第三十話:羽津神社にヨーソロ
第三十話
羽津神社、場所は知っているが基本的には行かない場所だ。教授は妖怪とかそう言ったものにかなりの興味を示していたけれど頑なに羽津の神は駄目だとか言って調査にはいかなかった。
まぁ、今更教授がどうしたとか言ってもどうしようもない。そもそも、神社なんて余程の事が無ければ今の大学生が行く場所でもあるまい。
「さて、ここよ」
風景として見たことあるけど行った事が無い場所、羽津神社。見た目、普通の神社っぽかった。
「…?」
神社にしては、以前俺の家が神の域となっていたような感じは見受けられない。ただの、それっぽい鳥居や玉砂利と言った記号が集まる建物だ。俺の家がどれだけ格式高い場所だったか再確認できた。もっとも、あんな場所に人が住み続ける事なんて無理だろうが。
「…田原君、何か感じる?」
「いえ、何も。ここ、神社なんですよね?」
俺の問いには答えず、宮本教授は真白さんの方へ体を向ける。
「六花は何か感じる?」
「え?うーん、何も。そもそも鳥居とか気合入れてないと越えられない場所だけどここは気兼ねなく来やすいね。変化しちゃった田原君の家は気を抜くと消えちゃいそうだった」
「そう、それならいいわ。じゃあついてきて」
バスガイドのお姉さん(いやどの会社もおばさんだがここはそういう突っ込みは無しで)が持っている三角の旗を取り出して歩き出す。相変わらず準備がいい。
「待った」
宮本教授に制されもう少しで社務所というところで立ち止まる。
「屋根の上か」
「ほぉ、妖怪がこの場所に来るのは久しぶりじゃな」
口元を嫌らしく釣りあげて笑う一人の老人。圧倒的な存在感、喋るだけで大気が震えているのを感じる。漫画だったら背後にどどどどど…と出ていること間違いなしだ。
「久しぶりも何も、それだけの用事よ」
これだけの相手に宮本教授はすくんでいなかった。俺?俺はちゃんと宮本教授の後ろに隠れていたから安心してほしい。
「まだ神様は見つかっていないようね」
「そうじゃな。こればっかりはどうしようもない。いくら探したところで自己申告が無ければ見つけることは出来ん」
「自己申告?」
「…その話をしに来たわけじゃないのよ」
「そう関係のない話ではなかろう?」
俺の言葉は全く聞いてもらえていなかった。真白さんに肩を叩かれ『ドンマイ』と言われてしまった。
「ま、なんじゃ。話は社務所じゃな」
「そうね。羽津民子はいるの?」
「おらんぞ。お守りを何処かに落としておるからのぅ、あったら逃げるんじゃぞ」
「逃げる?」
「そうじゃ」
今度はちゃんと聞いてもらえた。
「逃げるって…民子ちゃんはそんな気性の荒い人じゃあないんでしょう?」
「前の神様があの子の中におる。それを抑えるためにお守りを渡しておったが…あの馬鹿、何処かに落としたんじゃ。何、所詮は人の身、機械で言うオーバーヒートに陥れば止まるわい…まぁ、それなりの犠牲は覚悟しておかねばならんがの」
即刻止めるべきだろう。でも、止めていないと言う事は止められる人が居ないのだろう。もしくは、放っておいてもさして問題がないのか。
社務所に場所を移し(爺さんは屋根の上からはしごで降りてきた)、俺たち三人にお茶が出される。口をつけようとしたら宮本教授に手を掴まれた。
「何するんですか」
「一服盛られてるわ」
「いっ」
「…さて、話を続けようかの」
何の薬なのか、何故薬が盛られているのか教えてもらえず(真白さんは既に飲んでいた!)羽津民子の祖父であろう人物は素知らぬ顔で口を開いた。
ただ単純に、俺たちは歓迎されていないのだろう。
「…お前さんたちは今、焔女を助けようとしておるようじゃな。正直、関心せんぞ。せっかく安定していたこの土地の神を焔女に戻したんじゃからな」
「それはそれで他のアホがあの子を神にしちゃったからしょうがないの。あの子は被害者よ」
「ふむ、そうか。じゃが事実は事実。神様を探してもらわん事にはこちらとしても協力できんな」
あれ?今の状況は神様が居なくなって不安定になった座敷わらしが気焔さんを誘拐しているって事だよな。この人が協力する条件は神様を見つける事だから…神様見つかったら安定して気焔さん助かるんじゃないのか。
俺の顔を見ながら爺さんは笑っていた。どうもそのとおりらしい。
「一番遠いように見えて、一番簡単な方法じゃよ。古月家に不法侵入し暴れまわるよりかはな…あの地下には罠もある。お前さんたちには問題ないじゃろうがそっちの青二才は躯になるのが落ちじゃろうて」
「はぁ…確かにそうね」
宮本教授は恨めしそうに俺を見ている。
「体鍛えようね、田原君」
真白さんは俺に言葉のナイフを突き付けた
「…」
そして俺は黙り込んでしまった。
「お前らが焦る気持ちもわからんでもない。じゃから、わしが何とか時間稼ぎぐらいはしてやろう」
タイムリミットは今日までだ、みたいなことを宮本教授は言っていた。だったら、この話をければ必然的に地下に赴く必要性があるのだろう。
「でもなんで地下から行くってわかったんですか?」
「あの離れの入り口は地下からだけじゃ。離れの扉を開けられるのはそれこそ神様だけじゃよ」
「…」
「じゃ、連れてきてもらおうかの…神を」
宮本教授はこれまた嫌そうな顔をしたが、俺の顔を見ると首を縦に振ったのだった。その後、頭をはたかれた。




