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162 お前は耐えられるのかよ

 優しいネロの眼差しが嬉しくて、家族の思い出を沢山話しちゃった。懐かしい思い出で心が温かくなった。ネロにキスをしたのも、して貰ったのも家族を思い出せた。温かい気持ちになれた。


「てか、謝るのはレオさんに対してだった。でも、レオさんが動かない。」


「動いてる。少し驚き過ぎて時間が止まっただけ。」


 ネロに向かって謝って気付いた。謝罪する対象が違うじゃん。ションボリしながら、でもレオさんが動かないって続けてしまう。横から、冷静な声が聞こえてきた。


 顔を横に向けると、レオさんはメッチャ動いてた。普通の笑顔のレオさんがいた。良かった、瞬きも息もしないからどうしようかと思ったんだよ。


「あ、良かった。復活したね。俺は魔法を使えないのに、レオさんの時間を止めれるとか、凄くない?これはもう新魔法と言ってもいいと思うんだけど、どうかな。」


 レオさんが復活したのが嬉しくて、ネロの握ってくれてる手を離してレオさんに伸ばす。レオさんの頬を両手で挟んで、顔を近付けて、俺の新魔法認定を確認してみた。ニッコリ笑顔で同意を強要してみると、レオさんが目を丸くしたままで、また固まってしまった。


「ネロ、俺はまた変な事をしちゃったのかな。レオさんが止まっちゃった。」


「そうだな。少し。」


 レオさんの頬から手を離して、ネロに顔を向けてみる。ネロはレオさんを見上げて苦笑していた。恐る恐る、俺がレオさんに何かをしちゃったのかを聞いてみる。ネロはゆっくりと俺に視線を戻して、肯定の言葉を口から出した。


 マジか、それはマズい。俺は何をしたんだ。答えを求めて、ネロをじっと見つめると、ネロが目を細めた。意味ありげな視線ですね。ふむふむ、成る程。だから、目じゃ分からないのだよ。


「琥珀。お前は恥ずかしいと顔が真っ赤になるのに、イキナリ積極的とか。一体どうなってんだよ。」


「あ、レオさん復活したんだ。おはよ。」


 ネロの目を見つめて真意を探っていたら、疲れたレオさんの声が聞こえた。今回のレオさんの復活は早かった模様。嬉しくて、レオさんに向き直ってニコニコで話し掛けてみる。レオさんが眩しそうに目を細めてしまった。


「キスだぞ?さっき俺がした時は、真っ赤になって逃げたじゃねぇか。」


「真っ赤になってないし、逃げてもない。首を押さえて距離を取って何したのか聞いただけです。」


 レオさんは静かだけど、確実に抗議をしてる感じだね。でも、レオさんの認識は違いますよ。全然違います。ちゃんと言い直しておきましょうね。


 レオさんは俺の言い分を聞いていて眉を寄せてしまった。だから、キツイ目付きなんだから、そんな顔したら怖いの。レオさんの眉間に指を置いて揉み解してあげる事にしよう。


「同じじゃねぇか。いきなりされたらびっくりするだろ。」


 レオさんが伸ばした俺の手を掴んで阻止してきた。そして、静かに抗議を続けていく。ただ、眉間に寄せた眉は解除してくれたね。


「全然違う。それに、レオさんの方がいきなりじゃん。俺のはレオさんが悲しそうだったから可哀想だね、ってキスしただけ。普通の事。ネロも普通って言ってくれたもん。だから普通の事なの。」


 そんなレオさんには、俺も冷静に対応しますよ。エヘンとどや顔で冷静に対処してみた。俺の話を聞いてるうちに、レオさんが目を細めて俺を見据えてきた。だから、その目は怖いから。


「ほぉ。俺は今、動揺してるんだよな。慰めでキスしてくれよ。」


「え、ヤダ。」


 レオさんに手首を掴まれたままで若干後退ってしまう。レオさんが鋭い目付きのままで、ズイっと顔を寄せてきた。そして、低い声でキスを求めてくる。この人は何を言ってるんだ、と眉が寄ってしまった。そして、心の声はそのまま出てしまう。


「眉を顰めて本気で嫌がるなよ。悲しくなるだろ。」


 レオさんがぱっと手を離してくれた。そして体勢を戻して、駄目出しをしてきた。悲しいって言葉の後には、耳が倒されて悲しそうになっている。これなら慰めなきゃってなるじゃん。


 レオさんの肩に手を置いて、伸び上がって頬にキスをしてみる。レオさんの目が見開かれてしまった。でも、猫耳はピンと立った、作戦成功。ミッション達成。ニマっと笑ってしまった。レオさんの瞳孔がブワッと広がったのが見える。


「てかね、褒めて。俺も魔法っぽいの使えたと思わない?」


「あ?」


 ソファに座り直してニコニコでレオさんにさっきの話の続きをしてみる。レオさんは何故か疲れた様子で聞き返してきた。何でそんなに疲れたんだ。あ、そっか。2回も時が止まったら、そりゃ疲れるよね。いや、止まってるんだから疲れなくないか。まぁいいや。


「レオさんを止める魔法。凄くない?」


「凄くない。」


 レオさんのつれない態度にもめげずに、ニコニコで話を続けてみる。それなのに、レオさんはたった一言で一刀両断ですよ。なんでそんな冷めた態度なの。もうちょっとノッて来てくれてもいいじゃん。


「酷い。二回も止めたのに。」


「じゃぁ、もう一回止めてみろよ。」


 むっとしながらレオさんに詰め寄ってしまう。伸びあがってレオさんに顔を近付けて睨むと、レオさんの片眉がピクっとなった。そして、低い声で揶揄うように再現を求めてくる。くそぉ、レオさんには勝てない。俺にはできない再現を求めてくるとは卑怯なり。


「そうだね~、やりたいのはやまやまだよ。でもね、発動条件が不明だからできません。以上。」


 こんな時はシレっと躱してやる。だって発動条件が分かんないんだもん。仕方ないじゃん。むっと口を尖らせたら、レオさんが片手で俺の頬を掴んでしまった。レオさんの目がスッと細められたのも見える。


「お前は天真爛漫過ぎて心配になってくる。外では絶対するなよ。絶対だぞ。やっていいのは家の中だけだからな。分かってるよな?」


 口を戻すと、レオさんは手を離してくれた。そして、俺の髪を掻き上げながら、溜息交じりのレオさんの言い聞かせの時間が始まってしまった。


「外ではやらないよ。家族だからするんだよ、当たり前でしょ。ね、ネロ。」


「そうだな。」


 当たり前の事を言い出すしたレオさんを睨んでしまう。口を尖らせて宣言をすると、レオさんの片手が頬に添えられてしまった。慌てて口を戻して、ネロに話し掛けてみる。ネロは優しく相槌をうってくれた。


 分かってますよって意味で、ニッコリ笑顔で伸びあがってレオさんの頬にキスをしてみる。体を元に戻すと、レオさんが固まっていた。発動条件がキスな可能性があるね。ニマっとしたら、レオさんの瞬きが復活してしまった。


 ってか、やっぱりレオさんにキスするのは抵抗感がない。って事は、さっきはイキナリで驚いたからが最終結論だね。俺の中ではレオさんは家族認定されてるって事だ。


「レオさん、発動したよ。褒めて。」


「あ、そうだな。琥珀は凄いな。偉いぞ、流石琥珀だ。」


 ぼんやりと俺を眺めるレオさんにニコニコで、時止めマジックが発動した旨を報告する。そして、褒めろ、と強要してみた。俺の強要で、レオさんは褒めてくれたよ。言葉は完璧だった。でもね、抑揚もなければ覇気もない。全然褒められてる感じがしない。


「超棒読みじゃん、感情が篭ってない。やり直し。」


「やり直しなんかしねぇよ。ってか、ネロよ、俺はどうすればいいんだ。」


「知らん、耐えろ。」


 むっと睨んで駄目出しをしてみたものの、レオさんの視線はネロに向いている。そして、俺の要求はぴしゃりと跳ね除けられてしまった。悲しい。更にはネロに何かを泣き着いている。ネロはツーンと冷たい態度で撥ね付けている。


「薄情だな。お前は耐えられるのかよ。」


「俺は。」


 二人で見つめ合って会話を始めてしまった。俺は離れて見守らせて貰おうかな。こうやって離れたとこから見てるとホントにお似合いだよな。二人の会話は直ぐに終わってしまった。レオさんの呟きに、ネロが答える事ができず考え込んでしまったらしい。


 難しい質問だったみたいだね。愛の試練かもしれない。耐えるって言葉から分かる事は、盛り上がっても俺がいる前では自重するって意味なのかも。


 ネロが冷たく撥ね付けたから、レオさんがネロに耐えられるか聞いて。ネロは自問の中で答えが見つからなかったのか。


 二人が盛り上がったなら俺は席を外すから、盛り上がってくれてもいいんだけどな。俺が家出をしちゃったから、ネロは離れるのが心配になっちゃったんだと思う。で、俺から離れないネロのせいで、レオさんは色々と耐えられなくなってると。困った問題だ。


 レオさんは軽くてチャラくて話し上手だから、暗かったり重かったりする話題でも気が付けば笑えてるんだよな。昔を思い出したり、現実を思い出したりで辛くなっても、気が付けば辛さがなくなってる気がする。


 ネロは優しく安心させてくれる存在。包み込んでくれる優しさが安心感の塊なんだよ。二人が仲良くて良かった。俺はその二人に受けれて貰えて良かった。レオさんが俺込みでネロといたいって言ってくれて良かった。


 まぁ、二人は見つめ合いを続けてるから俺は本でも読もうかな。立ち上がって、二人を邪魔しないようにローテーブルをの向こう側をグルっと回って、本棚の前に移動してみた。


 少し離れて本棚を眺めてみる。改めて見ても、ホント綺麗な本棚だ。ガラスの扉がアンティーク調で、艶のある黒が高級感を演出している。しゃがみ込んで下の収納の扉ををスライドしてみた。


 何の抵抗もなくスムーズに開閉する丁寧な造りだ。開けきると扉が収納の内側の壁に沿って入り込んでいく。内側に収納された扉は、元からなかったかのような作りになっている。収納の中を覗き込んでから思いつく。


 視線を感じてソファに目を向けてみた。見つめ合っていた筈の二人は俺を見てる。二人は疑問の表情で、二人の猫耳は興味津々って感じで真っ直ぐこっちに向いている。猫っぽくて可愛い。


 二人にニコッと笑いかけて、寝室に移動して箪笥を開けてみる。運動着はどこだろう。ごそごそと探してみたけど、見付からない。捜索は諦めて、一度リビングに戻る事にした。


「ネロ、運動用の服はどこにあるの。」


 二人は仲良く寄り添ったままだったけど、聞くだけなら問題ないよね。ネロに運動着の在り処を聞いてみる。ネロは直ぐに立ち上がってこっちに歩いてきてくれる。レオさんの脚に寄り掛かっていちゃつき中だったのに悪い事をしてしまった。


 ネロにくっついて箪笥の前に移動する。ネロは箪笥の上の方の引き出しから、運動用のアンダーシャツと半パンを取り出してくれた。ニコッと笑顔で受け取って、リビングに戻って本棚の前に座り込む。


 開けたままの扉をスライドすると、摩擦係数0な感じで扉が閉まっていく。摩擦は全然ないのに、手を離しても滑っていかない。手を離したらそこで止まってしまう。不思議設計だ。一番下の収納に運動着を入れて、扉を閉める。


 立ち上がると、後ろから抱き締められてしまった。この香りはネロです。分かりますよ。肩に頭が寄せられて、黒い髪と黒い猫耳が見えた。顔を動かす間に、ネロの唇が首に押し当てられる感触があった。


 身動ぎしたからか、ネロがパッと腕を解放して離れてくれた。振り返ると、嬉しそうに微笑んでるネロが見える。


「びっくりした。イキナリどしたの。」


「挨拶。」


 俺の疑問に、ネロは嬉しそうに目を細めて一言で答えてくれる。うん、挨拶ね。成る程。って、一体何の挨拶なんだ。疑問の残る俺を置いて、ネロはレオさんの元に戻っていった。そして、レオさんの足元に座り込んだ。さっきと同じ体勢だ。


 1つ違うのは、足を組んだレオさんの太腿に、ネロが片肘を突いて俺を眺めている事。レオさんは眉一つ動かさずにニコニコと俺を眺めている。ってか、ネロの肘は刺さってないのかな。レオさんは太腿痛くないのかな。まぁいいや。二人は幸せそうな顔してるし。


 さて、本を選ぶか。本棚の扉を開いて背表紙を指で辿る。本を選んでる途中で思い出してしまった。パタパタと駆け足で、もう一度寝室に戻ってみる。


 ベッド脇のサイドテーブルの上に積まれた本を数冊、両手で抱えて本棚の前に戻ってきた。アイラさんから借りてる本は数が多いから一気には運べなかったんです。俺の腕に筋肉があれば一気に行けたのに。悲しい。


 本棚の前に移動したのと同時に、ネロが寝室に入っていった。抱えた本は一旦床に置く事にしよう。詰め込む時にバサバサってなって、落として欠損とかヤバいからね。借り物の本だから、丁寧に扱わなきゃ。本棚に収納しようと屈み込んだら、レオさんが本を持ち上げて補助してくれた。


「ありがと、ってか。音がなくてイキナリ出現はびっくりする。」


「この本は薄いね。」


 お礼をいいながら、イキナリ隣にいた驚きを伝えてみる。レオさんは楽しそうに頬を緩めて俺の言葉を聞き流しているみたいだ。そして、自分の持ってる本に目を向けて話題を変えてきた。


「これはね、ネロに買って貰ったのじゃなくて、学び舎用の本。えっと、あの、アイラさんに借りてる。」


 学び舎で使う本だから、子供用で薄めな本なんだよって説明していく。アイラさんに借りてるって普通に話そうとして、ネロの元カノだったのを思い出した。レオさんは気にしてなさそうだけど、言い淀んでしまった。レオさんが面白そうに目を細めた。


「そっかそっか。そこに入れとけばいい?」


「うん。ありがと。」


 アイラさんの話題には触れずに、サラッと流したレオさんは大人だ。メッチャ大人。そして、持ってる本は全部本棚に入れてくれた。優しい。ニコッと笑顔でお礼を伝えて、本棚に目を向けてみる。


 一番下の段はすかすかだ。残りを入れてもすかすかのままかも。まぁいい、残りを取りに行くか。振り返ると、ネロが残りを全部運んできてくれていた。


「ネロの察知能力、こわ。」


 軽口を言いながらネロに近付いてみる。ネロはふわっと優しい微笑みを浮かべてくれた。ネロの腕の中の本をちょっとずつ本棚に移動して完成。一番下の段はやっぱりすかすかだ。


 でも、全部の段に本が入ったから、見た目も良くなった。でも、一番下の段の本は倒れちゃってるね。ブックエンド的なのがあったらいいんだろうな。一番下の段がちょっとだけ問題か。少しだけ考えに耽った後で、ネロとレオさんを見上げる。


「お手伝いありがと。これで本が全部収まった。本棚も立派になった感じがして嬉しい。ってか、二人で会話してても良かったのに。邪魔しちゃってごめんね。」


「問題無い。で、何が欲しい。」


 本が片付いて、本棚も見栄えが良くなって嬉しさで笑顔になってしまう。感謝を伝えながらも、二人のラブラブな感じを邪魔しちゃったのを謝っておく。レオさんはニコニコで頷いてくれた。そして、ネロの言葉に固まってしまう。


 今俺がブックエンドが必要って思ったのがばれたって事だよね。詳細までは分かってないけど、欲しいって感情は伝わったって事だよね。ネロの察知能力がヤバい。


「レオさん、ネロが怖い。」


 思わず、泣き言を言いながらレオさんに抱き着いて怖さを表現してしまった。レオさんは優しく抱き留めてくれて、髪にキスをしてくれる。そして、何故か首にもキスをしようとしてくる。レオさんの顔を両手で挟んで何とか止める事に成功した。


「なんでそこでキスするの。おかしいじゃん。」


「おかしくない、琥珀が怖がったから。慰めのキス。」


 レオさんの顔を両手で挟んだまま文句を言うと、レオさんも反論を返してきた。怖がったのは事実だよ。でも、それは抱き留めるだけでいいじゃん。髪にキスとか、首にキスはおかしいでしょ。むっと眉を寄せると、レオさんが俺の手ごと顔を寄せて眉間にキスをしてしまった。


 俺の手ではレオさんを制止する力はなかった。さっき止まったのは、俺が抵抗したから止めてくれただけっぽい。力が欲しい、レオさんをぎゃふんと言わせられる力が。ついでに話術も欲しい。


「レオさんの意地悪。」


 舌戦では勝てなくて、結局悪態を吐くしかない。レオさんは睨む俺を楽しそうに眺めてくる。レオさんの楽しそうな様子に眉が寄ってしまう。レオさんがまた眉間にキスをしてきた。完全に子供扱いである。


「レオ、琥珀を離せ。」


「嫌だ。お前が怖がらせるからいけないんだろ。」


 ネロの静かに制する声が聞こえてきた。ぞくっとする冷たい声だ。レオさんが俺をそっと抱き締めて、ネロから見えない位置に移動させてしまった。そして、勢いよくネロに言い返している。今回のレオさんには、ネロの冷たい声は効かなかった模様。


「怖がらせてはない。」


「怖いって、俺に抱き着いてきたんだから、怖がらせてるだろ。」


 ネロの低い声が響いてくる。ゾクゾクする冷たさだ。でも、レオさんには全然効いてないっぽい。普通に冷静に言い返してる。


 レオさんの言ってる事は正しいけど、違うから。一瞬びくってなっただけだから。そして、レオさんに甘えちゃっただけなの。って思うけど二人の剣幕で口が出せない。


 二人が言い合いになったのは、なんでだ。さっきまで仲良かったのに。そして、レオさんはさっきは失恋したって泣きそうになってたのに。再告白でにっこにこになったのに。なんでいきなり喧嘩腰になってるの。


「待って、二人共。一度落ち着こう。喧嘩は良くない。ね。何が原因で喧嘩になったの。」


「喧嘩ではない。」「喧嘩じゃねーよ。」


 黙って睨み合ってる二人に困惑してしまう。レオさんの腕の中から抜け出て、二人の間に立ってみた。そして、優しく仲裁をしてみる事にした。それに対して、二人が同時に反応してくれた。うん、同じ意味合いだった。息がぴったりですね。


 なんだ、この子供の喧嘩な感じは。さっきまで二人は大人な感じ満載だったのに、急に子供っぽくなった気がする。あ、あれだ。仲良くじゃれてると思った二匹の猫が、何かの切っ掛けでイキナリ喧嘩っぽい取っ組み合いになる現象ですね。行動が猫ですね。マジで可愛い。


 睨み合って動かない二人は俺に視線をくれない。ネロの手のひらをそっと握ってみる。そして、レオさんの手のひらもそっと握ってみた。


 二人を見上げると、二人の視線は俺に向けられていた。ニコっとしてみると、ネロは優しく目を細めてくれた。レオさんも笑顔を浮かべてくれた。


 俺の握ってる二人の手のひらを、そっと重ね合わせて俺の手を引き抜く。そして、俺はソファに戻る事にしますよ。ソファに腰を下ろして二人に目を向けてみる。二人の手は離れていた。ってか、俺の直ぐ傍にいる。超ビビるから。音もないと全然気付かないから。


 無言の二人はソファに座った俺を挟んで両脇の床に座り込んだ。ってか、二人で仲良くしてればいいじゃん。俺は本を読みたいの。


 あ、本を選んでる最中だった。二人が邪魔で立ち上がれないんだけど。それぞれがバラバラに片脚を抱き締めるのは止めて欲しいんですけど。そして、ずっと無言なの止めて下さい。


「喧嘩じゃないの?」


「違う。」「全然違う。」


 まだ仲裁が必要な状況なんだよね。分かります。ネロの頭を撫でながら、確認を取ってみる。ネロは俺を見上げて嬉しそうに答えてくれた。と、同時にレオさんの低い声も同じ意見を呟いている。


 成る程、どう見ても喧嘩だけど認めたくはない訳ですね。絶対に認めてはいけない症候群に陥ってるのかな。困りましたね。ネロの頭から手を離して、ん~っと思案を巡らしてみた。


「じゃあ、仲直りのキスでもしてて。俺は本を持ってくるのを忘れたから立ちたいの。二人共、手を離して。」


「嫌だ。」


「じゃあ、俺も嫌だ。」


 いい考えがあるじゃん。挨拶のキスが解禁されたついでに恋人のキスも解禁したらいいじゃん。俺を気にせず耐えずにしたらいいと思うんだ。ニコニコで提案して、ついでに、俺の脚の解放も要求してみた。静かに拒否を伝える声と、それに共鳴した拒否の声。


 この子達はなんなの。大人なのに子供なのかな。ってか、エリート護衛のお二人じゃなかったのかな。いきなりどうしたんだよ。困惑しかないよ。


 レオさんはまぁともかくとして、ネロはレオさんと同じトコロに立ってるのかな。レオさんが相手だと子供っぽくなっちゃうのかもね。可愛いですね。


「じゃぁ、一旦手を離そうか。で、ネロはお茶を淹れて。レオさんは本が重たいから運ぶの手伝って。で、一緒に本を読もう。それだったらいいでしょ。はい、解散。」


「仲直りのキスをしてくれたらやる。」


「レオにするなら俺にも。」


 困った末に、また提案をしてみる。今度のはみんなで同時に行動だよ。その後は仲良く読書だよ。いい案でしょ。強引に言い渡して解散を告げてみた。じっと見上げてきたレオさんがボソっと呟く声が聞こえる。そして、それに同調するネロの声も。


 駄々っ子かよ。はいはい。いいですよ、仲直りのキスですね。二人の頬にキスをして、ニッコリ笑顔を作ってみた。二人は目を丸くしてポカンと見上げている。瞳孔がまん丸になってめっちゃ可愛い顔になってる。


 もう一回、二人の頬にキスをしてみる。顔を寄せた至近距離で、ニッコリ笑顔で二人を交互に見つめてみた。二人はスッと立ち上がってくれた。なんとか仲裁が成功した模様。俺が一番大人だった気がする。先に本棚の前に移動していたレオさんの横で、本を選んでみる。


「ってか、今気が付いた。」


「ん?」


 本を選んでる最中だけど、呟きと一緒にレオさんを見上げて睨んでしまう。レオさんが俺を見下ろして一瞬怯んだ後で、疑問を口にした。


「なんで、俺が仲直りのキスをしなきゃなんだよ。俺は関係なかったじゃん。」


 勢いよく文句を突き付けると、レオさんの頬が緩んだ。優しく俺の顎に手を添えて、もう片手は優しく髪を掻き上げてくれる。何で文句を言われてそんな態度になったんだ。レオさんの行動が疑問過ぎて、睨みを解除してしまった。


「今気が付くとか。お前はやっぱり可愛いな。」


 レオさんは優しい微笑みで俺の髪に指を通していく。そして、幸せそうに答えてくれた。待って、今のを幸せそうな顔でっておかしいでしょ。


 どう聞いても、揶揄ってるよね。パターンを変えてきたのか。くそぉ、優しい笑顔と優しい口調で、内容だけ揶揄いか。こんなギャップはイヤだ。脳が混乱する。


「ネロ、レオさんが酷いんだけど。」


「ネロも同罪だろ。ネロも仲直りのキスを要求してきたんだから。」


 ネロに振り向いて、勢いよくレオさんの事を言いつけてみた。ネロはお茶を淹れながら幸せそうな微笑みを浮かべてくれた。癒しの笑顔である。レオさんが俺の顎に添えた手で優しく俺の顔の向きを修正してきた。そして、レオさんは苦笑交じりに優しく言い聞かせてくる。


「ネロは違う。ネロは俺にも、って言っただけだから要求じゃない。」


「お前もネロに甘いのが良く分かった。俺は悲しい。俺だけ仲間外れか?」


 レオさんの言ってる事は正しいよ。でも反発したくなっちゃうんだもん。ネロは違うって主張をしてみると、レオさんが悲しそうに呟いて俯いてしまった。髪を撫でてくれていた手も、顎に添えられた手もダランと下ろしてしまう。


 耳が倒されて悲しそうだ。俺も俯いてしまったら、尻尾が悲し気に揺れいる。それを見て、はっとなってしまった。俺は確かにネロに甘かったかもしれない。そして、レオさんにはきつかったかもしれない。


 さっきの話では、レオさんは耐えてるんだよ。ネロは普通に耐えれそうだけど、レオさんはべたべたしたいタイプな気がするんだよね。


 ネロが仲直りのキスを拒んだから、むっとして腹いせに俺にキスを要求したんだ。俺は全然気付いてなかった。仲直りの恋人の熱いキスがしたかったんだ。


 それなのに、ネロも俺も冷たい態度だった。レオさんは繊細だから傷付くよね、悪い事をしてしまった。レオさんの肩に手を置いて背伸びをすると、レオさんが屈んでくれた。頬に軽くキスしてレオさんの頭を撫でてみる。


「ごめんね、レオさんの気持ちを考えてなかった。これからはちゃんとネロにして貰うんだよ?ね。家の中なら恋人のキスはしても大丈夫だからね。それ以上だとちょっと俺的に困っちゃうから、自重して欲しいかな。」


 優しい言葉で反省を伝えてみる。俺は気にしないから二人でいちゃついて平気だよって。ニコッとしてみたら、レオさんが呆然としてしまった。


 俺達の横を、ネロが少し含みを持たせた笑みを浮かべて通り過ぎていった。ネロも聞こえてたから嬉しいのかな。レオさんとキスできるんだもん。嬉しいよね。

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