自分を見極めに行ってくる 悠里 3
最終便のフライトとトランジットで疲れた体には猫足のバスタブでもゆっくりと身体を伸ばせる事が至上の幸せに思えるのだから不思議な話だ。
ルーマニアに着いたんだなあってようやく実感がわく。4年前もそんな事を思ったなあと肩まで浸かって思い出す自分が可笑しくなる。
今までおじ様に会うたびに少しずつだけども、一族の事を教えて貰った。
直系のアンジーはおじ様の様に長い期間を生きる事ができるということ。
逆にコルネ達はアンジー程までではないけど、人間の血を求め続ければ長い期間生きる事ができるという。ダリヤとエレナが肉食女子であることはそういう事を意味しているはず。
私は?一弥さんがずっと側にいてくれればそれでいい。先祖がえりしている私も命はかなり長くなるだろうと両親が亡くなった時にあったおじ様に宣告を受けている。
今回聞きたいことは、彼を仲間とする時に痛くない様に吸血する方法。
まだ、吸血をした事がないのだから、どうやってすればいいのか分からない。
定番は首なこと位は分かっているけれども他でも構わないのだろうか?
それならどこがいいのだろうか?ニコルおじさんに聞いてもいいんだけども、どこかしら私をからかう事を楽しみにしている人だから聞きたくないと言うのが本音だ。
私の血を身体が受け止めればそれでいいと言うのなら……方法は簡単だと思う。
でも牙と立てて吸血する方が世間的にセオリーと言うか何と言うか。
考えれば考えるだけ答えがどうしても見つからない。
多分、今回集まってくれたいとこ達も私の悩みを見越してきてくれていると思いたい。
ゆっくりとつかって身体が解れたのを感じた私はバスタブから出て着替える支度をするのだった。
「ごめんね。ゆっくりとさせて貰ったわ」
「久しぶり、ユーリ」
「クリス。それだと英語読みよ。ゆうりだよ」
「ごめん。悠里」
「まあ、そんな事はいいから。良くこの時期に休めたわね」
「そりゃあ、悠里がこっちに来るなんて余程の事だろうと思ってさ」
「アウレルのは嘘。絶対に面白がってる」
「俺達より年上なのに、今だにバージンだろ?日本人って皆そんなもの?」
「そんなことないけど……やっぱり考えるじゃない?いろいろと」
「破瓜の血……か。そんなもの避妊具つければ平気だろ」
「でも、吸血しないでも仲間にするんだったらそれが最適なんじゃないの?」
「悠里が、そいつと人生を共にするって思うのならいいんじゃないか?」
「相手に知られない方に仲間に引き込むってのか?」
「そう言う方法もあるかなって。皆だってそうでしょう?」
私が逆に皆に聞くと皆は返事をしてくれない。やっぱり……。
「だから、おじ様に相談しようと思うの」
「成程……それもいいと思うわよ。それより、おじ様っていくつなの?」
「おじ様の弟が私の祖母の父だから……それよりも長生きよね?」
「そっか……アンジーもそうなんだ」
「私は平気よ。小さい頃からそうやって教え込まれていたもの。彼も今は上手に私を吸血出来るようになったわ」
そう言って、私に見える様に首元の咬み痕を見せてくれた。
「ねえ、吸血ってやっぱり首筋?」
「そんなわけないだろ」
「そうよ。そんなベタなものしないわよ。自分でヴァンプが身近にいますって言っている様なものじゃない」
「私は太ももにしているわ。とりあえず見えないからね。」
「あっ、俺も太もも。アノトキってさ、そういう事してもさ派手にやり過ぎなければいいだけじゃない?」
「そうとも言うわね、それに牙を立てる前に舐めておくと唾液が麻酔代わりになるわよ」
「ふうん、そうなんだ」
私にとってはまだ未体験の事ばかりで成程って思う事がたくさんある。
皆がひとしきりレクチャーしてからアンジーが提案した。
「悠里、私で吸血の練習してみる?」
「はあ?アンジー何言っているか分かっているの?」
「大丈夫よ。私達……皆ね、吸血の初体験はアンジーなのよ」
「いきなり、人間にトライするのって難しいし」
「なにより、アンジーは直径だからちょっと貰うだけでも能力上がるし」
一番最後の言葉は聞き捨てならないなあ……言うと厄介なことになるから止めておこうっと。
「だから……安心して?それともコルネで練習する?」
確かに一弥さんは男性だからコルネの様がいいけど……そう言う問題じゃない。
「アンジー、教えて?」
「いいわよ。今夜部屋に行くわ」
「これで俺達の世代は皆ヴァンプを選択したって事か」
「えっ、そうなの?」
「うん、下の子達もね。あの子達はおじ様の話を聞く前にやっちゃったみたい」
「うわあ……けだものや。怖いわあ」
「そうね。一族が生存しているって知られる事が一番マズイものね」
「うん。ヴァンプ狩りの実態をおじ様が教えてくれて、自分達のやった事がどれだけが分かったらしいわ」
「親も親なのよ。きちんと教育しないんだから」
「やっぱり、性的に興奮する事が吸血願望に繋がるから」
「……そこはそれでいいんだ。だから願望が起こったのか」
「悠里が一番、そう意味では淡白で禁欲的だったから」
皆が私をネタにし始めた。いつもの事だから、あんまり気にはしていない。
「怖かったのかな。日本で一人きりでヴァンプとして生きて行くのが」
「そっか、お婆ちゃんはルーマニアか……そうなるとそう考えるかな?」
「だって、誰に相談していいのか……少なくてもニコルおじ様はパスね」
「うん、あの人は物事を厄介にしていく人だから。人の獲物をナチュラルに奪い取る人だし」
「やっぱり……いずれは一族から襲われそうね。注意しないと」
「そうだね。おじ様の病院から手を切れば悠里は平気よ」
「そうね。今の悠里にはアンジーだけが頼りか」
「任せて。とりあえず、どれだけ噛んでも一族の場合は噛み痕にはならないから」
「ナニソレ……アンジー」
「最近はね。虫さされみたいな感じ?私の能力が上がったのかしら?」
「アンジー冷静になりすぎ」
そんな事を話してから、私達はゲストルームでディナーになるまでお互いの近況を報告したりするのだった。




