金不足で〈認証〉を消失させちゃいそうで心配になっちゃう。俺の心配を受けて、レオさんは苦笑しながらも同意見らしい。ホント、この子は大丈夫なのだろうか。心配だ。


 レオさんの心配は今しても仕方ないから、話を戻そう。ネロは考え込んで戻ってこないから、質問の対象は必然的にレオさんになってしまう。レオさんは聞けば答える博識さがあるからきっと教えてくれる筈。幻属性の魔法について聞いてみよう。


「幻の魔法はスクロールじゃないんでしょ。って事は、どうやって覚えるの?」


 差し当たって、幻属性の魔法の習得の事が聞いてみたい。素朴な疑問なんです風でレオさんに問いかけてみる。幻属性は解明が進んでない魔法って事だった。レア度が高そうな感じがするじゃん。超気になる。


「それが、幻は大変みたいなんだよ。基本的にスクロールで会得できない魔法っていうのは、師匠の下で時間をかけて覚えていく事になるんだよ。で、幻はその師匠にあたるのがなんと、言葉を話すとは限らないらしいんだよ。どうやって習得するんだよな。」


 レオさんが軽い口調で説明してくれるのを、ふむふむと頷きながら聞いていく。スクロールがない場合は師匠に習うってのは理解できたけど、最終的なトコロが疑問になってしまった。師匠が言葉を話すとは限らないってなんだ。レオさんの言葉通り、どうやって習得するんだろう。


「ん~、どういう事?」


「幻の心得は心的表象にある。視覚に基づく世界ではなく、思考に基づく世界の中に幻の魔法は存在している。例えば、武器や本等、人の手を介して製造された物の内で、疑似的な魂を持つに至った存在。自然に存在している石や金属などの無機物。或いは虫や動物、モンスターや魔物に至る、魂を持つ存在。全てが思考の世界では師となり得る。」


 俺の疑問に答えてくれたのはネロだった。でも、ネロの説明はスツィ並みに難解だ。めっちゃ難しい事を言ってる。ネロにスツィが乗り移ったのかもしれない。


(乗り移ってはいません。)


「要するに人以外の全てが師匠になる事ができますよって事?」


 ネロの説明が難しすぎてこんがらがってきた。スツィの突っ込みはこの際無視して、何とか解読をしてみた。


「人を含む全て。」


 ネロは直ぐに訂正をしてくれる。そっか、全てがって言ってたから、人も含むんだ。って、意思の疎通ができそうな生物はともかく、無機物からどうやって魔法を会得するんだ。


「成る程、人はともかく。石からどうやって何かを学ぶの?」


「思考の世界の話。学んだ者にしか分からない。」


 今回の俺の疑問には、ネロも答える術がないらしい。まぁ、そうだよね。学んだものにしか分からないって言葉は凄く理解できる。


 そもそもな話、俺は無機物どころか人からの魔法の伝授も不可能っぽかった。そう考えると、無機物も人も俺にとっては同じ存在なのかもしれない。


「ネロは幻の魔法を持ってるの?」


「〈鑑定〉、〈認証〉、〈使い魔〉。」


 魔法の会得に関してはもういいや。ネロは幻と言われる幻属性の魔法すらも持ってそうな気配がある。サラッと聞いてみたら、やっぱあった。とはいえ、ネロでも〈鑑定〉と〈認証〉以外ではもう一種しかないのか。


「〈使い魔〉って何。使ってみてよ。」


「面倒臭い。」


「俺も見たい。どんな魔法なのかな、見たいな。」


 ワクワクがレオさんにも存在していたらしい。俺が言う前にレオさんがネロにお願いしている。そして、冷たく跳ね返されてしまったようだ。ネロのツンは健在だった。良かった。俺も便乗してお願いしてみよう。


 立ち止まってネロを見上げてみる。ネロも同じく立ち止まって、詠唱を開始してくれた。詠唱終了と同時に、ネロの両肩に一羽ずつ、二羽の黒い鳥が存在している事に気が付いた。


 靄が集まって形になった感じで、鴉っぽい見た目だ。俺と目が合った一羽が俺の肩に移動してきてくれる。甘えるように覗き込んでくる姿がソラスっぽくて可愛い。


 頭を撫でようと手を伸ばしたけど、煙っぽい体で実態がないらしい。でも、俺の頬に頭を摺り寄せてくれる姿がメッチャ可愛い。


 もう一羽も俺の所に飛んできて、反対の肩に乗ってくれた。嘴で俺の髪を軽く啄んでくれる姿がもう可愛い。撫でたい。でも、鴉の体を触ろうとしても、靄が動いて手が素通りしちゃう。



「ネロ、聞きたいんだけど。あれは何。お前の心が投影されてるとかなのか?」

「違う。指示をしない限りは行動をする事は無い筈。」

「じゃぁ、指示したんじゃねぇの?」

「呼び出しただけ。」 



 鴉達と戯れている間に、二人が顔を寄せてコソコソと内緒話をしているのに気が付いた。二人は勝手にいちゃつけばいい。俺は肩に乗ってくれたこの可愛い子達に集中したい。


 実態がなくても、二羽はちゃんと自分の存在をアピールしてくれている。髪をハムハムしてくれる子と、頭をスリスリしてくれる子。二羽のアピールの仕方が違うから、別々の存在でそれぞれが意思を持ってるって分かる。


「ねぇ、ネロ。この子達には名前はないの?」


「フギンとムニン。」


「可愛い名前。どっちムニンかな。教えてくれるかな。」


 内緒話中のネロに肩の子達の名前を聞いてみる。ネロが直ぐに答えてくれて、名前が判明した。両肩に交互に目を向けて、問いかけてみる。


 右の肩の子が髪を啄む動作をしてくれた。めっちゃ可愛いじゃん。この子がムニンなんだね。右肩の子をそっと手で撫でてみる。実際は撫でれてないけど、気分の問題だ。


「じゃあ、君はフギン?」


 左の肩の子に顔を向けて問いかけてみた。そうだよ、って感じで、左の鴉が頭を摺り寄せてくれる。ヤバい可愛い。鳥も超ありですね。



「何あれ、可愛いんだけど。質問したら返事とかできるんだ。」

「そんな機能はない。命令を履行するだけの存在な筈だ。」

「だって実際に今やってるよ。」



「じゃあ、シャッフル。フギンとムニンはぐるぐるして。俺が当ててみるから。」


 ちょっとテンションが上がってしまった。だって、メッチャ可愛いんだもん。でもね、見た目は全く一緒の靄の鳥なんだよ。二羽を交互に眺めて、ちょっと遊ぼうって提案してみる。


 俺の誘いに乗ってくれたらしい二羽が両肩から飛び立ってくれた。風の動きも重さも何も感じられなかった。〈シール〉の風の膜があるからなのかな。考えてる間に、二羽の鴉が上空を飛んで回った後で、両肩にそれぞれ戻ってきた。


「じゃあ当ててみるね。ん~、そうだな。君がムニンで、君がフギン。」


 右手をムニンと思われる子に、左手をフギンと思われる子に沿わせてみた。右の子が頭を摺り寄せて来て、左の子は髪を啄んでくる。さっきの感じだと、スリスリの子がフギンで、ハムハムの子がムニンだった筈。って事は、外れだ。


「マジか、外れちゃった。何か見分けられる特徴があるといいんだけどね。俺には見分けられなかった。ごめんね。」



「おぃ。〈使い魔〉ってのは、発動者以外の言う事も聞くのか?魔法として成り立たなくないか?」

「そんな筈はない。発動者の命令にのみ反応する、筈だ。」

「だってめっちゃ動き回ってるぞ?琥珀の鳥みたいになってる。」

「意思はない、筈だ。命令の履行のみを行う、筈。」



「ん~、なんか色とかが違ったら見分けられると思うんだけど。変えられる?」


 二羽に交互に視線を送りながら考えて、色が違ったら分かり易いって結論に達した。二羽に視線を送りながら聞いてみる。左右の肩の鴉は声は無いけど、可愛く嘴を開けて返事をしてくれた。


 俺の肩の上で二羽が頭を前に突き出してお互いに見つめ合った。少しして、二羽の瞳に変化が表れ始める。二羽とも真っ黒なつぶらな瞳だったのに、右肩のフギンは水色の綺麗な瞳に、左肩のムニンは薄緑色の綺麗な瞳に変わっていった。


「お~、凄い。君はフギンで合ってるよね。」


 右肩の子を撫でる仕草をすると、水色の瞳の鴉が頭を摺り寄せてくれる。


「で、君はムニンで合ってるよね?」


 左肩の子を撫でる仕草をすると、薄緑色の瞳の鴉が髪を優しく啄む仕草をしてくれる。



「えっと、あの、〈使い魔〉って色の変化とかできるのか?。普通、呼び出系って呼び出した状態から形態変化とかしないってのが常識なんだが。これはこんな高性能な魔法なのか?」

「できない、筈。墨の靄一色で構成される、筈だ。」

「だって、今、変わったぞ?」



「ねぇ、ネロ。この子達が超可愛いんだけど、ヤバい。この子達のお仕事は何なの?」


 内緒話中のネロを邪魔しちゃって悪いんだけど、また質問をしてみちゃう。だって、魔法っていうからには何かの役割がありそうじゃん。〈使い魔〉って魔法だし、お仕事しそうな雰囲気なんだもん。気になるじゃん。


「情報収集、の筈。」


「ネロ、不安になってるんじゃねぇか。多分正しいから自信を持て。お前の知識は正しい、筈だ。琥珀がイレギュラーなんだよ。多分。」


 ネロが元気なく答えてくれた。ネロの気落ちした感じがちょっと気になるけど、レオさんが慰めてるっぽいから、まぁいいか。


「情報収集か。じゃぁ、フギン、ムニン。お仕事です。今日、ユリアさんが用意してくれるデザートは何だ。始めに教えてくれた子には景品を贈呈しますよ。なんと、なでなでしてあげます。頑張って行ってきてね。」


 情報収集がお仕事って超有能じゃん。ニコニコで二羽にお願いをしてみる。俺の言葉と共に二羽は飛び立って、宙に溶けた。暗いから闇に紛れて直ぐに見えなくなっちゃったっぽい。


「おぃ、お前の命令以外を聞いてどっか行ったぞ。お前の指示か?言葉に出さずに伝達か?」


「してない。」


「そうだよな。やっぱ、イレギュラーな事が起こったんだよ。気にするな。な、大丈夫だから。」


 フギンとムニンが消えた虚空から視線を二人に移してみる。レオさんがネロを慰めてる姿が見える。というか、レオさんがネロの肩を抱いて心配そうに覗き込んでる姿だ。なんかラブラブな雰囲気が満載なんですけど。レオさんがネロを抱き寄せてる。しかも、超優しい顔でネロを覗き込んでる。


 こんな人目に付く場所でそんな事をしていいのかな。ドキドキしてきた。二人を眺めていたら、虚空からスッと現れる靄で形作られた二羽。形を認識したのと同時に、二羽は俺の両肩にふわっと戻ってきてくれた。


「おかえり、めっちゃ早かったね。さて、結果は、ん~、二人は同着でした。ありがとね。」


 肩の二羽を撫でるように手を添えてみる。水色の瞳のフギンは嬉しそうに頭を摺り寄せてくれるし、薄緑の瞳のムニンは嘴で髪を触ってくれる。指に触る感触も、頬や髪にあたる感触も無いけどやっぱ可愛い。


「ん~、言葉は分からないね。でも、ありがと、嬉しかった。」


「琥珀とレオ用に酒無しのパウンドケーキ、俺用に果実のゼリー。」


 二羽は俺の肩の上で何やら訴え始めた。でも、伝えたい事を理解する事ができない。二人を撫でて、行動してくれた事が嬉しいって伝えてみる。二羽は訴えをやめて、首を傾げてくれた。そして、ネロの静かな声が二羽の言葉を教えてくれた。


「おお、ネロはこの子達の言葉が分かるんだ。凄いな。」


「一応、俺の〈使い魔〉だから。多分。」


「多分じゃないぞ?ちゃんとネロの〈使い魔〉だからな。自信を持て。大丈夫だぞ。」


 ネロが二羽の声を届けてくれた事が嬉しいのと、ネロが二羽の声を理解してる。テンションが上がってネロに凄さを伝えてみた。ネロは元気なく答えてくれる。いつもの静かな淡々とした口調じゃなくて、明らかに元気がない。レオさんはネロの肩を抱いて、覗き込みながら慰めてる。


「ネロ、どうしたの?なんか悲しそう?」


 そういえば、さっきからネロの元気がなかった気もしてきた。ネロを見つめて心配な気持ちを伝えてみた。ネロは目を細めてくれたけど、やっぱり元気がない。超心配になってきた。なんでこんな状態になってるの。魔法の発動前は普通だった気がする。何があったんだ。


「〈使い魔〉が琥珀の言う事ばっかり聞くから拗ねてるんだよ。」


「マジか。ごめんね。ムニン、フギン。ネロのトコに戻ってあげて。ネロは拗ねちゃったみたいだから、髪ハムハムと頭すりすりね。宜しく。」


 ネロに代わってレオさんが答えてくれた。そして、レオさんの発言で納得できた。そうだよね。ネロの魔法なのに、フギンとムニンが俺を構って俺の傍から離れなかったのがダメだった。二羽に視線を向けて、ネロのトコロに帰るように促してみる。


 俺の要望通り、二羽はスッとネロの元に移動していった。ムニンとフギンがネロの肩に止まってネロをじっと見つめる。ハムハムもすりすりもしないらしい。


 ネロと二羽は少しの間、意思の疎通をする感じで動きを止めていた。そして、二羽はふっと闇溶けるように消え去ってしまう。消える直前で、髪を嘴で啄む仕草のムニンと頭を摺り寄せる仕草をしたフギンが見えた。二羽は俺のお願いを聞いてくれたらしい。マジでいい子達。


 ネロが目を丸くして固まってる。ネロの肩を抱いて歩き始めたレオさんが、俺をちらっと睨んできた。睨まれた理由は分からない。でも、レオさんに非難された事は分かる。二人の斜め後ろをゆっくりついていく事にした。


 だって、可愛かったんだもん。動物とか、普通にテンション上がっちゃっても仕方ないじゃん。ってか、お腹空いた。そりゃ空くよな。だって、お腹が空いたと自覚してから一時間以上は経ってる気がするもん。


 それにしても、二人は仲いいな。レオさんがネロの肩を抱いて歩くとか、初めて見た。レオさんがリードするとか、意外だ。雰囲気的にはネロの方がしっかりしてるから、ネロがリードする側だと思ってた。


「琥珀、帰ったら話しがある。ネロがここまで落ち込むとか、可哀想だと思わないのか。」


「えっ、俺のせいなの?」


 二人の後ろ姿を見ながら歩いていたら、レオさんが振り返ってきた。目が合って、レオさんがスッと目を細める。真剣な視線だ。背筋を正すと、レオさんが静かな声で帰宅後の説教を示唆してきた。思わず聞き返してしまう。雰囲気的には俺のせいだとは思ってたよ。でも、何が原因なのかが分からない。


「お前以外の誰のせいだっていうんだよ。」


「マジで。俺はヤバい事をしちゃったの?」


 俺が恍けて答えたと思ったのか、レオさんがキツイ口調でぴしゃりと跳ね返してきた。その感じで分かった。レオさんは少し怒ってるっぽい。何でネロがここまで落ち込んだのかは分からない。でも、俺がヤバい事をした事実は理解できた。


「今日に限っていうと。ハッキリ言って、ヤバい事しかしてない。全部、家に帰ってからだ。覚悟しとけ。」


「マジか、ネロ。ごめん。良く分かってないけどごめんなさい。」


 静かな口調のレオさんが、ハッキリと俺の行動はヤバいと断定してきた。ネロが落ち込んでいる事実がもう、全てを物語ってるじゃん。ネロは振り向いてくれないけど、俯いて謝ってしまう。


「理由も分らずに謝るのは良くないぞ。家に帰って理解してから謝れ。」


 俺の謝罪を受けて、レオさんの低く冷静な声が響いてきた。顔を上げるとレオさんが鋭い目で軽くだけど睨んでいる。レオさんの言ってる事は正しい。理解してないのに、ただ謝るのはダメだ。


 レオさんはマジモードで切れてるのも分かった。俺は何をしたんだろう。パーカーのフードを引っ張って深く被り直す。俯いて自分の行動を振り返りながら歩き続ける。


 確かにテンションが上がってフギンとムニンの説明を聞かなかった。手を出しちゃいけなかったのかもしれない。〈使い魔〉っていうくらいだから、ネロが使うべき子達だった可能性が高い。


 それを俺が使っちゃった。その結果、魔法が暴走的なので、ネロの精神がボロボロになって大変的な事になっちゃったのかも。大事じゃん。知らなかったとはいえ、ネロに危害を加えていたのかもしれない。ネロは大丈夫かな。


 悪い想像に頭を抱えてしまう。泣きそうになりながら歩き続ける。気が付いたら、横に誰かが歩いていた。俯く視界の中で、黒い尻尾が揺れてるのが見える。


 尻尾に気を取られて顔を少し横に向けると、ネロが覗き込んできた。ネロはもう普通っぽい。優しい瞳にほっとしたけど、ネロに何かをしてしまったって理解してるから、顔を逸らしてしまう。


 視線の先にはレオさんがいて、レオさんの尻尾がぽわぽわになってるのが見える。顔を上げるとレオさんが見下ろしていた。レオさんはもう睨んでなかった。困った顔をしている。言葉を掛けるのも、掛けられるのも嫌で、また俯いてしまう。

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