【052】
カレンは、ゆっくりと瞼を開ける。
「……ここは?」
カレンの視界に入って来た光景は、見知らぬ天井であった。体をゆっくりと起こし、辺りを見回してみる。この部屋は、だだっ広い空間に、ベッドが無数に並べられていた。
すると、扉が開き、クロイツが部屋へ入って来る。
「おっ、目が覚めたようだな」
「えっと……」
カレンは何がどうなってここに来たのか、それを理解出来ないでいた。
「ここは、グロリアス王国の憲兵団宿舎の医務室だ。サンタフェリアの村で私と会ったことは覚えているかい?」
カレンは、こくりと一つ頷いた。
「そうか、なら良かった。君が突然倒れてしまったから驚いたよ。やはり、君も流行り病に侵されていたようだね。荷馬車に積んでいた薬が無かったらと思うとゾッとするよ」
クロイツは、軽快に話し掛ける。
「すいません、ご迷惑をかけてしまって」
カレンは、ペコリと頭を下げ礼を言う。
「いや、謝らないでくれ。元々、君の村にあった薬を君に使っただけのことだ。だから、君からのお礼を私は素直に受け取ることが出来ない」
「それでも、僕を救ってくれたことに感謝させて下さい」
クロイツは瞼を見開き、そして――この子は、自分勝手な大人達なんかよりもよっぽど立派な大人なんだな、と複雑そうな表情で、小さく笑みを溢した。
「そうだな、ではしかと受け止めよう」
クロイツは胸に手を当て、カレンの気持ちをしみじみと受け取った。
「それでは、早速で申し訳ないんだが、今後の話をしたいと思う」
クロイツは、カレンのベッドの横に椅子を持って来て、それに座る。
「今後の話?」
これは、避けては通れない話だった。
「難しい話かもしれないがよく聞いて欲しい。君は、これからの道を自分の意思で歩まなければならない。我々は、その為のサポートも出来るだけしたいと考えている。率直に、君はどうしたい?」
クロイツのその問い掛けは、大人でも答えるのは難しいものであった。突然家族を失い、村の仲間を失い、一人ぼっちになった少年に投げかけるにはあまりに酷な話だからだ。
しかし、カレンは実直な瞳で即答した。
「サンタフェリアを、元通りにしたいです」
クロイツは目を見開いた。もしかしたら、そう言うのではないかと心の中では思っていた。しかし、大人の罪を子供が晴らす必要などどこにもないのだ。本音を言えば、もっと子供らしい選択をして欲しかった。
しかし、一点の曇りも迷いも無いカレンをクロイツが止める理由など何もありはしなかった。だとすれば、クロイツにとって出来ることは、たった一つだけだった。
「その道は、辛く険しいものとなるかもしれない。それでも、やるかい?」
「はい」
クロイツは、その言葉に真っ直ぐな意思を感じ取っていた。
「だったら、学校へ行ってみないか?」
「学校?」
「ああ、そうだ。やる気だけでは必ず壁に当たってしまう。そこにはどうしても、知識が必要だ。グロリアス王国にあるグロリアス王立学園で、世界最高の知識を身に付けるんだ。そうすれば、自ずと道は開ける」
それは、カレンにとって新しい挑戦の始まりだった。




