幽閉二日目・昼 『これがボクの十か条や!!!!』
朝ごはんのあと、僕は離れに連れ戻された。
志摩貴春先輩は、机の引き出しをごそごそやっている。
「家族公認になったでな。ここからは正式にいくで」
出てきたのは、丸めた画用紙だった。
先輩はそれを、床の上にばっと広げた。
「これがボクの十か条や!!!!」
手書きだった。
字が、右上がりに傾いている。
いちばん上に、大きく題が書いてある。
『幽閉条件〈総則〉』
「読むで。正座」
「はい」
正座した。
この家に来てから、正座ばかりしている。
「第一条。少しでも条件に合わんかったら説教。相談なしに外出するの禁止」
「幽閉されているのに、外出の心配をされるんですか」
「第二条。家事のことは全部お母さんに聞くこと。ボクに聞かれても分からん」
「それは今朝、体験しました」
「第三条。お母さんと三人で買い物に行くこと。なお、ボクの機嫌は悪くなる」
「なぜ三人なんですか」
「財布は、お母さんやもん」
「第四条。ボクが車に引きこもっていじけたら、迎えに来ること」
いじける前提で、条文ができている。
「第五条。明るい髪色禁止、カラコン禁止、ピアス禁止」
「先輩、茶髪ですよね」
「ボクはええねん」
ええらしい。
「第六条。SNSの鍵垢禁止、サブ垢禁止」
「フォロワーが0人なので、大丈夫です」
「……サブ垢が?」
「本垢がです」
先輩が、だまった。
「第七条。ほかの女子と連絡とるの禁止」
「連絡先に、女子がいません」
「…………なんか、ごめん」
あやまられた。
条文を読んでいる人に、あやまられた。
先輩は咳ばらいをして、画用紙に目を戻した。
「第八条。女子との経験なし。童貞であること。ボクより年下であること」
「それはもう達成しています」
「知っとるよ♡」
知られている。
「第九条。家事は全部キミ。ボクの浮気は許容。ボクが推しに投げ銭するのも許容」
「浮気する相手、いるんですか」
「……おらんけど」
「僕もいません」
「知っとる。でもキミの浮気は許さん!!!!」
いない相手との浮気を、先に禁止された。
「第十条」
「親と実家で同居。合格。いま同居しとるでな」
「誘拐です」
「愛想がええ。お母さんが『ええ子やねえ』言うとったで、合格」
「お母さんの評価なんですね」
「お母さんみたいな人。これは料理しだいや。お母さんに習い」
条件の半分に、お母さんが出てくる。
先輩は、画用紙のいちばん下を指さした。
そこで、止まった。
声が、急に小さくなった。
「……最後。…ボ、ボクがおらんとあかん人」
エアコンの音だけがした。
こんどは、急に声が大きくなった。
「これは、まだ分からんで。保留!!」
先輩は、ペンを僕に押しつけた。
耳が赤い。
「ほら、ここに名前書いて。同意のサイン」
「書きません。同意していないので」
「しぶといね。キミ」
先輩は僕の手からペンを取り上げて、自分で書いた。
『ボクの童貞クン♡』
「代筆や」
「偽造です。それに、僕の名前ですらないです」
「え? 童貞クンは童貞クンやん」
先輩は、何を言われたのか分からない顔をした。
「ボクの童貞クンは、ボクの童貞クンやろ?♡」
訂正する気は、ないらしい。
「よし。契約成立やな♡」
先輩は満足そうに、画用紙をくるくる丸めはじめた。
丸められていく紙の、いちばん上が見えた。
題のところだ。
『幽閉条件』の上に、もう一つ、別の言葉が書いてあった。
二重線で、ぐしゃぐしゃに消してある。
『付き合う条件』
書き損じだろう、と僕は思った。
先輩は、字があまり上手ではない。




