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165 そんな事は言ってねぇだろ

 足が持ち上がって、ネロがソファの真ん中に座った。そのまま、俺の足を自分の太腿に置いたネロが足を組んでリラックスした様子をみせる。隣にはレオさんの猫耳が見える。


 ってか、今までいい雰囲気だったじゃん。なんでこっちに来るの。そして、距離が近いから。レオさんとか真横だし。近いから。


「レオさんはネロといちゃつきたいって言ってたじゃん。なんでこっちに来るの。」


「そんな事は言ってない、目の毒って言っただけ。」


 距離の近いレオさんに文句を言ってしまう。レオさんは俺を見上げて嬉しそうに目を細めた。そして、俺の判断違いって指摘してくる。


「だから、二人でいちゃつけばいいじゃん。俺は本を読むから、二人で楽しんでていいよ。ほっといて。」


 確かに、レオさんの言ってるのは正しいけど、こっちに来る必要はないじゃん。ってか、俺はこの本が読みたいの。ネロは俺とレオさんの言い合いには頓着せずに、俺の足をフニフニと揉んでくれる。


「琥珀は読んでていいよ。俺はネロとここでいちゃつくから。」


「それこそ、目の毒じゃん。距離が近過ぎる。」


 レオさんは読書を続ければいいって言ってる。けどね、なんで態々俺の近くでいちゃつく必要があるんだよ。めっちゃ近いじゃん。俺の苦情を聞いたレオさんが楽しそうに目を細めた。


 にこにこ笑顔のレオさんがネロの太腿の上に乗ってる俺の脚をさわっと撫でてくる。その感触にぶわっと鳥肌が立った。ネロがそのレオさんの手を握って止めてくれた。


 そのままネロに目を移したレオさんの視線につられて、俺もネロを見てみる。ネロはレオさんに顔を向けて妖艶な笑みを浮かべていた。


 凄い色気が駄々漏れになってるネロがいる。この大人な雰囲気はなんなの。ネロがレオさんに手を伸ばして頬に指を滑らせると、レオさんが小さく息を漏らした。


 身を乗り出したネロが、レオさんに顔を近付けて目を細めた。ネロの綺麗な指先がレオさんの頬から首に滑っていく。超大人な雰囲気なんですけど。これは目の毒とかそんなモノじゃない。ヤバい。


「タイム。タイムを要求します。」


「ん?何だよ。いいトコなのに。」


 ちょっとね、これ以上はダメでしょ。俺が見てちゃダメな領域に入りそうだから。俺の言葉でネロはスッと体を起こして俺の足のマッサージを再開した。レオさんは不満げな声を漏らしている。


「まだ、お昼だから。ね。自重して。」


「じゃぁ、夜ならいいのか?マジか。琥珀はエロエロだな。」


 静かに冷静にレオさんを説得してみた。レオさんは軽口で応戦してくるけど、ネロはもうレオさんを相手にする気はなさそうだ。ネロはレオさんに乗せられてヤバくなるだけで、基本は平気なんだよ。


「そんな事は言ってない。取り敢えず、構って欲しいのは伝わった。もう、本を読むのは止める。」


 レオさんを見て悟った。この子もネロも基本的なトコロは猫に近いのかもしれない。始祖の血が騒いじゃうっぽい。だって、どう見ても構って攻撃じゃん。


 本を読んでたり、スマホを弄ってたり、新聞を読んだり、勉強をしたりの時に、構って攻撃してくる猫ちゃんに近い。足元をウロウロしたり、膝の上乗ってきたり、物理的に邪魔してくる猫ちゃんだ。


 そう考えると可愛いよね。だって、猫耳だし、見上げてくる緑の瞳は猫目だし。可愛い、猫にしか見えないと可愛く見えてきた。


 読書を止めるといった瞬間に、レオさんが俺の膝の上の本に手を伸ばしてソファの横にぽいっと投げ捨ててしまった。それ、借り物だから大事に扱ってよ。ホントにレオさんは乱暴なんだから。


「じゃぁ、まず。レオさんからね。」


「ん?」


 構うのを確定した以上は俺も全力で色々知りたいんですよ。まず、ターゲットをレオさんに絞ろうと思う。レオさんは俺の言葉で首を傾げている。この猫耳の角度が可愛いんだよな。


「さっきの特殊能力は何。」


「特殊能力?だから、お前の考えてるのなんて大体想像つくっての。」


 じっとレオさんを見つめて問い質してみる。レオさんは一瞬考えた様子をみせた後で言葉を続けていく。けど、違うよ。それじゃない。レオさんの特殊能力はそんなんじゃないじゃん。


「それはネロの特殊能力だから。レオさんのは違うでしょ。自分でも分かってないとか、ホント困っちゃうよね。ね、ネロ。ネロは分かってるよね。」


「そう、だな?」


 ネロなら俺の考えてる事も分かってくれる筈、と足を揉んでくれているネロに顔を向ける。ネロは困った感じで、疑問の顔をして相槌を打ってくれた。多分ね、これはネロの知らないフリだと思う。レオさんが自分で言い当てろって事なんだよ。


 ネロにニコっとして頷いてみたら、ネロもニコっとして頷き返してくれた。ほら、そうだった。ネロは何でも知ってるもん。レオさんの事だって知ってるんですよ。


「ちょ、ネロも分ってないでしょ。ネロ、そうやって琥珀の事を分かったフリは良くないぞ。ちょっと可愛く見えるから、やめろ。」


 レオさんが溜息交じりにネロにダメ出しをしている。ネロは困った様子でちらっとレオさんを見た後で、プイっと顔を逸らしてしまった。ヤバい、今確実に言ってた。俺は聞いちゃった。


「レオさん!今なんて言った?もう一回言ってみて?」


「は?分かったフリ良くないって言っただけだろ?」


 レオさんはテンションの上がった俺をちらっと見て疑問の顔になってしまった。直ぐにネロに視線を戻したレオさんがぶっきら棒に答えてくれる。


「違うよ。可愛いっていったじゃん。もう一回言って。」


「何度も言ってるでしょ。琥珀は可愛い。マジ可愛い、最高かよ。」


 レオさんの頬を両手で挟んで俺に向けさせてみる。目を合わせて、その言葉じゃないって強く訴えてみた。レオさんは呆気に取られた様子を見せた後で、感情を込めて言い直してくれた。でも、違うから。なんで対象が俺になってるんだよ。


「違う、ネロが可愛いって言ったじゃん。もう一回言ってみて。ネロの顔を見てね、笑顔も忘れないで。」


 むっと眉を寄せると、レオさんが勢いに飲まれたのか真剣な顔になってくれた。レオさんはマジで、素直じゃないな。対象は俺じゃなくてネロでしょ。俺のリクエストに、レオさんの眉が寄ってしまう。


「そんな事は言ってねぇだろ。」


「言った。もう一回やって。」


 ここまで来てまだ否定するレオさんを軽く睨んでしまう。断定と強要をしてみると、レオさんの瞳孔がぶわっと広がった。そのまま、レオさんはゆっくりとネロを見上げてくれた。ネロは冷めた目でレオさんを見下ろしてる。


「ネロ、お前も可愛いトコがあるんだな。」


「そうか。」


 ネロと目を合わせたレオさんは掠れる声で小さく呟いている。ネロが静かに答えた後で、レオさんがまたゆっくりと俺に視線を戻してきた。


 レオさんの恥ずかしい告白っぽいのを見れてにっこり笑顔になってしまう。顔を覆ってしまったレオさんはメッチャ恥ずかしかったらしい。良くできました、ってレオさんの頭を撫でて、髪にキスしてあげる。


「ネロ、レオさんも可愛いね。ヤバい、俺もドキドキしちゃった。」


「そう、だな。」


 テンション高く、レオさんの可愛さをネロに語ってみた。ぼんやりと俺を眺めているネロに頷いてみると、ネロは少し考えたように止まってから頷き返してくれた。


 なんか、いいモノが見れた。幸せな恋人達の語らいだった気がする。まだ顔を覆ったままのレオさんの頭を、もう一度撫でてみる。レオさんが漸く顔を上げてくれた。


「お前は昼間からいちゃつくなって言ってただろ。お前の羞恥ポイントはどこにあるんだよ。」


「今のは羞恥ポイントなんてないよ。普通じゃん。ね、ネロ。」


「そう、だな。」


 疲れた様子のレオさんが掠れた声で文句を言ってくる。うん、レオさんの様子を見ると恥ずかしかったのは分かるけどね。羞恥ポイント的なのはどこにもないじゃん。ネロに確認を取ってみると、ネロは興味ないらしく適当に相槌を返してくれた。


 ネロに顔を向けると、俺の足をフニフニする事に集中してるらしい。マッサージされる程は動かしてもないけど、気持ちいいからいいか。ネロが顔を上げてニコっとしてくれた。


「もう、いいよ。で?」


「ん?」


 俺もニコっと返していたら、レオさんの先を促す声が聞こえてきた。レオさんに顔を戻して首を傾げると、レオさんが絶句してしまった。


「特殊能力って言ってただろ。俺は一体何の茶番に付き合わされたんだよ。」


 また顔を覆って嘆いてしまうレオさんの頭を撫でてあげる。そうだった、レオさんの特殊能力についてが議題だったね。レオさんの、ネロが可愛い発言でそっちに引っ張られちゃってた。


「レオさんは照れてるのかな。このレオさんは超可愛んだけど。これはネロの家族の特権で見られるんだよね。ネロの家族で良かった。」


「そうか。」


 特殊能力より、今はこっちでしょ。照れたレオさんがマジで可愛い。ニコニコでネロに話し掛けたら、何故かネロも疲れた声で相槌を返してくれた。


 もしかすると、ネロもちょっと恥ずかしかったのかな。でも、さっきの色っぽいネロの方が恥ずかしかったような気がする。これも種族差の羞恥心の差ってトコなのかもしれないかな。そっか、種族差って、こんなトコロにも出てくるんだね。


「種族差ではない。」


 俺の考えを言い当てるかのようなネロの発言が聞こえてきた。これは、マジで、特殊能力な可能性しかないでしょ。だって、発言がピンポイント過ぎるもん。


「ちょ、ネロ。凄い。今のはネロの特殊能力、思考解析が発動したんだよ。凄いね。」


 目を輝かせてネロの特殊能力名を教えてあげると、ネロが驚いた顔をしてしまった。そっか、自分では分かってない事もあるよね。中々、大変なんだね。


「だから、お前の考えてる事は分かり易いって言ってるだろ。そして、それっぽい能力名を勝手に作るなよ。お前は可愛過ぎるだろ。」


 驚きの表情のネロの代わりに、横からレオさんが発言を入れてきた。どうやら、照れから復活した模様。ネロが発言に困ると、レオさんがスッと助けてあげる感がいいよね。


「あ、レオさんも復活したね。良かった。後ね、思った。」


「ん?」


 すっかり冷静に戻っているレオさんに話し掛けると、レオさんの方眉が上がってしまった。その顔はちょっとカッコいいね。レオさんはきりっとしてると普通にカッコいいんだよ。


「レオさんは、いつもチャラい感じで可愛いを連発してそうなんだけど。本気の可愛いは恥ずかしくなっちゃうんだね。」


「そう、だな。それでいいや。で?特殊能力って?」


 俺の感想をゆっくりと話してみたら、レオさんは相当疲れた声になって流してしまった。照れって気力が消耗するのかもしれない。成る程ね~、一応知識の片隅に入れておこう。レオさんは特殊能力の話に戻りたがってるから本題に戻ろうかな。


「アレが凄かったなって思ったの。あの、体がふわってなってストンってなるヤツ。」


「ふわってなってストン?何だそれ。」


 食事前に経験した不思議な体験を表現してみたんだけど、レオさんには今一伝わってないっぽい。俺を見上げて疑問の表情のレオさんをじっと見つめるけど、やっぱり分からないみたいだ。


「俺がレオさんの手を引っ張ったら、レオさんが俺を引っ張り返してふわってなったでしょ。で、レオさんの膝の上にストンって乗ったじゃん。アレは凄くない?何の衝撃も無かったんだけど。後、椅子のトコでふわって座らされた。」


「あ~、あれね。普通の技術だよ。特殊能力でもなんでもない。」


 あの時の体験を思い出して話してみたら、レオさんが頷いてくれた。ちょっと苦笑してるけど理解はしてくれたらしい。一応俺の話を最後までふむふむ、と聞いてくれたレオさんは静かに答えてくれた。


「マジで、どんな技術なの?ヤバくない?」


「普通に体重移動。」


 あれが普通なのか。でも、腕を引かれたら、ある程度の衝撃はありそうだよね。座る時だって、何かしらの力はかかる筈だよね。


 でも、何にも感じなかったんだけど、どういう事だなんだろ。疑問をいっぱい浮かべていると、苦笑したレオさんが立ち上がった。


 ネロの太腿の上に足を延ばしてぐでっとしていた俺を、レオさんがひょいっと抱き上げた。レオさんは俺を床に下ろして、俺の座っていた場所に腰を下ろしてしまった。


「ちょっと俺の腕を引っ張ってみろ。」


 レオさんが手を前に差し出して指示を出してくる。頷いて、差し出されたレオさんの手首を軽く引っ張ってみた。レオさんに逆に引かれて少し踏ん張ってしまう。踏ん張ったトコロで、急に軽く押されて力の向きが逆転した気がする。


 レオさんの片腕が俺の腰に回されて、体が浮いた感じもする。片腕で俺を抱き上げてたのかな。一瞬過ぎて、分からなかった。腰に腕を回したレオさんが、掴んだ腕を優しく引いてくる。


 どうやったのか分からないけど、引いた腕と回した腕のどこかを軸にして俺の体が反転していた。要するに、レオさんに対して向き合っていた筈なのに、背中向きにさせられている。


 そして、腰に回した腕を引き寄せて、レオさんの太腿の上にお尻から着地していた。そのまま、レオさんが俺の肩に頭を乗せて首筋にキスをしてきた。そこではっとした。


「すご。何が起こったのか全然分からなかった。これ凄くない?」


「そうか?」


 全然普通の技術じゃなかった。さっきよりゆっくりやってくれたっぽいけど全然分からなかった。興奮した俺の声に対して、レオさんは凄く静かだ。耳元で囁くように静かに答えてくれる。


 追体験をしても結局は理解できなかったけど、レオさんの技術って事は分かった。納得したトコロで、レオさんの膝から下りる事にする。身動ぎすると、レオさんが俺の腰と胸元に回した腕を少しきつく締めてきた。


「う、このままでは死んでしまうかもしれない。それ以上はヤバい。」


 逃がす気はなさそうなレオさんを振り払う為に、小さく弱々しく呟いてみた。レオさんが慌てた感じで腕を緩めてくれたから、するっと膝から下りる。


「正解は、それくらいの力加減では死なないでした。レオさんは失格。残念。」


「琥珀、その手はいかん。卑怯だぞ。再試験を要求する。」


 振り返ってにっこり笑顔を向けてみる。笑顔で話す俺の言葉で、心配そうに眉を寄せていたレオさんがほっとした顔をした後で睨んできた。


 レオさんの要求は別にいいけど、俺が死なない微妙な力加減をレオさんが知っちゃったら今の手は使えなくなっちゃうよな。どうしようかな。


「え~、いいけど。あれだよ。もっと選定基準は高くなるよ?難しくなっちゃうよ、それでもいいの?」


「望むところだ。」


 ハードルを上げてみたものの、レオさんのやる気は結構なもんでした。どうしようかな、レオさんにギュってされるのは別にいいけど、熱いんだもん。困って眉を寄せるとレオさんが手を差し出してきた。やるしかないのか。


「レオ、俺もやっていいか?」


 黙って俺たちの行動を見守っていたネロが助け舟を出してくれた。ネロはレオさんをじっと見ている。ネロの視線は挑戦的で初めて見る表情だ。


 ネロに相対しているレオさんは口元が少し緩んで笑っている感じにみえるけど、目は睨みつけてる。なんか、急に張り合い出した感じがする。


 恋人だけどライバル的な立ち位置なのかな。中々に面白い関係だよね。レオさんは静かに頷いて返して、ネロが俺に視線を向けてきた。


 レオさんを膝に乗せるネロが見れるのが楽しみである。そして、客観的に見てたらきっとどんな動きなのかが分かるかもしれないね。ニコニコで見守ってみたけど、二人は座ったまま動かない。


「琥珀?」


 ネロが俺を呼んでくる。そして、ネロは俺に向かって腕を伸ばしてきた。意味が分からなくて首を傾げて、ネロの腕を眺めてしまった。少しして、レオさんに顔を向けると、レオさんは俺を眺めている。


「ん?レオさんにするんじゃないの?俺なの?」


「琥珀の方が小柄。試すのには良さそう。」


「あ~、成る程ね。」


 どう考えても、ネロの試行相手は俺っぽい。一応、確認を取ってみて、ネロの判断は理解できた。確かに小柄な方が最初に試すには良さそうだよね。


 ネロの前に移動して、ネロの腕を引いてみる。ネロの腕は引っ張ってもびくともしなくて、少し踏ん張った所でフワッと体が浮いてネロの膝の上に座っていた。


 レオさんより何も感じなかった。瞬間移動みたいに一瞬で移動していた。レオさんの動作は何となく見えていたけど、ネロのは何も分からなかった。ホントに一瞬だった。


 あっという間にネロの膝の上だった。凄過ぎる。驚きで硬直した体をネロがそっと包み込むように抱き締めてくれる。少し強めに抱き締められて、首筋にキスされる所までレオさんと同じだ。


 張り合い過ぎでしょってくらい、張り合ってる気がする。ネロは結構、負けず嫌いだったらしい。ネロの膝から下りようとすると、ネロが更に少し強く腕を締めてきた。


「ネロ。それを続けると死んじゃうよ。」


 俯いて少し掠れた泣き声でネロに話しかけたけど、首に顔を埋めたネロがふっと笑った感じがする。首筋に息がかかってゾクっとしてしまった。ネロがまた首に唇をつけた所でギブ。もう、ばれてるんじゃ仕方ない。


「降参します。ネロは合格。おめでとう。」


 降参を告げると、ネロはぱっと腕を離してくれた。ネロの膝から下りて振り返る。ネロは嬉しそうなにこっと笑顔になっていた。ネロには敵わないという事が良く分かりました。


「レオさんの一人負けでしたね。残念。」


「待て、俺の再戦が終わってないだろ。ネロが途中参加しただけで続行中だよ。こっちに来い。」


 レオさんに視線を移して、ニコっとしてみる。レオさんの眉がぴくっと反応したのが見える。レオさんの一人負けを宣言してみると、レオさんがまだ続ける意思を伝えてきた。


「ヤダ。もう疲れた。」


「真顔で拒否るなっての。お前が疲れる事はなんもしてないだろ。」


 ネロの足元に座って、ネロの脚に抱き着いて嫌だって意思表示をしながらレオさんを見上げてみた。ネロが頭を撫でてくれる横で、レオさんが苦笑交じりに反論をしてくる。


「テンションが上がり過ぎて疲れちゃったの。」


 確かにレオさんの言ってる方が正しい。俺は腕を引っ張っただけで何も疲れる事はしてなかった。でも、レオさんの膝の上はもうヤダ。って事で、お疲れモードを継続で行こうかな。


 俺の屁理屈を聞いていたレオさんがニヤっと笑った。その笑顔はヤバい。レオさんの反撃の前触れだもん。


「あ~、そうだな。お前は筋肉がないからね。テンションが上がっても疲れるか。分かる、分かる。」


「ない事ない。ちゃんとある。」


 話を逸らそうとする前にレオさんが口を開いてしまった。俺の痛いところを的確についてくるレオさんはある意味スゴイ。むっと睨んでみても、レオさんはうんうん、って優しく相槌を打ってくれる。


「でも、さっき腹と胸を触ったけどなかったから、俺の方が正解だよ。」


「酷い。ネロ、レオさんが酷い事を言った。俺のお腹と胸は筋肉あるよね。」


 レオさんの追撃の声はプイっとそっぽを向いてやり過ごす。そして、ネロの脚に縋りついてネロを見上げてみる。優しい微笑みのネロに泣きついてみると、ネロは俺の頭を撫でてニコっとしてくれた。


「琥珀。ネロはそうやって優しい笑顔を浮かべてるけどな。ネロもお前の筋肉はないって思ってるからな。俺と同じ、同罪だよ。」


 優しく言い聞かせてくるレオさんを睨んで、ネロを見上げる。ネロは困った顔をして、スッと目を逸らしてしまった。


 ネロの態度を見なくても知ってたよ。でも、ネロの態度で確実に悟ってしまった。レオさんの言っている事は事実なんだと。分かってるよ、だから鍛えたいんだよ。


「てか、ネロも結構上手いな。あれだろ?アレの時とかで磨いた技術的な感じか?」


「初めてやった。」


 いじけてネロの太腿に顔を伏せてしまう。ネロが優しく髪を撫でてくれる指使いに癒されていたら、ネロとレオさんが会話を始めた。


「マジか。って、マジなの?それであれなの?お前はどうなってんの。」


「間近で確認したからな。離れてと、近くでと。」


「マジかよ。それであれなの?凹むわ。マジでお前には勝てないよな。」


 お膝抱っこはネロは初めてやったみたいだね。レオさんの技術を盗んだ的な感じで、ネロがサラッと熟したから、レオさんが凹んでしまったみたいだ。やっぱりネロは凄いんだな。


「しかし、耐性はついてきたようだな。」


「あ?」


「首筋を撫でても平気だった。」


「あれか。お前はなんでいきなり本気を出した。」


「どうなるか、確認。」


「マジで勘弁してよ。まぁ、でも、言う通り耐性はついてる気はする。それは確実だよ。」


 顔を伏せたままで二人の会話をこっそり楽しませてもらった。耐性って、もしかして。顔を上げてレオさんを見て、ニマっと笑顔になってしまう。


 俺が顔を上げたのに気が付いた二人の視線が俺に向いた。レオさんが少し疑問の顔をしている。でも、俺は分っちゃったんだよね、レオさんも可愛いトコがあるんだね。


 これもギャップか。ニマニマしながらレオさんを眺めてしまった。俺の笑顔が気に食わないのか、レオさんが微妙な顔になっていってる。


「琥珀、そのエロい顔を今すぐやめろ。襲うぞ。」


「レオさん。取り繕わなくてもいいんだよ。俺は全部分かってるからね。」


 そして、レオさんがなんか過激な事を言い始めた。普段の俺なら、レオさんに文句を言ってるよ。でもね、今の俺はちょっと違うからね。レオさんの事を分かってる俺は、そんな言葉くらい流してあげるんだよ。


「エロいだろ。お前は今エロい事を考えてるだろ。止めろ。今すぐ止めろ。」


「酷い。エロい事なんか考えてない。」


 もうね、普段のレオさんのペースじゃないもん。焦ったレオさんが全てを物語っている。今は俺がこの場を支配しているんだよ。ってか、エロいってなんだよ。むっとして言い返したのが失敗だった。


「じゃあ、何を考えたか言ってみろ。」


 焦ったレオさんがいなくなってしまった。イキナリ冷静沈着なレオさんになってしまった。まぁ、でも、俺はエロい事なんて全然考えてないから言えるよ。


「えっと。レオさんは色事関係が大得意だと思ってたけど、ネロに対しては純情なんだなって思ったの。耐性をつけないと、ネロにはドキドキしちゃうんだよね。ネロは、レオさんのそんなギャップが凄く可愛くて堪らないんだろうなって思ったの。」


 淡々と俺の考えを説明していく。レオさんの眉は時々ぴくっとなりながらも、終始冷静な態度で最後まで話を聞いてくれた。ネロは微笑んでうんうん、って頷きながら聞いてくれた。話の途中でネロは嬉しそうに髪を撫でてくれる。


「成る程。」

 

 話が終わってレオさんは一言納得したらしい相槌を打って、溜息を吐いてしまった。図星過ぎたらしい。


「ね、ネロ。レオさんは可愛いね。頭を撫でてあげたらいいと思うんだ。」


 にっこり笑顔でネロに提案をしてみた。ネロは少し目を細めた後でレオさんに視線を移してくれる。ネロは口元を緩めて、レオさんの頭に手を当てた。


 レオさんの短い髪の間をネロの綺麗な指が滑っていく。そして、ネロの指はレオさんの耳の縁をなぞって離れた。ネロはレオさんの猫耳を触ってた。なんか、エロティックな指の動きだった。


 時間的には超短かったけど、俺の頭を撫でる時と全然違った。これは確実に大人の頭撫でと思っていいでしょう。目を丸くして二人の光景を見ていたら視線を俺に移したネロが苦笑した。


 でもね、目を丸くしてるのは俺だけじゃないから。平常心なのはネロだけだから。レオさんも目を丸くして瞳孔が少し開いてる。少しだけ紅潮した頬はネロの色気でドキドキしてしまったのだと分かる感じだ。


 レオさんはホントに、ネロの前では純情って事で確定だ。ネロの余りの大人な雰囲気に圧倒されて、ほぅっと溜息を吐き出してしまう。レオさんがゆっくりと視線を俺に合わせてきた。

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