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黒の小冊子  作者: 雨月
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第六話:貸し借り

第六話

 大学生で授業をサボる奴はごろごろとまでは行かないがそれなりに居たりする。教授が『聞きたい奴だけ聞けばいい』という精神の人ならなおさらだ。しかし俺はちゃんと授業に出ているし大人しく聞いている。

「焔女の凄さは僕的に知られていないところだね。“人”と密接に関係して居ながらその“人”自体が社会から切り離された存在だったからって言うのも大きい。つまり、当時の人々にとって焔女と関係性を持っていた“人”は自分たちの生活の範疇に居なかったという事さ」

 どうして眠くなるのだろう。真面目に聞こう聞こうと思っても睡魔が強くて勝てそうになかった。

「ぐぅ」

「田原君はどう思うかな?」

「へうぇ?」

 講義を聴いている数人の視線が一気に俺に向けられる。ここは決めねばならぬ…周りは女子ばっかりじゃあないかっ。

「え、えーと」

 どういう内容だったか。焔女についてだったと思われる。

「焔女は…えーと」

 そういえば今の俺は本物の焔女と同居しているではないか。朝の会話を思いだすんだ。




「あら、気焔さんは起きてきていないの?」

「え、ああ今顔を洗いに行ってると思うよ母ちゃん」

「まさかこの歳で赤ちゃんの顔が見られるとは思わなかったわ」

「あ、赤ちゃん?」

「そうよ。あんたに彼女が出来るなんて思ってなかったし…あら、気焔さんおはよう」

「…出来たかも」

「え…何が?」

「赤ちゃん?」

「なんで疑問形なの」

「あんたすぐにはわからないものなの。今日はお義母さんと病院に行こうか」




 駄目だ、なにもいい所とか思いつかねぇ。

「うーん、時間切れだね。真白君お願い」

「はい。あたしは焔女自体が怪しいと思います」

「怪しい?」

「存在自体が…ですね」

 講義は勝手に進んでいくけどそんな事より俺は母ちゃんに連れて行かれた気焔さんのほうが気になった。間違いなんてないけどさ、間違ってたら大変じゃないか。

 この歳で子持ちはまぁ、それなりに居る時代だけど俺収入ないしなぁ…いや、そもそもそういったことしてないしっ。

「じゃあ今日はここで講義は終了。解散」

「……ぶつぶつ…気焔さんが…いや、そんな…」

「きもーいあの人ぶつぶつ言ってるし」

「超やばくない?」

「マジやばい」

「ん?」

「あ、こっち見たいこっ」

「この大学変質者多すぎっしょ~」

 変質者…教授以外にも居たのだろうか。

 よくわからないまま気付けば講義は終わっており、この後は教授のゼミもある。

「…サボろうかな」

「何しているの?早く行こう」

「え…ああ…うん」

 それまであまり話していなかった真白さんが何故か近づいてきた。いや、たまに話していたり(殆どなかったが)したけど、ここまで嘘っぽい笑みを浮かべてはいなかった。

「何、その顔…」

「女の子にそういう事言うと地獄に落とすよ」

 落とされるんじゃなくて落とすんだ…誰が?決まっている目の前のヒーローだ。

 変な事はこれ以上言わないようお口にチャックをしておいた。

 辺りを見渡し、俺は真白さんに言葉を吐く。

「あの…」

「あのね…ん?」

 お互いが同タイミングで話しかける。真正面から人がやってきたから左によけようとしたら相手も同じ方向へと避けた時の感覚だ。

 そしてこういう場合のお約束は『どうぞどうぞ』『いやいやそちらから』『いえいえ』こんな感じになる。

 よって、俺が今すべきことは話を続ける事だ。

「実は真白さんに聞きたい事が」

「実は君に頼みたい事がっ」

 またもや重なってしまったじゃないかっ。誰だ、ここは押して押して押し倒せ的な考えした奴はっ。

「気焔さん貸してくれない?」

「はい?」

「だから、焔女の気焔さんを貸してほしいの」

 人の…いや、妖怪の賃貸は当店では取り扱っておりませんお客様。

「それまたどうして?」

「それは…」

 ここで次の講義が始まるチャイムが鳴る。俺と真白さんはとりあえずゼミへと急ぐのだった。

 無論、遅刻したさ。黒板には『ぼくの話なんて聞きたくないんだね?そうなんだね?』と残されていた。哀れ教授、彼はサークルとゼミ生が一緒の数なのである。


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