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黒の小冊子  作者: 雨月
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第九話:策士策を忘れる

第九話

 本日の講義が全て終わり、さぁおうちに帰ろうと向かった近道の先で何やら剣呑なオーラが形成されていた。オーラ斬りでもして振り払ってもらいたいぐらいの物だ。

「全く懲りないね、姉さん」

「うっさいわねー。六花が邪魔するのがいけないんでしょう」

「六花って言うな。今はスガーっ」

 少々怒っている感じの宮本雪教授(そういえばこの前のムカデの飼い主だった事に気づく)と真白…スガーさんが相対していた。

「あのー、ちょいと。俺今からそこ通るんでどいてもらえますか」

「はぁ?今闘ってるんだから邪魔をしないで」

「そうそう、久しぶりに姉さんが出てきたのよ。普段は失敗作ばっかりなのに」

「失敗作言うなっ…あーほら、一般人は怪我しないうちに回り道しなさい。しっしっ」

 そうは言われてもこの道を通らなければ五分程度遅くなってしまう。それに別の道と言ってもここ以外の道は教授棟が近いし…ああ、教授棟で思いだした。

「ところで、真白さん」

「何よ?」

 非常に機嫌が悪かった。しかし、である。

「気焔さんはどうしたのさ?教授のところに放り込んだんだろう?」

「そりゃあもうばっちり。猿ぐつわと縄を完璧にして放り込んであげたよ」

「それで?」

「それで?えっと…それから姉さんに会って拳を交えつつこの広くてあまり人が来ない道にきたってわけ」

「それから?」

「こうやって闘っていたの。そうしたら田原君が来て今に至ると」

「…」

 つまり、気焔さんは完全放置か。てっきり教授にやられてへばっている真白さんを俺が助けると言う状況になるもんだとちょっとだけ思っていた。

 何かしらトラブルが起こっているだろう…しかし、スガーさんが気焔さんを見捨てていたとは思いもしなかった。

「あんたねぇ…」

 宮本教授も呆れている。

「ほら、あの子もあきれ顔」

「う、うるさいなぁっ。姉さんなんてすぐに倒して教授も捕まえるから大丈夫っ」

 本当だろうか。いまいち疑問が残る。

「じゃあ俺が気焔さんを助けに行くから」

「そう…うーん……」

 スガーは俺の前に立って何故か宮本教授から隠そうとしている。

「何、どうしたの?」

 相手も不思議そうだった。

「…ここはあたしに任せて早く行って!」

「は?」

「だから、食い止めるから…早く、早く気焔さんを助けに行ってあげて!」

 状況が飲み込めない俺、そして何かを察したのか大きく頷き悪い顔をする宮本教授。

「うふふ…そうはさせないわ。スガー、今日は貴方に見せたいものがあるの」

「見せたいもの…ですって!?」

「それは…」

 馬鹿らしくなった俺はその後の展開を見ていない。さっさと前を通って家に着き、気焔さんが俺にくれた刀を手にする。

「…よし」

 ついでにスガーソードもポケットにねじ込む。どっちかというとスガーソードの方が役に立ちそうである。

 昼の話さえ聞いていなければ俺はすぐに戻ってくるだろう、どうせ俺たちの思い違いだろうと気焔さんの事を放っておいたはずだ。まぁ、とりあえずそこまで心配していなかっただろう。

 大学まで徒歩で五分、走れば三分程度で着く『近ければ近いほど遅刻する法則』だが、今回遅刻したら一大事だ。

 果たして気焔さんは無事なのかどうか…無事でいてほしいと思い俺は家を飛び出したのだった。ちゃんとガスの元栓と戸締り、洗濯物を取り込んで…。


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