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黒の小冊子  作者: 雨月
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第四十六話:ヒトヅラケン

第四十六話

 奈津美アンド晃代という二人の吸血鬼を追っても血と血なまぐさい何かしか感じられなかったので、大人しくスカウトをしようと思う。うん、それが長生きの秘訣だ。変に探るとばらされそう。

 いや、一度ばらされていたのを戻してもらって今があるんだけどね。

「っと、此処か」

 宮内ケン…それが今回、俺が担当する交渉相手だ。詳しくは書かれていない為、顔や性格、どういった見た目なのかよくはわからない。

 わかっているのは住所と名前だけ。

 チャイムを押して数秒後、猛犬注意と書かれた扉から一人の女性が顔を出した。

「あのー、ケンさんいらっしゃいますか?」

「ケンですか?」

 少しおかしな顔をされる。住所を間違えただろうか。

「えーと、いますけど…」

「あ、いるんですね。よかった」

「なるほど、隣羽津動物新聞の方ですか。どうぞ、あがってください」

 勝手に勘違いして納得をした女性は俺を家に上げ、お茶を出してくれた。

「今連れて来ますから、待っていてください」

 そう言われて俺はソファーに腰を下ろす。動物が好きな家のようであちらこちらにペットとの写真が飾られている。

「…俺ももしかしたらこんな感じだったのかな」

「お待たせしました」

 女性が連れてきたのはドーベルマンだった。やばい、怖い。

「あ、あの、こちらが…」

「宮内ケンです」

「わふ」

 鳴き声は想像していたより大人しい感じだ。

「え、えーっと、その…」

 どうすればいいのだろうか。どうも冗談のようではないし、

「わふ」

「はいはい、散歩ね。だけど珍しいわねー」

「え、い…」

 犬と言うとなんだか非常にまずい気がした。

「ケンさんの言っている事がわかるんですか?」

「なんとなくね」

 なんとなくで犬の言葉が理解できる…二ヶ国語が喋れると履歴書にかけるんじゃないだろうか。通訳を目指せるかもしれない。

「じゃあ、いってらっしゃい」

「はぁ、いってきます」

 よくわからないままに、女性に送り出されて犬と俺は散歩に出かける事となった。

 十分程度歩いて辺りに人がいなくなった。

「おい、坊主」

「は?」

 辺りを見渡す。当然、誰もいない。

「おれだ、おれ」

 新手の振りこめさぎか…というわけでもないようだ。

 それまで犬の顔をしていたはずなのに、そこにはニヒルな男性の顔があった。

「え…」

「宮内ケンだ。お前は?」

「あ、俺は…田原大地です」

「ナイスバディの使いっぱしりがおれに何の用だ」

 とりあえず、この人について突っ込む事はしないほうがよさそうだ。話が変にこじれそうだし、俺はこの人をスカウトするだけでいいだろうから。

「えーっと、率直に言うとそのナイスバディに来ていただけると嬉しいんですが…」

 無理だろう、相手は犬だ。

「いいだろう」

「え?いいんですか」

「誘ったのはそっちだろう?」

 こんなにあっさり行くとは思わなかった。

「元は所属していたからな。そろそろ潮時だろう」

「そうなんですか」

 それから、秘密基地まで戻って二人の元へとケンさんを連れて行った。

「久しぶりだな」

「ほら、やっぱり大地に頼んだ方がよかったね、ねーさん」

「そうね。私たちが行くとあそこの女の人と喧嘩になるから仕方がないわ」

 積もる話もあるだろう、俺はお茶をついで(ケンさんはブラックしか飲まないらしい)少し離れ場所に座る。

「とりあえず、人数は揃ったからばしばし悪いことするわよ」

「あーい」

「いいだろう」

「え」

「参謀はケンさん、開発は私、作戦実行者は晃代と大地。作戦は二日後、各自準備をお願いね」

 いつの間にかそんなやり取りが行われ、質問する暇もなく解散となってしまった。

 ほ、本当に悪い事をするのだろうか。


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