第四十三話:人を使い人を狂わせ人の世に順応する妖怪…お金
第四十三話
何だか非常に恐ろしい何かに斬りつけられた気がする。
まぁ、気のせいだろう。
日常を続ける為に人間は、睡眠状態から覚醒していつもの朝を迎えるのだ。
そして、俺もその一人だろう。
「ん…」
「お、起きたよねーちゃん」
「そー、じゃあパンツを渡してあげて」
「ほれ、パンツ」
状況が理解できない。白銀に輝くけがれなきブリーフを投げつけてきた相手を俺は知らなかった。ついでに言うなら、なんで炬燵に下半身を突っ込んでいるのかもわからない。辛うじて炬燵の上にあるおせちが今は正月だと言う事を教えてくれている。
「とりあえずパンツを履くといいわ」
「は、はぁ…」
パンツを履いて、居住まいを正す。
「あのぅ、ここは…」
「ここは悪の組織『ナイスバディ』の隣羽津市にある秘密基地よ。私の名前は天導時奈津美」
「あたしは天導時晃代。あんたは?」
「えーっと…」
あれ?俺の名前なんだったっけ。
「はい時間切れ―」
「思いだしました、田原大地です。えーっと、最近は羽津市っていうところの神様の件で色々と巻き込まれて…」
「晃代、あれ」
「はい、ねーちゃん」
「そうそう、それで気焔さんに斬りつけ…あ、何をかぶせるんですか」
「大丈夫大丈夫、ちょっと記憶をなくすだけだから」
「ぎゃああああああああああ」
―――――――
目を覚ますと、二人の女性が俺の事を覗き込んでいた。
「いたたた…一体何が…」
「青年A、君の名前は?」
「な、名前ですか?」
「そう、名前」
「えっと…えーと…駄目です。わかりません」
頭の中には何も浮かばなかった。これは一体何故だろうか。
「落ちついて聞いてほしい。晃代、説明を」
「わかった、ねーちゃん…あんたの名前は田原大地だ」
「田原…大地ですか」
「そう、間違いはないはず。あんたはある事情によって記憶を失ってしまい、悪の組織『ナイスバディ』に保護されたんだ。まぁ、これらはどうでもいい事なんだ。君が発見された時、君の上半身は吹っ飛んでなくなっていた」
「…」
一瞬だけ頭の中に映像が流れた。いやん、グロイ。
「そこを直したのがうちのねーさんだ」
「ふふん、褒めてもいいのよ?もっと褒めなさい」
「まだ褒めていないんですけど…本当ですか?」
にわかには信じられない言葉だった。上半身なかったらどんな医者でも無理だろう。パーツが無いんだからさ。
「其処を可能にしたのがねーさんだ。あんたにはどうやら雪女の血が混ざっていただろうからいじりやすかったそうだ」
「はぁ、そうですか。その、ありがとうございます」
命の恩人で一応は間違いないのだろう。悪の組織とか言ったけど、冗談かもしれない。
「私は奈津美よ」
「あたしは晃代。よろしく」
「よろしくお願いします」
差し出された右手にそれぞれ握手をしてまた離れる。晃代さんが紙を俺に手渡した。
「そこで、君を人型に戻した代金はこのぐらいかかった」
奈津美さんの説明でそれが金額だと言う事に気付いた。
「…本当ですか、この金額」
「そうだ。今すぐ払って欲しい」
鬼だ。鬼がいる。きっとお金が無くなったら墓場に行って死者を復活させて稼ぐに違いない。
「とはさすがに言わないから、その分ここで働いてもらおうと思う」
「は、働く?」
「どうせ、帰る家も知り合いもいないだろうからな。記憶が戻るまではここにいるといい」
「あ、ありがとうございます」
やっぱり親切な人たちだったようだ。
「ま、知り合い見つけたらこの金額肩代わりしてもらうけどね」
にこやかな笑顔の中に悪魔が棲んでいた。
前回の奴でひと段落ついた(一つ目小僧とか鹿児島にあるらしいその神社についてわざわざ調べたのに無駄になってしまった…)ので新しい話に行こうかと思います。詳しいことは次回のあとがきでやりますが、比較的新しい妖怪を取り上げていこうかなぁと思っている次第です、はい。そして取り扱うであろう妖怪さんのなかに一つ目小僧系が入っていないだろうと先に言っておきます。焔女なんざ出した手前、鍛冶に関係がありながら一つ目小僧を出していないのは何故だと突っ込まれないかとひやひやしつつ申し訳程度におじいさんに語ってもらいました。ではまた次回。覚えていたらあとがきにて今後の方針をもうちょっと詰めておこうと思います。




