第二十九話:人の性癖
第二十九話
ざしきわらし。これほど有名な妖怪もなかなか居ないだろう。
大抵の人が『家に幸福をもたらし、居なくなると家は没落する』と言った話を聞いた事があると答える。
ざしきわらしがいると仮定して、話をするなら本当に幸福をもたらすものなのだろうか?
居れば確かに幸福が続く、しかし、いなくなれば普通に戻るのではなく、没落するのだ。あれほど酷い物もないだろう。ざしきわらしのおかげで代々繁栄してきたと隣の家は言っていた。
しかし、それも数年。今では空き家に成り果てた。しかも、朽ちるのが他の家より早かった。
あくまで、居るとしての仮定の話。引っ越してしまったからその後どうなったのかわからない。
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俺がざしきわらしについて知っている事なんて殆どなかった。以前宮本教授が何か言っていた気がするけど、忘れちゃった。てへ。
「えーと、あれでしょ。家に栄光をもたらす…」
「…栄光ね」
「ぷっ、栄光はないかなー」
微妙な笑われ方にいらいらする。牛乳を飲めば解決するだろうか。あ、でもイライラには効果ないんだっけ。
「じゃあ今度は六花」
「…あれでしょ?おかっぱで『お姉ちゃん一緒に厠についてきて』ってはかなげな感じで…もう超可愛くって抱きしめたくって、メロメロにしちゃういけないお・と・こ・の・こ!きゃっ」
「…妄想癖がある減点っと」
「真白さん…」
「え、ええーっ。可愛くない?裾掴まれて『お姉ちゃん怖い助けて』とか言われたら一ころりでしょ?どんなラスボスだろうと魔王だろうとやってやるぜってなるでしょ?ぎゅーって抱きしめて持ち帰っちゃうでしょ」
「…正直、どん引き」
心の底から、俺はそう思った。こうも素直な気持ちをまだ口に出せるんだ…汚い大人になっていた、偽った言葉を吐いてきたと思っていたけど…生の感情をちゃんと出せるんだと確認できた。
「じょ、冗談だよね。その表情友達また一人無くしたみたいで嫌なんだけどっ」
はっ、もしかして正義の味方になるって言うのも小さい男の子の相手が出来るとか考えていたということだろうか。
「ちょっと田原くーん」
「寄らないで!しょたがうつる!」
「はいはい、お黙りなさいな」
手を叩いてその場をしずめる。さすがNST(寝ない喋らない退出しない)授業の教授だけはある。
「それで、座敷わらしって何なんですか?」
「…前も言ったでしょ?神様みたいなもんよ。教えたほうとしてはその言葉すら忘れているのに驚いたけれどね」
「…えへ」
「…てへ」
真白さんと一緒にごまかしてみる。
「とりあえず、あっちのテリトリーで座敷わらしが相手じゃ勝ち目はないし、勝ったらあの家は終わりよ」
「終わりって…」
つぶれるんだろうか?コントみたいに柱が折れて屋根が落ちる?
「それまで膨大な運が溜められていたんだもの。発散した瞬間から非道い目に遭って終わりよ。一応、その太刀で切り捨てれば助けられるんだけどね」
限定的な神とは言え、斬り伏せる事が出来る太刀、気焔を宮本教授は眺めていた。
「…一体どうすれば」
「座敷わらしを…解き放つ。古月家がどうなるかはわからないけれど、今のままだと最悪、あの家自体が無くなるわ」
「無くなる?没落するって事?」
真白さんがそういうのも当然だろう。宮本教授自体が言っていた事だから。
「まぁ、それよりかはましね。あのままだとこの前気焔ちゃんが作り出した神様の領域が出来上がる…あの家にね」
どこまでも広がっていくだだっ広い光の床、果てが無く見上げれば永遠と遠ざかっていく光の天井…ピンと張りつめ一切合財を近づけさせない緊張感を具現化したようなあの場所がもう一つ出来るとはあまり想像したくなかった。
「…そっちのほうが最悪じゃないですか。俺、逃げていいですか?」
「うわーさいてー」
「だって、あの場所怖いんですもん」
真白さんに罵られたっていい。彼女は特殊な性癖をもつ人だ。俺の気持ちなんて理解できまい。
「今回は前と違ってどっちかしか選べないわよ?」
「つまり?」
「古月孝道をとるか、気焔ちゃんをとるか…よ。貴方が選べばもう片方は酷い目に遭うわ」
「既に気焔さんは遭っている気がするんですけど」
「…もしかして大地君って貧乏神なんじゃないの?」
「…」
真白さんの一言で俺は凍りついた。た、確かにそうかもしれない。
「違うわ、六花」
「お姉ちゃん…」
「言葉は正しく使いなさい、田原君はトラブルメーカーよ」
安心して、フォローしてあげたからという顔しても無駄だ。
「どっちも…どっちっす」
バラバラ、ぺしゃんこ、どっちが好みと言われた気分だった。
「さ、羽津神社に行くわよ。今日中に助けないとまずい」
今まで散々ほっぽらかしていたのに今日じゃないとまずいってどういうことざますか…そんな言葉が頭に浮かぶが、無駄な時間をこれ以上すごすわけにもいかないだろう。




