痛みの抜けた日
長いあいだ、私の毎日は「痛み」と一緒にあった。
それが普通で、なくなる日なんて来ないと思っていた。
でも、ある日突然、その痛みが“抜けた”のだ。
まるで目に見える形で、私の体から飛び出していったように。
あの日の出来事は、今も不思議でならない。
りんには、物心ついたときから、常に痛みがあった。
腸潰瘍のせいでお腹が重く、腰はいつも激痛。ぎっくり腰は慢性化していて、肩こりや頭痛も当たり前。
さらに膝の軟骨はほとんどなく、何度も脱臼を繰り返し、小さい頃から「足が痛い」と泣くことが多かった。
整骨院に通わざるを得ない日々だったが、それさえも時間がもったいなくなり、思い切って高価なマッサージ機を購入した。
「あ、やばい…ぎっくり腰になりそう」と思うとすぐに乗る。
それが習慣になっていた。
そんな毎日の中で、りんにはひとつの願いがあった。
──一度でいいから、痛みのない生活をしてみたい。
その日、子どもたちと大縄跳びをしていた。
縄が足に引っかかった瞬間、りんの体は宙に弾き飛ばされた。
驚くことに、そのとき時間の流れが急に遅くなった。
りんは空中で両手両足を思いきり伸ばす。
その瞬間──
手の先から、白い塊のようなものがふっと飛び出した。
「え…これ、もしかして痛み?」
そう思った次の瞬間、体はゆっくりと地面へ落ちていく。
コンクリートの上に手と膝をつき、起き上がる。
掌に小さな砂利が食い込む感覚があったが、パッパッと払って「へへ、転んじゃった」と笑ってみせた。
家に帰って、テーブルに頬杖をつき、ぼんやりしていたとき、ふと気づく。
「あれ…痛みが、ない」
腰も肩も膝も、いつもの悲鳴が全くない。
何これ…?どういうこと?
でも、そんな疑問も吹き飛ぶほど快適だった。
──これがずっと続けばいいのに。
しかし翌日、少しずつ痛みが戻ってきた。
さらに翌日も、また少し。
4日もすると、完全に元の体に戻ってしまった。
それから数年が経ったある日、りんはふと気づいた。
「あれ?痛み…ない」
肩こりも、腰痛も、脱臼さえも。
あの白い塊が飛び出した瞬間から何年も経っているのに、もう二度と痛みは戻ってこなかった。
何が起きたのかは、今もわからない。
ただひとつだけ確かなのは──あの瞬間、りんの中の痛みは確かに“抜けた”のだ。
医学的に説明できるのかもしれない。
偶然だったと言えばそれまでだろう。
でも私は、あの瞬間、確かに自分の中から何かが離れていくのを感じた。
あれが痛みそのものだったのか、長年背負ってきた何かだったのかはわからない。
ただ、あれ以来──私は痛みのない体で生きている。
不思議だけど、本当の話。




