161 撫でたかったから
レオさんは軽くてチャラい口調だったけど、ワザとだ。きっと俺が思いつめないようにって気遣いだ。レオさんはこういうトコが大人だと思う。喋る内容はともかくとして、ホント感謝だ。
でも、困った。俺は二人の前じゃ隠し事できない系になってるらしい。まぁ、二人はある意味、エリートだし、観察力に優れてるから仕方ないか。少し力が抜けて、ふらっとしたら、レオさんが抱き留めてくれた。
そして、レオさんの腕の中でネロが髪を触ってくる。弄ぶように髪を指に絡ませた後で、耳の後ろの首元を指でなぞられた。変な刺激にびくっとなってしまう。何事、とネロに顔を向けると、ネロがスッと目を逸らしてしまった。
ネロはそのまま、お茶を淹れ直してくれるらしい。ローテーブルのカップを拾って流しに向かうネロを目が追ってしまう。レオさんに手を引かれてソファに腰を下ろした。レオさんは俺の隣に座って肩に腕を回してきた。
レオさんが髪を触ってくる。一頻り撫でた後で、レオさんの指がスッと首元を撫でてきた。レオさんの指の感触にぞくっとなった。
びっくりして、首を抑えて距離を取ってみる。俺の行動に疑問を抱いたのか、レオさんが小首を傾げている。レオさんをじっと見つめたら目を逸らされてしまった。
ネロがお茶を持って戻ってきた。カップを俺に手渡して、ネロはレオさんの脚に凭れるようにして、床に座り込む。ネロもじーっと見つめてみる。ネロもふいっと目を逸らしてしまった。
「ネロもレオさんも、なんで首を撫でたの。」
「そこに首があったからだよ。他意はないよ。」
「髪を撫でた先の延長線上。」
目を合わせてくれない二人に、静かに疑問を提示してみた。恍けた感じで答えるレオさんと、淡々と答えるネロの視線は俺に向けられる事はない。
ネロは普通の真顔だけど、レオさんは少し神妙な顔をしてますよね。そして、全然疑問の答えになってない。二人は何かを企んでるのだろうか。疑問しか残らない答えだった。
「首を撫でた経緯じゃなくて、理由を聞いてるの。」
「撫でたかったから。」
「同じく。」
一口、お茶をコクっと飲んで、ちゃんと質問を組み立て直して静かに聞いてみる。シレっと答えてくるレオさんと、それに同調するネロの視線はやっぱり戻ってこない。
レオさんの耳は少しだけ微妙に倒されてますね。ネロは普通だけど、レオさんは何かを隠してますよね。俺だってそれくらい読み取れるんですよ。
「答えになってない。じゃぁ、俺も撫でていいの?」
二人はどうあっても理由を教えてくれる気はないらしい。もういいよ。二人が困る質問をしてあげるよ。静かな口調で、感情を押さえながら聞いてみる。
「いいよ、好きなだけどうぞ。」
レオさんがパッと嬉しそうな笑顔になって俺を見つめてきた。その態度の変化は何だ。さっきまで叱られた子猫状態だったじゃん。そして、顔を傾けて首元を曝しながら、変な事を言わないで。
「やだ、なんか変態っぽい。」
「辛辣だな。お前が撫でたいって言ったんだろ。」
若干引き気味になっても仕方ないじゃん。変態って直球で言っちゃっても仕方ないじゃん。俺の引き気味な態度で、レオさんのテンションがちょっと下がったらしい。レオさんがボソっと呟いたのが聞こえた。辛辣なのはそうだった、ごめんなさい。でも、なんでそんな変換になったんだよ。
「撫でたいなんて言ってない。撫でてもいいの?って聞いたの。」
レオさんに反論してちゃんと言い直してみる。レオさんは納得したのか、頷いてくれたからもういい。レオさんが酷いんだよ、って訴えようとネロに目を向けてみた。
ネロは俺を見上げて首を傾けてきた。何なのこの行動、メッチャ可愛い。猫っぽいじゃん。ヤバい。思わず手を伸ばして、ネロの首元を撫でてみる。ネロは気持ち良さそうに目を細めてくれた。これは猫ちゃんですね。超可愛い。
「レオさん、ネロが超可愛いよ。首を撫でてあげたらいいと思うんだ。」
「まぁ、可愛いかと言われたら、可愛く見える不思議。ってか、なんでネロのは直ぐに撫でるんだよ。俺の首も差し出しただろ?」
テンション高めにレオさんに話し掛けていた。だって、見てただろうけど、情報の共有がしたくなったんだもん。そんな俺のテンションとは真逆で、レオさんのテンションは駄々下がりらしい。淡々と言葉を返していたレオさんは、最後は睨んできた。
ってか、不思議なんてないだろ。普通に可愛いって言い合ってたじゃん。レオさんが普段から可愛いかって言われるとまぁ、疑問だよ。でも、ネロは普通に普段から可愛いじゃん。そして睨まれる筋合いはない。
「ネロは可愛く見えたけど、レオさんは変態っぽかったから。」
俺も睨み返して、淡々と何故ネロは撫でたのかを説明をしてあげましょうね。どうだ、ぐうの音もでないでしょ。完全な論破だった。俺の勝利が確定した瞬間である。
「外面で騙されるな、中身は同じって言っただろ。」
レオさんは睨みを解除して、苦笑してしまった。そして、俺の頭をぽんぽんとして、優しく言い聞かせてくれる。
あぁ、成る程ね。ネロだけを撫でたのが問題じゃなかったんだ。俺がネロの首筋を撫でた事実が駄目だったんだね。理解しました。恋人の首に他の人の指が触れちゃったから、ちょっとムッとして睨んできたんですよね。分かります。
「ネロ。レオさんが拗ねちゃった。ちゃんと慰めてあげてね。」
もうね、ネロに後は任せて俺は下がる事にしましょう。ネロはコクっと頷いてくれたから、お手並み拝見。肘掛けに寄りかかって二人を眺めながら、ゆっくりとお茶を楽しむ事にした。
ネロの視線がゆっくりと上向いてレオさんを見上げた。そして、ネロが手を伸ばした。レオさんはネロに導かれるように、身を乗り出してネロを見下ろしている。ネロの綺麗な指先がレオさんの頬をそっと撫でた。
なんかエロティックな光景だ。超大人感が満載だ。レオさんの頬が上気して染まっていく。ネロを見下ろすレオさんの瞳は潤んで熱が籠っていくみたいだ。ネロが目を細めて微笑んだ。
そして、ネロの綺麗な指先がレオさんの頬から首筋へと移動していく。首筋をゆっくりと撫でたネロは手を離して、俺に顔を向けた。ニコッと笑顔のネロは超綺麗。レオさんはネロを見つめたままで固まっている。
「ソレはヤバい。」
「そうか?」
固まっていたレオさんがネロに向かってボソッと呟いた。ネロはレオさんに視線を向ける事もなく冷たく返している。でもね、ネロはレオさんを宥める事に成功したらしい。ネロがレオさんを撫でてるのは初めて見た。ネロがレオさんに寄りかかってるのも初めて見た。
それにしても、なんとなく気付いてたんだけど、ガト族ってスキンシップが多い気がする。あと、距離感も近いっぽい。もうちょっと長期でお世話になるなら、ガトの習慣も理解しとかなきゃだよな。
「ガトって抱き着いたり、髪を撫でたりスキンシップが多いよね。アルさんとかニル君とかエリンさんも、あんまり知らないのに結構抱き着いてきた感じだし。さっきのも普通なのかな。挨拶みたいなモノなの?」
しっかり理解したいから、ちゃんと聞いておきましょう。思い返せば、あんまり知らないエリンさんもさっきは抱き着いてきたんだよな。アルさんはフワッと抱き締めてくれたし、ニル君もキラキラな可愛い笑顔であいさつ代わりに抱き着いてくるイメージがある。
「さっきのって何の事?」
「えっとね、あの。ネロが俺の首に付けたヤツ。エッチぃ事だと思ってた。」
キョトンとした顔のレオさんは可愛い。そして、その顔から繰り出される疑問はまぁ、確かにあいまいな表現だったから仕方ない。でもね、口に出すのが恥ずかしかったんだもん。ちょっとだけ顔が赤くなった気がする、目を伏せて何とか説明を終わらす事ができた。
「まぁ、確かに痕を付けるのはエッチぃ事で間違いない。でも、キスくらいなら挨拶かな。普通にするよ。」
「そうなの?」
苦笑したレオさんがくしゃっと頭を撫でてくれた。そして、乱した髪を直してくれながら、俺の意見を肯定してくれた。痕を付けるのはやっぱりそういう事で間違いないらしい。ただ、普通のキスは普通なんだ。まぁそうか。顔を上げて一応確認をしてみた。
「頬とか首とか手とか、そこら辺なら挨拶だし親愛の情だと思うよ。な、ネロ。」
「そうだな。」
レオさんはコクっと頷いて、普通の挨拶程度の行為だと、再度説明してくれた。ネロに確認を取って、ネロも普通に当たり前って感じで肯定している。
レオさんは真面目な顔で説明してくれたし、話に矛盾はなさそう。しかも、ネロが肯定してるから間違いはなさそう。ガトは欧米系のスキンシップ過多な感じの習慣なんだね。了解した。
「まぁ、外だとべたべたやらないけどな。改めて考えてみると、家の中だとキスくらいならかなりするかな。」
「そうなんだ。じゃぁ、俺からキスしても何も問題はないの?」
レオさんからの追加情報でふむふむと頷く。外ではしなくて、家の中ではするんだね。これもガトの習慣か。成る程。って事は、俺が挨拶でキスをしても問題ないのかな。人族がガト族の習慣に割り込んでもいいモノなのか。分からない。ということで聞いておきましょう。
「ん?したいのか。いいぞ、さあ、やれ。」
「えっ、ヤダ。」
レオさんが腕を開いて呼んでいる。そして、爽やかな笑顔を浮かべて変な事を言い出した。もうね、こんな時は真顔ですよ。真顔でさらっと流すに限ります。でも、今のレオさんの感じでは、人族からキスをしても何の問題もなさそうかな。成る程。
「したいって言ったのに真顔で拒否とか、酷いな。」
「したいなんて言ってない。問題ないの?って聞いたの。」
「成る程ね。」
ぶつぶつと文句を言っているレオさんを真顔で見つめてみる。レオさんは色々と読み解く能力が優れているんだけど、なんか変な変換も多いんだよ。レオさんの文句が終了した時点で、ちゃんと反論をする事にした。レオさんは目を細めて納得してくれた。
「人族もスキンシップは多いのかな?」
「人族は地域に寄るんじゃないかな。ネロはどう思う?」
「確かに地域差はある。だが、ガト程は触れ合わない、筈。」
ガトは分かったから次は人族だ。俺は一応、分類上は人族って事になってるっぽいからね。俺の質問に対して、レオさんが少し考えた様子を見せた。
そして、慎重に言葉を出していたけど、自信はないっぽい。直ぐにネロに丸投げしてしまった。ネロの意見としては、人族のスキンシップがガト程ではないんだね。了解です。
「そうなんだ。色々と習慣って違うんだね。」
「そうそう、色々違うんだよ。」
色々と分かってきた。こういう、一般常識的なのは本に載ってないんだよ。だから、直に確かめていくのが妥当なんだよね。他にも色々と習慣を知りたい。でも、急いだら頭がパンクするから、ゆっくり覚えていこう。
本には各種族の習慣みたいな、そんな細かい事は載ってなかったってのが問題だよね。やっぱりそこで暮らして初めて分かる事もあるんだよな。スツィは細かい習慣とかについても知ってる?
(ガト族の細かい習慣までは記録にない為、説明する事はできません。大まかな傾向としては、警戒心の強いガト族は心を許すと一気に距離が近くなるようです。スキンシップなどに関しては、種族の差異の他、家族単位での差異もある為、一概に説明をする事は難しいです。)
成る程ね、確かにそうだ。一概に説明は無理だよね。少なくとも、二人の説明によると、ガトは近しい者にはスキンシップが多めになるっぽいのは分かった。
まぁ、うちでは母さんがハーフだったからか、他の家庭に比べるとスキンシップが過多気味だったような気もするんだよ。家族でキスくらいなら、ほっぺとかにはよくしてたからな。だから、あんまり違和感も抵抗感もないんだよね。
考え込んでいたら、レオさんの猫耳が目の前を通り過ぎていった。首に何か柔らかい感触が触れて、顔を向けてみる。離れていくレオさんがにこっと笑った。首を抑えて、ばっと距離を取ってみた。といっても、背もたれと肘掛けの間に収まっただけで、距離はそんなに取れなかったけど。
「今何したの。」
「ん?親愛のキス。首元ヴァージョン。」
レオさんを見つめながら疑問を口にした。レオさんは爽やかな笑顔でサラッと答えてくれる。成る程、親愛のキスか。成る程ね。違和感も抵抗感もないってのは間違いだった。メッチャ抵抗感があった。これは、レオさんだからなのか。ネロなら普通に抵抗感はなさそうな気がするんだけど、ネロは家族だからなのかな。
「それって普通の事なの?」
「家の中なら普通。元々、外だと素っ気なくて、家の中ではべたべたってのがガトだ。」
首を押さえて体を小さくしたまま、レオさんを見つめて更に質問を続ける。レオさんは優しい表情になって、優しく説明をしてくれた。外と中で態度を使い分けるのね。成る程、猫ちゃんだな。
稀に外でも愛想のいい子もいるけど、基本は猫ちゃんは外に出るとツンツンする感じがあるからな。で、家の中だと全然態度が違うんだよ。愛猫・雪丸君なんて、車に乗せるだけでカチンって固まって一切動かなくなっちゃったんだよな。家ではふてぶてしかったけど。ガトは猫っぽい、と。成る程。
レオさんの説明で納得して、引き寄せていた膝を伸ばして頷く。ついでに、首に置いた手も下ろしておく事にした。レオさんの情報はかなり説得力があった。そして、この村で見てきた光景を思い出してみた。
「知らなかった。でも、確かにみんな外だと距離感がある感じはするよね。」
「そそ、ガトは慎ましやかなんだよ。それと比べると、ルナールはヤバい。外でもべたべた、家の中では更にくっつくからな。」
食事場では恋人っぽい雰囲気の人達も顔を寄せ合う程度だった。家族連れの人達も楽しそうに食事はしてたけど、一定の距離を保っていた。
レオさんの意見に納得して、呟くと頭を撫でてくれた。そして、レオさんは新情報を出してきた。狐って言ったね。なんでレオさんはルナールの事を知ってるんだ。
隅っこに逃げてたけど、もういい。ルナール情報が知りたい。身を乗り出して正座をしてみる。俺の勢いでレオさんはちょっと目を丸くした後で優しく細めてくれた。
「レオさんはルナールの人と付き合った事があるの?」
「まぁ、昔ちょっとな。胸と尻がヤバかった。ガトにはないボリュームでヤバいんだよ。」
おずおずと質問を切り出してみる。楽しそうなレオさんが概ね認めてくれた。そっか、レオさんはルナールの子と会った事があるんだ。いいな、俺もルナールの子と会ってみたいな。
「尻尾がヤバいよね。」
「それは分からん。」
ルナールっていったら、尻尾でしょ。レオさんは分かってないな。って思ったら、ホントに分かってなかったらしい。レオさんはまだまだですね。狐尻尾の良さが分からないのに、ルナールの子と付き合ってたのか。勿体ないな。
「そっか~、いいな。ルナールの人はすっごく綺麗だよね。」
「まぁ、綺麗は綺麗、かな。」
羨まし過ぎて、狐耳と狐尻尾を思い浮かべてしみじみと、溜息交じりに呟いてしまった。レオさんがちらっとネロに視線を飛ばしている。そして、俺に目を戻して、一応は同意してくれた。そうだった、レオさんいはネロがいるじゃん。ネロの前でレオさんに他の子を褒めさせるとか駄目じゃん。
「あ、でも、ネロの方が全然綺麗だよね。」
「お。そうそう、そうだよな。ネロの方が見た目はいいよな、正解だ。」
焦ってネロを褒めると、レオさんも焦ったように俺に追随してきた。そうだね、レオさんは正解。ちゃんとネロの方がいいって言えた。偉い。そして、良かった。誤魔化せた感はある。
「琥珀はルナールの尻尾とガトの尻尾。どちらが好みなんだ。」
誤魔化せたと思ったのに、ネロが真顔で静かに聞いてきた。俺の意見より、レオさんの意見を聞こうよ。俺の解答なんて必要ないでしょ。レオさんを問い詰める前の布石なのか。そして、その真顔は怖いです。レオさんみたいに俺に拒否権はなく、答えを強要してくる顔付きです。
「えっと、両方。」
「両方って事はないだろ。どっちがいいかちゃんと選ぼうね。」
ネロから逃れられなくて、目を泳がせて解答をしてみた。レオさんがクスっと笑ったのが聞こえる。顔を向けると、ニコニコ笑顔のレオさんが見える。そのニコニコな顔で、優しい口調で俺を追い詰めてくるレオさんの強要する圧は、ネロより上だった。怖いから。
「レオさん、尻尾持ちの人には分からないかもだけどね。尻尾には無限の可能性があるの。全部可愛いの。これが理解できない内は、俺の理論も理解できないんだよ。お勉強のやり直し。レオさんは失格です。」
もういい。ちゃんと答えるよ。でもね、求めてる答えじゃないよ、ただの説明だから。そして、そんな質問をしてきたレオさんには失格を言い渡してあげましょうね。淡々と説明を続けた後で、ニッコリと宣言してあげた。
ふむふむ、と聞いてくれたレオさんが唖然となってしまった。その顔は可愛い。唖然となったレオさんはよく見るけど、可愛く見えてきた。これも脳のバグなのかな。猫に汚染された脳なんだろうね。怖いですね。
「なんで、俺が失格になった。質問はネロなんだからネロを失格にしろよ。」
「ネロは俺の言いたい事が分かってくれるから失格にはならないんだよ。ね、ネロ。」
瞬きの後で、冷静な口調のレオさんが文句交じりに問い質してくる。何でかって?それは、ネロはちゃんと分かってるからですよ。にっこり笑顔でネロに確認を取ってみる。ネロはフワッと優しい微笑みで頷いてくれた。
そして、ちらっとレオさんに視線を飛ばした際には、ちょっと困った顔になってる。ネロは優しい。レオさんを気遣ってるんだ。こんなネロが恋人でレオさんは幸せですね。
「ネロ、お前も分かってないだろ。その顔は絶対分かってない。ズルいぞ、そうやって誤魔化すはの良くない。」
「ネロに絡まないで。ネロは分かってくれるからいいの。」
ネロに気遣って貰ったのに、レオさんは不満らしい。ホント、レオさんはネロの前だと子供になっちゃうんだから困ったものです。レオさんを嗜めていると、レオさんがシュンとしてしまった。猫耳が倒れちゃった。メッチャ悲しそう。
「ネロは琥珀に甘過ぎるんだよ。ズルいぞ。」
レオさんが悲しそうに呟くのが聞こえる。凹んでしまったらしい。ネロが俺の味方をしたのが悲しかったんだね。可哀想に。レオさんの頭を撫でてみる。レオさんの猫耳は戻らない。俯いた顔もあげてくれない。
顔を寄せてレオさんの頬に唇をつけて離れる。レオさんは顔を上げてくれた。でも、表情が驚愕になってるよ。どうした。レオさんの目は見開かれて瞳孔が開いてまん丸になってる。そして、その表情で固まっている。覗き込んでみたけど、レオさんは動かない。
「ネロ、レオさんが固まっちゃった。」
レオさんを観察しながらネロに話し掛けてみる。ネロからの返答はない。ネロに顔を向けてみると、ネロも驚いた顔をしていた。口を半開きにして目を瞠ったネロも表情が固まってる。何をそんなに驚いたんだ。
「ネロ?どした?」
声を掛けながら、ネロに顔を寄せて覗きこんでみる。瞬きの後でネロが口を閉じた。動き出したのはいいけど、ネロは俺を凝視して眉を少し寄せてしまった。何かを考えていたと思ったら、ネロが首を傾けて意味深な視線を送ってきた。
うん、何かの意思の疎通を求められてる気はする。ただ、何も分からない。さっきみたいに首を撫でてみた。ネロが首を横に振ってしまう。どうやら撫でて欲しい訳じゃないみたいだ。首を傾げて、分かんないって伝えたのに、ネロが大きく頷いてくる。
「俺はまだ未熟者だから、目で会話はできなかった。無念。」
もうね、口で伝えるしかあるまい。それしか道は残されていない。俺の言葉を聞いたネロが頷いてくれる。ネロが手を伸ばして、そっと俺の首の後ろに手を添えてきた。そのままネロは顔を近付けて、俺の首に口を付けて離れていった。
「ネロも親愛のキスが欲しかったの?」
成る程ね、理解しました。理解したままを口に出して聞いてみる。ネロはふわっといい笑顔で頷いてくれた。やっぱそうか。そうだったんだね。顔を寄せて、ネロの頬にキスして、離れる。ネロが満足そうな笑顔になってくれた。
やっぱり、ネロとのキスは抵抗感はない。するのもされるのも平気だ。ネロが家族だからなんだろうな。レオさんも同じくらい家族っぽくなったら平気になるのかな。分からない。
あ、でも、するのは抵抗感はなかった。って事は、されるのが違和感なだけか。これは、半分家族に足を突っ込んでるって考えていいのかも。
レオさんの様子で理解した。ガトでは普通にキスくらいするとの事だけど、人族の俺からするのは抵抗があるみたい。俺がするとは思ってなかったから、レオさんもネロもびっくりしたみたいだね。でも、郷に入っては郷に従え、だから普通にしちゃうよ。それに、俺の中では家族の日常みたいなトコがあるし。
満足そうなネロの頭を撫でててあげると、ネロが嬉しそうに微笑んでくれる。背もたれに寄りかかって、レオさんに目を向けてみた。レオさんはまだ固まったまま動かない。
「ネロ、レオさんが壊れた。」
「そうだな。何故レオの頬に口付けた?」
レオさんの固まった様子を眺めながらお茶を飲む。そして、ネロに問い掛けてみた。ネロはレオさんの様子に対しての回答は素っ気ない。それより俺がキスした事の方が気になるらしい。
「ん~、悲しそうだったから親愛のキスで慰めた。」
「俺が悲しそうな時もしてくれるのか?」
理由を問われても普通の回答だよ。慰める為にキスしただけで、他にそれらしい理由はないんですよ。俺の回答を聞いたネロが、更に問い掛けてくる。顔をネロに向けると、寂しそうな微笑みだ。そりゃするよ。ってか、何でそんな顔になったの。
「うん、勿論する。ってか、悲しくなくてもするでしょ。楽しい時とか、嬉しい時とか、挨拶とかで。」
「成る程。」
ネロの目を見て答えていたら、ネロが嬉しそうな微笑みに変わってくれた。レオさんだけにすると思われたのかな。ネロの納得の声を聞きながら思う。このネロの反応や、今の固まってるレオさんの反応から察するに、俺の考えとちょっと違うのかなって。
もし、勘違いでキスをしてたらレオさんの固まった理由も納得だと思う。恋人の前でキスされたんだから、そりゃそうだ。しかも、さっきはネロの本気の嫉妬でレオさんはかなり凹んでたし。
「もしかして、ガトの人の親愛のキスって、意味合いが違ったりするのかな。俺の考えてるのと違った?」
「琥珀の考えで合っている。ただ、琥珀から積極的に、というのが想像できなかった。少し、驚いた。時々は俺からしてもよいか?嫌ではないか?」
これは聞いておかないとマズい。ネロの目を見ながら、おずおずと話してみた。ネロは目を細めて、ゆっくりと俺は間違ってないって繰り返してくれた。やっぱり俺から行動した事で驚いたっぽい。
ネロは家族として、髪を撫でるだけじゃなくて、キスとかでスキンシップをしたかったみたいだ。俺が人族だから、控えめにしてくれてただけなんだろうな。そういう意味で、抱っことかも、前は控えめだったのかもしれない。
種族が違うから、ネロは気を使って色々と控えめにしてくれてたんだ。家出の後から、ネロのスキンシップが更に過多になったのは多分気のせいじゃない。俺が心配過ぎて、種族は関係なく、家族として反応しちゃってたんだと思う。
「全然嫌じゃない。凄く嬉しい、あとね、ちょっと懐かしくなった。俺の家、故郷の実家の事ね。そこでは普通に挨拶でハグとかキスとかしてたんだよ。」
ネロがキスをしてくれるのは嬉しいって伝えたい。家族に挨拶でキスやハグをするのは昔を思い出すから。懐かしい記憶、昔を思い出せる。
「特に母さんが結構スキンシップは過剰だった。嬉しいと抱き着いてキス、悲しくても抱き着いてキス。怖くても抱き着いてきて、安堵したらキス。朝起きてご飯の前にキス、家に帰った時も時々キス。」
母さんは行き過ぎだったけどね。どれだけ母さんがヤバかったかは今なら分かる。状況を羅列していたら、ネロがクスっと笑ってくれた。ガトのネロが笑うくらいだからヤバいよね。
「姉ちゃんはそこまで激しくなかったけど、普通にしてきた。あ、酔っぱらうとキス魔になってた。父さんはハグ程度だったかな。でも、父さんと母さんとはスキンシップが多かった気がする。凄いイチャイチャで仲良かったんだよ」
実家の光景は記憶に焼き付いて離れない。この先もずっと思い出せるといいな。胡蝶と白雪が帰ってきたら、追加の思い出が増えるかもしれない。楽しみだな。ネロが俺の手を握ってくれた。ちょっとしんみりしたのがばれちゃったらしい。
「故郷の他の家庭とかだとね、友達の家とか親戚の家とかって事ね。他の家は過剰なスキンシップはしてないっぽかった。だからなのか、うちの家族も外では普通だったけどね。」
平気って意味でネロが握ってくれた手をひっくり返して握り返す。ネロが優しく目を細めて静かに聞いてくれるから、沢山喋ってた。
「さっきレオさんが言ってた話。ガトは外ではそっけなくて、家ではべたべたって話ね。実家を思い出しちゃった。ネロの恋人って事は家族だって思ったら、レオさんが悲しそうだったから思わずしちゃった。もし、嫌だったらごめんなさい。」
「そうか。」
長々と話して、レオさんにキスをした事を謝ってしまう。ネロはたった一言、相槌を打ってくれただけだ。でも、俺が話してる間、ずっと優しく見守ってくれてた。優しく手を握ってくれた。そして、一言だけど、優しく納得してくれた。ネロの優しさは包み込んでくれる優しさで心地いい。




