たまには芸術に触れてみようよ。但し、田舎限定で。~香山家の場合~
ホイホイ部長の部下の設定である香山課長のアートとの接触。
30歳の妻と6歳の娘がいます。
「あなた今年の連休はどうしましょうか?」
「そうだな。どこか……子供でも分かる様な芸術に触れてみたいものだな」
それなら……って言いながら、妻がネットで検索してプリントしたものを渡してくれた。
「いちはらアート×ミックス?ふうんそんなイベントがあるんだ?」
「そうなの。で、子ども達が体感できる施設がここね」
プリントの二枚目にはいちはら人生劇場と書かれた紙があった。
「ここはね、かつての小学校を利用して展示もしているし、毎週土曜日には運動会があるのよ。予約制だから、まずは今度の週末にそれだけ行ってみない?」
「そんな気軽でいいの?」
「市原って行ったことないじゃない?けれども、市内の南部地域で広域に渡って展示をしているんだって、全部を一日で見るのは不可能だから、今回の企画が気に入ったらまた週末に行けばそのうち全部回れるんじゃないかなってね」
「ふうん、それならいいんじゃないか?どうやって行ったらいいんだ?」
「調べると五井を7時23分に出る電車に乗るといいみたい。それで、飯給って駅で降りると周遊バスがあって、その運動会の会場に行けるのよ」
「そうなんだ。お弁当とかは用意しなくてもいいのか?」
「大丈夫。運動会に参加するとお握りが貰えるの。だからお昼は大丈夫」
妻はちゃんと調べていたみたいでその周辺に何があるのかも調べていた。
「後は市民の森って言うのもあってね、冬はライトアップされているんだって、今はしていないんだけども、素敵じゃない?」
今度はその市民の森のライトアップを見せてらもう。谷底にあるという市民の森は寒そうだけども、LED電球の灯りが靄がかった周囲に溶け込んで幻想的にも見える。
「でもね。相当寒いんですって」
「今年行けたら行ってみるか?これさ、前日に養老渓谷で宿泊してもいいんじゃないか?」
「いいの?それはあんまり考えていなかったんだけども」
「俺達は羽田から近いとは言っても、流石に朝6時に家を出て高速バスに乗るのは大変だろう?」
「そうだよね。せめて幕張あたりで宿泊して7時代の小湊鉄道に乗るのがいいんじゃないか?」
「そうね。だったら、幼稚園の卒園式が金曜日でパパは有給取るでしょう?」
「そうだな。もしかして?」
「卒園式後にディズニーリゾートに行って、幕張のホテルに泊まって、次の日はいちはらアート×ミックスに行って、幕張のホテルに泊まって次の日に戻ろうか?」
「いいの?普段は泊まりがけで出かけないんだから、たまにはいいんじゃないか?」
「ありがとう。それじゃあ今から手配が出来るか試してみる」
「ああ。よろしく頼むな」
そこからは妻に任せたままでその話をしていた事を忘れてしまう所だった。
「香山?今週末は金曜日は休みでいいんだよな?」
「はい、部長。娘の幼稚園の卒園式なので。それからですが、この週末は携帯で繋がらないと思います」
「ん?家族サービスか?」
「はい、ちょっと市原の方に行ってみようと思っています」
「市原?ゴルフ……じゃないしな」
「丁度、芸術イベントがあるんですよ」
僕は今回のイベント名を付箋に書きつけて部長に渡す。
「この名前で検索すると出てきますよ。車移動は途中の駐車場に置いてバス移動をするようにって公式ガイドブックには書いてありましたよ」
「そうか。行った感想を教えてくれよ」
「そうですね。今抱えている案件は、基本的にありません。次のプレゼンのヒントになりそうな素材があるかリサーチしておきます」
「今回のイベントが楽しいものだったら、他の都市でもできるよな?」
「ええ……そうですね。そう言う事ですか。分かりました」
部長と少し雑談をしてから僕は自分の席に戻った。
「えっ、課長。今週末は有給ですか?」
「ごめんね、娘の卒園式だから。それと4月の入学式は休ませて貰うよ」
「いいですよ。その位は出てあげて下さい。パパがいるといないは大きいと思いますよ」
デザイナーと事務処理を兼務していくれている悠里ちゃんがいいパパですねって僕を褒めてくれる。
「そうかな。普段はなるべく早く帰る様にはしているけどね。もう少し一緒にいてあげたいなあって思っているよ」
「悠里はその前に彼氏を作ってだな。人並の幸せを経験しないとな」
「渡君、五月蠅い。口を動かしながら手も動かしなさいよ」
悠里ちゃんは同期の渡君に手厳しい事を言っているが、僕は知っている。悠里ちゃんと佐々木部長が恋人として第一歩を歩み始めた事を。って言っても、部長が告白をして強引に進めているみたいだけど。ちょっとだけ綺麗になった悠里ちゃんに気がついたのは僕だけだろう。
「パパ。お休みできたの?」
「そうだよ。その分頑張ってお仕事したからね。朋美は気にしないでいいよ。四月になったら一年生だね。入学式もパパは行けるからね」
「ありがとう、パパ」
「でね。ともちゃん、卒園式が終わったらすぐにお家に帰ってお出かけするんだよ」
「どこに行くの?」
「一か所は、ともちゃんが好きな所。もう一つは皆で身体を一杯動かすの」
「おもしろそう。早く卒園式終わらないかな」
娘の幼稚園は小規模園なのがウリなので、近隣の学区の子が多い。半分は同じ小学校に入学する。
親達は鼻を啜らせたりしているのに、子ども達はお構いなしで最後の集合写真を撮る前に園庭で走り回っていた。
「最後のお写真です。皆いいお顔で撮りましょう」
先生の掛け声で最後の記念写真を撮影して卒園式は終了した。
僕らは急いで自宅に戻って旅行の準備の為にスーツを着替えるのだった。
「ぱぱ、ママ楽しかったね」
「そうね、でもパレード見たら今日はおしまいよ」
「どうして?」
「今日は他所のホテルにお泊まりして、明日は違う所に行くの。身体を一杯動かすから今夜は早く寝ましょうね」
「はあい」
無事にパレードも終わって僕達は後ろ髪を引かれながらディズニーリゾートを後にした。
明日のイベントでどれだけ体力を消耗するかによっては、日曜日に再び来ても構わないかなって思っていた。
「さあ、ともちゃん起きて。出かけますよ」
「うーん、ママ眠い」
「とりあえず着替えさせてから僕が抱っこするからともちゃんは寝ていてもいいよ」
「分かった。パパお着替えする」
いつもよりも緩慢な動きなので、妻が着替えを手伝っている。その間に僕は今日の支度をする。普段は履かないジーンズにトレーナーにフリースのジャケット。これで寒かったら、リュックに入れてある貼るカイロを付けておけばいいだろう。
そして、予定通りに電車で五井を目指す。五井ではお弁当が売っていたのでアサリ飯を買って食べることにした。
「これ、旨いぞ」
「本当?あら……おいしいわね。まだ電車が来ないのならもう一つ位買えるかしら?」
「僕が行くから二人で食べてていいから」
僕は小銭を持って再びアサリ飯を買いに行くことにした。
普段は一両であろう車両は今日は二両編成で運行するらしい。
僕達の生活ではあまり見かけなくなったディーゼル車に揺られてゆっくりと走って行く。
家が並ぶ風景はあっという間に田園風景に変わる。途中で大きな川を何度か渡る……それが養老川だと気がついたのは自宅に戻ってからのことだ。
一時間弱の電車旅で無事に飯給駅に到着する。この駅は「いたぶ」と読むのだそうだ。
読めない地名はよくあるけれども市原には結構多い様な気がする。廿五里と書いて「ついへいじ」とか海士有木と書いて「あまありき」は住民じゃないと読めないだろう。
今度は巡回バスに乗って、僕らは旧白鳥小学校を目指す。
そして到着したそこは、本当に田舎の小学校を体現しているそれだった。
地域の住民も一緒になって参加するおにぎりのための毎週運動会に参加する。
子供の頃にあった、町内会の運動会を思い出させる運動会は懐かしさも子供達と参加する楽しさで胸がいっぱいになるのだった。
運動会が終わると、参加者でお握りを食べる。地元で生産されたお米を使用している。
産地で食べると美味しいのは分かっているのだが、身体を一杯動かしたのも更に美味しくしてくれるのかもしれない。
その後、現地解散になったので、小学校で展示されているモノを見て、巡回バスで次の展示会場に向かって夕方少し前に再び飯給駅に戻って来た。
「パパ。今日は楽しかったね。明日もここに来たいなあ」
「ともちゃん、運動会は毎週土曜日だからまた来週ね」
「だったら、パパ来週も行こうよ」
「ママがいいって言ったらね」
「やったあ」
妻がまだいいと言っていないのに行けると思っているあたりが子供らしい。
「ともちゃん、明日は違う会場に行ってみようか、また面白いものが見えるかもしれないよ」
「げいじゅつって、おもしろいんだね。お家に帰ったらお絵かきするんだ」
「そうね、いっぱい写真も撮ったら帰ったら見ようね」
「うん、お休みなさい」
娘はそう言うとあっという間に寝ついてしまった。
「まさか、娘のドストライクとは」
「今回の展示って子供でも楽しい、面白いってものが多いからじゃないかな」
「成程な。とりあえず……明日はどこに行こうか?」
ホテルに戻る前に買った公式ガイドブックを片手に明日回るルートを確認するのだった。
私の地元市原で開催中のイベントです。5月11日まで開催しています。
参加したのか?いいえ。してません。公式ガイドブックを見て作品を書いております。他にも会場が分散していますので、お好みの会場に足を延ばしてはどうでしょう?




