第三十八話:リベンジに燃える人種
第三十八話
痛みで目が覚める。
「…はっ…はぁ…は…ぁぁぁぁああ…」
何かどろりとしたものが腕を伝い、液体が何かに落ちてはじける音が耳朶に響く。
「…はぁ」
引き抜いた刀を杖代わりに立ち上がる。
痛い。
とっても、痛い。
そして、刺されたところが熱をもっている。
「気焔さんが作ってくれた…刀」
転がっていた本来自分の持ち物である刀を握り締める。
握りしめた瞬間、痛みが引いていった…なんてことはなかった。
「…」
一度外に出る。もう真っ暗、何も見えない。見えないけど、扉が開く音が聞こえてくる。
もう一度、教授に会ってみたかった。あってどうしたいのかは分からない。とりあえず、あの人が神様になるのは良くないのだろうと思える。
全てを拒絶し、現世から神を隔絶するその場所は変わらず俺の前に姿を現してくれた。
「気焔さん…待っててね」
倒れ込むようにしてその白い世界に入り込んだ途端、傷が癒えた。
『ははぁ、これはびっくりしたよ。まさかまた田原君が入ってくるとはね』
教授は既に人ではなかった。
別に角が、羽が、光輪が、尻尾が生えていたわけではない。
かといって、後光が差しているわけでもない。
いたって変わらない、記憶の中に居る教授のすがたそのままだった。
ただ、それを記憶の中の教授と一緒だと断定するにはあまりにも記憶の中の教授は人間くさかった。
わからなければ、仕方がないだろう。神様なんて人間が理解できるものじゃあないはずだ。
『成長して、あの子があの場所に行くところまで、僕は何度もくり返す事が出来た。毎度、記憶は消えていて実に楽しい日々だ。だが、こうして異物が入ってくるたびにそれが夢みたいなものだとわかってしまう』
「わけわからんことは言わんで下さい。俺は、気焔さんを助けたいんです」
『ぼくも、君と同じだ。君はぼくのしあわせを奪おうとしているんだよ。それはわがままだと言う事だ』
わがままか。
「構わないっす。俺結構これまで譲歩して生きて来ましたから。たまには世界が俺のわがままを認めてくれても罰なんてあたりませんよ」
「じゃあ、僕があてよう」
先ほどの刀は既に俺が左手に持っている。二刀流なんてかっこういいじゃないか、なんて誰も思っちゃくれないだろう。そもそも、両方とも大太刀だ。普通にふりまわすだけでよろける重さはあった。
ただまぁ、さっき三回で終わってしまったけど、今回は頑張れる自信があった。刀が軽いのだ。
「教授、妖怪はいるんですかね」
「いるさ、ああ、いるとも。君は妖怪と一緒に居たのだろう?」
RPG当たりのラスボスが握ってそうな黒いオーラ付きの剣を取り出し、教授は笑っていた。
「俺と一緒に居たのは単なる優しい隣人達でしたよ」
一名、四つん這いになって超怖くなりましたけどね。
「しかし、こうやって剣で斬り合っても新鮮さに欠ける」
「は」
突如、剣を放り投げて教授は俺のほうを指差した。
「さぁ、剣を捨てるんだ」
「はい?」
「前回、田原君はぼくに剣で負けた。だから、別の方法で勝負しよう」
「…まぁ、平和的に解決するならそれに越したことは…」
いきなり隙ありーっとかしてこないだろうな。
警戒しつつ、足元に刀を置く。
「隙あり―っ」
「やっぱりかっ」
だ、駄目だ。間に合わないっ。今度こそ死を覚悟した俺の頭を何かが叩く。
「…あれ?」
俺の脳天に当たったのはハリセンだった。
「冗談冗談。そんな怖い顔をしないでほしい」
「…神様になるのをふざけて決めるなんていいんですかね」
「別に刃物で斬り合ってもそれが神様にふさわしいかどうかは関係ないのだろう」
確かにそれは一理あるのかもしれない。
「そもそもここでは人、というより生命体が死んでしまう事はない」
「何故ですか?」
「それは実に簡単さ。ここでは存在が永遠なのさ。ここから追い出さなくてはいけない。それが出来るのがあの刀だ」
転がっている刀を指差し、教授は笑った。
「手に入れるのに苦労したよ」
「…はぁ、なるほど」
教授は他にもカッパのミイラや人魚のミイラ、干された指とか持ってるからなぁ…。
「今は僕が、神様に最も近い。だから、僕が決めて構わないはずだ…時間は沢山ある、まずは大食い対決から始めようかっ!」
指をぱちりと鳴らすだけで俺達の後ろに机、椅子、様々な国の料理が並べられる。
「参ったとどちらかが言うまでただただ目の前の料理を食べ続ける。胃袋の限界に挑戦だ」
「…わーりました」
教授の隣の席に座り、二人してお箸を握る。
「箸はいい、使えば使うほど、技量が上がる。見てみたまえ、この動きを!」
「…」
この人、ご飯を一粒一粒食べたりするんじゃないだろうか…そんな気持ち悪い動作(タコの足の吸盤を生きたまま引きちぎりそうな動き)を目の前で見せられてもなえるだけだ。




