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黒の小冊子  作者: 雨月
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第十六話:神の礫

第十六話

 ノヅチに近づいている途中、宮本教授は親指を立てていた。

「いやーラッキー。化け物爺が来るかも」

「強いんですか?」

「オッソロしいほど強いの何の…鬼と対峙してそれを倒したって言われるほどの人間よ」

 それは人間なのだろうか。

「鬼なんて見たことないですけど…とりあえず人が増えるって事ですよね?」

「まーそうなるわね。ちょっとここらで休憩しましょうか」

 二百メートルほど先にノヅチはいる。こちらに気付いた様子はなく、動いていない。

「不意打ちしたほうがいいんじゃないんですか」

「やっぱりここはしっかりとどめを刺したいから爺を待つわ」

 そしてそれから五分後、一人の小柄な女の子がやってきた。

「…はぁ…はぁ、疲れたー…あの、この先に見えないでしょうけど大きな蛇が居るんです。悪い事はいいませんからおりたほうがいいですよー」

「…」

「…ねぇ、あなた…」

 宮本教授が何か言う前に相手が口を開く。

「あ、その、えーと、嘘ついているわけじゃないんですっ。見ていてくださいね!」

 そう言うと近くにあった小石を掴んでノヅチに向かって投げた。

「えーいっ」

 可愛らしい掛け声…五メートルも飛ばないような投げ方だったのに信じられない物を見た。

 恐ろしいほどの速さで小石はノヅチの背中に直撃、いや、貫通した。それまでうずくまっていただけのノヅチは悶えて動かなくなってしまったのだ。

「は?」

「あの威力は…これは間違いないわねー」

 肝心の少女は何故か転んでいた。真白な着物を着ていたものの、転んだ拍子に汚している。

 そしてそれを見た宮本教授はため息をついた。

「…やっぱり」

「やっぱり?」

「この子、さっき言っていた爺の孫よ。孫。羽津民子。小娘のくせに神を鎮める化け物よ」

「…」

 未だ転んでお尻を打ち摩っている姿を見ると冗談のようだった。

「大丈夫?」

「あ、はい。ありがとうございます」

 手を差し伸べ掴まれても先ほどのような馬鹿力は感じられず、どういうからくりなんだろうとぷにぷにした手をつい触ってしまう。

「あ、あのー…」

「別にかわいい女の子にしか見えませんけどね…」

「か、可愛い…ですか」

「うーん、そうねぇ。見た目は…ね。わたしも可愛いでしょう?」

 うっふーんなんてしている宮本教授に首を振る。

「つれないわねー」

「そういうのいいっす。それで、これからどうしましょうか」

 ノヅチは全く動かない。微かにあった気配も消えてしまい、其処には静かな山だけがあった。

「ま、今のでノヅチは完全にアウトね」

「…もろすぎませんか?」

 真白さんが蹴ったり殴ったり相当していたのにびくともしなかった。そんな相手が目の前のひ弱そうな女の子の投げた石に当たっただけで倒れるとは信じ難い。馬鹿な…再起動だと!?という展開も期待していたりする。

「説明を要求します!」

「簡単な理屈だとどれだけ濃く、強そうな竜を書いても消しゴムでしゅーってするだけで消えるでしょう?」

「はい」

「説明すると面倒くさくなるからそれで納得しておいてちょうだいな。今はここの神が来る前に終わらせないとあれの無駄だから。もし、此処の神が来たら田原はこっちの子を守ってあげなさい」

 ノヅチは神だと言ったのは宮本教授だし、神に対して絶大な力をもつこの子が居れば恐れるものなんてないんじゃないんだろうか?

 宮本教授がノヅチに向かっていっている間、黙っているのも嫌なので話しかけることにした。

「俺は田原大地。羽津大学二年だ」

「わ、わたしは羽津民子ですっ」

「やっぱり神社に住んでるからああいう力があるの?」

 ノヅチの方を指差す。スガーではなく、真白六花が引っ張り出されているところだった。

「わたしにもいまいちわかりません」

「とりあえず助かったよ。ありがとう」

「いえいえ。困った時はお互い様ですよ」

 お互いさまと言うが、もしこの子がああいった類の物に襲われていて助ける自信は全くなかった。

「さ、行くわよ。あれはもう連絡入れたから連中が好きにするわ。田原、六花を背負ってあげて」

「はい」

 何やらダウンしている真白さんを背負って山を降りる。何にせよあっさり終わってくれてほっとした。ここだけの話、足が震えて仕方がなかった。


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