169 まぁ、普通に強い
テーブルに向かって椅子に腰を下ろし、二人を眺める事にした。二人の傍に行くとなんか巻き込まれそうなんだもん。椅子に座って、二人の方向を眺める。二人も何故か俺を眺めていて居心地が悪い。
「汗を流して来たらいいと思います。」
「ちょ、唐突にお前は何を言い出すんだよ。」
二人は動く気配もなく、ぼんやりと俺を眺め続ける。さっきのレオさんの案はどうなったんだろう。俺もそれがいいと思うんだけど。レオさんの案を採用して提案をしてみる事にした。レオさんの目が丸くなって、慌てた口調のレオさんが超焦ってる感がある。
「全然唐突じゃないでしょ。レオさんが言ってた事じゃん。」
「あ、そうだな、そうだった。マジでね、今は心臓がヤバいんだよ。」
なんでそんな焦ってるんだよ。そして、ネロはなんでそんなに目を瞠ってるの。二人は同じ考えを共有してて、俺だけ違うっぽい気がする。レオさんの案でしょ、って説明を加えると、レオさんは納得したらしい。心臓がヤバいってなんだ。俺の知らないところで、レオさんの純情的な何かが発動してたのかな。
「なんで?ネロがなんかしたの?」
「ん、まぁ。したといえばした。かもしれないな、うん。」
レオさんはホントにネロには純情なんだよね。不思議だ。あんなにあけっぴろげで色々話をするレオさんなのになんでなんだ。恋人に相対すると大人しくなっちゃうレオさんはちょっと可愛いかもしれない。
しかし、二人は移動する気配が全くない。ネロは家でゆっくりが好きなのは知ってた。でも、レオさんはアクティブっぽいけど、実は家でぼーっとしてたい派なのかな。まぁ、家でまったりが一番楽でほんわかするよね。
「俺は琥珀と家で鍛錬をする。お前は行きたければ一人で汗を流してこい。」
ネロが唐突にレオさんを突き放す言葉を出してびっくりしてしまった。いきなり突き放した。ネロのツンが発動しちゃったっぽい。さっきまでデレっぽかったのにツンになってしまった。
レオさんはどうするの。凹んでないかな。ハラハラしながらレオさんを見守っていると、レオさんはネロと目を合わせて頷いている。ネロも頷き返してる。どうやら、何かの意思疎通があった模様。レオさんは繊細だからちょっとハラハラしたけど平気そうで良かった。
「じゃあ、俺もここでいいや。ここで二人とヤル事に決めた。」
「ヤルとか、表現が卑猥です。言い直しを要求します。」
ネロは俺が心配で残ってくれる事を決めたらしい。で、レオさんはそのネロと一緒にいたいから、ここに残ってくれるらしい。結果、俺を含めた二人が家でイチャイチャする流れになるみたいだね。ただね、レオさんの表現が卑猥なんだよ。
「へぃへぃ。二人と仲良く鍛錬をしたいと思います。これでいいだろ。ってか、鍛錬じゃねぇ、筋トレだった。琥珀の筋肉増強の特訓だよな。手伝ってやるよ。」
俺の文句を受けて、レオさんは爽やかな笑顔で言い直してくれた。レオさんは、その爽やかな笑顔が似合わないですね。レオさんは爽やかじゃないって知ってるからなのかな。笑顔だけ見ると、メッチャカッコいいのに勿体ない。
「じゃあ。お茶でも淹れようか。うん。二人は寛いでて。今から美味しいお茶を淹れてあげるね。」
「無視するなよ。泣きそう。」
レオさんの言葉は聞き流して、少し手持無沙汰になって流しに向かう。二人のカップに手を伸ばすと、横から手が伸びて俺のカップを持ちあげてくれた。手を辿ると、勿論ネロだ。ニコっとすると、ネロも嬉しそうな笑顔を浮かべてくれた。
「レオさんと二人で寛いでていいのに。」
「琥珀の茶は俺が淹れる。俺とレオのは頼む。」
ネロの言葉が嬉しくて頷いちゃう。ネロに頼むって言われちゃったから、気合いを入れて淹れないとね。鼻歌を歌いながら水をカップに淹れてソファに向かう。
レオさんの横の床に座ってカップを渡すと、レオさんがお湯を沸かしてくれた。ネロは俺のカップとお茶セットを運んできてくれる。最初にネロが俺のお茶を淹れてくれるらしい。
ネロの淹れる動作を観察する。ネロの綺麗な指が魔法みたいに優雅に動いていく。ネロの指には小さく見えるのに、ティーストレーナーに詰め込まれた茶葉は勿論零れていない。
俺のカップの上にティーストレーナーを移動させたネロは小さく何かを唱えた。ティーストレーナーの周囲に霧というか蒸気が発生して少しして消え去った。
俺のカップに手をかざしたネロが言葉を紡いでいく。詠唱をしながら、水の中にお茶の葉を沈めて、直ぐに引きあげた。そして、もう一度沈める。詠唱終了と同時にティーストレーナーを小皿に置いたネロが頷いてくれた。お茶の完成らしい。
「そのお茶の葉っぱはそのまま使ってもいいの?」
「問題無い。」
ネロの残したティーストレーナーをじっと見つめる。顔を上げて、ネロに確認を取ってみると、そのまま使っても問題ないらしい。って事は、今日は絶対失敗しない日だ。
「じゃあ、今日のは失敗しないね。だって、後はお湯に浸けるだけだもん。ね、レオさん。そうだよね、そうって言って。」
レオさんを見上げて確認を取ってみた。レオさんは俺の頭をわしゃわしゃっと乱してから、丁寧に直してくれる。この行為は分かる、レオさんなりに自分の気分を落ち着ける行為だ。
「そうだな、これで失敗したらもう諦めろ。お前に未来は無い。」
「そこまで?マジか、気合い入れる。」
俺の髪に指を滑らせながら、レオさんが俺のお茶生命を左右する言葉を吐き出した。そこまでの覚悟を持って臨めって事ですね。理解しました。
レオさんがカップを2つ俺の前に並べて置いてくれる。慎重にティーストレーナーを持ち上げてカップに沈めてすぐ上げる。隣のカップにも同様に、それをもう一回ずつ繰り返す。
ティーストレーナーを小皿に置いて、振り返り、二人を交互に見上げる。頷いてくれるネロと、首を傾げるレオさん。なんで首傾げた。もう味が分かるって言うのか?
「どうぞ、俺の愛を込めました。」
笑顔と言葉を一緒に、カップを二人に手渡してみる。ネロは嬉しそうに、レオさんは複雑そうに受け取ってくれた。俺はネロの淹れてくれたお茶を頂く事にした。
やっぱり、ネロの淹れてくれたお茶は美味しいですね。香りがヤバい。そして、仄かに甘くて、渋みがいい。後は、微かな苦みが加わる事で、このお茶が完成した味になってる。
ケーキが食べたくなってきた。ユリアさんの美味しいケーキが食べたい。このお茶に合う、ほわっと笑顔になる美味しさのケーキが欲しいな。
二人は静かに飲んでるんだけど、俺の淹れたお茶はどうだったのかな。ってか、ほぼネロが用意したし、これで失敗とかない筈。だから美味しいんだろうね。
ネロを見上げると幸せそうな顔をして飲んでる。でも、ネロは不味いお茶でも美味しいって言ってくれるからまだ分からない。
レオさんは全くの真顔でお茶を飲んでる。表情が一切なくなって、普段のネロみたいな顔になってる。対するネロはニコニコしてるから、いつもと逆だ。
俺の視線が向いたからか、レオさんの顔がゆっくりと俺に向けられた。レオさんは俺を見ながらゆっくりお茶を飲み続けている。
無言のレオさんが無表情過ぎて分からない。でも、不味いとは口に出してない。レオさんはいつもは直ぐに不味いって言ってくる。言わないって事は、要するに美味しいって事だよね。
最終結論に達して、達成感からにこっと笑ってみる。レオさんもニコっと笑顔を返してくれた。って事は、やっぱり美味いんだ。成功だ。やった。
「美味しい?」
「美味い。」「不味い。」
二人を交互に見上げながら、確認を取ってみた。二人は同時に正反対の言葉を口に出した。ん、レオさんは不味いって言った気がする。レオさんをじっと見つめてみる。レオさんがまた真顔になってしまった。
「美味しそうに飲んでたじゃん。騙したの。」
「美味しそうに飲んだ覚えはない。無言だっただろ。」
むっと頬を膨らますと、レオさんが片手で俺の頬を掴んできた。レオさんの手を掴んで逃げながら文句を言ってしまう。レオさんは片眉を上げて、反論をしてきた。う、確かに無言だった。真顔で飲んでた。
「美味い。上達したな。」
レオさんの言葉で撃沈して黙り込んでしまう。ネロは慰める感じで髪を撫でてくれた。そして、優しい微笑みで、上達したって言ってくれた。嬉しくてネロの膝に抱き着くと、ネロも嬉しそうに俺の頭を撫でてくれる。
「ネロ、甘やかすな。普通に個性的な味だろ?」
「そうだな、少し個性的ではある。でも美味い。」
レオさんが溜息交じりにネロにダメ出しをしている。ネロはレオさんをちらっと流し目で睨んで、レオさんの言葉を一部肯定している。って事は、やっぱ不味いんだ。
「ネロが用意してくれた同じお茶なのに。ネロが淹れてくれたのは美味しいのに、なんで俺のは駄目なの。」
「駄目ではない。」
ネロの太腿に頭を乗せていじけた言葉を出してしまうと、ネロが優しく髪を撫でてくれる。顔を上げると、ネロは目を合わせてダメじゃないって言ってくれた。でも、駄目だったんだもん。
「ちょっとネロは黙っとけ。琥珀、これを飲んでみろ。そしてお前の茶を飲ませろ。」
レオさんがレオさんのカップを俺に押し付けてくる。そして、ローテーブルの上の俺のカップを奪ったレオさんはネロのお茶を味わい始めた。めっちゃ美味しそうに飲んでる。
「マジで美味いな。なんで同じ茶でここまで違うんだよ。お前は天才か?逆方向の。」
「そんな天才の称号は嬉しくない。」
レオさんのお茶を覚ます時に思う。香りが全くない。って事は、続く味も分かる気がする。レオさんにそっとカップを返すと、じと目で見られてしまった。
「息を吹きかけただけで飲んでないだろ。自分の淹れた味を確認しとけ。いつか役に立つ。」
「何の役に立つの?」
息を吹きかけただけってのは思いっきりばれてたらしい。しょうがないから味わうとしようか。でも、この味を記憶して、何かの役に立つ事なんてあるのかな。
「ん~、自分の淹れた茶の味かどうかの確認?」
「レオさんは面白い事を言うね。」
レオさんの軽口を聞きながら、口に含んでみる。想像通りの渋さと苦みしかないお茶だ。不味くて顔をしかめちゃったら、レオさんが苦笑してしまった。
カップをレオさんに返すと、レオさんも俺のカップを返してくれた。ネロの淹れてくれたお茶は一口飲んだら幸せの味だ。同じお茶だった筈なのに、天国と地獄程の差がある気がする。
レオさんは何故かちびちびと俺の淹れたお茶を飲み続けている。無表情だけど、不味そうには飲んでない。横にいるネロは美味しそうに飲んでるから、対比は凄い事になってるけどね。
「不味いから飲まなくていいよ。ネロも新しいのを淹れて飲んで。」
「普通に美味い。問題無い。」
「琥珀が愛を込めて淹れてくれた茶だから今回は飲むわ。」
不味いお茶を飲み続ける二人を止めてみる。ネロはまぁ、なんというかいつも通りかな。でも、レオさんはネロと張り合ってるのか、飲んでくれる気らしい。レオさんは結構負けず嫌いみたいだ。
「レオさん、ありがと。」
ネロの太腿から離れて、レオさんにペコっと頭を下げてみる。顔を上げると、レオさんが頭を撫でてくれた。お礼の言葉を伝えると、レオさんが目を細めてくれる。
「ん?急にどうしたの。茶くらい飲むよ。別に飲めない味じゃないし。」
イヤ、飲めない味だから。レオさんまで味覚がおかしくなってきたのか。俺のお礼の言葉はお茶を飲んでくれる事に対してだと思われてしまった。
「違う。本の事。値段的に貰うのは気が引けるから、ネロへのプレゼントをちょっとだけ盗み読みさせて貰うね。ホントにありがと。」
「お前の好きにすればいいよ。俺は全く興味ないし。」
色々と間を挟んじゃったから、改めて本のお礼を言いたくなったんです。レオさんが俺の為に用意してくれたあの本は、値段を別にすれば凄く嬉しい。レオさんの気持ちも、あの本も、両方嬉しかった。レオさんは頷いて、優しく目を細めてくれた。
「でも、二人はお金持ちだね。あんな高い金額をぽんと出せるとかヤバい。ネロに至っては家具の値段がヤバかった。」
二人と金銭感覚のずれがある事は理解できた。しみじみと、二人はお金持ちなんだなって理解できた事を話してみる。レオさんは少し困った顔になって俺の髪を掻き上げてくれた。
「金持ちかは分からんけど、普通にあるから問題ないよ。ネロは、まぁ。多分、大金持ちだ。更に問題ないと思う。」
「そうだな、困らないくらいは持っている。問題無い。」
レオさんは控えめな表現を使ってるけど、お金持ちっぽい。そして、ネロも同じくお金持ちらしい。ネロはなんとなく分かってたけどね。だって、3億って金額でも動じないんだもん。
「護衛さんはそんな高給取りなんだ。凄いね。あ、でも。確かに危険と隣り合わせって考えるとそりゃそうか。レオさんも最初の頃に死にかかったって言ってたし、ネロもこの前大怪我だったもんね。」
「まぁ、給料もそこそこだけどな。適当な魔物とかモンスターを倒して出る素材をちょこっと集めて売っぱらえば、さっきの本くらいは直ぐに貯まる。だから、問題ないんだよ。」
マジか、高額素材って事か。そんなのが捕れるモンスターってどんなだよ。強そうだな。ってか、ここでほんわか話してるこの二人はスゴイ強い人達だったんだ。
そもそも、アルさんの専属の護衛だもん。そりゃ強いよね。俺は何れ外に出て、レオさんみたいに素材を集められるのかな。いい機会だからちょっと聞いてみる事にしよう。
三人とも床に座り込んでて、気が付いたら俺が真ん中に座ってた。居心地が悪い事に気が付いてソファに上がる事にする。
レオさんが俺の脚を抱えると、ネロが俺の太腿に頭を乗せてきた。どうやら、二人は張り合ってる模様。そして、ヤバい。二人がまた猫になっちゃった感がある。
この誘惑に打ち勝たないとだよね。目の前でぴくっと動く猫耳に視線が絡め取られてしまう。もう下を見るの止めよう。下を見ると猫耳がヤバい。背もたれに寄りかかって遠くを眺める。
「高い素材は強いモンスターや魔物からとれるの?」
「そうだな~、超希少なのとかは弱いのもいるけど、大抵は強いだろうな。」
猫耳より素材の話だ。質問をしてみると、レオさんがのんびりと答えてくれる。ネロは静かだ。ちらっとネロに目を向けてみた。ネロは俺をじっと見つめていた。ネロの耳がぴくっと動いてめっちゃ可愛い。
「そうなんだ。じゃぁ、高い素材を集められるレオさんは超強いんだ。」
「まぁ、普通に強い。凄いだろ。」
ネロの耳から目を離して、レオさんの話に戻る。ちょっとレオさんを褒めてみたら、レオさんはクスっと笑って普通に同意してきた。こんなトコロがレオさんですね。
「うん、凄い。流石だね。じゃあ、ネロは?」
「全然褒められてる感じがないのが悲しい。ネロはな~、俺の十倍くらい強い。」
レオさんがこう見えて凄いのは知ってるんです。レオさん相手だと、ちょっとだけ可愛くない生意気な態度になってしまう自分が不思議だ。レオさんは悲しいと言いながらも、気にしてなさそうだ。ってか、ネロは強いって知ってたけど、圧倒的な強さじゃん。
「ん~、じゃぁ。レオさんが十人でネロ一人?」
「例えがなんとも言えないけど、そんなトコ。」
考えを巡らせて、レオさんが十人がかりでネロに本気の鍛錬をしてるトコロを想像してしまった。でも、想像の中でも、レオさんがやられちゃった。悲しいね。レオさんは苦笑交じりに答えてくれた。
もしかして、俺の想像を読み取ったのだろうか。ちらっとレオさんを見てみる。レオさんはネロに目を向けていた。ネロもちらっと見てみる。目が合ったネロはふわっと嬉しそうに微笑んでくれた。
ネロの猫耳がちょっと傾いた感じがメッチャ可愛い。目を逸らしてまた中空を眺める。気が付いちゃったんだけど、ネロはわざと耳を動かしてるのかな。でも、ネロだし、そんな事はないよね。
「じゃあ、レオさん級の人は護衛の中に沢山いるの?」
「俺くらいって言うと、ん~、どうだろ。ネロどうだ?」
「レオと同等かそれ以上と言うと、8人はいる。」
ぼんやりと中空を眺めながら質問を続けてみる。この質問はレオさんでは分からなかったらしい。レオさんがネロに質問を丸投げしてしまった。ネロは直ぐに答えを返してくれる。
「そっか、良かった。」
「ん?何が良かったの?」
「レオさんが9人じゃネロは倒せないじゃん。」
ネロの回答を聞いてほっとしてしまった。レオさんの疑問の声が聞こえて、顔を下に向けてみる。ネロは俺の太腿から顔を上げて戸惑った顔をしていて、レオさんは疑問の顔だ。
「俺には理解できないのだけど。説明を希望します。」
「だってネロが倒されたら悔しいもん。レオさん級の人が9人集まっても、ネロは倒せないでしょ?だから良かったって言ったの。」
レオさんは考える事を放棄したらしく、説明を求めてきた。ネロの髪をそっと撫でて、俺の考えを話してみる。
俺の話を聞いていたネロがパッと笑顔になってくれた。嬉しそうなネロにつられて、俺も笑顔になってしまう。ネロはまた俺の太腿に頭を乗せて俺を見上げてきた。
「でも、琥珀は勘違いをしてるぞ。」
「ん?」
ネロの髪を撫でながらネロと目を合わせていたら、レオさんが静かに勘違いを指摘してきた。レオさんに視線を移すと、レオさんは楽しそうに目を細めている。
「俺と同等かそれ以上って言ったんだよ。つまり、俺が9人じゃない。俺より強いのもいるんだよ。それにネロと同等かそれ以上がいるとは思わないのか?」
レオさんは俺の疑問の表情が見たかったらしい。目が合うと、聞く前に話し始めてくれた。確かに、レオさん以上の存在がいる事を考えてなかった。ネロと同等か、そりゃそういう存在もいる可能性もあったね。
「そっか。それは盲点だった。じゃあ、みんなで集まって謀反を企んだら、ネロはやられちゃうかもなの?ネロと同等ってのは想像できないから、この際考えない。」
「謀反って、お前の頭の中は面白い事になってるんだな。まぁ、仮にそんな事があったらネロはやられるかもな。」
レオさんの指摘通りだった。盲点に潜む色々な可能性を何も考えてなかった。レオさんはネロをちらっと見て、苦笑交じりに話していく。ネロがやられちゃう可能性は考えたくない。ネロに視線を戻すと、ネロはニコっとしてくれた。
「やられる事はない。最短で個別撃破する。」
ネロは俺を真っ直ぐに見つめながら、のんびりと答えてくれる。手を伸ばしたネロが俺の頬を撫でてくれた。心配はいらない、って指が伝えてくれてる感じだ。
「ま、そういう事だ。ネロがやられるのは想像できない。だから気にしても仕方ない。」
レオさんのさっきのネロがやられちゃう可能性の話は、今のネロの言葉を引き出す為だったらしい。レオさんもネロがやられる事はないって言ってくれる。
「良かった。ネロは変なとこで抜けてるから心配になっちゃうんだよ。」
「お前、凄いな。ネロを見てて、抜けてるトコがあると思うのかよ。」
ネロ自身もレオさんも、ネロがやられる事はないって自信を持って言ってくれた。安堵して、それでも心配って言葉に出してみる。レオさんが目を丸くしてしまったのが見える。何に驚いたんだろう、首を傾げてみる。レオさんはちらっとネロに視線を送って、しみじみと言葉を出してきた。
「だって、結構ぼーっとしてない?基本はしっかりしてるけど。考え事をして〈シール〉を忘れてびしょ濡れになったり、一人だとご飯も寝るのも忘れたり。後は、急いで帰ってくる為とか言って大怪我をしたり。」
「成る程ね。そう言えばそうかもしれないな。」
実例を出してネロが心配な理由を説明してみた。レオさんはなんとなく納得してくれたっぽい。ネロはレオさんの前ではキリっとしてるんだろうな。
二人の関係性がどんどん分かってくのが楽しい。キリっとしたネロと、少しエロいレオさん。そして寡黙なネロと、おしゃべりなレオさん。更には、少しだけ色気を振りまくネロと、純情なレオさん。字面を並べてもヤバい。お似合いの可愛いカップルにしか見えない。
「まず言っておく。」
「ん?」
ほわほわと二人の関係性を夢想していたら、低いレオさんの呟きが聞こえた。レオさんに顔を向けて首を傾げてみる。
「お前は俺達に隠し事はできない。」
「ナニソレコワイ。」
レオさんがイキナリ断定してきた。超怖い。目付きがもう怖い。にやってしてるそのイヤらしい顔も怖い。
「次に、お前の考えている事はお見通しだ。」
「別に、キリっとネロと少しエロいレオさん、そして寡黙なネロとおしゃべりなレオさん。更には、少しエッチなネロと純情なレオさん。考えただけでもヤバい。なんて思ってないし、仮に思ってたとしても、可愛いカップルって思っただけだからいいじゃん。」
レオさんの言葉に押されるように、一気に話し切ってみた。少し驚いた顔のネロの髪を撫でてあげる。髪を撫でたら、ネロが目を細めてくれた。落ち着いたらしい。
「お前はなんでそんなに可愛いんだ。ヤバいな。」
「ネロ、レオさんはチャラいよね。恋人の目の前でこんな事を言っちゃうんだよ?怖いね。」
ネロとホンワカしていたら、レオさんの呟きが聞こえた。顔を上げて少し睨んでみる。レオさんの目が一瞬瞠られたのが見える。ゆっくりとネロに視線を戻して、レオさんへのダメ出しをネロに語り掛けてみた。
ネロは嬉しそうに口元を緩めて聞いてくれる。ネロの表情からは喜びらしきものが見える気がする。そう言えば、二人は寝取られ属性持ちだった。この感じを見ると、他にも変な性癖も持ってるんだろうな。
大人って怖いわ。でもいい。家族が変態でも、家族の恋人が変態でも、俺は気にしないよ。ね、ネロ。髪を撫でてにこっとしてみる。ネロは微妙な顔をして、一応にこっと笑顔を返してくれた。
「ネロ、今琥珀が思っていた事を口に出してみろ。」
「俺達が変態でも気にしない。」
苦笑交じりのレオさんの要請に従って、ネロが静かに口を開いた。ネロの言葉を聞いてびくっとしてしまう。ネロをじっと見つめてみた。ネロは優しく微笑んで見上げている。
「なんで分かったの。マジで、ホントに。変な特殊能力とか怖い。あ、でも良かった。全部は読めないんだね。ちょっとほっとした。」
「俺達が『ネトラレ』の性癖を持っている。」
ネロの表情を窺いながら、驚きが口から滑り出てしまう。ただ、全部を読んでる訳ではなさそうで安心した。ネロの髪を撫でながら、安堵の息を漏らしてしまう。ネロは俺をじっと見つめて、追加の言葉を加えてきた。
えっと。マジで俺の考えを読んでるのかな。なんで、分かったんだろ。ネロをじっと見つめてみる。目を合わせて、穴が開くほど凝視してみた。
ネロは俺と目を合わせて、首を少しだけ傾けている。めっちゃ可愛いけど、俺は騙されない。何かカラクリがある筈。
それかホントに魔法なのかな。魔法の線が一番濃厚だよね、ネロだし、何でもできそうな雰囲気がある。それに、凄い魔法を使うネロだ。昔はソピアに住んでて、一部以外は全科目を学んだって言ってたから、ネロがスゴイのは確定なんだよ。
「後はあれだろ?お前の事だから、大人って怖いとか思ってそう。」
ネロの表情からカラクリを探ろうと思っていたら、レオさんが楽しそうに話しかけてきた。ぶわっとレオさんに顔を向けると、レオさんは言葉通り楽しそうに目を細めている。涙目になってしまうと、レオさんが慌てた感じで頬を撫でてくれた。
「もうヤダ。二人から離れる。俺はレオさんの家に行く。」
あまりの的中率にマジで怖くなって立ち上がろうとした。でも、猫二匹が足元に纏わりついてて動けない。特に、レオさんが熱い。なんで脚を抱き締めてるんだよ、俺を拘束してるのかな。ネロは膝の上で可愛いから許す。
「そうか、琥珀。ついに決心してくれたか。」
「ん?俺だけ行くんだよ。二人から離れるって言ったよね。」
「それは駄目だ。」
レオさんが嬉しそうに的外れな事を言い出した。俺の考えを読んでるんじゃないのかよ。むっとしながらレオさんに言い返してみる。俺の言葉をネロが即、ダメ出しをしてきた。さっきまで甘えた猫状態だったのにキリッとなってる。
「だってネロが俺の考えを読むんだもん。俺が何考えても、もうダメじゃん。」
「琥珀、ネロはお前が大切なんだよ。だから表情から読み取る。読まれたくなかったら、顔を向けなきゃいい。まぁ、読むっていっても、何となく、だからな。全部を読める訳じゃない。あくまで観察、お前の過去の言動から判断してるだけなんだよ。」
拗ねた口調で話しながら、背もたれに寄り掛かってしまう。レオさんが宥めるように穏やかな口調でネロの説明をしてくれた。成る程ね、それはいい事を聞いた。しかし、それだとしても相当観察力あるじゃん。やっぱりある意味能力者じゃん。
「じゃあ、ネロの顔はもう見ない。」
「それは困る。」
顔を向けなきゃネロにばれずに済むなら、もう見ない。言い切ってみたら、ネロの悲しそうな声が聞こえてきた。ちらっとネロに目を向けてみる。ネロは悲しそうに目を細めている。そして、耳も悲し気に倒してプルプルしてる。
「俺も困ってるの。ネロが凄すぎなのが悪いんです。」
「では、観察はしない。それでいいか。」
今回ばかりは、可愛いネロにも屈しない。毅然と言い切ってみた。ネロはスッと耳を立てて真顔に戻った。そして、俺の意向に沿ってくれるらしい。ネロの表情の変化に驚いて、ネロをじっと見つめてみる。ネロは真面目な顔で俺を見返してきた。
「ホント?絶対?約束できる?」
「約束する。緊急の時以外はやめる。」
眉を寄せて再度確認を取ってみる。ネロは真面目な顔で同意してくれた。良かった、これで俺の心の平穏は保たれた気がする。問題は、もう一人いるんだよ。
「レオさんは?」
「俺はあんまり分らないから普通でいいでしょ。」
ちらっとレオさんに目を向けてみる。レオさんは楽しそうにネロを眺めている。自分は関係ないと言いたげですよね。そんな訳ないでしょ。レオさんにもちゃんと確認を取りますよ。俺の言葉でレオさんは心外だって顔をしてしまった。
「だって、言い当てたじゃん。」
「偶々だって。ネロの言った内容から総合して、お前が言いそうな事を考えただけだよ。」
拗ねた口調で言い募ると、レオさんが頬を緩めてくれた。優しい眼差しで、優しく言い聞かせてくれるレオさんの発言は理路整然としている。レオさんっぽくない。いや、レオさんは時々こんな感じになっていた。
「えっと。レオさんはもしかして頭がいいの?」
「マジで。お前は辛辣過ぎるだろ。俺だって落ち込む事もあるんだぞ。」
思ったままをそのまま口に出してみた。レオさんは少しだけ目を丸くして、その後で苦笑を浮かべてしまう。静かに話すレオさんの口調は非難してる感じではない。でも、そうだ、辛辣な意見だった。
「違う、あれだよ。レオさんは超頭いいよね。うん、知ってた。少しだけ色事が占めるのが多過ぎて、頭いい要素が端っこに行っちゃってるだけだよね。知ってた。ね。だから大丈夫だよ。」
レオさんを落ち込ませた事を自覚して、慌てて言い直してみる。よくよく考えてみると、レオさんは先生になれそうな感じの時もあったんだ。直ぐにチャラくなるけど、頭いい雰囲気は満載な人だった。エロくなるから忘れてただけだった。
「フォローしたいのか、貶したいのか、どっちだ。」
俺の言い直し方が気に入らなかったようだ。レオさんが威圧するような笑顔を浮かべた。その表情はかなり凶悪だけど、猫が威嚇してるみたいで可愛いと言えば可愛い。
「ん~、どちらかというとフォローだけど、レオさんの代名詞の色事を外す訳にはいかないかなっと。」
「成る程ね。」
可愛いと思ってしまったら、可愛くしか見えなくなってしまった。レオさんの頭を撫でてニコっとしてみる。レオさんは毒気を抜かれたように、表情から覇気を消して苦笑してくれた。




