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164 俺にも分からない事もある

 外から元気なユリアさんの声が聞こえて、ネロがスッと表情を消して立ち上がった。入り口に向かうネロと入れ替わる形で、レオさんがこっちに歩いてくる。ネロがユリアさんを迎え入れたのと同時に、レオさんが俺の隣に腰を下ろした。


 ユリアさんはにっこり元気な笑顔を浮かべてくれた後で、隣のレオさんを睨んだ。ユリアさんの目力すご。大きな目に凄い気迫が浮かんでいる。


「レオさん。琥珀さんに何をしたんですか。怒らないから言ってみて下さい。」


「もう、怒ってるじゃねぇか。それに何もしてない。」


 またレオさんが何かをやらかして、ユリアさんが怒っている可能性が大である。今度は何をしたんだろ。威嚇するような少し低めの声でユリアさんがレオさんに警告を出した。レオさんは静かに応戦をしている。どうやら、俺が原因でレオさんが怒られていたらしい。


「そんな事は信用できません。レオさんの隣で琥珀さんは涙目で泣きそうになってるじゃないですか。怒らないから、ちゃんと答えて下さいね。」


「少し揶揄っただけ。何もしてねぇ。」


 さっきの余韻で涙目になってる事が原因でユリアさんがは怒ってくれていたらしい。ユリアさんは可愛い上に優しい。めっちゃいい子。ユリアさんとレオさんの言い合いは、幼馴染の可愛い会話な感じで微笑ましく聞いちゃうんだよね。


 少し低めで警告を出すユリアさんに対して、レオさんは冷静だけど腰が引けている。その感じが見ていて可愛い。レオさんは怒られ慣れているんだなって感じがスゴイする。


「そう、ですか。良く分かりました。その答えでいいんですね。」


 静かに詰め寄っていたユリアさんがニッコリ笑顔を浮かべた。凄みのある可愛らしい笑顔だ。ちょっと怖くてめっちゃ可愛い。レオさんが時々する凄みのある笑顔と似てる気がする。


「レオさん、レオさん。怒った顔のユリアさんも可愛いね。」


「あ?今はそれどころじゃねぇだろ。」


 ユリアさんの笑顔が可愛過ぎて、思わずレオさんに報告していた。報告というか、同意を求めたという方が正しいかもしれない。対するレオさんは呆れ顔だ。それどころじゃなくても可愛いものは可愛いんだもん。いいじゃん。


「琥珀さん、怖かったですよね。レオさんを庇わなくていいんですよ?」


 ユリアさんはレオさんを睨みつけていた視線を俺に向けて、心配そうに眉を寄せてしまった。えっと、誤解してる。でもね、自分の中の常識知らずに恐怖して涙目になったとは言いたくない。


「えっと、違うの。欠伸して涙目になっただけだから、レオさんは関係なかったです。」


「成る程、分かりました。ネロさん。ちゃんとレオさんを見張っていて下さいね、お願いしますね。」


「分かった。」


 何とか誤魔化さないとね。えっと、ん~、思い浮かばない。どうしよっか、う~ん。という事で、欠伸で誤魔化そう作戦は成功したのかな。一応は納得してくれたらしいユリアさんは、謎の気迫で今度はネロを睨んでいる。ネロも素直に頷いている。


 強くて可愛いユリアさんは最強である。ユリアさんはお菓子も美味しくて、強くて、超可愛い。ヤバいね。


 ユリアさんはネロにレオさんの見張りを言付けて安心したみたいだ。会話を打ち切ったユリアさんがテーブルに向い、配膳を始めてくれた。テーブルに向かうユリアさんの後ろ姿をちらっと眺めて、レオさんに顔を戻した。


「レオさんは信用ないんだね。今までどんな悪さをしてきたの。」


「なんもしてねぇよ。」


 ニコニコ笑顔でレオさんの生活態度について改めて聞いてみる事にした。レオさんはプイっとそっぽを向いて居心地悪そうに一言だけ呟いた。うん、その態度と言葉が全てを物語っている気がする。


「怒らないから、言ってごらん?」


「何もしていません。」


 耳だけを俺に向けて、そっぽを向いた神妙な態度のレオさんはちょっと可愛い。続けて質問を重ねても、レオさんの返答は変わらなかった。成る程ね、この態度が俺の中のSっ気を刺激するんだよ。


「そう、その答えでいいんですね?」


「琥珀、汚ねぇぞ。ユリアの真似をするんじゃねぇ。」


 さっきのユリアさんの言葉をそのまま引用させて貰いましょう。レオさんがとっても苦手そうな言い方だもん。きっと効く筈。にっこり笑顔で最終確認をしてみたら、レオさんが恐る恐る俺に目を戻した。スッと息を吸い込んだレオさんが片手で顔を覆って小さく呟く声が聞こえた。


「だって、ユリアさんが可愛過ぎて真似したくなっちゃったんだもん。俺も可愛く言えたかな?」


「大丈夫です、琥珀さんはいつでも可愛いです。じゃあ、後の事は宜しくです。レオさん、分かっていますね。琥珀さんを虐めてはいけませんよ、お返事は?」


「りょーかい、分かりました。」


 レオさんに言い訳する声は勿論、ユリアさんにも届いていた訳で。レオさんが答えるより早くユリアさんがフォローしてくれた。可愛くてフォローもできて、念押しまでできるユリアさんはマジでいい子。レオさんの投げ遣りな返答を気にする事もなく、可愛く手を振ったユリアさんが帰っていった。


 ユリアさんの尻尾が消えた段階まで、俺も手を振ってお見送りをしてみる。そして、ちらっと横に目を向けてみた。疲れた顔のレオさんが見える。疲れさせた要因の一部が自分である自覚はある。ごめんなさいの意味で、レオさんの頬にキスをして立ち上がる。


 ネロの魔法で作った椅子は、またもや、ネロの座ってる椅子にぴったりと寄せられていた。それだと、距離が近いし、食べ辛いんですよ。椅子をネロから離して腰を下ろしてみた。


 ネロは残念そうな顔をしているけどね、さっきの至近距離だと、あなたも食べ辛いでしょ。レオさんが中々来ないから、ネロと話をして待つ事にする。


「ユリアさんは今日も可愛かったけど、ちょっと怖かった気がする?」


「あの気迫は中々のモノ。」


 議題は勿論さっきのユリアさんについて。ってか、ネロにきつくモノを言える人って、アルさんとユリアさんくらいしかいないんじゃないのかな。って気がする。ネロも完全同意のユリアさんの気迫は凄みがあった。


 厳密にいうと、レオさんも時々はネロに命令口調になってたりするんだよ。ただね、それは、恋人同士のレクリエーションの一環というか。なんかちょっと違う気がしたんだよね。


「レオさんとユリアさんのじゃれ合いが、幼馴染って感じで可愛かったね。」


「そうだな。」


 ネロも恋人の微笑ましい姿は嬉しかったみたいで、微笑みながら同意してくれた。幼馴染って響きが、いいよね。ユリアさんはレオさんの事を怒りつつ、心配しつつって感じなのがいい。


 ってか、レオさんが中々来ないんだけど、まだお疲れ中なのかな。レオさんが気になって顔をレオさんに向けてみた。レオさんは疲れた顔はしていなかった。耳がぴんと立って、目が真ん丸の驚いた顔のままで止まってる。


「ねぇ、ネロ。俺はまたレオさんの時間を停止させちゃったのかな。レオさん、ご飯だよ。おいで。」


「放っておけ。腹が減ったら来る。」


 ネロに問いかけてみたけど、ネロはレオさんにちらっと視線を向けただけで興味はなさそうだ。レオさんは声掛けに反応したらしく、のろのろと俺に視線を合わせてくれた。でも、顔だけしか動かない。


 しょうがないから迎えに行く事にするか。レオさんの傍に立って、覗き込んでみた。レオさんは間近で目を合わせたのに、ふいっと顔を逸らしてしまう。どうしたって言うんだ。お腹が空いたのに。早くご飯食べたいのに。


「ネロは冷たいね、そんな訳にいかないでしょ。ね、レオさん行こ。」


 立ち上がって貰おうと、レオさんの手を引っ張ってみる。どこで力が逆転したのか、気が付いたら、レオさんが俺の手首を掴んで逆に引っ張られていた。


 レオさんの膝の上にストン、と座った時点で目が丸くなってしまった。ふわっと浮く感じがしたら、何の衝撃も抵抗もなくストンとレオさんの膝の上に座ってたんだもん。びっくりするでしょ。


「まじで、超驚くから。今、心臓が止まりそうになった。死んだらレオさんのせいだったからね、マジでヤバかった。」


 この驚きは言葉で表すしかないよね。って事で、勢いよくレオさんに文句を言いながら、レオさんの膝から下りる事にする。でも、レオさんが下りる事を許してくれない。


 後ろから抱き締めているレオさんの腕ががっちりと固定されている。レオさんの腕は俺の腰とお腹に回されて動けない。


 レオさんの腕を掴んで引っ張ってみたけどビクともしない。ヘルプを求めて、ネロに顔を向けてみた。何故か興味深そうに俺達を眺めてるネロの姿が目に映る。


 ネロに気を取られていたら、首筋に唇が当たる感触でびくっとなってしまった。ネロがスッと目を細めて、視線がきつくなった気がする。ネロの鋭い眼差しは俺の横あたり、多分レオさんを捉えている。


 凍るようなネロの視線は、俺が睨まれてる訳じゃないのに体が震えてしまう程に鋭い。俺が震えたのが分かったのか、ネロの視線が緩んで優しい眼差しになった。そして、レオさんが腕を解放してくれた。


 レオさんの膝から下りて、振り返ると、レオさんは俺に手を差し出してくる。両手でレオさんの手のひらを掴んで、体重をかけて引っ張るとレオさんが立ち上がってくれた。


「ほんっと、甘えん坊なのはいいけど、甘えるならネロにすればいいのに。ご飯行くよ。」


 立ち上がらせた時の手をレオさんが離してくれない。まぁ、いいよ。乗り掛かった舟だ。レオさんの席まで誘導してあげましょうね。今日のレオさんは甘えん坊な気分らしいね。愚痴交じりに、レオさんの手を引いて席に到着。


 やっとご飯だ、と俺の席に戻ろうとレオさんに背を向けた一瞬の出来事だった。レオさんの腕が俺の腰に回された感触だけは分かった。


 気が付いたら、レオさんの膝の上に座らされている。ホントに、なんかの術なのかってくらいに何の衝撃もなくふわっ、ストンって体が浮いて落ちるんだよ。


「レオさんはなんか怪しげな術でも使っているのかな。怖いわ。」


 腰に回されたレオさんの腕は、さっきの経験上引っ張っても緩まない事は知っている。レオさんに寄り掛かるようにして、この怪しげな体術の事を聞いてみた。


 ネロの視線は真っ直ぐにレオさんに向けられていて、眉がぴくっと反応したのが見える。背後でクスっと笑ったレオさんがパッと腕を離してくれた。


 レオさんが解放してくれたから、静かに自分の席に戻ってレオさんを眺める。何故二回も俺を自分の膝に座らせたのか、理由は良く分からない。ただ、レオさんはネロと視線を合わせていた事から、ネロに構って欲しかったと思われる。


 さっきまでの疲れからは完全に脱却した、にこにこ笑顔のレオさんはもう平気そうだ。多分だけど、レオさんはネロに冷たく突き放されて、悲しくなっちゃったんでしょう。


 人肌を求めた結果が、なんとなくソコにいた俺だったのかな。そういう事でしょう。しかも、俺を構う事でネロの気も引けるから一石二鳥的な感じかな。


 では、いただきましょう。改めてテーブルの上を眺めてみた。豪快な料理が並んでいる。山盛りのお肉の串焼きと、同じく山盛りの大きな海老をぶつ切りにしたっぽい海老のソテー。お肉は胡椒の香りがガッツリ、海老は大蒜と生姜の香りがガッツリでメッチャ美味しそう。


 超大盛のグリーンサラダとトルティーヤの皮もある。大皿をみんなでシェアする感じだ。自分で仕上げて食べるスタイルだ。美味しそう。後はフルーツもある。葡萄が美味しそうですな。


 いただきます、と手を合わせるのと同時に、レオさんとネロも祈りを始めた。二人が顔を上げるのを待って、フルーツの大皿から葡萄を1つ摘まんで口に運んでみる。だって、葡萄が艶々で美味しそうだったんだもん。


 行儀が悪いけど、もう気にしない。ってか、テーブルマナーとかそんなのはこの場には必要ない。葡萄を頬張っている間に、ネロがトルティーヤの皮の上にサラダと串焼きの肉を串から外して綺麗に包んでくれた。


 これは、前にも食べたけどメッチャ美味かった記憶がある。お肉の味付けはちょっと違うけど、間違いのない美味しさでしょう。ニコっと笑顔でお礼を言うと、ネロは嬉しそうに頷いてくれた。


 そして、今日もネロの見守りモードからのお食事のスタートである。もうね、もはや、ネロは親ですよ。子供の食べるのを見守る親になってる。こんな若いのに、こんな大きな子供がいきなりできたネロは可哀想な気がしてきちゃうレベルですよ。


 それは置いといて、目の前の美味しそうなお肉包みを食べちゃいますよ。両手で持って、大きく口を開けて齧ってみる。肉汁と胡椒を始めとしたスパイス達が、シャキシャキ野菜に絡まってウマい。塩加減もベストでお肉の歯応えが良くて、めっちゃ美味い。間違いない。ヤバい。


 俺が美味そうに食べている姿で安心したらしいネロも、自分の食事を始めてくれた。ハムハムと食べ進めながら、二人の食事風景を眺めてみた。レオさんは海老のソテーを巻いて食べていて、ネロはお肉を大盛で巻いてる。


 二人の包み方はかなり豪快だ。具が飛び出てて溢しそうな程、大盛で包んで食べている。其れにも拘わらず、二人は汁一滴すら溢す事もなく綺麗に食べている。特に、レオさんは見た目かなり豪快に食べてるのにスゴイ綺麗に食べてる。


 俺が1つを味わって食べてる間に、二人は次々と平らげて、もう4つ目を食べ始めた。二人の食べる速度はほぼ一緒だ。そこも息がぴったりだね。というか、競い合っているようにすら見える。


 1つ目を食べ終わった後は、口直しにオレンジっぽい柑橘を摘まんで口に運んでみる。爽やかな甘さと多めの酸っぱさ。口がさっぱりした。


 ネロの慈愛溢れる視線が優しい。好きにお食べって言ってくれてそうな視線だ。手で摘まむとかお行儀が悪いですよね。自覚してます。


 でも、今日はお料理も手掴みだしいいじゃん。ね。ネロにニコっとしてみると、ネロも微笑んでくれた。心は通じ合った筈。ネロが楽しそうにエビの包んだのを用意してくれている。何故分かるかというと、ネロの食べるのにしては小ぶりだから。


 あと、片側はオープンで片側は包み込んでくれている優しさ溢れる包み方だから。具とか汁がこぼれない気遣いを忘れないネロは流石である。


 自分のは普通に両側から具がはみ出す程に包んでるから、俺のだってすぐ分かった。わくわくとネロの手元を眺めてしまう。香りがもう美味しい。


 美味しそうな香りに誘われて、海老の包みに齧り付いてみた。歯応えが凄い。ぷりっぷりの海老がヤバい。味付けは生姜と大蒜の香りのする甘辛いタレが絡んでいて、中華っぽい味付けかな。食が進む味だ。


「これ、めっちゃ美味しいんだけど。ヤバい。」


「だろ?これがラングスト。毎日食べても飽きないよな。」


 絡んでるタレ以上に、海老の風味がガツンと来る。美味し過ぎてニコニコで感想を漏らしたら、レオさんが嬉しそうに答えてくれた。ってか、これは海老じゃないのか。


 ラングストってモンスターだよね。一度味わってみたいと思っていたけど、高級食材だった奴だ。確かにこの味なら高級食材と言われても納得の食べ応えかもしれない。


「海老じゃないんだ。ラングストってモンスターだったよね。これは普通に海老だと思ってた。」


「海老はもっと小さいだろ。でも、ラングストは食べ応えも歯応えも味もヤバい、全然別物の美味さなんだよ。この味を琥珀と共有できる幸せが嬉し過ぎる。」


 素直に海老だと思っていた事を伝えると、レオさんは熱くラングストについて語り始めた。そして、最後に付け足した感想は分かりますよ。この味を、俺という名目でネロと共有できて幸せなんだよね。これぞまさしく、幸せのお裾分けだ。


「俺も幸せ。こんな超美味しいのを食べられて嬉しい。カナロアには負けるけど、俺も好き。」


「カナロアはちょっと特殊過ぎてヤバいだろ。アレは希少過ぎて中々食べる機会がないから、コレとは比べられないかな。ラングストもまぁ、希少だけど、一応はそこそこ出回るからね。」


「へ~、やっぱり、海のモンスターだから中々捕れないって事なのかな。」


 レオさんと話している間に、ネロがお肉の包みとラングストの包みを1つずつ作って小皿に置いてくれた。そして、ネロは俺達の話には興味はないらしく、その後はまた自分の食事に戻ってしまう。


「それがでかいだろうな。カナロアはかなり深海に生息しているっぽい。だから、魚人が流してくれないと流通しないんだよ。ラングストの幼生は比較的浅いトコにいるから、魚人じゃなくても捕獲できるみたい。」


 レオさんの詳細な説明を聞いて成る程、っと納得できた。魚人さんしか捕れない食材だから、カナロアは高いんだ。人の手の届かない深海か、魚人さんの街とかもあるんだろうな。ファンタジーだね。そこに辿り着くのは流石に無理そうだけど、いつかはいけるのかな。


「レオさんは実は結構物知りだったんだ。凄いね。」


「この前ユリアに聞いたばっかりの知識。」


 一瞬、深海の魚人さん達の街に思いを馳せそうになったけど、それよりも重要な事があった。脳筋っぽいレオさんなのに、スゴイ豆知識を知ってた事に驚いた。やっぱり、好物だから知ってたのかな、っと思ったら違ったみたい。最近の知識でしたか。


「褒めて損した。ユリアさんは凄いね。」


「尚、ユリアはマスターに聞いた模様。」


 そして、ユリアさんも最近の知識だったらしい。マスターさんはスゴイ料理人さんだから、食材についての知識も凄いんだろうな。そうだよね、あんな金額の超高級食材を気後れする事なく美味しい料理にできるんだから凄いよね。


「マスターさんはあんな可愛いのに、物知りなんだね。凄いね、可愛いね。お腹にモフってしてみたいな。」


 目を輝かせてマスターさんを褒めると、レオさんが苦笑して、ネロが頭を撫でてくれた。食べ途中のラングストの包みを頬張って食べきる。結構ボリュームがある。でも、ネロが作ってくれた残り2つは食べきりたい。ネロの作ってくれた包みは両方とも小さいから何とかいけそう。


「ネロ、作ってくれてありがと。この用意してくれたのでもういっぱいになる。」


 今更ながら、食べる分を作ってくれたネロにお礼を伝えてみた。ネロは笑顔で頷いてくれる。口直しに葡萄を1つ口に放り込んで、お肉から食べるかラングストから食べるか迷ってみた。


 少し考えて、お肉から食べる事にした。味付け的にも、身の感じ的にも今日のはラングストの圧勝だ。だから好きな方を最後に残す事にしたんだよ。お肉の包みを頬張りながら二人を眺める。


 ネロは食べるのがゆっくりになって、レオさんは相変わらず食べるのが早い。まぁ、レオさんと二人で話している間も、ネロは食べてたからね。お腹いっぱいになってきたんだと思う。


 お肉の包みをゆっくり食べ終えて、葡萄を1つ摘まんで口に入れる。合間合間の葡萄がヤバい程美味しい。合間にフルーツを摘まんでいた為か、フルーツの大皿は俺の前に置かれていた。最初は確かど真ん中に置かれていたと思うんだけどいつの間に移動させられていたんだろ。気が付かなかった。


 ネロが食べられる果実があるか分からなかったから、大皿をネロに差し出してみる。ネロはフォークを使わず、白い半透明の柑橘を直に指で摘まんで口に運んでいく。俺と同じ、お行儀が悪い感じなのに、ネロがやると上品に見えるのはなんでなんだ。ネロは指が綺麗だからかな。


 柑橘を噛み締めたネロは、一瞬、瞳が輝いて少し潤んで蕩けたようになった。その表情も一瞬で直ぐ真顔に戻ってしまったけど、多分美味しいヤツだったんだと思う。


「今のは美味しかった?」


「美味かった。」


 ネロの表情から、美味しいってのは分かったんだよ。でもね、確認してみたくなっちゃった。ネロは嬉しそうに微笑んで頷いてくれた。


「じゃあ、この白っぽいヤツは全部酸っぱいのかな。」


「これと、これと、これは酸味が強い。」


 今日のフルーツはネロも食べられるように酸っぱいのも混ぜ込んでくれたのかと思ったけど違うらしい。ネロが言うには、大皿の中の見た目は同じに見える、白っぽい半透明の柑橘の一部だけが酸っぱいとの事だ。


 その三つを小皿に置いて、1つを少しだけ齧ってみた。毛が逆立つ様なレモン丸かじりの風味で、目が丸くなってしまった。ネロは少しだけ困った笑みを浮かべている。俺がそれを齧るとは思ってなかったらしい。


 摘まんでいる、齧りかけの柑橘をネロの口元に運んでみた。俺の目を見つめたネロは頬を緩めて、差し出した俺の指ごと咥えてしまう。


 ちろっと指先を舐められて、指の先から柑橘が巻き取られていた。ネロは直ぐに口を離して、俺の手に〈浄化〉をしてくれた。


「ホントにメッチャ酸っぱかったんだけど。他のは酸っぱくないの?」


「多分。」


 ネロに確認してみたら、他のは違うらしい。大皿の見た目は同じなフルーツを摘まんで少しだけ齧ってみる。ホントだ、甘味が強くて程よい酸味で美味しい。


 酸っぱいのを当てられるっていう、ネロの特殊能力なのだろうか。目を輝かせると、ネロは苦笑して頭を撫でてくれた。もう片手で、俺が取り分けた酸っぱい柑橘を口に運んでいく。


 視線を感じてレオさんに顔を向けてみる。レオさんは頬杖を突いて俺達を眺めていた。大人しく食べていると思ってたけど、もう食べ終わってたらしい。


 フルーツの大皿をレオさんに渡して、残されたラングストの包みを楽しむ事にする。しっかし、ネロは強くて頭も良くて、判断力があって、酸っぱいのまで見分けれるとか。凄いな。ヤバい。


 そして、やっぱこのラングストはヤバい、美味し過ぎ。お腹はもう大分いっぱいだけど、美味しいから何とか入ってくれる。ゆっくり歯応えのある身を噛み締めて最後まで美味しく食べられた。


 レオさんがフルーツをお皿に取り分けて、小さなフォークと共に渡してくれた。残りはレオさんが食べるらしい。手渡されたお皿の上を見て、ほうっと息を漏らしてしまった。


 めっちゃ綺麗に盛り付けてある。ってか、ネロといいレオさんといい。お料理の盛り付け方が綺麗だし、丁寧でタイミングがばっちり。


 あれか、専属護衛だとアルさんに食事の支度するとかで、できるようになる的な感じかな。多分そうだろう。じゃないと、ネロはともかくレオさんがこんな丁寧な仕事はできないでしょ。


「琥珀、今、俺に凄く失礼な事を考えただろ。」


 レオさんの取り分けてくれたお皿を眺めながら、色々考えていたのは事実です。レオさんのボソっと呟く声が聞こえてギクっとしてしまう。


「そんな事はないよ。レオさんなのに、綺麗に盛り付れるなんて凄いとか思ってないし。そんな丁寧な仕事ができるのは、きっとアルさんの所で鍛えられたんだろうな、とかそんな事は全然思ってないよ。ネロならできて当然な雰囲気あるけど、レオさんがこんな綺麗な盛り付けができるのに驚いたとかは全然思ってないから。うん。何にも失礼じゃないよね。ね。」


 焦ると、なんで本心って出ちゃうんだろうね。俺の話をニコニコしながらうんうん、って頷いて聞いてくれるレオさんの聞き方はズルい。話が全部引き出されちゃったじゃん。


「ほぅ。成る程。お前はやっぱり可愛いな。」


 最後までニコニコ聞いてくれたのに、話し終わった途端に、一気に雰囲気を変えるのをやめて下さい。低く迫力のある声は怖いです。笑顔を浮かべてるけど目が笑ってない。緑の瞳が光ってる。謎の迫力があって怖いです。


 誤魔化してみようと、にこっとしてみた。レオさんの目の光が少し収まって眩しいものを見るみたいに目が細められた。笑顔で誤魔化しが成功してる可能性が大きい事が判明しました。


 ニコニコと笑顔を浮かべてレオさんの目を見つめてみる。俺の笑顔に押されるように、レオさんが目を逸らしてフルーツを食べ始めた。睨めっこは俺の勝ちのようだ。


 珍しくレオさんに勝てたのが嬉しくてニコニコが止まらない。頭を撫でられて、顔を横に向けてみる。ネロはお皿の上の綺麗な盛り付けのフルーツを眺めていた。


「レオさんは結構器用なんだね。こんなに綺麗に盛り付けてくれたよ。食べるのが勿体ないね。飾っておきたいくらい綺麗。」


「そうだな。」


 ネロの前にお皿を移動して、ネロに椅子を寄せてみる。ネロが俺を抱き寄せながら、同じ位置からレオさんの盛り付けたお皿を眺めてくれる。ネロ的には、恋人レオさん子供()の為にフルーツを綺麗に盛り付けてくれた事が嬉しいっぽい。


「やっぱ、驚いてんじゃねぇか。」


「違う、驚いてない。少しだけびっくりしただけ。」


 ネロにこそこそと話した内容はレオさんにも聞かれてしまっていたらしい。レオさんの苦笑交じりの声が聞こえて、慌てて否定しておく。


「もういいよ、食え。」


「ネロも食べる?」


「そうだな、一つ貰おうか。」


 レオさんが勧めてくれるけど、崩すのが勿体ない。ってか、ネロも一緒に食べたいよね。だって、レオさんが盛り付けてくれたんだし。小さなフォークを握ってネロに聞いてみると、ネロは嬉しそうに頷いてくれた。


「酸っぱいのはある?」


「その白いの。」


 ネロの示した白い半透明な柑橘をフォークで刺してネロの口に運んでみる。味わうネロの表情に変化は無かったけど、少し眉が動いたのが見えた。


「それは、甘かった。」


「正解。後は食え。」


 もうネロの食べられるのはないらしい。ネロの言葉に頷いて綺麗に盛り付けられたフルーツを崩さないように端っこから少しずつ食べていく。


 でも、ネロの酸っぱいのセンサーは100%じゃないんだ。なんか意外だった。ネロは何に対しても失敗とかしなさそうなイメージだった。


「俺にも分からない事もある。」


 もぐもぐ食べる俺の髪を指に絡めていたネロが小さく呟いた。って、今、ネロは俺の考えてた事に対して答えたんだよね。


「多分ね。知らない間に特殊能力を会得してるんだと思う。二人は自分達が知らないだけで、その特殊能力が発動してるんだよ。だから、俺の考えが分かっちゃうんだと思う。」


「そんなモノはない。さっさと食ってしまえ。お前の頭の中なんか特殊能力なんてなくても見えるんだよ。」


 食べるのを中断して、ネロの目を見つめながらしみじみと語ってみた。ネロに語っていたのに、答えてくれたのはレオさんだ。しかも、メッチャ冷たく切り捨ててくるじゃん。


 ネロはレオさんの言葉を聞いて、困った顔をしてしまっている。ネロならそんな冷たくは言わないのにな。レオさんは怖いですね。


「だって、凄い綺麗に盛り付けしてくれたから、崩すのが勿体ないんだもん。」


 冷たく言われた反感から、レオさんに言い返してしまった。言い返しだけど、綺麗な盛り付けを崩すのが勿体ないのは事実なんだよ。レオさんは俺の意見を聞いて、頬を緩めてくれた。


「勿体なくない。じゃあ、あれだ。お前はソファに行って食ってろ。片付けができなくてネロが困ってる。」


「俺は困ってない。勝手に判断するな。」


 ネロをちらっと見たレオさんがネロを引き合いに出して言葉を続けていく。でも、ネロが直ぐ反論して、レオさんが眉をぴくっとさせてしまった。


「だって、お前達は隣り合って二人でイチャイチャするし。目の毒だし。」


「マジか、ごめんね。俺はソファに移動するから、レオさんはここに座っていいよ。」


 眉を寄せたレオさんがそっぽを向いて呟いた言葉で理解した。レオさんはネロといちゃつきたかったらしい。その場所を俺が取っていたみたいだ。全然気が付かなかった。そりゃ、イラっとして冷たくなっちゃうよね。マジでごめん。


 慌ててお皿とフォークを手にして立ち上がる。ソファに移動してローテーブルにお皿を置いて床に直に座ってみた。二人を眺めながらちまちまと果実を摘まんでいく。


 ってか、レオさんは移動をしないし、ネロも片付けをしないじゃん。でも、二人は見つめ合ってる。会話はないけど、なんかいい雰囲気なのかもしれない。


 まぁいいや、レオさんもネロも幸せそうだからこれでいい筈。そうだ、本を読みながら食べようかな。今なら邪魔が入らないし。鼻歌を歌いながら本棚の前に移動する。


 扉を開けてさっき読みかけた『世界のどうぶつ』を取り出してソファに移動して腰を下ろす。指で葡萄を摘まんで1つ口に放り込んで、ソファの肘掛けに背中を預けて足を延ばして本を開いてみた。

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