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黒の小冊子  作者: 雨月
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第十五話:(羽津民子)

第十五話

 神を視て、神に触れ、神を感じ、神を其処に認識する脳…それらがなければ人は神へとなれることはなくそれだけそろった人間は最早人ではない。

 どこの世界にも神の言葉を受け、それを信者に教える人たちがいる。



――――――



 羽津市の山の方にある古ぼけた神社のような建物。代々続いてきた神が其処には祀られており、小さいながらも拝みに来る人は少なからずいる。

 綺麗に整えられている玉砂利を踏みながら初老の男性が社務所へと向かう。

「民子や、何の音じゃ?」

「ふぁい?」

 羽津民子は祖父の言葉に首をかしげる。よだれが垂れていた。

「…お前、茶器を割ったのか?」

 民子は自分の足で踏みつけている茶器を視認する。

「す、すみませんっ。これはあの、その…」

 あまりにいい天気だったので(猛暑であるのに)彼女はうたたねし、手に持っていた其れを落としたのだ。

「よい、それより羽津の神は見つかったのか」

「あ、いえ…」

 神様が居なくなった事に気がついたのが一週間前ほどだった。そして報告したのが三日前。何故その時に言わなかったと久しぶりに泣いてしまうほど怒られて、今に至る。

「…ノヅチが出た」

「本当ですか?」

「ああ、本当だ」

 数十年前に神隠しがあった時にノヅチが関係していた。そのノヅチがどこに行ったかは聞かされていないが、そろそろノヅチが出ると言うのは聞かされていた為、祖父と共にこの土地に住む妖怪に駆除するよう頼んでいる。

「連中がここからは追いだしたようじゃが…」

「よかった…」

 太った蛇を想像させるそれは一番苦手な類だった。

「民子、お前も一緒に行って来なさい」

「えー、い、いやっ」

「民子っ」

「は、はい…」

 この子には力がある、神の生まれ変わり、そして由緒あるこの場所の跡取りだ何だとずっと言われ続け、嫌にはなっていたが、それでも事情があって従うしかなかった。

 一見すると神社、しかし地下に御神体が祭られている。服装も外では朱の袴を履いてはいるが御神体の前では白一色でなくてはならなかった。

 祖父は何処かに電話を駆けており、繋がったようで相手と何やら話している。行かないと相手にも迷惑をかけてしまうだろうと、民子は準備を始めた。

「…うーん、お守りあれば大丈夫かなぁ」

 ノヅチを見かけた事はあってもお守りを握れば相手からは見えないためそれまでだった。今回も見ているだけでいいはずだから軽い準備でいいだろうと民子は準備を済ませる。

「隣町じゃ。駅を出てすぐの山に居るからの」

「はい」

「準備はしたのか?」

「はいっ」

 祖父に見送られ、電車に乗り込む。

 電車の中には大学生らしき人たちが多くのっていた。

「大学かぁ…」

 来年高校三年生になる。大学に行ってみたいと思った事もあるが、このままだとすぐに跡取りにされそうだった。

「…はぁ」

 学校生活も特に面白いと思える事もなく、夏休みになってホッとしていた。友達がいるわけでもなく、かといっていじめられているわけでもない。通っている場所が『他の人には干渉しない』、そんな空気をもった学校だからかもしれない。

「あ」

 ぼーっとしていると次の駅についていた。

 危うく挟まれそうになりながらも何とか這い出る。

「ふー、危なかった…あ、ノヅチだ」

 彼女はノヅチの見えた山の方へと歩き出した。先ほど、挟まれそうになった時にお守りを落としたと言う事に気づかぬまま。


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