自分を見極めに行ってくる 悠里 5
「さて、二人とも体調は直った?」
「もちろん。完璧よ……アンジーは?」
「私も大丈夫」
おばあちゃんの家で久しぶりに何かをするでもなくのんびりと過ごして、お昼と夜に久しぶりにご飯を食べて。
気力も体力も充電完了した私は、今日は皆とブカレスト観光に出かけるところだ。
「まずは、悠里。デジカメ持った?」
「うん」
「お財布は?」
「うん」
「クレジットカードは?」
「一応持っている」
「パスポートは?」
「持っているわ」
何で私だけ確認しているんだろう?
「もしかして……皆……」
「うん、ルーマニア国籍に変えたんだ」
確か、アウレルはアメリカで生まれたはずだもの。そうか私と会わない間にそうやって皆乗り越えたって事なんだね」
「いずれは私もそうなるのかな?」
「そこはどうかな?かつ子さんは見た目がルーマニア人だからこっちに融け込んでいるけど、悠里はどう見ても日本人だよ。だったら、途中で戸籍を弄ってでも日本にいた方がいいと思う」
「そうか。そこのところはゲオルゲおじ様と相談しようかな。ところでおじ様の次の党首ってアンジーのパパになるの?」
「ううん。うちのママよ。パパは一族の中に人間と結婚した人がいるからダメみたい」
「うーん、そんな保守的なところ俺は嫌だな」
「でも、絶対に男性ってのも男尊女卑になるじゃない」
「とりあえず、直系の濃度が高い人が党首って事か。アンジーのパパの次は?悠里も先祖返りしているもんな?」
「そうね。でもおじいちゃんもパパも人間よ。血の濃さでいったらダメでしょう?」
「そこはね、僕は悠里でいいと思うよ」
私達が喧々諤々と騒いでいる所にゲオルゲおじ様がやって来た。
「弟がいない今は、妹……アンジーの母しか直系がいないからな。悠里は先祖帰りだから潜在的能力が高いはずだ。今は吸血を始めたばかりだから一番弱いけど。今日もお前達は悠里の側を離れるなよ。血を吸い始めた女性は一般の男を惑わすには有効だから」
えっ?そうなの……それは初耳だわ。しかもショックだわ。
「とりあえず、悠里は今夜もお婆ちゃんの家よね?明日は最後の夜なんだからこっちに泊まって皆で遊ぼうよ」
「うーん、別にいいわよ」
「それじゃあ、決まりね。悠里が帰る時に、アンジーとコルネが一緒なんだって。私達はもう少しここで楽しんでいくから」
「分かったわよ。ダリヤ。ありがとうね」
「ほらっ。お前達、市内観光に行くんだろう?駅までバスがそろそろ着く時間じゃないのかね」
「そうだった。おじ様行ってきます」
「うん、行っておいで」
優しく微笑むおじ様に見送られて、私達はバス停までダッシュをする羽目にあった。
バスに乗って駅まで出て、私達はブカレストを目指す。電車に乗って1時間。
まずは、ブカレスト・ノルド駅に到着した。
「さて、僕はちょくちょくここに来ているから今日の主役は悠里だよ。悠里はどこにいきたい?」
今はブカレストの大学に通っているアウレルが私に尋ねてくれる。うーん、できれば……いいのかな?私は恐る恐る答えた。
「あのね美術館とか資料館とか行きたいの。いずれはこの国で暮らすかもしれないから」
「そうだね、おじ様の歴史の授業よりも、美術品を見るのは刺激的でいいかもしれないね」
「いいよ。乗り物は……ゆっくりと覚えればいい。アンジーも一人では来ない位だからね。まずは、地下鉄で移動できるものは地下鉄にしよう。皆行くよ」
アウルはそう言うと、ツアーコンダクターになったつもりで私達を案内して行く。
ただ、どう見ても日本人の私が皆と一緒で英語で話していると目立っている様にも見える。
「ねえ?アウル?」
「何?悠里?」
「私達もルーマニア語で話した方がいいかなって。目立っているよね」
「そうだな。でも他の人たちだって英語の人はいるぜ。どうしても気になるのなら俺はルーマニア語をメインで説明が難しい時は英語にするか?」
「私もそれは賛成かな」
今はブルガリアで仕事をしているダリヤも賛成する。
「少なくても、日本やアメリカほど治安は良くないもの。現地に溶け込むようにするのもいいと思う」
「そうだね。それじゃあ、悠里は基本的にコルネとダリヤの側にいる事。二人が一番悠里がルーマニア語が分からなくなった時には的確に翻訳してくれるから。アンジーは俺でいいかい?」
「いいわよ。それじゃあ、ビクトリア宮殿に行こうか?なるべく一日で回る様にするからかなりの強行軍で行くからな」
「分かってるよ。まずは地下鉄乗るぞ」
アウルに地下鉄の一日乗車券を貰って、私達はビクトリア宮殿を目指す事になった。
ビクトリア宮殿を見て、焼き肉のたれを製造している企業の工場を思い出してしまって皆に説明するのは本当に難しかった。結局スマホを使ってその画像を見せた。
「日本人っておもしろいなあ」
「ユニークな感覚持っているな」
「今度日本に行ったら見に行こうぜ」
いとこ達は重い思いの事を口にしていた。
ビクトリア宮殿から国立農村博物館を目指した。ここはかつてのルーマニアの農村がほぞんされている。農家・教会・水車……見ていると安心してくるのは私達の血のなせる技なのだろうか?
「アンジー?どうしたの?」
「うーん、昔ママに連れてこられた気がする。ここに来ると落ち着くのよって」
「でも叔母様の言う事も分かるなあ。私なんて本当に始めてきたところなのに、とっても落ち着くの。不思議よね。皆はどうなの?」
「そう言われたらそうかも。都市部の博物館の美術品よりも、こういった展示物をゆっくりと見るのはいいことだな」
「そうでしょう?確かに私達は、人の食事を取らなくても生きていける。けれども今はそうはいかないもの。これだけ国立の博物館で触れる事ができるのなら、のんびりと過ごしましょうよ。それに人があまりいないってのが私は気に入ったわ」
私はアウルに思った事を告げる。
「悠里らしいな。それなら、ここを一通り見てから、農民博物館に回ってから自然史博物館ってのはどうだい?ここはカメラの持ち込みは無料だけど。他ではお金かかるからね。それだけは言っておくよ」
「大丈夫よ。それから、旧市街に行ってランチを食べてから旧市街で時間を潰して最後はブカレストのハードロックカフェってのはどうだい?」
「アウルは最後がメインだろ?いいよ。俺もブカレストは行ったことないし」
ってかさ、ハードロックカフェって六本木にもあるよね?ブカレストにもあるんだ。今度海外旅行をしたら現地のハードロックカフェめぐりなんてのもありかもしれないなと思ったのを心の中に秘めたのはここだけの話です。
市内観光があまりにもサラリとしているのは、ご愛嬌です。




