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『年下の童貞クンは、ボクの実家に一ヶ月幽閉したろ♡』と噂の三重弁の先輩に狙われて、目が覚めたら先輩の実家の離れだった  作者: 雫 くずし


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9/13

幽閉六日目 『イオンの何があかんねん』

「今日はデートやで、童貞クン♡」


幽閉六日目の朝。

志摩貴春(きはる)先輩は、ベッドの上で宣言した。


「外に出ていいんですか。幽閉条件の第一条は」

「相談なしがあかんのや。ボクに相談したらええねん。はい、相談して」

「……外出してもいいですか」

「ええよ♡」


制度が、ゆるい。


「どこへ行くんですか」

「イオンや」


僕は関東から越してきた人間である。

デートと言われて、もう少し別の場所を想像していた。


顔に出たらしい。


「なんやその顔。イオンの何があかんねん」

「いえ、だめとは」

「ほな、ほかにどこ行くん。イオンしかないやん。イオンはええやん。イオンはええですやん!」


最後だけ、なぜか敬語だった。


  ◇


運転手の磯部さんの黒い車が、玄関の前で待っていた。


助手席に、先に乗っている人がいた。


「お母さんも、買いもんあるんやわ〜」


先輩のお母さんだった。


幽閉条件、第三条。

お母さんと三人で買い物に行くこと。


財布は、お母さんだからだ。

条文は、本当に守られるらしい。


イオンは、すいていた。

平日の、昼前である。


「この時間がいちばんええねん。人おらんでな」


先輩は、きょろきょろしながら言った。

人が少ないことを、何度もたしかめているみたいだった。


食品売り場に入ると、先輩の声が、ぱっと甘くなった。


「お母さ〜ん、これ食べた〜い。買って買って〜♡」

「はいはい。かごに入れとき」

「これも〜。あと、これも〜」


かごが、お菓子でうまっていく。

学校で噂の、あの貴春先輩である。


先輩は、僕のほうをふり向いた。


「童貞クンも食べたいもんあったら、お母さんに言えばええで」

「先輩。お母さんの前で、その呼び方はやめてください」

「え〜? ほな、なんて呼べばええの〜?」


お母さんが、にこにこしながら首をかしげた。


「あら。ゆうへい君は、童貞さんなん?」


「ちょっと!?!?お母さん!?!?!?」


売り場じゅうに、僕の声がひびいた。


お母さんが、頬に手を当てた。


「あら〜。お義母さんやなんて、気ぃ早いわあ」


「そういう意味じゃないです!!!!」


先輩が、横でにんまりしていた。


  ◇


「ゆうへい君、きのうのごぼうのささがき上手やったなあ。今日はきんぴら教えたろか」

「お願いします。ごぼうは、太いほうがいいんですか」

「ええ質問やわあ。貴春はそんなん、聞いてくれたことないんよ」


野菜売り場で、話がはずんだ。

だれかに料理を教わるのは、楽しい。


気がつくと、先輩がいなかった。


かごの中のお菓子だけが、残っている。


「あらら。いつものやつやね」


お母さんは、なれた顔で言った。


「ゆうへい君、車のとこ、見てきたってくれる?」


幽閉条件、第四条。

ボクが車に引きこもっていじけたら、迎えに来ること。


  ◇


駐車場に、黒い車がとまっている。


磯部さんが、だまって後ろのドアを指さした。


先輩は、後ろの席のすみで、ひざをかかえていた。

窓のほうを向いている。


僕は、何も聞かなかった。


フードコートで買ってきたソフトクリームを一つ、先輩のほうへ差し出した。

手をのばしたまま、先輩が取るのを待った。


しばらく、だれもしゃべらなかった。


先輩が、ソフトクリームを取った。

僕は、少しはなれて座った。


小さい声だった。


「……ボクのお母さんやのに」

「取りません」

「お母さんとばっかり、しゃべって」

「きんぴらを習っていました」

「……キミも、ボクのやのに」


幽閉条件、第十条の『お母さんみたいな人』の件だろうか、と僕は思った。

料理はお母さんに習え、と言ったのは先輩のほうだ。


「先輩。幽閉条件の第四条は、これで合っていますか」


先輩は窓のほうを向いたまま、ソフトクリームをなめた。


「……合格や」


耳が、赤かった。


帰りの車で、お母さんがうれしそうに言った。


「楽しかったなあ。また三人で来よな」

「次は二人で来る!!」


先輩が、僕のとなりから即答した。


「あら〜」


お母さんは、ころころ笑った。


デートの行き先として、イオンは正解だった。


関東の友だちには、言えないけれど。

言う友だちも、いないけれど。

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