第三十五話:鍛冶の神様、鍛冶の妖怪
第三十五話
「…羽津市の浦山では以前から鉄が良く取れ、製鉄産業で一時期は…」
講義も耳に入っては来ない。暖房が辛うじて入るような肌寒い日。
俺が船を漕ぎだしたところで講義は終了、本日の時間割終了となった。
「さーて、これからどうしよっか。古月の家に行ってみる?」
「ん。あ、ああ」
「しっかりしてよー寝不足とかさ」
「いや、大丈夫」
真白さんにそう言われて頬を叩く。暗いのは性分じゃない。
古月の家に行く途中、屋根の上を何かが通った気がした。
「しっ、見ちゃ駄目」
「ああ…」
きっと民子ちゃんだろう。何かを探しているのか、それとも烏を襲っているのか。
「真白さん、闘わないの?」
「え?うーん…」
怖いのだろうか。これまでどんな相手でも突っ込んで行っていたのに。そういえば、この前民子ちゃんに会った時も二人で逃げたよなぁ。
しかし、怖いのならノヅチが相手の時にさっさと逃げていたはずだ。怖くはないのだろう。
「あ、そっか、相手知り合いだもんね」
「あ、そうそう。さすがに知っている相手をぼこぼこにするのはちょっとね」
あれ?でも前は自分の姉を足蹴にしていなかっただろうか。
それ以上突っ込もうとしたら古月の家についてしまった。
孝道に許可をもらい、真白さんは離れに思い切り蹴り(ちゃんと変身している)を繰り出していた。
「くそう」
珍しく、真白さんは焦っているようだった。
「…僕のせいだよな」
孝道は縁側で俺と一緒にその光景を見ていた。
「ん?ああ、そうだな」
嘘なんかつくより正直な言葉を口にしておく。
「ま、気焔さんの事だから結局誰かに捕まっていたと思うよ。たまたま、ここだったって話。すぐには無理かもしれないけれど、俺が絶対助けだすよ」
神様から(厳密には神様ではないが)取り戻したんだ、それに比べれば座敷わらし程度なんとかなるだろう。
「…お前、凄いんだな」
「そうだな、けどもっと凄い人はいるもんさ」
たとえばどこかの白衣の教授、たとえば自称ヒーローの女学生とか。
「口で言うのは簡単だろうから、たまには本気を見せてやろうと思う。
口で実現できるならみんな明日はホームラン打てるだろうさ。首相にだってなれるはず。
「ま、あんまり力入れ過ぎると俺絶対失敗するからちょっと肩の力抜いてくる。真白さんが辞めたら別の方法探しにいったって伝えておいてくれ」
「わかった」
脇に置いていた日本刀を握りしめ、立ちあがる。
「それ、鍛冶の神様に作ってもらった奴だったよね?」
「ん?ああ、鍛冶の…」
神様、と言うよりは妖怪だけどなと言おうとするまえに孝道のほうが口を開く。
「そうかやっぱり一つ目の鍛冶の神様なんだね」
「一つ目?いや、両目あったが…」
「そうなのか?羽津の神様は一つ目だって爺ちゃんが言っていたんだが」
「…詳しく話聞いてもいいか?」
「ああ、爺ちゃんなら部屋に居るからちょうどいいぜ」
こうして、男二人で彼のおじいさんのところへと向かうのだった。
部屋にはいなかったため、お手伝いさんの人に案内してもらい、屋根裏部屋へとやってきた。
「こんなところまであるんだな、ここ」
「ああ、地下なんて迷宮みたいだよ。本当、子供の頃は入っちゃ駄目だって言われていて親戚の子供が行方不明になったこともあるんだ」
「…そんなに凄いのか」
地下に潜らなくて良かったかも。
「おや、二人してどうした?」
孝道の祖父が屋根裏部屋の奥からやってきた。
「あ、爺ちゃん。実は田原が一つ目の鍛冶神様の話を聞きたいんだって」
「そうかい。じゃあこっちへおいで」
孝道の祖父の話を要約するとこの土地の神様は先ほども孝道が言っていた通り、一つ目の神様だったそうだ。今の神様、羽津神社が出来るよりもずっと前。ほら穴に隠れちまった神様を出す神話に出てくる神と関係性があったそうな。もっとも、その神様の眷族だった為、この土地を与えられて満足したそうだ。
「その時の女神は、今では焔女と呼ばれる妖怪になったそうじゃよ」
「…焔女?」
「ああ、そうじゃった。焔女と言うのはこの土地にいる妖怪じゃ。一つ目の鍛冶神様の助手であり、妻であった。鍛冶をなさるから一つ目様は一つ目であるから…言葉遊びか火の女神は家事の神様とか言われておった。まぁ、本来は火を操ると言われておってな、今となっては妖怪なんて滅多に拝めない時代になったからなぁ。」
大地君がわらしさまを見たからと言って見つけられるものではないかもしれないな、その言葉がこの話の結びとなった。
「凄く前に鍛冶は廃れてまた戦国あたりかなぁ、そこら辺で盛り返したんだってさ」
「そうか…」
てっきりその頃から居たとばかり思っていたけれど、あくまで気焔さんがその時にいた存在だと言うだけか。
「何か用に…たったかな?」
「ああ、助かったよ」
もっとも、この話だけで何かが出来るはずもない。
未だ真白さんがとび蹴りを繰り出している最中、羽津神社へと向かう事にしたのだった。




