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163 ほぼ、常識的

 さて、本を選ぶか。三人で読むとしたら武器がいい気がする。この『珠玉の業物1』にしようかな。本に指をかけると、横からスッと腕が伸びてきて本を抜き出してくれた。本を片手で掴んだレオさんはソファに向かっていった。本棚の扉を閉めて、俺も二人の待つソファに移動する。


 今回はネロがソファに座って足を組み、レオさんはネロの足元の床に座っている。レオさんはネロに寄りかかりながら本を読み始めていた。ソファは選択せずに、レオさんの隣に座って、本を覗き込んでみる。


 ネロがカップ渡してくれた。本を覗くのを中断して、お茶を頂く事にする。いい香りが口に広がって、美味しくてほっこりする。ネロのお茶は美味しくて笑顔になってしまう。お茶を飲みながら、レオさんが開いている本に目を向けてみた。


「レオさんは短剣しか使わないの?」


「片手武器なら大体使う。短剣が身軽で楽だからそっちに流れちゃうけどな。」


 本に目を落としながら世間話の一環でレオさんに話し掛けてみる。レオさんもページを捲りながらのんびり答えてくれた。成る程、片手武器全般か。やっぱりレオさんはスピード特化な人っぽい。体型も筋肉ムキムキとはいえ、細いからね。そうなんだろうね。


 レオさんがペラペラとページを捲るペースはゆっくりだ。俺に合わせてくれているのか、レオさん自身がこの本に載ってる武器に興味があるのか。


 ちらっとレオさんの横顔を覗き見る。レオさんは真剣な顔で本を眺めていた。レオさんは真剣だとキツクて怖そうだよね。でも、もう怖さは感じない。レオさんの真実の姿を知っているからね。


「両手武器は使わないの?ヤミさんの大剣っぽいのとか。豪快なの。」


「使って使えない事はないだろうけど。敢えては使わない。」


 レオさんの横顔を眺めながら、今度は両手武器の話題に持っていってみた。アッサリと躱されてしまった。成る程ね、レオさんは両手武器は苦手なのか。ネロみたいに片手も両手も使い熟すのは凄いのかな。


「そうなんだ。ネロが両手武器も完全に使い熟すのって凄いのかな。」


「かなり凄い。」


 何の気なしに気になった質問をしてみると、レオさんが凄い勢いで顔を上げた。レオさんは本に視線を落としながらのんびりと会話をしていたんだよ。それなのに、キラキラ光る目になった。いきなりテンションが上がってる。それだけ凄いって事なのかな。


「この前、ネロが大太刀と薙刀を見せてくれたんだよ。凄くカッコ良かった。」


「マジで、誰と組んだんだよ。ズルいぞ?」


 ネロが全ての両手武器を完璧に使いこなすのかは分からない。でも、胡蝶と白雪は綺麗に使ってくれた。無駄のない綺麗な動きだった。あの時の事を思い出して話をしてみたら、レオさんがクワっとネロに振り返ってしまった。そのまま、ネロに文句を言い出すレオさんはちょっと可愛い。


 レオさんはテンション高くネロに詰め寄っている。対するネロはぼんやりと興味がなさそうに見下ろしている。


 冷静なネロと熱血なレオさんの対比が微笑ましい。ニコニコしながら見守っていたら、ネロがちらっと俺を見た。そして、レオさんを見下ろして悪戯っぽい笑顔を浮かべた。


「秘密。」


「マジかよ。それを今言うのか。何という焦らしなんだ。くそ、琥珀は知ってるんだろ。相手は誰だよ、今すぐ教えろ。」


 言葉にも揶揄いを含む、悪戯っぽい笑顔のネロはかなり可愛い。そんなネロの可愛さより、レオさんはネロの相手が誰なのかが気になるらしい。ネロに聞くのは諦めたらしいレオさんは俺に詰め寄ってくる。凄い情熱的なんですけど。


「レオさんの嫉妬の熱が他の時と違うんだけど、そんな嫉妬する事なのかな」


「羨まし過ぎる。夜も寝れない。」


 レオさんの熱気が凄過ぎてヤバいんだけど。エリンさんの時の嫉妬と全然違うじゃん。素直に聞いてみると、レオさんの目がクワっと見開かれた。そして、メッチャ情熱的だ。


 表情も、目はキラキラで、頬は上気して、耳はピンと立ってるんだよ。もう確実にネロに愛を囁いてると言っていいでしょう。


 夜も寝られないんだもん。切なさを表現した言い回しがレオさんの心情を如実に表してる。レオさんの繊細な部分が反映されてるんだろうな。


「ネロ、レオさんの愛の告白はめっちゃ情熱的だね。嬉しいでしょ。俺も嬉しい。」


 レオさんのストレートな愛の表現は俺の心にもグッと来た。ネロをに振り返って、良かったねって笑いかけてみる。ネロは一瞬驚いた顔をした後でふわっと嬉しそうに微笑んでくれた。ネロも嬉しかったらしい。良かった。


「じゃぁ、ランスの時に相手して貰えばいいんじゃないかな。」


「ネロはランスも使うの?使えるの?」


 そんなレオさんには、ネロのランスの相手になって貰ったらいいと思うんだ。俺もネロのランスは楽しみにしてるし。レオさんの戦ってるのもまた見たい。いい考えだ。俺の提案を聞いたレオさんの目が丸くなって、俺に詰め寄ってくる。


 いや、俺は知らないよ。ネロが見せてくれるって言っただけだし。ネロに聞けばいいのに、って思うけど。レオさんのキラキラの目は綺麗だからもうちょっと眺めさせて貰おう。


 楽しそうにキラキラ輝く猫目ってホント綺麗。レオさんの目は特別綺麗な気がする。俺が一番好きな色。深く澄んだ緑色で落ち着く色。


「多分使える、ネロが見せてくれるって言ったもん。ね。ネロ。」


「得意な武器ではないが。」


 レオさんはネロには聞かないらしい。なので、俺が答えてあげる事にした。そして、ネロに確認を取ってみると、ネロは静かな声で答えてくれる。まぁ、見せてくれる事に決定した時のネロの反応では、確かに苦手そうではあった。


「おお、マジか。じゃあ、俺にも勝機はあるって事だよな。ヤバい。テンションが上がってきた。ありがとな、琥珀。マジ、お前は天使だわ。可愛過ぎる。お礼にキスしてやるからこっち来い。」


 レオさんの目のキラキラが一段階増した気がする。それは喋りにも反映されていて、メッチャテンションが高くなった。レオさんに圧倒されていたら、最後の最後で冷静に戻れた。


「いらないです。」


 レオさんは基本的にチャラいんだよ。お礼にキスってなんだ。いらないよ。ネロの冷たい目が俺に憑依してしまった、そしてそのまま心からの言葉か口から滑り出る。


「冷めた反応をするなよ。そして、その冷たい視線はゾクっとする。ちょっと、ヤバいわ。その目で俺を見据えながら俺の膝の上に乗ってみな?」


 レオさんが俺の肩に手を回した。膝の上の本を退けると、俺に顔を寄せて囁いてくる。だからね、レオさんは基本的にチャラいんだよ。


 何で俺がレオさんの膝に乗らなきゃなんだ。答える気もなくて、無言で睨んであげた。至近距離で目を合わせていたレオさんの瞳孔がブワッと丸くなるのが見えた。


「ランスでも手は抜かない。命が残るといいな。」


「いや、ネロ。違う。今のは冗談だって。な、そんな怒るなよ。怖いだろ。」


 低く静かな、冷たい声が響いてきて、レオさんがビクっとなった。慌ててネロに振り向いたレオさんが、必死な様子で釈明を始めている。ネロのヤキモチの前でレオさんは撃沈したらしい。


 レオさんの冗談にネロが一瞬ヤキモチを妬いたっぽいですね。そして、レオさんはネロに言い訳タイムですか。恋人っぽい感じで大変宜しいですね。お茶を飲みながらのんびりとで二人の様子を眺める事にした。と、同時に俺のお腹が主張を始めた。


 二人の視線が同時に俺に集中する。息がぴったり合ってるね。レオさんは立ち上がって本を本棚に戻しに行ってしまった。折角三人で読む為に選んだのに、全然読めなかった。会話で終わっちゃった感しかない。


「えっと、二人で行ってくる?仲直りを兼ねて仲良くしてきたらいいと思う。」


「分かった。行くぞ。」


「へぃ。」


 立ち上がったネロが俺を見下ろす視線は、一緒に行くかを聞いてる気がする。行きたい気もするんだけど、折角仲直りしたんだから二人で行ってきたらいいと思うんだ。俺の話を聞いたネロは了承して、スタスタと入り口に向かってしまった。レオさんは気の抜けた返事をしつつネロに従っている。


「レオさんを置いてっちゃ駄目だよ。競争ならいいけど置いてくのは禁止で。置いてったら可哀想でしょ。ちゃんと二人で帰ってきてね。じゃあ、気を付けて行ってらっしゃい。」


 二人の詠唱の声が重なる。その詠唱を聞きながら、ネロに注意を促しておく。追いかけっこは、ネロは楽しそうだったけど、レオさんは不満そうだったからね。置いてくのは駄目だ。きゃっきゃウフフをするなら、つかず離れずを保たないとね。


 ネロは無言でささっと外に出て行ってしまった。レオさんはちらっと俺に視線を向けて、ネロを追って出て行った。二人が去った広い空間で、ソファに上がってお茶を頂く。


 レオさんがいると賑やかで、ネロも話が弾んでる気がする。何より、ネロの笑顔が多い。素晴らしいね。あんなに幸せそうなら、もっと前からレオさんを紹介してくれたら良かったのに。まぁ、デリケートな問題も含んでるから、中々難しかったんだろうな。


 二人を待ってる間に、読書を再開するか。全然理解できなかったけど、アイラさんに借りた魔法の本に再挑戦してみようかな。何回も読んでいれば理解はできるかもしれないし。


 本棚を開いて前に座る。一番下の段の『魔法入門』の隣の『世界のどうぶつ』というタイトルに惹かれてしまう。でも、今じゃないね。魔法の本に決めたんだし。魔法の本を引っ張り出してぱらぱらと流し読みをしていく。


 やっぱり難解でさっぱり頭に入ってこない。流し読みを止めて、今度は丁寧に読んでみる。やっぱり文字の理解はできるけど頭に入らない。


 って事は、これは知力依存の知識なのかも。知力が一定以上ないと読めない本なんだよ。魔法の本だし、きっとそう。スツィが沈黙を貫いているって事はきっとそうだよね。ね。スツィ。


(はい。)


 普通に肯定された件について。そっか、ステータス依存の知識なんてあるんだね。この世界怖い。知力が1の俺には、理解できない知識も沢山あるって事なんだね。スツィの肯定を貰った事だし、もう魔法はいいや。魔法は止めだ。


 さっきの直観に従って、『世界のどうぶつ』を読もうかな。うん、こっちにしよう。こっちの方が時間つぶしにはいいかもしれない。『魔法入門』は本棚に戻して、『世界のどうぶつ』を抜き出してみる。


 本棚の前に座り込んで、本を開いてみた。この本も挿絵は無しか。前にパラ見して知ってたけどね。子供向けの『世界のどうぶつ』だし、挿絵くらい描いてくれてもいいじゃん。


 目次によると、中の大陸、北の大陸ティール、東の大陸オウリュウの、それぞれの大雑把な生息動物及びモンスターについてが書かれているみたいだ。記載されてる情報は、あくまで動物と動物系モンスターのみの本っぽい。


 注意書きには、植物、虫、魚等、他の生物の情報は同じシリーズの各本をお求め下さいって書かれている。魔物に関しては同社の専門書をお勧めします、とも書いてある。優しい注意書きの中に、商売上手な一面も持ち合わせている感じだ。


 知識って怖いよね。情報を知ってしまうと、それによって引き出された情報が次に繋がっていくんだよ。終わりがない感じが底なし沼感へと繋がってる気がしてくる。この本の注意書きはその沼に引き摺り込む危険な文言だ。って事は、やっぱり商売上手なんだろうな。


 この本には植物系のモンスターの情報はなしなのか。残念。俺にとって一番重要な情報がないのは悲しいな。でも、これ以上は本を買って貰うのは駄目だ。返済を考えると絶対無理。今でさえヤバ過ぎるのに。


 植物系のモンスターか、ネロとかレオさんに聞けば分かるとは思うんだよ。でも、いきなり聞くのはおかしいよね。何で知りたいの、って聞かれた時になんて答えればいいのか。


 話の取っ掛かりとして、本を読んでて気になったって事にすればいいと思うんだよ。でも、その本自体がない。そして、現状では手に入れる手段が今の俺にはないんだよね。困ったもんです。


「何が欲しいんだ?」


「ん~、植物系のモンスターの本。」


 唐突に聞かれて、そのまま普通に答えてしまった。恐る恐る、背後を振り返ってみる。椅子に座った二人がにっこり笑顔を浮かべてるのが目に映った。


 いつからいたんだ。ってか、そんなに時間が経ってたのだろうか。そして、やっぱり音が何もしなかった。それ以前に、俺は今なんて答えた。


「ネロ、違うの。欲しくない。全く欲しくないから、買ったら駄目だからね。俺はホントもう返せないから、本気でやめてね。」


「分かった。」


「なんで植物系のモンスターの本なんて欲しいの?」


 慌ててネロに言い繕ってみる。絶対にこれ以上は借金に加算はしたくない。食事で微増していく借金ですら、返せる当てがないのにこれ以上は無理なの。俺の必死さが伝わったのか、ネロはアッサリ了承してくれた。すかさずレオさんからの質問で黙り込んでしまう。


 あ~、聞かれちゃいますよね。そうですよね、俺も聞く自信がある。ってか、蒸し返さないで欲しい。でも、やっぱり完璧に聞かれてた。ばっちり一言一句間違ってないもん。


「えっと、癒し系だから?」


「何故疑問系?そして、癒し系って、この家に置いて眺めるのか?植物のモンスターを?」


「う。」


 目を泳がせながら必死に考えて、植物は緑、緑は癒し効果、という結論に達した。そして、何とか冷静に答えてみる。ニコニコ笑顔のレオさんが即行突っ込んできた。鬼の猛攻である。メッチャ聞いてくるじゃん。もう二の句が継げなくて、目を逸らしながら言葉を詰まらせる事しかできなかった。


「ってかね。いつの間に帰ってきてたの。」


「さっき。琥珀が床に座り込んでて可愛かったから放置してみた。」


 答えれないから、他の疑問で話題を逸らす作戦を取る事にしよう。ニコニコのレオさんは楽しそうに答えてくれる。さっきって事は、ちょっと前って意味だよね。俺はずっと見られていたのか。後ろ向きだったとはいえ、そんなに気が付かないモノなのか。


 この音のなさと気配のなさと、素早い移動はまさしく忍者ですよ。漫画やゲームの中のだけどね。レオさんは猫忍者でニンニンしてたら可愛いかも。ネロは漆黒の毛並みだから黒装束が似合いそうだね。


「二人は忍者みたいだね。隠密系ですか。こわ。」


「隠密。東の大陸に存在している。」


 ニマニマしながら二人を称して忍者の称号を与えてみた。忍者について聞かれたら答える用意があったのに、ネロは普通に隠密を知ってた。


「ネロは隠密って分かるの?忍者も知ってる?」


「『ニンジャ』は分からないが、隠密は東の大陸で諜報活動を行う者の総称。」


 ちょっとテンションが上がってネロに質問を重ねてしまう。ネロが少し目を細めて俺を見つめてきた。小首を傾げると、ネロが少しだけ説明を加えてくれた。聞いた限りでは隠密っぽいね。諜報活動か、スパイって事だよね。響きがカッコいい。隠密が存在する世界なのか。


「凄いな。隠密ってホントにいるんだね。カッコいい。」


「隠密っていうと、あれだろ。えっとな、あ~、うん。なんていうか、表舞台に出てこないからカッコいいかは分からんだろ。」


「レオさん、表舞台に出てこなくてもイメージがカッコいいんだよ。」


 何か隠密って響きすらもカッコいいじゃん。ぽわっとしながら夢見心地で話をしていたら、レオさんが話を挟んできた。なんか言い淀んでたけどなんだろ。そして、表舞台に出ない隠密だからいいんじゃん。レオさんは分かってないな。むっとしてレオさんに言い返してしまった。


「でも、イメージっていうとあれだろ。隠密の仕事って言えば、」


「レオ、やめておけ。」


「へぃ。」


 レオさんは一瞬呆気に取られた顔をして、直ぐに説明を始めてくれた。ふむふむ、と聞いてたんだけど、ネロがレオさんの話を遮ってしまった。そして、レオさんはちらっとネロに目を向けて普通に了承してしまう。そこまで話して止めるとか酷い。


「隠密の仕事って言えばなぁに、気になるの。教えて。」


「え~っと、あのな。うん。ネロ、パス。」


 眉を寄せてレオさんに早く続きをって要求してみた。それなのに、困った感じのレオさんは答えてくれない。それどころか、ネロに丸投げしてしまった。じゃぁ、いいよ。ネロに聞くもん。


「琥珀が知る必要はない事。」


「ズルい。知りたい。教えて。」


 ネロに視線を移すと、ネロは真顔でバッサリと切り捨ててきた。知る必要はなくても知りたいの。むっとしながらネロにも答えを要求してみる。ネロは真顔のままで、感情の籠らない瞳は俺を見据えたままだ。


「駄目だ。」


「じゃぁ、もういいよ。どうせ、俺が知ってもしょうがないもんね。」


 ネロの視線に負けないように睨み返していると、ネロが拒否を突き付けてきた。ネロの冷たい物言いに、ぷいっと顔を背けてしまう。そして、二人に背を向けて、いじけた発言をしてしまった。二人と相対してると、子供になっちゃうんだよ。


 もういい、本の続きを読む事にする。本に手を伸ばした瞬間に、ふわっと俺の体が包み込まれた。爽やかで甘い香りも俺を包み込んでいる。ネロが俺を後ろから抱き締めたらしい。俯いた首の後ろに唇が当たる感触がした。ネロはさっき椅子に座ってたよね。俺が後ろを向いて、一瞬後に音もなく移動とか瞬間移動かよ。


「いきなり来るとびっくりするからやめて。」


「すまない。でも、琥珀が知ると恐れを抱く情報もある。」


 拗ねた口調のままで振り向かずの対応してしまった。ネロは困った感じで、拒否した理由を話していく。ネロは首筋に唇を近づけたままで話をしているから、首がくすぐったい。


「でも、知りたいの。」


「少し、誤解をしている情報もある。」


 拗ねた口調は止めて甘えた口調で話し掛けてみた。ネロは尚も困った口調で理由を続けている。本を閉じて本棚に戻そうと体を動かすと、ネロは包み込んでいた腕を離してくれた。


 本を本棚に戻して、ソファに移動して腰を下ろす。ネロも俺の隣に腰を下ろして俺を見つめてくる。ネロに顔を向けてみた。ネロは不安そうに眉を寄せている。ネロが止めた理由は分かったけど、それでも知りたいんです。


「隠密の主な仕事は諜報活動。主に、自国他国を問わず情報収集をしている。時には、暗殺、破壊などの物理的な排除を請け負う事もある。そして、性別を問わず、諜報活動の一環として。」


 聞かせて欲しい、と頷いて意思表示してみる。ネロはスッと真顔になって淡々と話し始めた。そして、最後は言葉を止めて困った顔をしてしまった。何故言葉を止めたのか理解できなくて、小首を傾げてしまう。


 ネロは困った顔のままで、考え込んでいる。分かり易い説明をしようとしているか、もしくは言葉を選んでいるのかもしれない。要するに、このポイントがネロが言いたくなかった理由か。


「要するに、ネロが言いたいのは、諜報活動の一環として色仕掛けをしてますよ、って事。琥珀はこういうのは言われたら困るだろ。だから多分止めたんだよ。」


 ネロが話し始めるのを待っていたら、レオさんが横から口を挟んできた。ネロは少しほっとした顔をしている。色仕掛け、要するに色仕掛け。他の言葉が出てこないや。


 確かに色仕掛けの言葉の意味合いを考えるとアレだよ。でも、情報の一部だから別に恥ずかしくない。なんでネロは俺に聞かせたくなかったんだろ。ネロをじっと見つめる。ネロがまた困った顔になってしまった。


「別に俺はそういう情報を聞いても困らないよ。ネロは考え過ぎ。」


「そうか、良かった。」

 

 ネロは俺がそれくらいで動揺する程の子供だと思ってる、って事か。ニコっと笑顔でネロは考え過ぎって伝えておいた。ネロは頬を緩めて安心してくれたっぽい。そして、そっと俺の髪を掻き上げてくれた。


「分かった。ネロはやっぱり俺が子供だと思っているんでしょ。俺はこう見えても、結構大人だから大丈夫だよ。全然平気だよ。」


「まぁ、隠密って言ったら、普通イメージするのは色事関係だよな。ってか、どエロい言葉というかなんというか。うん。字面が隠れて密かにってね、もう。エロエロだよ。」


 ネロが思っている程は子供じゃないし、全然イメージする隠密じゃんって考えていました。そして、レオさんが話し始めた隠密のイメージとやらを聞いて驚いてしまった。


 どエロい言葉って何。そりゃ、そういう事もしているだろうけど、隠密のメインは諜報活動だと思ってた。この世界では隠密って、イメージはエロいのかよ。マジか。言葉が同じでも全く違うじゃん。


「えぇぇぇ、そうだったの?知らなかった。」


「まぁ、そうだと思った。多分、ネロも同じ感想だったんだと思うよ。」


「俺は常識が無い人みたいじゃん。ネロとレオさんを見て隠密みたいって。要するにエッチぃ感じがするって聞こえたって事なんだよね?」


「うん。まんま、それだね。強ち間違っては無いから気にするな。」


「もういい。俺は何も話さない。話せない。ヤバすぎる。」


 レオさんの丁寧な説明を聞いて、自分の言動に恥ずかしくなって背もたれに寄りかかってしまった。ネロが気遣うように頭を撫でてくれる。顔をネロに向けると、心配そうに眉を寄せているネロの姿が見えた。


「俺はもしかして、今までも相当変な事ばっかり言っていたりしたのかな。」


「問題無い。」


「えっとね、正直に教えて下さい。」


「ほぼ、常識的。」


「ほぼ?」


 ネロ自身は常識度外視の超絶な人だ。でも、この世界の常識や良識は理解していると思う。そんなネロに問いかけてしまった。ネロは真っ直ぐに目を見て頷いてくれる。真剣な顔をしているし、多分本当だろう。但し、ほぼ、って言ったよね。ほぼって、完全ではないよね。俺はちゃんと常識を学ばないとヤバい気がしてきた。


「因みに、俺の目線からだと、琥珀の常識度は。」


 ネロとの見つめあいに割って入る感じでレオさんの声が響いてきた。恐る恐る、レオさんに顔を向けてみる。一旦言葉を区切ったレオさんは一瞬ネロの方を見て、俺に目を戻してきた。


 ネロと視線を合わせても、レオさんの表情は全く変わってなかった。ネロに脅されるとかアイコンタクトはなかった筈。って事は、常識度ではネロの上を行くレオさんが、今から言ってくれる数値こそが真実な可能性が高い。


 ヤバい、胸が痛い。俺の常識度inモーティナはどんな状況になっているんだ。怖い。ドキドキと鼓動が早くなってレオさんを凝視してしまった。見つめ合っているレオさんの表情が変わった感じがする。キラキラと瞳が輝いて、髪と耳の毛が逆立った。


「レオさん、早く。」


 結果が知りたくて、掠れる声で先を促してしまう。なんでそんなに勿体ぶるんだよ、さらっと教えてよ。レオさんが少し息を吸い込んで天井を見上げてしまった。


 レオさんのその反応で絶望の気分を味わってしまった。もう、お手上げって事だよね。マジで、俺はそんな末期な感じなのか。もうダメじゃん。涙目になってネロに縋りついてしまう。


「ネロ。俺が駄目でも、常識がなくて迷惑かけまくっても、ずっと面倒見てくれる?追い出したりしない?ずっと一緒にいてくれる?」


「当然。ずっと俺の傍にいればいい。」


 ネロはどんな時でも優しい、今回も優しかった。俺がダメな奴認定されたのに、傍にいていいって言ってくれる。マジでネロは安心感の塊だ。


「ありがと、そう言ってくれるのはネロだけだよね。もう、俺は駄目かもしれない。外に出たら皆に迷惑をかけて、ネロにも恥をかかせて生きていく事になるんだ。家に閉じこもる。もう、ずっとネロに面倒を見て貰う。俺は家から出ちゃ駄目な人だったんだ。ごめんね。」


「どんな琥珀でも追い出す事はしない。ずっと琥珀を守っていく、問題無い。」


 ネロが優しくて、弱音がぽろぽろ出てしまう。ネロはそんな俺を優しく慰めてくれる。追い出さないって言ってくれたネロに感謝だ。今までもずっとネロに迷惑をかけまくっているのに、ネロは変わらず優しい。ネロにギュッとしがみつくと、ネロもそっと抱き返してくれた。


「琥珀の常識度は大体95%くらいだよ。外に出ても全然問題ない程度。全然、気にする必要はない。時々、今回みたいなのとか、ネロの魔法のとかで常識外れになるだけ。超常識的。ってか、ネロ。お前はどさくさに紛れて何を口走ってんだ。」


「え、マジで。良かった。ネロ。良かったね、俺は外に行ってもいいって。あ~、安心したらお腹が超空いてきた。ユリアさんはまだかな。今日のご飯はなんだろね。楽しみだね。」


 ネロの安心感に包まれていたら、レオさんの冷静な声が響いてきた。一呼吸を置いて、レオさんの言葉を頭で理解して、体の力が抜けてしまった。まだ、抱き締めてくれているネロの腕の中から抜け出て、にこにこの笑顔になってしまう。


 だって95%も常識があったらほぼ常識人だよね。マジで、某賞金クイズ番組かよって思ってしまったよ。レオさんの顔芸とか真に迫り過ぎてヤバかった。マジでドキドキした。


 レオさんが俺の横、ネロを見て凍り付いている。ん、どうしたんだ。顔をネロに向けてみた。ニコっと爽やかな笑顔のネロが目に映った。ネロの笑顔につられて、俺もニコっと笑顔を返してみる。


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