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166 数日で消える

 レオさんがゆっくりと立ち上がって俺を抱き上げた。ソファに座った自分の膝の上に俺を置いて、後ろから抱き締めてくる。俺の後頭部に顔を埋めたレオさんの行動の意図が読めなくて、ぼんやりとなすがままになっていた。


 ぼんやりから回復して、レオさんの膝から下りようとすると、ギュッと抱き締められて閉じ込められてしまう。レオさんの腕をポンポンしてみたけど、後頭部から肩に移動したレオさんの顔がフルフルと振られて、嫌だって意思表示を伝えてきた。


 レオさんは俺をまるで大きなヌイグルミのように扱っている。少しだけレオさんの行動の意図が分かった。ネロの色気でドキドキになっちゃって、心を落ち着けたい気分になったらしい。


「レオさん、ごめんね。悪かったです。ネロはエッチ過ぎたね。アレはいけなかった。怖かったね。よしよし。」


 レオさんを慰めながら、手を伸ばして、俺の肩の上にあるレオさんの頭を撫でてみる。それでも離してくれないレオさんに少し困ってしまった。解決策は1つしかないね。あの手を使おう。


「う、レオさん苦しい。これが続くと死ぬ可能性しかない。そして太腿が固い。そして、暑苦しい」


「この力加減じゃ死なねぇだろ。分かってんだよ。更には、辛辣な言葉を付け加えるんじゃねぇ。」


 弱々しく、レオさんに離してと訴えてみた。首元で低く呟いたレオさんの声が聞こえる。あれ、結構平気そうじゃん。レオさんの平気そうな様子で安心している間も、レオさんの顔の位置が移動してるとは思ってたよ。


 レオさんの頭が撫で易い位置だなって思った瞬間に、微かな刺激があった。レオさんが顔を上げて腕を解放してくれる。レオさんの膝から飛び下りて、首を抑えて距離を取ってしまった。


「今何したの。」


キスマークを付けただけ。死ななかっただろ。」


 聞くまでもなく分かってるよ。さっきネロにやられた刺激と同じだったし。でもね、違うかもしれないじゃん。それなのに、レオさんはあっさりと答えてきた。


「何て事をするの。しかもここは見える位置じゃん。絶対見えるよね。そんな事をするなんて、酷い。」


「別にいいじゃねぇか。ネロが付けたのが見えて興奮したんだよ。悪いか?」


 悪びれた様子のないレオさんに勢いよく文句を言ってしまう。俺の勢いで少しは反省してくれたのか、レオさんはキマリ悪そうに言い訳を始めた。


「悪いに決まってるでしょ。ネロに対してはそんな純情なのに、なんでそれ以外はそんななの?」


 悪いか、って悪いに決まってるでしょ。マジで、さっきまでの可愛いレオさんはどこに言ったんだよ。ネロにはあんなに純情なのにおかしいじゃん。


「だって、ネロはあんなだし。琥珀にキスマークを付けたし。俺だってしたいし。」


 悲しそうに項垂れるレオさんを見て、理解する。ネロが俺を慰める為にした行動って分かってても、レオさんの嫉妬心が止められなかったって事か。


 で、ネロの付けた痕が見えたから興奮してしまった、と。成る程ね。レオさんの複雑な心境が分かった気がする。レオさんに近付いて頭を撫でてあげる。顔を上げてくれたレオさんに頷く。


「ごめんね、レオさんの気持ちを分かってなかった。いつもチャラいから、大丈夫だと思ってた。でも、これからはこんな事をしちゃ駄目だよ?やるならネロに沢山つけてあげてね。」


 レオさんの気持ちに寄り添って、慰めてみた。レオさんが唖然とした顔をしてしまったのはなんでだろう。


「ネロも、ちゃんとレオさんにしてあげてね。レオさんもしたいんだって。」


 ネロはちゃんと聞こえていただろうけど、確認の為に俺からもお願いをしておく。ネロも呆然としてる。さっきあんなに色気を出してたのになんだよ。


 俺は間違った事を言ってないと思うんだけど、なんで二人とも困惑顔なんだ。こっちが困惑しちゃうよ。全く困った二人だ。


 なんとか解決したっぽいトコロで、片付いてないテーブルに目を向けてみる。そして、レオさんが取り分けてくれたフルーツも食べてなかった事を思い出した。俺がフルーツを食べ終わらないと片付けられないよね。よし、食べよう。


 床に座ってフルーツのお皿を眺める。少し摘まんでしまったから形は崩れたけど、綺麗な盛り付けの全容はまだ残ってる。彩と飾り付けがいい。


 葡萄を1つ摘まんで、振り返る。まだ唖然としたままの半開きのレオさんの口の中に押しつけると、レオさんが瞬きをして食べてくれた。


 多分甘いであろう白っぽい柑橘も指で摘まんでネロの口に運んでみる。口を開けてくれたネロに食べさせて、残りを食べる事にした。


「ネロが食べたのは甘かったよね。大丈夫だった?」


「甘いけど、美味かった。」


 ネロは無言で流しに移動していった。お茶を淹れてくれるみたいだ。ネロに甘いのを食べさせちゃったのを謝ろうとしたら、ネロが美味いと言ってくれた。


「甘いのを克服したら、欠点がなくなるね。完全無欠のネロになっちゃう。」


「欠点、か。他にも色々ある。」


 お茶を待ちながら、ネロと会話を続ける。ネロは俺の言葉に苦笑して、情報を訂正してきた。ネロ的には自分の欠点らしきモノを自覚してるみたいだ。でも、ネロの言う欠点って、きっと欠点じゃないんだろうな。


「色々あるの?ネロに欠点なんてないじゃん。」


「そうか?」


 ネロはお茶を淹れながら楽しそうな笑顔を浮かべてくれる。ほのぼのとした日常感がいいね。突然、後ろから肩を抱きこまれてびくっとしてしまった。


 横に顔を向けると、レオさんが身を乗り出していた。レオさんの視線はフルーツに向かっている。どうやら、さっきの葡萄で覚醒して食べたくなった模様。


 フルーツを1つフォークに刺して差し出してみた。差し出されるままに、レオさんはパクっと咥えて果実を味わっている。


 後ろから首元に抱き着いているレオさんの体温が熱いんです。レオさんの頭を撫でると離れていってくれた。フルーツ1つで満足してくれたらしい。


 ネロが戻ってきて、お茶を手渡してくれる。ネロはそのまま、俺の隣に座ってきた。ソファに凭れ掛かったネロの視線は俺の首元に向けられている。


「レオさんが付けたの、目立つ?大丈夫かな。」


 ネロの視線の意味は分かる。さっきレオさんが付けたのを見てるんだよね。しかも、ネロは眉を顰めている。ネロの表情の意味が知りたくて、聞いてみた。ネロは指で俺の鎖骨あたりを撫でてくる。普通に服で隠れてない部分だ。マジか。


「そんな目立つトコに付いてるのか。どうしよ、絆創膏とかあるかな。」


「『バンソウコウ』?」


 服で隠れないなら、貼って隠すしかない。でも、この世界にそんなものは存在しているのだろうか。独り言みたいに呟いてみたら、ネロが同じ言葉を繰り返してきた。言い方がちょっと可愛く感じる。聞き慣れない言葉を繰り返したって感じだ。やっぱり、無いですよね。


「貼って隠すの。」


「無い。」


 物自体を知らないみたいだから、用途を説明してみる。ネロは困った顔で一言、答えてくれた。まぁ、そうだよね。無いと思ってた。


 キスマークを付けたレオさんの気持ちが今は分かるから、怒りはないけど、困った。目立つトコロに付けられちゃったのが非常に困る。


 ネロの視線がずっと俺の首にあるのが辛い。会話の最中もじっと俺の首元を見ている。外に出た時の、他の人の反応もこんな感じになるって事なんだもん。悲しい。


「そうだよね~、ある訳ないよね。困ったね、消えるまで外に出れないじゃん。」


「そうだな、家で過ごすといい。」


 まぁ、外に出る予定もないしいいか。家でゴロゴロしてるよ。のんびりと呟いてフルーツを口に運んでみる。ネロは俺の首を撫でながら同意してくれた。


「まぁ、外は雨だし出掛ける予定もないからいいか。午前中に本棚を貰いに行って正解だったね。どれくらいで消えるんだろ、困ったね。」


 ネロの口にもフルーツを運んでみたけど、口を開けてくれないからいいや。午前中に用事を済ませておいて正解だったね、ってニコっとしてみる。ネロの視線は俺の首から動かないけど、コクっと頷いてくれた。


「数日で消える。」


「おお、ネロ物知りだね。凄い。」


 初めての経験過ぎて、痕がどれくらいで消えるのか分からない。って疑問にも、ネロはサラッと答えてくれた。流石ネロである。ニコニコでネロの凄さを口に出したら、ネロの視線が俺に向いてくれた。


 ネロは複雑そうな顔をして、黙り込んでしまった。何かを考え込んでるっぽいネロを見ながらフルーツをを食べ進める。


 そして、レオさんは超静か。気配も何もないけど、俺の体の横にあるレオさんの脚の温度で、レオさんの存在は確認できる。


「後で琥珀の服を一着買ってくる。」


 唐突に飛び出したネロの言葉に疑問が浮かんでしまった。何の脈絡もなく、なんでイキナリ服なんだ。もうお金は使って欲しくないのに、どうしたんだよ。


「もう沢山あるからいいよ。何の為に買うの。」


「立襟の上衣を買ってくる。」


 眉を寄せて抗議してみたけど、ネロも眉を軽く寄せている。真剣な顔といえばそんな感じかな。俺の抗議を質問と取ったらしいネロは、静かに答えてくれる。


「ん?立襟の服ってどういう事?」


「俺が付けたのを隠す為。ちょっと前側で見えちゃうからかも。ごめん。」


 服の種類を唐突に言われても、前後関係が分からない。混乱していると、レオさんがポンと頭を撫でて追加情報をくれた。


 振り向くと、耳を少し後ろに倒して、本当に申し訳なさそうな顔をしているレオさんと目が合った。成る程、服で隠すって事なのか。


 ってか、猫耳の感情表現の効果が抜群だ。本当にしょんぼり見える。ヤバい。この神妙なレオさんの顔はレアで可愛い。


 俺が耳に視線を向けているのが分かったのか、レオさんの耳が立ってしまった。プルプルと反省を伝えていたレオさんの猫耳が、普通になっちゃった。そして、レオさんはにやっと口元を歪めた。


「ホント。ヤバいな。」


 小さく呟やいたレオさんの声が聞こえる。ヤバくしたのはあなたでしょ。レオさんを軽く睨んで、フルーツに戻る。


 カップに手を伸ばす途中で、ネロが視界に映る。ネロはずっと一点を見つめたままでいる。ネロは優しい微笑みは浮かべているんだよ。でも、ネロの視点はずっと一点に固定されている。


 ネロの視線が注がれている首元を手で隠してみた。ネロの目が上に移動して俺の目に移った所で、首から手を離してみる。ネロの視線は直ぐに首元に移動してしまった。


「そんな目立つ?ヤバいかな。」


「少し。」


 首を手で覆ってネロの前で正座をしてみる。涙目の俺を包み込むような微笑みを浮かべてくれるネロの視線が優しい。おずおずと質問をしてみると、ネロの眉が少し寄って、静かに答えてくれた。


「ネロの少しは少しじゃないじゃん。凄くって事じゃん。レオさん、そんな目立つの?ヤバい?」


「ん?普通。」


 ネロの答えは当てにならなかった。レオさんの太腿に縋り付いて泣きついてしまう。レオさんが優しく髪を掻き上げてくれた。そして、適当に答えてくれる。


「普通って何。普通なんて言葉はない。目立つか目立たないか。どっちかなの。」


「分かった、分かった。じゃあ、ちょっと見せてみろ。」


 むっとして睨みながら勢いよく文句を言ってみた。レオさんは苦笑しながら、確認してくれるみたいだ。ネロの意見は当てにならなかったから、レオさんに確認してもらおう。


 レオさんの太腿に縋り付いていたけど、膝立ちになってみる。そして、首を少し上げてレオさんに見せてみた。レオさんの視線が首元にゆっくりと移動していく。そして、そのまま、レオさんが固まってしまった。


「どうなの。どっち。」


「えっと、あれだ。そこまで濃くはない。けどな、あれなんだよ。」


 首を見つめたままで口を開かないレオさんに答えを促してみる。詰め寄ってみても、レオさんの視線は俺の首から動かない。そして、レオさんは言い淀んだ感じで話し始めた。


「ん?何。あれじゃ分からない。」


「なんか、位置がエロい。」


 レオさんの説明じゃ何も分からなかった。あれって何。眉を寄せて説明を求めると、レオさんの目が少し泳いで、指先で首元をサラッと撫でてきた。ぞくっとして、首を抑えて体を離してしまう。レオさんは困った表情で、楽しそうにサラッと一言を付け加えてきた。


「ちょ、どういう事だよ。レオさんが付けたんでしょ?位置がエロいって意味が分からん。」


「だって。興奮したんだもん。仕方なかった。」


 レオさんの言葉を頭が理解してくれた。離した体を再度詰め寄らせて、レオさんに抗議をしてしまう。優しく微笑んだレオさんが俺の頬を愛し気に撫でてくれる。そして、レオさんは言い訳の言葉を小さく呟いた。


「もういい。」


 そうだね、仕方ないと言えば仕方なかったかもしれない。誰を非難する事もできない。ってか、敢えて言うなら、自分の気持ちを抑える事ができなかった俺が悪かった。


 ネロは証明の為に、レオさんはただのヤキモチだったんだもん。仕方なかった。もういい、忘れよう。幸い、自分自身では見えない位置だ。


 話は終わり。で、フルーツに戻る事にした。のんびりまったり食べていたら、お皿の上の綺麗な盛り付けは数を減らしていって綺麗に片付いた。ご馳走様でした。


 食べ終わるのと同時にネロがお皿を回収してテーブルに向かっていった。長い昼食の時間が終わって、片付けの開始らしい。〈浄化〉を詠唱するネロをぼんやりと眺める。


 髪と目の色が変わった時もそうだったけど、自分の見えない位置の変化って自分だと気付かないからちょっと怖い。


 ネロは直ぐに片付けを終えて、バスケットを手にして俺の後ろに目を向けた。ネロの少し睨むような、鋭い目付きを受けてレオさんが立ち上がった。


「喧嘩は駄目だからね。あと、過剰な嫉妬も禁止です。ネロはレオさんを置いてっちゃ駄目。あ、二人でレオさんの家でイチャついてこればいいと思う。レオさんは興奮しちゃったみたいだから、ちゃんと相手してあげて。以上。気を付けて行ってきて下さい。」


 言いたい事だけを言い切って、二人から目を逸らす。さっきレオさんがソファの横に放り投げてしまった本を拾ってソファに戻った。


 『世界のどうぶつ』、漸く落ち着いて読む事ができそうだ。この世界にはまだ見ぬ色々な生物が溢れているんだろうな。


 俺がこの世界で会った事のあるモンスターや動物達はそう多くはない。一番最初に出会ったリスのモンスターと、蜘蛛のモンスター。森の中で一緒に歩いてくれた小動物達と小鳥。それに、ソラスとカイム、小型の猛禽類とキツネザルみたいな猿だ。


 会った事のある子達の情報も載ってるかな。もう一度目次を確認してみる。純粋に動物、それも哺乳類っぽい動物とそれに類するモンスターの情報のみが載ってるらしい。


 虫も鳥も爬虫類系も、動物以外は載ってないっぽい。まぁ、ある意味、子供向けの本だから、細分化された大まかな情報を記載してあるだけなんだろうな。


 当然といえば当然だし、そもそもこの本は薄い。挿絵がないといっても、情報をそこまで載せられないっぽい。


 目次の確認を終えて、入り口に目を向けてみる。いつの間にか二人はもういなくなってた。ってか、今回は〈シール〉の詠唱すら聞こえなかった。俺はそこまで集中してたのか。


 あ、そうだ。確か、箪笥の奥に鏡があった。ちょっと見てみようかな。ネロのどこまでも追ってくる視線と、レオさんの固まった顔を思い出して、自分の状態がメッチャ気になってきた。


 寝室に移動して、箪笥の奥の方を探ると布に隠されるように鏡があった。なんで隠してるんだろ、不思議だね。布を解いて鏡を覗いてみる。


 相変わらず、見慣れない紺色の瞳の俺がこっちを見ていた。髪の色は時々視界に入るから慣れた感じはある。でも、瞳の色は慣れない。でも、胡蝶と白雪がくれたってアルさんが言ってた。


 そう考えると、二人を近くに感じられて嬉しい。二人がくれた俺の色。あの子達は真紅と白銀、俺は紺と白金。右手の人差し指に嵌まる指輪を撫でてみる。つるっとした感触が気持ちいい。


 って、そうじゃない、えっと。首元。鏡を覗き込んで止まってしまう。首元というか、鎖骨の少し上辺りに赤い点が付いてる。俺の肌はこんな白かったっけってくらい目立つ。


 そして、キスマークの色が赤くて目立つし、確かにエロく感じる位置だ。レオさんはマジでなんて事をしてくれたんだ。


 ついでにネロが付けたと思われる耳の後ろも確認してみる。でも、角度的に見えなかった。くそぉ。二人の気持ちが分かるだけに、怒るに怒れないのが悔しい。


 はー、もういい。本を読もう。鏡を丁寧に仕舞い直してリビングに戻る。ソファの上に寝転がって、少しぼんやりしてしまった。もう一度溜息を吐いて、下に落ちていたクッションを引き寄せて胸の下に置く。


 本を開いて、本格的に読書を始める事にした。この本は、動物の名前と大体どこらへんに分布してますよ、ってのが簡単に書かれている、簡易的な辞典っぽい。


 各大陸で分類されて、更に動物の系統毎に分けて纏められている。肉食動物って項目があってその後ろに詳細な名前と簡易的な情報がつらつらと続く。草食動物って項目で同じ様に動物の名前が続くって感じだ。


 意外なのは、モンスターもその動物の項目に纏められてる所だった。動物の紹介をした後ろの方にこれはモンスターですとは書いてある。


 でも、動物と同じように紹介されてる。肉食、草食、雑食、モンスター、じゃないんだね。って事は、モンスターってのは動物の亜種、若しくは動物の一種と思われてるのかもしれない。思われてるというか、その認識なのかな。


(正確に言いますと、動物から派生した、より能力の高い個体群の種を動物型のモンスターと呼称するようです。モンスターと分類されている種は、動物では保持していないスキルや技能などを持ち合わせている所が特徴です。)


 成る程ね。って事は、モンスターっていうのは、能力が高いだけの動物って言い方もできるの?


(そうですね、理解するだけならそれでもいいかもしれません。ですが、動物とモンスターには圧倒的な能力差があります。同じ枠に入れてしまうと、対峙した時に情報が不足して危険になる事が多い為、線引きを確実にする事が求められているようです。)


 そっか、そういう事もあるのか。確かに情報は必要だよね。成る程。さっき、動物はスキルや技能を保持してないって言ってたね。この世界の生物って、みんな生まれた時に何かしら保持して生まれるって言ってなかったっけ。


(はい。このモーティナに於いて、全ての魂ある生物は皆、必ず二つ以上の技能を所持して生を受ける、という事に間違いはありません。従って、動物も技能は所持しています。)


 動物はスキルや技能を持ってないとも言ってたよね。モンスターは持ってるのが特徴って。


(技能、というのは、必ずしも強大な力を秘めているとは限りません。自身の能力を少しだけ補助する程度の特性など、効果の低い技能を所持している事が大部分を占めます。動物も例外ではなく、効果の低い技能を持ち合わせている事が多いです。)


 あ、そういう事か。納得。動物達も何かしらの能力はちゃんとあるんだね。生まれつき得られる能力の差で動物とモンスターが区分されてるって事なんですね。


(モンスターは自身で選択して発動可能なスキルや魔法、更には、固有特性と言われる強力な特性を所持している事も少なくありません。それに加えて、基礎的な能力の面でも動物とモンスターでは桁が違います。)


 あ~、要するに、自分から能動的に攻撃を仕掛けてくるのがモンスターって事で正しいのかな。そう考えると、モンスターって区分しとかないと確かに危険だね。


(いえ、攻撃性という面では、動物もモンスターも、双方に臆病な種も存在しますし、攻撃的な種も存在します。動物でも積極的に攻撃を仕掛けてくる種もいますし、モンスターでも逃げ回る種も存在します。しかし、戦闘に突入した時点での強さの違いが、動物とモンスターでは各段に違うという事です。)


 成る程ね。戦闘になった時の心構えの問題か。モンスターでも逃げ回る子もいるって意外だね。あ、因みに、基礎的な能力って何か教えて。


(『HP』、『MP』、『力』、『体力』、『素早さ』、『知力』、『器用』、『精神力』、『魅力』の事です。補足ですが、今示した内容は現在、琥珀様に開示されている能力になります。)


 あ~、隠しは表示できないって事ね。了解。


(はい。)


 成る程。勉強になった。動物とモンスターでそんな違いがあるんだね。スツィは頭いいね。凄いね。有能秘書で確定かもしれない。


(有難う御座います。)


 ヤバい、スツィも可愛い。ネロの上を行く、超ツンデレだけど、可愛いね。ツンデレというか、スツィはクーデレが正しいのかな。


 ネロはレオさんに対してはツンデレなんだよな。他に対してはクールでデレがない。俺に対してはいつも優しいけどね。鼻歌を歌いながら本を捲っていると、水滴が腕に滴ってきた。


 腕に落ちてきた水滴で、雨漏りかと顔を上げてみる。レオさんが覗きこんでいる姿が目に入ってびっくりしてしまった。ってか、なんでそんなにびしょ濡れなの。


 入り口に目を向けると、ネロは〈乾燥〉中だった。強風に煽られたネロの猫耳のパタパタが可愛い。静かに一人で乾いたネロが、俺と目を合わせて嬉しそうな笑みを浮かべてくれた。


 ネロは手に抱えている紙袋から、黒っぽい服を取り出している。高速で〈浄化〉と〈乾燥〉を終わらせたその服を片手に、ネロがこちらに向かってくる。その間も、レオさんからは水が滴っている。


「さて、質問です。なんで二人がびしょ濡れになっているのかを、5文字以内で答えて下さい。」


 びしょ濡れのレオさんを邪魔そうに避けるネロを見上げて質問をしてみる。ネロが嬉しそうに口の端を上げたのが見えた。そして、レオさんからの水滴がネロの持ってる服に滴って、嫌そうに眉を寄せてしまった。


「ちょ、それは少なすぎるだろ、流石に無理がある。」


「はい、レオさんは失格です。」


 ネロの表情の変化を観察していたら、レオさんが文句を言い始めた。速攻で失格を言い渡しておく。


「忘れた。」


「ネロはギリ合格。」


「待て、それはズルいだろ。俺だってそれなら答えれた。」


 レオさんへの失格で、ネロの表情が引き締まった。少し考えたネロが口を開いた。まぁ、普通に説明にはなってるね。ニッコリ笑顔で、ネロには合格をあげましょう。レオさんが絡んできたけど、ちらっと睨んだら静かになってくれた。


「レオさんは失格です。絡まないでください。で、なんで、びしょ濡れになってるの。レオさんの家でイチャラブって盛り上がり過ぎて、帰りに〈シール〉するのを忘れちゃったの?」


 溜息交じりに改めて、二人がびしょ濡れな理由を聞いてみる。自分なりの推測を交えて聞いていくと、レオさんの目が輝いた。ネロも目の力がちょっと強くなってる気がする。そして、二人は同時にほうっと、息を吐き出した。


「琥珀、その表現はエロくていいな。合格。」


「レオさん、待って。こっち来ないで、濡れるから離れて。ネロ、レオさんを乾かして。」


 目を輝かせて近付いてくるレオさんから離れようと、体を起こす。ソファの端に逃げ込んで、首をフルフルと振って、近付かないでって意思表示をしてみる。


 レオさんの目の輝きが増した気がする。手を伸ばしてくるレオさんの周りを暴風が吹き荒れた。レオさんの腕がぴたっと止まってくれた。〈乾燥〉を間に合わせてくれたネロに感謝の瞬間だ。


 暴風に煽られて、レオさんの長い尻尾が捲きあがるのが見える。細くて綺麗な長い尻尾の毛がふわふわと風に靡いて可愛い。細い尻尾に見えてたけど、案外細くない事に気が付いた。尻尾の毛も風に靡く程には長いらしい。


 ネロと比べると細いだけだった。こう見ると、レオさんの尻尾もいい。色合いもいい。赤茶色の下地に濃いこげ茶色が乗ってる不思議な色合い。いい尻尾だ、実にいい。


 尻尾を眺めていたら、レオさんが一歩後ろに下がってしまった。なんで下がったのかが疑問で顔を上げてみる。目が合うと、レオさんがにこっと笑顔をくれた。爽やかに見せかけたイヤらしい笑顔だ。


「お前な、そのエロい目付きで下半身を凝視とか止めろ。しかも、そのエロい首元を見せつけながらの流し目とか、ヤバいからな。」


「な、何言ってるの。流し目もエロい目付きもしてないもん。下半身も凝視なんてしてない。いい尻尾だなって思っただけです。あと、変なのを付けたのレオさんじゃん。」


 笑顔の意味が知りたい、と思った俺の考えを読んだのか、レオさんが口を開いた。ってか、そんな事はしてないじゃん。レオさんの認識の変換にむっとして言い返してしまう。


「あ、いや。それに関しては悪かった。ごめん。」


 あ、素直に謝ってくれた。中々素直で宜しい。レオさんなりに痕を付けた事は反省してるっぽい。チャラくて軽い態度だけど、謝ってくれる気持ちは伝わった。レオさんの謝罪は受け取って、ニコっと笑顔で頷いておく。


 ほっとした様子のレオさんが俺の頭に手を伸ばしてきた。髪を撫でながら、レオさんはごわごわの紙袋を差し出してくる。無言で差し出された紙袋を思わず受け取ってしまった。


 レオさんは丁寧に俺の前髪を整えてくれている。ネロの指使いに似てる気がする。ってか、この紙袋をはなんなの。めっちゃ重いんですけど。レオさんが手を離したら、ずしっとくる重さで眉が寄ってしまった。


 俺の表情の変化に気が付いたのか、レオさんが紙袋を掴んで俺の膝の上に置いてくれた。レオさんとの遣り取りの間に、ネロは俺が読んでいた途中の本を持ち上げて隣に腰を下ろしていた。


 ネロは手に持った服と本を膝に置いて、優しく見守ってくれている。ネロが腰を下ろすと、レオさんはネロの脚に凭れ掛かる感じで床に座り込んだ。ネロの太腿に片腕を置いて俺を見上げたレオさんが首を傾げる。


 無言で紙袋を渡された疑問より、レオさんがネロに甘える感じで脚に凭れてる姿が見れて嬉しかった。ネロの眼差しは俺に向いてるけど、めっちゃ優しい。本来ならレオさんに向ける眼差しなんだろうな。


 二人の微笑ましい光景を眺めている途中で、太腿の上の重さを認識して顔を下に向けてしまった。びしょ濡れで帰ってきたから、一回水を吸って乾かしたって感じのごわごわの紙袋だ。


「えっと、これは何?」


「詫びだよ。ソレを付けちゃったから。悪かった。」


 顔を上げてレオさんに首を傾げる。イキナリ渡されたって事は、俺にくれたんだろうけど、これは何だ。レオさんは真っ直ぐに俺を見つめながら、お詫びの品と説明してくれた。


「レオさん。ちょっと感動した。こんな気遣いのできる人だったんだ。」


「お前は俺を何だと思ってるんだよ。」


 レオさんが。あの雑で、ワイルドで、エロくて、チャラいレオさんが。こんな気遣いができるなんて。思わず感動で口元を抑えて涙ぐんでしまった。冷めた口調で言い返してくるレオさんの声が聞こえる。


「ん~、レオさんかな?」


「なんで疑問系なんだよ。いいから見てみろ。気に入らなかったらすまん。」


 ネロが髪を撫でてくれたから、顔を横に向けてみる。ネロにニコっとしながら、確認っぽく聞いてみた。ネロは目を細めて頷いてくれたから、あってるっぽい。レオさんの呆れた口調の声が聞こえる。


 ネロが凄く穏やかなんだけど、レオさんとのデートが楽しかったのかな。今回もそんなに長い時間を二人で過ごした訳じゃなさそうなんだけどな。もうちょっと二人で過ごせばいいのに、と思ってしまった。

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