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171 横暴だろ

 もうこんな時間になってるなら、今日もランスを見るのは無理っぽい。俺の運動は外せないからね。入り口を締めてネロに顔を向けてみる。ネロは俺の行動を目で追いかけていたらしく、直ぐに目が合った。ニコっとすると、ネロも微笑みを返してくれる。


「さて、ネロさん。」


「ん?」


 改まった口調でネロに話し掛けてみる。敬称付きな事が違和感だったのか、ネロが片眉を上げて疑問を伝えてきた。レオさんはニコニコと見守っている。


「試練に合格したあなたには何か景品を上げないとですね。」


「成る程?」


 さっきのネロの働きには何かで報いる必要があると思うんですよ。切っ掛けを作っちゃったのは俺で、それを収めてくれたのはネロだからね。ネロは俺の提案の意図を図りかねているみたいだ。


「って言っても、俺にあげられる物は少ないけど。何が欲しい?俺にできる事の範囲内なら何でもいいよ。」


「そうだな。」


 子供のお礼くらいの事しかできないけどね。ネロの希望を聞いて叶えられる事はしてあげよう。ネロは少し考えたらしく目を逸らして、ちらっとレオさんに視線を送った。そして、何かを思いついたのか、俺に視線を戻して目を細めた。


「今夜、抱き締めて寝る。」


「おぉ、情熱的だね。レオさんか、ん~。いいよ、許可します。」


 何がいいの、って首を傾げて目で問いかけてみる。ネロは嬉しそうな笑顔で情熱的な事を言い出した。マジか、そうだよね。だからこその、さっきのレオさんへの目配せか。そっか、隣に俺がいる状況だけど、レオさんを抱き締めて寝たいよね。いいでしょう。その願いは叶えてあげましょう。


「ちょ、俺の承諾なしに許可とか。俺の意思は聞かないのかよ。」


「この家の中ではレオさんの意思はないと思って下さい。」


 ネロに求められたっていうのに、レオさんときたらこんな時まで素直になれないらしい。そんなレオさんにはビシっと言っておかなきゃだね。


「横暴だろ。」


「うん、独裁政治なの。ネロの。だから諦めてね。」


 俺の確固たる意志を聞いたレオさんが不満そうに言葉を漏らした。良く分かってるじゃん。この家は横暴で間違いない。ネロの意思が全てなんだよ。ニコっと笑顔で通告してあげる。


「お前の、の間違いだろ。傀儡政治なのは分かってるからな。」


 レオさんはふっと頬を緩めた。納得したのかな、って思ったら違った。ニヤっと口元に笑みを浮かべたレオさんが言い返してくる。


 なんとでもお言いなさい。ネロの言葉は覆らないんですよ。ニコニコでレオさんの言葉を聞き流していたら、レオさんがちらっとネロに視線を送った。


「訂正する。今夜、琥珀を抱き締めて寝る。」


 レオさんの視線を追いかけてネロに目を向けてみた。レオさんの許可をして一件落着した筈だったのに、ネロが訂正してきた言葉に驚いてしまう。


「なんで俺なの。レオさんでいいじゃん。せっかく仲直りできたんだから、レオさんにしなよ。」


「独裁政治と言ったな。俺の。」


 レオさんへの余裕な態度はもう捨て去って、ネロに勢いよく文句を突き付けてみる。ネロがスッと目を細めて、さっきの俺の言葉を引用してきた。威圧的に目を細めたネロの金色の瞳から光が漏れ出す錯覚が怖い。


「琥珀。諦めろ、お前の負けだ。」


「う、じゃあ。理由を言って納得できたら許可する。」


 レオさんが楽しそうに俺の敗北を宣言してきた。俺はまだ負けないもん。ネロはレオさんを抱き締めたい筈なのに、なんで俺に矛先を変えてきたんだよ。


「景品の内容に難癖を付けて許可制にするとか、お前は横暴だな。ネロが可哀想になってきた。」


 溜息と苦笑と慰めなのか、色々が混じったレオさんの声が聞こえる。因みに、慰めの対象はネロだ。俺ではない。俺に対しては呆れすら含ませている気がする。レオさんがネロを庇ってる。今の状況下でも、その事実がちょっと嬉しい。


「昨夜はレオが抱き締めて寝た。今夜は俺の番。」


 ネロの言葉にぐうの音も出ない。要するに、あんな凄まじい喧嘩をした後で、子供の喧嘩に戻って張り合ってるみたいだ。この人達のじゃれ合いは相当凄いって事だけは分かった。流石エリート護衛達って事なのか。


「はい、琥珀の負け。勝者ネロ。大人しく景品になるしかないようだな。言葉を無くした琥珀の代わりに俺が許可しておく。代理人レオの名に於いて許可します。以上。」


 くそぅ。何も言えない。ってか、二人の愛が深まって協力プレイをしだした。なんて事だ、悔しい。


「じゃぁ、もうそれでいいよ。外が暗くなり始めてるからさっさと運動開始。終わったらご飯にしよ。あ、レオさん。さっさと服を脱いでよ。ネロがボタンを外してくれたんだから後は脱ぐだけでしょ。」


 もう諦めた。口ではレオさんには勝てない。それより、脱ぎ掛けの服をさっさと脱いでほしい。上着のボタンが全開の半裸状態でソファに座ってるレオさんの違和感がスゴイ。隣のネロがきっちりしてるから、よりそう思ってしまう。


「そうだよ、なんで脱がそうとしたの。あれか、痴漢的なプレイだったのか?」


「そんな訳ないじゃん。ネロが痴漢なんて、何て事を言うの。」


 レオさんは服を脱ぐそぶりもなく、質問を重ねてきた。痴漢ってなんだ。そんな痴漢はいないだろ。ってか、ネロがそんな痴漢をする訳ないでしょ。


「いや、ネロじゃなくてお前って意味で言ったんだけど。結果的には確かにネロが痴漢だったかもな。」


「俺もネロも痴漢じゃない。ね、ネロ。」


 レオさんは困った顔をして、言い直してきた。でも、俺も痴漢なんてする訳がない。レオさんの考える事はイヤらしくて嫌ですね。もうね、ネロに確認を取っちゃうしかできない。


 俺達の会話の勢いに飲まれていたのか、ネロが驚いた顔をしている。俺から視線を外して、レオさんを見て考え込んだ後に、俺に視線を戻してくれたネロが頷いた。レオさんはそんなネロに苦笑している。二人の感じが可愛くてニコニコになってしまう。


「そうじゃなくて、服を脱いでネロのを着て。急いで。」


「は?なんでネロのを着なきゃいけないんだよ。」


 ホンワカと二人を眺めていたけど、はっとした。さっさと着替えて運動をしたいんだよ。レオさんにさくっと指示を出してみたけど、レオさんが抵抗してくる。


「だって、俺がネロの服を着てたら、ネロに包まれてるみたいで見てて嫉妬したんでしょ。じゃあ、自分が包まれれば問題ないじゃん。何か文句があるの?」


 なんで抵抗するんだ。ネロに包まれたいって感じを出してたのはレオさんじゃん。一応は説明をしてみたら、レオさんが呆れた顔になっちゃった。


「やっぱ、お前の独裁政治じゃん。」


「文句言わないの。さっさと着て。お腹が空いたの。」


 言い返してくるレオさんにはびしっと言い返しておく。レオさんが目を丸くしたから、大きく頷いてみた。レオさんが緩慢にネロに視線を送ったのが見える。


「では先に飯にするか?」


「イヤ。先に運動って決めたの。だから、レオさんはさっさと脱いで急いで着て。」


 ネロがちらっとレオさんを見て、レオさんを庇った。ちょ、ネロとレオさんがラブラブなんだけど。テンションが上がる心を抑えて、我儘を言ってみた。だって、レオさんにネロの服を着て欲しいんだもん。俺もネロに包まれるレオさんが見たい。


 レオさんが小さく溜息を吐いている。ネロが頷いたのを機に、レオさんがのろのろと服を脱いで、ネロの服を着てくれた。


 レオさんだとぶかぶかじゃない。ぴったりフィットしてる。ある程度までしか伸縮しない服なんだね。俺のサイズまでは縮まないんだ。だけど、レオさんまでは縮むんだね。


「レオさんが着ると細身でカッコいい。ネロの方がゴツイのが良く分かる。」


「そうか?でも、動きやすい服だな。これ。」


 レオさんが着ても、ネロに包まれてる感は全然なかった。でも、黒いぴったりとした服はレオさんに凄く似合ってる。ネロと全く同じ服なのに、二人の対格差のせいなのか、違う服にも見える。


「でも、重かったよ?あと、生地が厚かった。ネロが着てるのを見たら、俺の今のくらい薄いと思ってたのに。」


「あ~、確かにしっかりしてる生地だな。重くはないけど。」


「ある程度の強度を保つ為には仕方ない。紋も埋め込んでいる。」


 テンションが上がって目がキラキラしてるレオさんは楽しそう。あと、凄く嬉しそう。そのレオさんを見守っているネロは目が凄く優しい。説明の口調も優しい。


「マジか。凄いな。この服は貰っていいのか?隠しポケットとか沢山ついてる。使い勝手がヤバそう。」


「うん、いいよ。」


 嬉しそうなレオさんには直ぐに許可をあげちゃう。だって、その服が凄く似合ってるんだもん。あと、ネロの服を着てるレオさんってのが凄く嬉しかったんだもん。


「ちょ、なんで琥珀が返事するんだよ。ネロの服だろ?」


「そうだった。忘れてた。」


 速攻レオさんに突っ込まれて気が付いた。そういえば、俺の服じゃなかった。てへぺろしてみると、レオさんの頬が緩んだ。ネロは元から優しい微笑みだ。


「問題無い。気に入ったのなら使え。」


「聞いた?レオさん。ネロがデレたね。やったね、ペアルックだよ。」


 ネロは俺が勝手に許可した事を気にする様子もなく、レオさんに許可を出してくれた。言い方がメッチャ優しい。恋人へのプレゼントですよ。自分の服をプレゼントするネロとか、ヤバい。しかも、今着てるのと寸分違わぬ、お揃いの服。


「あ、そうだな。とっても嬉しいです。」


 あれ、レオさんが棒読みになっちゃった。マジで、さっきまでのテンションはどこに行った。なんでイキナリおとなしくなったんだよ。もっと喜びをネロに届けたらいいのに。あ、そっか、上半身だけじゃあれか。


「なんで棒読みなの。感動が伝わらないじゃん。いつでもネロに包まれていられるんだよ。もっと喜んでよ。ネロが可哀想でしょ。あ、そうだ。ネロのズボンもあげたら?そしたら全身包まれるじゃん。いい考えだね、俺は天才かもしれない。」


 考えに沿って話していくと、レオさんの顔が真顔になっていった。ネロは微笑みを絶やしてない。けど、眉がぴくってなった。そうだよね、レオさんの全身を包み込めるって考えたら嬉しいよね。


「そうだな。お前がぶっ飛んだ天才なのは認める。だけどな、俺は上半身だけでいいや。あれだよ、下半身も包まれるとか、マジでアレだろ?分かるだろ?」


「何言ってんの。マジでキモイ。」


 ニコニコの俺に対して、真顔のレオさんが冷静な言葉で言い返してきた。うんうん、って聞いてたのに、最後で真顔になってしまった。もうね、本心が普通に口から出るようになってる。飾らない本心だよ。素の俺ですよ。


「もう、その真顔の全否定すらも可愛く感じてきた。もっと言っていいぞ。ってか、その顔でちょっと貶してみろ。蔑んだ感じも忘れるな。やべぇ、興奮してきた。」


 レオさんはマジで変態かもしれない。隣で恋人ネロが微笑みながら、眉を反応させてますよ。また怒られちゃうよ。


「ネロ、レオさんはレオさんだね。あんなにぷるぷる震えて怯え切った可愛い子猫だったのに。安心したらいきなり威嚇を始めたよ。可愛いね。頭撫でてあげる?」


 この場はもうネロに任せよう。ニコっとしながら、ネロに提案をしてみた。ネロは頷いてレオさんの頭に手を伸ばした。ネロの手が優しくレオさんの髪を撫でていく。


 ネロの手がレオさんの頭に置かれた時点で、レオさんがピタッと動きを止めた。ネロはレオさんを宥めるのが上手くなってる気がする。流石ネロだね、色々と器用だ。


「さて、茶番は終わった。運動開始。」


「お前の茶番のせいで俺は死にかかったんだぞ。反省しろ。」


 もういい。レオさんに付き合ってたらいつまでたっても運動ができない。運動開始を宣言してみたら、レオさんが噛み付いてくる。さっきまでネロに撫でられて大人しかったのに、もう復活しちゃったみたいだ。


「大袈裟すぎるでしょ。」


「精神がガリガリと削られて、燃え尽きる寸前だったんだよ。」


 レオさんの大袈裟なモノ言いにちょこっと言い返してみた。レオさんがツカツカと俺の傍に寄ってきて、屈んで覗き込んできた。深い緑の瞳が揺らいでいる。静かに話すレオさんの言葉には真実味がある。まぁ、さっきのレオさんはそれくらい消耗してた、気もする。


「SAN値的なヤツね。分かります。」


「意味は分からねぇが多分ソレ。ホントに本気で怖かったの。反省してね。」


 目を逸らして、適当に答えてみた。レオさんは片手を俺の頬に添えて、目を合わせてくる。じっと見つめられて、すすっと目を逸らせたら睨まれてしまったでゴザル。


「そうなんだって、分かった?ネロ。レオさんを怖がらせちゃ駄目だからね。優しくしてあげてね。」


 レオさんの手を掴んで顔を離し、ネロに振り返る。ネロに確認を取って注意を促してみた。ネロが頷いて優しい笑顔になってくれた。こんな優しいのに殺す訳ないじゃん。レオさんはネロに対しては繊細なんだよな。


「お前だよ。責任転嫁するな。」


「はい、ごめんなさい。反省します。多分、もうしません。」


 ネロと見つめ合って頷き合ってたら、レオさんから突っ込まれてしまった。ええ、分かってます。全部俺の責任でした。誤魔化せなかった。ネロなら大人だから納得してくれたのに。レオさんには通用しなかった。でも、本当にごめんなさい。


「多分ってなんだよ。確定しろよ。お前はマジで可愛いな。」


「レオ、すまなかった。琥珀の鍛錬の時間だ。」


 ぶつぶつと文句を言いながらも、最後にチャラくなるレオさんはどうなんだろう。ネロはレオさんの怒りを収める為か、もう一度レオさんに謝ってくれた。ネロは大人だな。


「りょーかい。じゃぁ、お前の体の動きの全てを俺とネロで両側から見ててやるよ。」


「言い方がもうイヤらしい。二人は一緒に筋トレしてて。俺は柔軟運動ストレッチだから。まだ足首につかないから筋トレに進めないの。」


 ネロは運動の支度を始めてくれるらしい。寝室に入っていくネロを見送りながら、レオさんが話しかけてきた。普通の事を言ってるんだけど、レオさんだとイヤらしく聞こえるのはなんでなんだろう。


「ほー、じゃぁ、前屈をしてみろ。見てやる。」


 レオさんの要請に従って、レオさんの傍に座り込んで足を延ばす。体をゆっくりと前に倒して、手の先が足首に少しついた。もうちょっとだ。どうでしょうか、とレオさんを見上げてみる。レオさんは呆然とした顔で見下ろしていた。


「琥珀、支度ができた。こっちに来い。」


「うん、ありがと。」


 レオさんと戯れていたら、ネロがラグを広げてくれていた。ラグの上に移動して柔軟運動ストレッチを始める。ネロもゆっくり俺と同じ動きを始めたから首を振ってしまう。ネロが可愛く小首を傾げた。


「ネロはネロのをやって。俺は一人でやれる。」


「分かった。」


 俺の要望に従って、ネロが念入りにストレッチを始めてくれた。ネロのストレッチは俺の簡単なのと違ってスゴイ本格的なんだよ。体の使い方が全然違うんだよね。見てるだけで楽しめる。


 レオさんも俺を挟んで反対側でストレッチを始めた。レオさんはラグの上に半分しか乗ってない。少し移動してスペースを空けようとしたら首を振って制された。


「琥珀はそこでいいよ。俺は床でいい。昨日は床でやったし。」


「そっか。ありがと。」


 念入りな柔軟を終えた二人は今日もプランクからスタートするみたいだ。俺は30秒でもヤバかったのに、二人は5分以上通しでやってるけど全くプルプルしてない。


 俺の座ってストレッチの一巡目が終わった。二人は一度も中断する事なく、真っ直ぐ綺麗なフロントブリッジの姿勢のままで俺を眺めてる。


「それ、きつくないの?もう確実に10分は経ってるよね?」


「まぁ、普通。」


「きつくない。」


 少しの休憩の時間に二人に聞いてみる。二人はプランクの姿勢を保ったままで答えてくれた。表情一つ変えずに答えてくれる二人はスゴイ。マジか、凄い筋肉だな。


 座ってストレッチの二巡目に入った時に二人はプランクを止めて腕立てを始めた。二人は俺の動きを見ながら、ゆっくりと腕立てをしている。俺も二人を交互に見ながら柔軟を続ける。


 ゆったりと腕立てをしていた二人は徐々に停止する時間が増えてきた。停止っていっても、体を床に落とし込んで停止している。腕自体を酷使しているのは分かる。腕以外も背中とかお腹とかの筋肉が酷使されてそう。


 体を床すれすれまで落として止まった二人の腕を交互に掴んで硬さを確認してみる。かっちかちだ。凄い筋肉。ついでに、背中とお腹も触ってみた。めっちゃ固い。少しテンションが上がちゃう。


 俺のストレッチの様子を二人が眺めていた筈なのに、やっぱり俺が観察する側に回ってしまった。だって、二人の筋トレが凄いんだもん。


「腕立てって最高何回くらいできるの?」


「いつまででも。」


「まぁ、続けろって言われたら無限にできる気はするかな。」


 マジか、凄いな。気を取り直してストレッチを再開。もう二人を見るのは止めよう。お腹が空いてきたから、早く終わらせたい。二人の視線を感じながらも黙々と進める。


「今日は3巡ずつでいいかな。お腹がめっちゃ空いてきた。」


「分かった。最後に少しだけ筋肉を動かして終わりにしよう。」


「やった。じゃあ、早めに終わらす。」


 立ち上がって柔軟を始めたら、二人が跳び上がって上の梁にぶら下がった。ちらっと視線を飛ばしたけど、見るのはやめて自分の運動に戻る。黙々と自分の運動をこなしていて思う。柔軟の動きも慣れてきたし、そんなに疲れなくなった、気がする。


「なぁ、ネロ。琥珀のあの服、凄いな。」


「最高の品。薄くて丈夫で防御性能もある。更に、伸縮性に富んでいて吸水性もある。」


「イヤ、性能も凄いかもだけど。見た目が凄いだろ。正直なトコロ、ヤバい。」


「やはり、そう思うか。」


「お前の趣味なのかよ。マジでヤバいな。アレはヤバいだろ。」


 黙々と一人で柔軟運動ストレッチをしていたら、二人の会話が聞こえてきた。二人は一体何の会話をしているんだろう。ヤバいって何がヤバいんだよ。


 ネロの話では、服の性能がスゴイって言ってるね。でも、レオさんの発言を聞くと変な感じがする。でもな、レオさんはアレだからな。ネロは普通に話してるし、きっと違うと思う。


「趣味なのか、と言われたら否定はしない。」


「あれはアレだな。なにも着てないより、あれを着てる方がヤバい。」


「そう言われると、否定はできない。」


「成る程ね。お前はやっぱこっち側だわ。仲良くなれそうだ。」


 なんとなく、レオさんの熱にネロが飲み込まれてるような気もする。着てないより着てるほうがヤバいってなんだ。レオさんの発言だけを受け取ると変な意味っぽく聞こえるんだよな。でも、ネロは普通に淡々としてるし、そんな訳ないよね。


「否定はしない。それに、仲良くしないと怒られる。」


「マジか。お前はあのネロだよな。中身が変わったとかはないよな?」


「仕方ないだろ。相手が相手だ。」


「成る程ね、しっかし。あの服はヤバい。」


 あ~、気になる。何の話だ。レオさんのテンションがヤバい。ネロにめっちゃ絡んでるじゃん。レオさんは何回ヤバいを言ったんだろ、気になる。


「何がヤバいの?」


「ん?何もヤバくない。全然平気。」


「問題無い。」


 気になり過ぎてつい聞いてしまった。二人を見上げて答えてくれるのを待ってみる。レオさんは一瞬目を合わせてくれたど、直ぐに目を逸らして適当に答えてくれた。ネロは俺と目を合わせていつも通りの答えだ。


 さっきまで二人で見つめあってヤバいって言ってたじゃん。服がヤバいって言ってたよね。ちゃんと聞こえてたんだから。


「俺が着てるのはヤバいの?」


「あ~、うん。ヤバいと言えばヤバかった。その服は凄い性能の服だぞ。下手したらネロの服より防御性能は高いかもしれん。そんな薄いのにヤバいよな。」


「ああ、最高性能だ。何も問題は無い。」


 むっとしながらもう一度聞き直してみた。服に的を絞ったからか、レオさんが目を合わせて答えてくれる。ネロもレオさんの意見を肯定してきた。


 へ~、この服はそんな防御が高いんだ。こんな薄くてペラペラなのに凄いな。お腹辺りを捲ってみる。服の生地自体は薄いのに、全く透けない。伸ばしても透けない。


 どんな製造工程を踏んだらこんな生地ができるんだ。生地がめっちゃ織り込まれてるって事なのかな。それとも何かの紋様の効果なのか。もしくは素材のおかげなのか。


「琥珀、一体何をやってるんだ?いいから、ゆっくり服を戻そうな。冷静に行動しろ。じゃないと、俺がヤバい。」


「服を捲ったらなんでレオさんがヤバくなるの?何かの特殊効果がついてるの?」


 レオさんの焦った声が聞こえて、顔を上げてみる。レオさんは懸垂を止めて俺を見下ろしていた。レオさんがヤバいってなんだ。どういう意味なのかが知りたくて、質問をしてみた。


「そう。ある意味、特殊効果。凄い効果なの。ついでにネロにも効果が及んでるからな。破壊力が凄いから。」


「ん?ネロ?」


 レオさんは困った感じで適当に答えてくれる。話の中でネロにも効果がって言われて、視線をネロに向けてみた。ネロは一心不乱に懸垂をしている。俺の方は全く見てくれない。


「ネロは普通じゃん。あ、分かった。ブースト的なヤツか。強化魔法とかそんな感じ?」


「まぁ、強ち間違いではない。ってか、服を下ろせ。あと、腹減ったんだろ。さっさと終わらせろ。」


「はーい。」


 そうだった、お腹が空いてたんだった。二人の会話に気を取られちゃった。お腹が鳴って空腹を思い出す。立っての柔軟を3巡目まで終わらせたら、二人が下りてきた。


 あとは、スクワットとプランクをちょっとだよね。スクワットをする横で、レオさんが興味深そうに俺の様子を眺めている。汗がじんわり滲んできたから、お腹をめくって、服で顔を拭いてみた。


「ネロよ。お前はいつもこんな事をさせているのか。」


「させてない。」


 レオさんの楽しそうな声に被せるように、不機嫌そうなネロの声が聞こえた。二人でじゃれあっているらしい。服を戻してスクワットに戻る。腰を落とした時に、自分の体重を支え切れなくて、ぺたんと座り込んでしまった。


「これはもうヤダ。」


「では、次を終わらせて飯にしよう。」


 スクワットを拒否してみると、ネロはあっさり受け入れてくれた。そうだよね、回数をこなすより、できる範囲でやればいいんだよ。


「お前、甘々じゃねぇか。」


「続ける事が重要。」


 レオさんがネロを揶揄って、ネロは冷静に返している。うつ伏せになると、隣に座り込んだネロと反対側にしゃがみこんだレオさんの視線が集中するのが分かった。


 足を延ばして、前腕と足先で体を支えて、腰を持ち上げてみる。ネロがお腹を手で支えて、背中を真っ直ぐに撫でて伸ばし、腰を下方向に少し押してフォームを修正してくれた。


 お腹を支えてくれていたネロの手が退けられると、腕も腹筋も足も全身がプルプルしてくる。頭の中で30カウントしている間に、またお腹を支えられて腰を下に修正されてしまった。


 手が外されたのと同時に、ぱたんと体が落ちてしまう。うつ伏せのまま、ネロを見上げる。ネロは優しく微笑みながら頷いてくれる。レオさんに顔を向けてみた。レオさんは困った顔でどうしていいか分からないみたいだ。


「今日はここまでにしておくか?」


 優しく言ってくれるネロに首を振って、もう一度、腕と足先だけで体を支えて体を浮かせてみる。プルプルしてくるのを耐えていたら、今度はレオさんがお腹を支えてくれた。


 ネロが腰を下方向に押して修正してくれて、レオさんが恐る恐るって感じで手を離してくれる。なんとか30数えて、ぱたっと体を落とすと、レオさんが頭を撫でてくれた。


「後一回でギブ。究極にお腹が空いて力が出なくなった。」


 二人と自分に言い聞かせるように呟いて、もう一度腕と足先で体を支える。今回は二人は手出しはしないみたいだった。頭で30数えて、ゆっくり体を落とすとネロがほっとしたように息を吐き出した。


 そんな緊張しながら見守ってたのか。あれか、生まれたての仔牛が立ち上がるのを見守る的な感じなのかもしれない。きっと、そう。ネロは心配性だから仕方ない。コロンと転がって、仰向けになると二人が覗き込んでくるのが見える。


「大変お待たせしました。でも、少しだけお待ちください。少し疲れちゃいました。」


 ちょっと待ってねって事を伝えてみると、ネロが頷いて抱きあげてくれた。そして、いつも通りに〈浄化〉と〈乾燥〉をしてくれる。


 暖かい風が止んだ後で、レオさんが俺の髪を整えてくれた。ネロとレオさんが見つめ合って優しく微笑みあう。二人が優しい雰囲気になってる。


 さっきの喧嘩っぽいのが二人の絆を深めたのかもしれない。感動的なシーンだ。ソファに移動したネロが俺を膝の上に置いてギュっと抱き締めてくる。レオさんがお茶を用意し始めた。連携が最適化されてる、気がする。

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