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黒の小冊子  作者: 雨月
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第二十三話:鬼のきのこ

第二十三話

 端的に言おう、きのこが生えていた。

「…」

 いや、そういうきのこじゃないからな。赤黒くグロテスクな見た目のきのこだ。どうもさっき見かけた鬼の匂いがする。何か名前を付けると言うなら鬼茸とでもいおうか。

「触っていい?」

「さ、触るのかよ」

 竜太は完全にビビっているようだった。

「ああ、触る分は大丈夫だと思う…」

「それならどうぞ…」

 目を思い切りつぶってこっちに押し付けてくるような仕草をする。突いてみても真輝ちゃん本人は動かなかった。

「感覚は?」

「…ない、です」

 今度は強く握ってみた。

「あふ…」

「…どう?」

「ちょ、ちょっとだけ」

 そこで竜太が顔を真っ赤にしている事に気づく。

「どうした?」

「い、いや何でもない。続けてくれ」

「わかってる…あのさ、悪いんだが…この子、此処に居るとお前が危ないんじゃないかって思う」

「え」

 驚くのも無理はないだろう。俺だって今思ったことだ。

「これさ、刺激を与えるたびにさっきみたいな奴の気配が近づいてきてるんだよ」

「う、嘘だろぉ」

 素っ頓狂な声を出されてちょっとだけ驚く真輝ちゃん。兄の言葉に恐怖が混じっていたためか、少しおびえていた。

「さ、さっきの奴?」

「露出狂…上半身裸の男。な、そうだろ?」

「そ、そうだったけどよ…」

 ぶつくさ言いながら頭を抱える。

「どうすりゃいいんだよぉ」

 真輝ちゃんにズボンを履くよう命じて俺はため息をつくしかなかった。

「相手の目的がわからないと言うよりこれ自体が良くわからない。とりあえず斬るにしても今手元に刀がないから真輝ちゃん、悪いが俺の家に来てくれないか?」

「う、うん」

「おれもいって大丈夫なのか?」

「…いやー…途中さっきみたいな奴が出たら俺はお前を助けられる自信がないよ。一人でも手一杯だ」

「そうか…真輝、悪い、おれ…家に居るから」

「うん」

 何かあったら連絡するようにと告げて真輝ちゃんを連れ、竜太の家を後にする。出来るだけ人の多い場所を通ろうと心掛けてもやはり、人通りの少ない場所はある。

「…あらら」

「え、ど、どうしたんですか」

 突如動きを止めた俺の背中にぶつかった真輝ちゃん。橋の途中に一人の女性が立っていた。

「妖怪が本当に居たから古文読んでみたけど橋で一人女性がいるって…絶対あのパターンだよ。かなーり遠回りだけどあっちから行こう」

 真輝ちゃんの手を掴んで隣を歩かせる。前から来た時は少し後ろにした方がやりやすいだろうが、後ろから連れていかれたら気付くのが遅い。掴んでいる手が鬼だった、とか冗談でも心臓に悪い。

 後ろを振り返ると恨めしそうな顔をした女性がこちらを見ていたのでウィンクをしておいた。

 それから一時間後、夏の時間で暗くなるだけの時間をかけてようやく家に辿り着いた。

「今、両親とも旅行中だから気にしなくていい」

「は…はい」

 やたら緊張した様子で家に上がってくる真輝ちゃん。ちょっとここで待っていて、とも言えず部屋まで招き入れた。

「お一人で住んでるんですか」

「同居人が一人いるんだけどちょっと居なくてね。面倒な事になって居てさ…さて、と」

 部屋に飾られている刀に手を駆けて鞘から刃を解き放つ。

「そ、それ…どうするんですか」

「どうするも何も、それ斬ってみようかと思ってね」

「あ、あの、言っていませんでしたけど…これ、何度切り落としてもすぐにまた生えるんです。そのたびに大きくなってしまって…」

「…そっか、でも多分大丈夫、これはそんじゃそこらの刃物とは違うからね。神様だってきっちゃう凄業の刀さ」

 気焔さんの情熱を受けて鍛え上げられたそれは魅了されるほどの輝きと、切れ味を誇る。

「だ、大丈夫ですか」

「ああ、大丈夫」

 ズボンを下ろさせ、素早く斬り落とす。

「…よし」

 血も出ていない、根元の方もぽろりと落ちて白くて綺麗な皮膚があるだけだ。真輝ちゃんの肌を触ってみるとすべすべしている。

「あ、あの…」

「おっと、ごめんよ。ま、これで一応は…終わりかな」

 落とした鬼茸は瓶に回収し(何か珍しい物を手に入れたら持ってこいとの宮本教授のご命令である)もう一度皮膚を確認する。

「案外単なる病気だったりしてね。ま、顔色も少し良くなったようだし家まで送っていく」

「お、お願いします」

 幸い、親の車があるので行きと違ってそれなりに早く着く事が出来た。もちろん、件の橋は渡っていない…帰る途中、橋を見たけれどあの女性はいなかった。

「…神様が居なくなったからこんな事が起きてるのか?まぁ、とりあえず無事に終わってよかったよかった」

 残念ながら、鬼茸の事件はまだ終わっていなかった。


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