転び方の上手い女
鈴は転んだ瞬間、体から離れ、体をコントロールする時間をゆっくりにし、重力に逆らい体の安全を1番に処理をする
そんな経験を何度かした
⸻
雨の日、名古屋の大通り。
大きめのショルダーバッグを肩にかけ、傘をさして歩いていた。
ふと足元に水たまりがある。
――滑った、と思った瞬間には、もう体勢が崩れている。
どうしようもない。
宙に浮いた時間が、ゆっくりに変わる。
(バッグはあの木の下に放ればいい。傘は手を離して…まずはスカートを押さえなきゃ。)
スカートを押さえ、そのまま静かに片膝をついて着地。
バッグを拾い、傘を拾い、何事もなかったように歩き出す。
ちょうど前からご年配の女性が二人歩いてきていて、
すれ違いざまに「あなた、転ぶの上手ね」と言われた。
そういえば、こんなことが前にもあった。
大縄跳びで縄に足を引っ掛けた瞬間、体が宙に浮き、
両手両足を伸ばしたまま、ゆっくりと地面に落ちていった。
落ちた瞬間、砂利の小石が手のひらに食い込み、ズキンと痛んだ。
大学時代にもあった。
学校の階段で足を踏み外し、前のめりに転がりそうになったが、
気がつくと、なぜか座り込んでいた。
そのまま膝から滑り落ちたストッキングが、摩擦で溶けて肌に張り付いていた。
まぁ、これくらいで済んでよかった…そう思いながらも、
(今のは何だったんだろう)と、不思議な感覚だけが残った。
そして45歳のある日。
1つ下の弟をおんぶして階段を上っていた。
弟は私より重たく、ようやく2階の踊り場に辿り着いたとき、
ほっとして背中から下ろした――が、弟の足元には床がなかった。
「あ、ない…」と気づいた瞬間、私は自分の愚かさをしみじみと感じた。
そして落ちながらも、なぜか冷静に、私と弟の動きを観察していた。
私は頭を中に入れ、背中を丸め、転がるように落ちていく。
どこも打たず、すんなりと着地。
一方の弟は、どたん、バタンとあちこちにぶつかりながら落ちていき、
最後には立派なたんこぶを作っていた。
よくわからない。時間がゆっくりなったり自分の体が見えたり、それをコントロールしたり
とりあえずありのままを書きました




