第三十二話:女神さま
第三十二話
追いついた人物は知人によく似ていた。
「き、気焔さん?」
「はい?」
「今返事した」
「でも身長低いわねー」
神様だろうと思しき相手に対して近づき、背を測ったり胸を揉んだりしている。何しているんだ、この人たちは…。
「や、やめてくださいっ」
すがるような目をこちらに向けてくるので宮本教授を抑え込む。おおーとか言っている場合じゃなかった。
「神様ね。神様サイズよ」
「…意味わかりません。それより、やる事は別にあるでしょう?」
「コンクリに押し倒せって?」
この際この人は無視しよう。
「あのさ…」
君、神様なんですかね。いや、帥は神様でおじゃるか?いやいや、これじゃあめっちゃ上から目線じゃないか。機嫌損ねたら一発だろうし、気をつけないと。
「ねぇ、君って神様?」
「真白さん…」
俺の考えている事をあっさりと言ってくれた。しかも勝手に肩組んで超フランクだ。
「…う、ううん。神様じゃない」
「神様じゃないって。田原君の言っている事まちがってんじゃん」
うーん、そう言われても…俺のせいじゃないよ。装置が悪いんだ…とは言えなかった。
「あのさ、普通は神様なんて言ったらひかれるでしょ。即答したわよ、その子」
「…」
「…」
真白さんと目配せして逃げられないように三角形に囲む。神様と思しき少女は防犯ブザーを手に握っている。
徐々に包囲網をきつくするも、相手がボタンに触れ始める。
均衡を崩したのは宮本教授だった。
「何かそっちにとって都合の悪いことするわけじゃないわ。わたしたち羽津大学のニンゲンでね、そう言ったものについて調査しているのよ。神様ってどんなものかって調べていてちょーっとうろうろしていたら偶然貴方に出会ったわけ。だから安心していいわ」
「は、はい…じゃあそこのファミレスへ」
さすが宮本教授。あんな嘘をつらつら出せるなんてさすがである。
「褒めてないわよ」
「え?口に出しちゃいました?」
一発、殴られた。
結局、ファミレスはまずいと言う事で少女の家へと招かれる。
「宮本雪よ。こっちはゼミ生の真白六花さん、こちらが田原大地さん」
「ど、どうも。天音希恵です」
自己紹介も終わったところで何から話せばいいのか考える。
なにも思いつかない、宮本教授、お願いします。
「目が覚めたら毎日の繰り返し。いつからそれが続いていたのかわからない。それが基本ね?」
「はいっ。その通りですけど…なんでわかるんですか?」
「調査だから。事前にしているものよ」
じゃあ、こうやって聞かなくてもいいんじゃないかと思うわけで。
「…お姉ちゃん、ちょっと前に色々あって神様について調べてたんだって。あ、ちなみに田原君と会う前だからね」
「そんな前から?」
宮本教授に睨まれて真白さんは黙り、俺も静かに話を聞くことにした。
少女、希恵の話によるとある日母親が口をきいてくれなくなったらしい。父親を最後に見たのはもう覚えていないとのことだ。あくまで、神様だった時の話。
「つまり、今は神様じゃないと?」
「はい。今は毎朝ママと話もしますし、パパも夜には帰ってきます。朝起きて、学校に行って…それからすぐに夕方。家に帰ってまた、朝の繰り返しなんです。数ヶ月前…なんですけど、家のベッドで目を覚ましました。数年前に目を覚まさなくなったと家族は言っていました」
「ふむ」
宮本教授は手元の手帳を覗き込みながら何か書き足していった。真白さんも超まじめな顔をして手元の手帳に絵を描き始めている。俺もそれをまねて手帳に自分の思った事を書くことにした。
「ママって何だか軟弱物の香りがする」
「うん、そうだな。俺だったら母ちゃんと父ちゃんのほうがいいかな」
「うるさい、黙ってなさいあんたたち。どうもまずいわね…」
ママパパと呼ぶのが悪いのだろうか。じゃあ進化形のママン、パパンで解決する問題…嘘ですよ、宮本教授。そんな怖い顔で睨まないで下さい。
「まずいってどういう事ですか」
「天音希恵がこれまで神様だった、だったよ。もう神様じゃないわ。それ以上の存在…つまり、土地に選ばれた神様候補生が別にいるってことよ」
「神様候補生?」
「候補生といういい方も間違いなんだけど…とりあえず、それまで溜まっていた神様の力
があるからすぐに問題が起こるわけじゃないわ。もちろん、神様以上だから天音希恵さんもその候補に入っているわ」
「…わたし、嫌です」
激しい自己表現でも無く静かな言葉だけ。ただそれだけなのにこの人は二度と神様にならないんだろうなと伝わってきた。




