第五十三話:マナーは守ろうね
第五十三話
とある女性は語る。
「弟も欲しかったの。ラッキー」
その女性の妹も語る。
「弟分が出来てよかったよ」
そして、ある青年は語る。
「妹が欲しかった」
―――――――
メアリーちゃんの生活に必要な物を買う為、電車に乗って羽津市のデパートへ。無論、メアリーちゃんも一緒だ。
「おおー」
「はは」
なんてほほえましいんだ。電車の外を見て感動しておられる。
途中、駅に当然とまる。外を眺めていたメアリーちゃんが俺を見上げてきた。
「あ、大地ちゃんおじいちゃんが入ってきたの」
「本当だ…」
俺らがすわっているのは優先席だ。爺さんは一人、俺がどけばいいかな。いや、でも悪の組織の構成員だし、どうだろうか。
「どくべきだよ」
「…そうだねぇ。どくべきだ」
メアリーちゃんに背中を押され、俺は立ち上がっておじいさんに話しかける。
「あの、どうぞ」
「わ、わしはまだじじいじゃないわーっ」
「お約束の展開だっ」
爺さんに怒られ、仕方なく優先席に座る。
「うっわ、じじいに席譲らないとかどん引きですけど―」
「ありえねー」
なんでコギャルが…この時間帯に電車に乗っているんだっ。俺が何をしたって言うんだ。きっと、人はこうして悪の道に向かうんだろうな。
隣駅に着き、じいさんが降りて行った。ついでに、コギャルも。
「まだつかないのー?」
「次だよ、次」
「あ、おじいさんだ」
また別の老人がのってきた。
「ねぇ」
「ん?」
「譲らないの?」
そんな人間の屑を見るような目で見ないで下さい。ピュアな瞳で見つめられると自爆したくなるから。
「…わかってるよ。どうせさっきのはあれだよ、あれ。ひっかけ」
「ひっかけ?」
「そう…これでじいさんに場所を変わらなかったら降りるときに『田原大地と言う若者は席も譲れん小物なのか』と言われるのさ」
「ふーん?どうでもいいけどなんで名前知られてるの」
「ふふ、任せてよメアリーちゃん。行って来る」
立ち上がって爺さんの近くに行く。
「席、どうぞ」
「わ、わしはまだ老人じゃないわっ」
「ま、また怒られただと…」
Aと見せかけてBではなくAと見せかけてAとかうざいよ…。
「はぁ…っと、やべ」
着信音は鳴らなかったもののバイブで気付く着信。
「…『メリーさん』だって?」
隣のメアリーちゃんが電話をかけている。誰に?多分、俺に。
「…もしもし?」
『わたし、メリーさん。元気出すといいの』
電話なんてしなくても見える顔、聞こえる声。だからか、二重に聞こえるその声は可愛くて…そして全世界をとろけさせるような可愛い笑顔を俺に向けてくれている。
「メアリーちゃん…ありがとう」
なんていい子なんだ。お兄さんが間違っていた。こうして悪い人間は徐々に浄化されて行くんだろうな。世界に必要なのは愛じゃなくてお金だ。こんな子の笑顔を守るためには平和じゃだめだ、お金でSP付けてあげないと悪い大人に捕まってしまう。
『…電車内での通話はご遠慮ください。なお、優先席の近くでは携帯電話の電源をお切りください』
「…」
駅に着く残りの時間は、針の筵でした。




