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黒の小冊子  作者: 雨月
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第五十四話:小学校突っ切ったら大変なことになるご時世

第五十四話

 駅で降りて辺りを見渡す。

「うん、おばちゃんがポケットティッシュを二つ要求したりナンパ目的の兄ちゃんがいるいつもの光景だ」

「ナンパ…?」

「この時間帯は主婦しかいないと思うんだけどな」

 人の趣味にとやかく突っ込む勇気は必要さ。犯罪予備軍とかこじつける輩がいるから健全な男性の趣味ですというしかない。

「じゃ、行こうか」

 手を差し伸べると嫌そうな顔をされる。

「わたしは子供じゃないの」

「わかってるよ。俺が迷うと困るから繋いでもらうんだ」

「う、うんっ。それならわかった」

 くくく、子供の扱いに関しては奈津美さんと晃代さんから事前に教育されているのさ。子供を誘拐したり、身代金を要求したりするためになっ。近々実行するらしい。

 改めて思うと本当に悪い。まるで悪の組織がやるようなことだ。

「でも、これは恥ずかしいかも」

「あらあら」

「まあまあ」

 まー見てー、ほほえましいわねーとか言われてる。この時に俺がメアリーちゃんより先を歩くと変質者になるので、彼女が先だ。背伸びしたい妹に付き合わされている歳の離れたお兄さんといった立ち位置。

 デパートは目と鼻の先、迷う事もない。

 無事に目的地についてメモを取り出す。

「何を買うの?」

「えーと、メモには…パジャマ、下着、歯ブラシ、普段着…等等って書いてあるね」

 そして最後に『見事このハードルを乗り越えるのだ』と書かれていた。どういう意味だろう…。

「あ、そういえばねー、奈津美ちゃんが目的地に着いたらこれを渡してほしいっていってたの」

「ん?んんっ!?」

 ネットの記事をプリントアウトしたもののようだ。

『25日、地方の大手デパートで女児が行方不明になった事件で男が逮捕された。男の名前は雨森月彦容疑者である。本人は迷子を保護したなどと供述しており…』

 越えられないハードルは、ただの壁だ。難問とは、言わないっ。

「どうしたの?」

「残機残り一で超難問ステージに突入した気分になったの」

「そうなの?」

「でも大丈夫。きっと、うまくやってくれるさ」

「誰が?」

 もちろん、俺が連れて行かれ場所でメアリーちゃんが。

 虎穴に入らずんば、虎児を得ず。つまり、一番の鬼門である下着売り場さえ超えてしまえばあとはどうってことはないはずだ。

「わたしの下着から最初に買うの?」

「俺はここで見ているよ。お金は…はい、五千円渡しておくから行って来るといい」

「あっ」

 手を放すとメアリーちゃんがちょっとだけ残念そうに見えた。くぅ、可愛い。このままつい『仕方ないな、じゃあ俺も行くよ』とは言えない、言えないんだ…。

 一時の目先を追って消えていった勇者がどれほどいたことか。

「大丈夫、戻ってきたらまた繋いでもらうよ。迷子になるとメアリーちゃんが困っちゃうからね」

「う、うんっ」

 フォローも忘れてはいけない。

 それから数十分後、戻ってきた。それなりに買って…もちろん、茶色の袋に入っているのは下着だろう。

 持ってあげるべきか…ともすれば、何かしらの罠かもしれない。

「でも、持ってしまう自分を褒めたい」

 結局、重くはないと言っていたものの荷物持ちはお仕事だからと俺がもつことにした。

 その後はこれと言って焦るような場面も無く、一息つくことにする。

「ふぅ、とりあえず買うものは買ったね」

「うん」

「何が食べたい?」

「アイス!」

 可愛いなぁ、妹が欲しかった…記憶があれだから良くわからないけどいたのかな、どうだろう。

「レモンアイスがいい」

「わかった。すみませーん」

「あーい」

「レモンアイスとバニラ下さい」

「はーい…おろ?」

 こっちを見て若い女性の人が首をかしげる。

「兄ちゃん久しぶりやなぁ」

「はぁ?えーっと…どこかでお会いしましたっけ?」

「え、ああ、そういうことかいな。すんまへん、忘れたって下さい」

「はぁ」

「こっちはおまけでいいよぉ。たんと味わってや」

 クレープを二つ追加された。

「あのー、俺の事を知っているんですかね?」

「ん、いやいや間違えただけや似た人を知っていたからねぇ」

 そういって女性の人は笑っていただけだった。


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