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黒の小冊子  作者: 雨月
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第十四話:教授と学生

第十四話

 何故か裏山ではなく電車に乗って隣町へと移動する。講義を終えて帰路につく学生もちらほらいる。

「どこに行くんですか?」

「あくまであのノヅチは裏山を根城にしているだけ…六花につけた発信機はもう別の場所へ移ってるわ。ある存在を恐れてね」

「神様なのにですか?」

「ええ」

 自信満々に頷く宮本教授に首をかしげるしかなかった。

「あの、神様が恐れて逃げ出すくらいの存在って何ですか」

「ちょっとは自分で考えなさいな。さっきから聞いてばっかり、大学生にもなってそれはどうかと思うわよ」

 宮本教授にそう言われては何だか癪だったので真面目に考える。

「魔王…ですか?」

「魔王ねぇ…ぷっ、ゲームのしすぎよ」

 人差し指で額をつつかれ恥ずかしくなる。

「いや、だって神様とか最近本当に居るんだって知りましたし、そもそも妖怪だって一年前だったら居るわけないと断言していましたよ」

「ごめんごめん、そんなに怒らないでよ」

「怒ってませんっ」

「怒っている人はみんなそう言うわ。大人になりなさいな」

「ぶーっ」

「ぷっ、困った子ねぇ…」

 やれやれ、首をすくめる宮本教授に俺はため息をついた。

「それで、ノヅチが恐れて逃げ出す存在って何ですか」

「神よ」

「…つまり、まだ別のノヅチがあの山には居ると?」

「いいえ、違うわ」

 手帳を取り出し数ページめくると目の前の女性は眼鏡をかける。

「元から土地には土着…はちょっと違うけど神様がいるの。ツチノコからノヅチみたいに成長して神としての力も上がってくると元いた神は許さないのよ」

「なんでですか?」

「世界一つに絶対的な神様一人…いや、一柱かな。この場合、羽津市が一つの世界ね。そして神様が別にいるのにノヅチは成長しすぎた…結果、神の手が自分に来る前に他の場所へ移動、また移動を繰り返しいくつかの土地、つまりは世界を回るの」

 そして…元いた場所に戻ってきたらどうなるのだろうか。

「最初の土地に戻ってきたら二度目はないわ」

「…どの道、消えるんですね」

「そうね。今回はこっちから逃げたからもう放っておいて構わないと思ったけどそれじゃあまずいのよ。六花が神隠しにあう」

「神隠しですか?でもノヅチに食われてますし、まだメールよこしてくれています」

 そういって俺は携帯のディスプレイを向ける。暗くてよくわからない画像が添付されていた。

「まぁ、そうね。六花は今ノヅチの中。これがどこかの神様にやられたらどうなると思う?」

「えっと、助かるんじゃないんですか?ノヅチは消えますし」

 お腹の中に入っているものもちゃんと開放されるだろう。胃液で消化されるわけではなさそうだし。

「運が良ければね。そのまま消される事がある。ノヅチの死体なんて残らないわ…まさに神隠し」

「神隠しってノヅチが原因なんですか?」

「一つの原因にはなるわね」

「妖怪が神隠しって何だか変な話ですね」

「まぁ、仕方がないわ」

 そろそろ目的地に着くようだ。宮本教授が降りる準備を始めたので俺も竹刀袋を肩にかけなおす。

「短期決戦。その太刀振り回しているとこの土地の神が襲ってくるわよ」

「…じょ、冗談ですよね?」

「一度神様斬ってるからね。気をつけなさいよ。ヘマすると神隠しに遭うからね。消えちゃう前に何か聞きたいことある?」

「神隠しを決定しないで下さいよっ…あの、さっきの話で疑問に思った事があるんですけどいいですか?」

「なぁに?スリーサイズかしら」

「いえ、羽津市の神様って…あれですよね?」

 先ほどの話の通りなら元いた神が焔ノ御神ノ末を襲撃しにきていたはずだ。しかし、そんな事はなかった。今もそこに在り続けている。それならこれはどういう事か…羽津市に神様はいなかった事になりノヅチは焔ノ御神ノ末から逃げたと言う事になるのではないか。質問ではなく確認のつもりだった。

 たまには大学生らしいところを見せないと…と思ったわけだ。

「いいや、違うわ」

「え」

 あっさり否定され肩すかしをくらった気分。

「神様は別にいるわ。昇華された瞬間に吹き飛ばされた」

「…」

「今現在、羽津市は超不安定状態ね。覚醒もせず消滅する事もない状態だからありとあらゆる不具合…天災が起こりうる場所に成りつつある」

 ノヅチをどうにかする前にそっちをどうにかしたほうがいいんじゃないかと言おうとして自分たちがその資金を得るために活動していた事をようやく思いだす。

「行くわよ」

「は、はい」

 駅の目の前には山がある。そこまで高くはない夏の山の途中に目指す相手が居た。


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