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黒の小冊子  作者: 雨月
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第四十四話:上司は血がお好き

第四十四話

 物事を安定して捕らえる為に人は定義したがる。

 吸血鬼はどうだろうか。

 墓場から蘇り、血を求め、蝙蝠に変身し、光を浴びると消滅する?

 贅肉の付け過ぎだ、と鼻で笑う人もいるだろう。多分に吸血鬼が他から求められる事、それは血を欲する事だろう。

 これが一番シンプルで、老若男女誰からも賛同を得られやすい特徴のはずである。



――――――



 天導時奈津美さんと晃代さんの食卓には俺の分の席もある。三食部屋付きお小遣い制という破格の待遇でこうして迎え入れてもらったわけだけれど…。

「うぷ」

「どうしたの?」

「顔色が悪いぞー」

 原因は、血だ。

 『真』と『誠』と書かれている二つの湯呑の中でたゆたっていた。

「なんで、血を飲んでいるんですか」

「なんで?ああ、そういうところも記憶がないのね」

 奈津美さんは合点がいったとばかりに手を叩き、湯呑を指差した。

「これは、湯呑って言うの」

「いえ、そういうことじゃなくてですね」

「ねーちゃん、こいつ全ての吸血鬼がワイングラスで血を飲むとか思ってるよ」

 惜しい。いや、全然惜しくもないか。

「あーいやですね、お二人は一体何者なんですか」

「悪の組織『ナイスバディ』の天才科学者」

 うわ、自分で天才って言うんだ。

「悪の組織『ナイスバディ』の戦闘担当」

 うん、しっくりきますね。

「それで、ボケはどっちですか?」

「ねーさん」

「晃代」

「じゃあ、突っ込みは?」

「私」

「あたし」

「…素晴らしいチームワークですね」

「でしょう?」

 これはハモった。

「それで、話を戻しますけど…お二人は吸血鬼なんですか?」

「まあ、そーね」

「別に日に当たっても消滅しないから安心しなさいな。ま、爺ちゃんが大正時代ぐらいに日本に来たって言っていたから元からいたってわけじゃないけれど日本人ね」

 奈津美さんがそういう。

「英語はからっきしだから外国人を外で見つけたら大使館にでも連れて行ってあげなさい」

 ここら辺に大使館はあるんだろうか。

 食事を終えて食器を洗い(俺担当)、炬燵に入る。

「えー、まず、悪の組織『ナイスバディ』は氷の戦士スガーによって消滅させられました」

「マジっすか」

「そうそう、今建て直し中。エロ伯爵とナイス母音が地獄行きになったわ」

 復活させないんですかと尋ねると『目障りな奴を復活させるわけないでしょう』と笑われてしまった。

「今現在は四名の組織ですが、今年こそはいい線行きたいと思います」

「いいぞー、ねーさん」

「あれ、俺を入れて三名しかいませんけど?」

「生物担当で一人隣の羽津市にいるのよ。大学の教授と掛け持ちだから結構忙しいわ」

「独自にがんばってもらっているから基本関与はしないから。あたしらはあたしら、彼女は彼女、口を出したりするとムカデけしかけられるわよ」

 ムカデを消しかけられるぐらいなら別にいいんじゃないだろうか、こっちは吸血鬼いるし。

「実質三人で頑張って行こうと思います。拍手―」

「わー」

「ぱちぱち」

 ノリでしてしまったけど大丈夫だろうか。

「それで、新入社員の田原大地君にはスカウトを担当してもらいます」

「す、スカウト?」

「そうそう、あたしらは吸血鬼だから日中外出るのきついの。下手すると消滅するかも」

「さっき消えないって言ってませんでしたか」

 肩を軽く叩かれ、目の前に冊子を置かれた。

「何です、これ」

「さすがにスカウトするのは大変だろうからある程度目星は付けてるのよ」

「なるほどー…説得すればいいんですよね?」

「そうそう」

「お二人は行かないんですか?」

「連れ言ってもらっても構わないけれど、交渉には参加しないわ。ねーさんとあたしはトラブルメーカーだから」

 首をすくめてそういった。感慨深げに隣で彼女の姉も首を縦に動かしている。相当、凄いようだ。

「あの、例とかありますか」

「誘えば絶対に落とせると総帥に言われて行ったすっごくえげつない相手ね。説得したけれど駄目で、余程気を悪くしたのか私達を倒すためだけに死んでも入らないといっていた正義の味方の組織に入った」

「…そ、そうですか」

「ま、今は土の下だけどね」

「え?」

 聞かなかった事にしよう。

「とりあえず、おかしいかもしれないけれど仕事は仕事よ。がんばってもらうわ」

 これから始まる新生活。不安で胸がいっぱいいっぱいだ。


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