第二十六話:鬼の子
第二十六話
ものすごーく嫌そうな顔を宮本教授がしている。
「…鬼ね。用件は何よ」
「嫌やねーうちはただ単に子供からきのこをもらいに来ただけ。なんもしようとはおもとらん、事を荒げるつもりもないんよ」
何だ、それなら別にいいんじゃないんですかと宮本教授の方を見る。
「…子供とか、あんた…何が目的よ」
「え、鬼の子供って…」
後ろで転がったままの竜太を見る。きっとあれの母親なのだろう。どことなく似ている気がしないでもない。
「そや、うちは竜太の母親や。静香と言う名前や」
艶やかな着物を着た女性は静かに頷く。
「え…」
「あんさんが真輝を連れていくのを見ていたけどな、てっきりその危険なぽんとうで切り捨てるのかと思ぅてひやひやしたわ」
「なるほど…」
一応母親だから娘が心配だったのか。
「あれ、じゃあ真輝ちゃんもあなたの娘さんなんですか」
「そや~血は繋がってへんけどな。あの子は数年前に一緒になった男の連れ子やったよ。竜太はおるだけで周りの人間、親しい人間にきのこを生えさせるみたいなんや」
「あんた、神様が居なくなったからここに来たって事よね。ここ、鬼なんていなかったもの」
宮本教授の言葉に口を歪めて笑う竜太母。
「そやそや、なんら悪いことではないやろぅ?別に人は食っとらん。悪い事はしとらんよ。神様がいなくなったのもあんたらの知り合いが原因やろう?」
まさか、教授の身勝手な願いがこんな事態を起こすとは…。いや、気焔さんが神様のままならこんな事は起きなかった…と言う事か。
身内の誰かがばらしたわけでもあるまい。
「…あれは知り合いじゃないわ」
「ほぉ」
どうやら宮本教授もあっちの教授を想像しているようで相変わらずしっかりとした口調だった。ちなみに真白さんは自分には関係ないと竜太を引きずり家の中に入って行った。
「今はそんなことよりもこっちの方が大変だもの。そのきのこ、成長したら人を襲うかもしれないのよ」
いつも飄々としている宮本教授がここまで押すのも珍しい。ただまぁ、相手にはいまいち効果が無かったようだ
「男のきのこが人を襲うのは当然でっしゃろ」
「そのきのこじゃないっ。早くしないとこっちに斬り捨ててもらうわよ」
目が、マジだ。居間の宮本教授なら簡単に切り捨てたりするんだろうな…あれ、でも今俺が斬るような話になってた気がする。
「…ここには鬼殺しの時雨がいるでっしゃろ。やからうちのことは見逃してもらっとるんです」
「嘘」
「本当やから、それ。確認してもらってもええよ」
髪の毛が逆立つんじゃないかと思うくらい怒っていらっしゃる…。
携帯をポケットからひっつかんで宮本教授は何処かに電話をかけ始めた。
「そっちの僕」
「は、俺ですか?」
「そや、他におらんやろう?」
辺りを見渡す。誰もいなかった。
「ええ、はぁ、そうですけど」
鬼、にしては…この前見かけた鬼とは全然違う。普通の綺麗な女性だ。
「竜太の友達なんやろ?」
その質問に首を縦に動か…さず、首を振った。
「どっちかというと知り合いって言ったほうがいいかもしれないです。遊んだ事はないですから」
目の前の女性の落胆の色は隠せていなかった。
「そっか…あの子に、友達はおるんかなぁ」
「わかりません、でも、妹の真輝ちゃんとは仲がよさそうに見えました」
「そか…出来れば、あの子の友達に…なってくれへんやろうか。うちはあの子らを捨てた身やから頼む権利ももっとらんけどな、やっぱり母親やから」
「…考えておきます」
鬼だろうと、やはりこの人はあの二人の…。
「さっさと出て行きなさいよ。もう用は無くなったんでしょう?」
「おー、こわこわ。なら退散するわ…僕、静香からのお願いやで」
「はぁ、まぁ…頑張ります」
「ありがとな」
静香さんはたった一度の跳躍で俺たちの前から姿を消した。
「鬼って…何なんですか」
「わたしは雪女よ、馬鹿。知るわけないでしょ」
吐き捨てるようにそう言って(何故か一発叩かれた)、宮本教授は竜太の家へと入って行った。
「あ、ちょっと待ってくださいよ」
壊れた玄関を踏んで俺も後に続く。
「ん」
途中、静香さんの飛んでいったほうを振り返るも、そこには誰もいなかった。




