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共同戦線

 

現在、12時45分、航空倉庫前滑走路。


 俺が昼食をとってからここに来ると、すでに二人は着陸しており、羽の上に座っていた。


「ああ、お前が、蒼龍が言ってた有馬か」

「みたいだな、飛龍が言っていたほど、頼れそうではないがな」


 会って早々、何故そんなこと言われなくちゃならんのだ。


「まあ頼れそうかどうかは置いておいて、俺が有馬勇儀だ、よろしく」


 俺が手を出すと、江草は気軽く手を握り、笑いかけてきた。


「おう、俺は蒼龍急降下爆撃隊、江草隊の隊長、江草隆繁だ、よろしくな」


 それを見て、友永もこちらに手を出す。


「私は、飛龍雷撃隊、友永隊の隊長、友永丈市だ、よろしく頼む」


 俺はそれを握り、答える


「どれくらい二人は、今の世界の状況を知っている?」

「だいたいは把握している、零から聞いたからな」


 江草がそう言う。

 そうか、零に教わったのか……じゃあ問題ないな。


「……一つ、司令に頼みたいことがある」


 

 俺がそう考えていると、友永が、こちらを鋭く見つめながら言う。


「なんだ?」

「すぐじゃなくてもいい、だができるだけ早急に、『九七艦攻』と『九九艦爆』の後継機を用意してくれ」


 ……ほう。


「それは何故だ?」


 俺が聞いてみると、江草はあくびをしながら答える。


「司令なら言わずとも分かるだろう、零があんだけ言ってたんだ、俺たちの考えぐらい、分かっているだろう?」


 零が何を言ったか知らないが、確かに、だいたいの理由は分かる。


「まあ分かるが、正直、二人がそう言うとは思わなかったんだ」


 友永はため息をつく。


「私はミッドウェイの時に死んだから、自分の目では見ていないが、蘇る時『九七艦攻』の記憶を見たから知っている……この機体は、今の戦場で戦える機体ではない」


 そうか、二人も加藤さんと同じで、人としての記憶と兵器としての記憶があるのか……。


「解っている、今回の出兵が終ったら、空母の艦載機を一新するつもりだ、それに、瑞鶴の航空機たちは皆、日本が大戦中、夢に見ていた艦載機群で構成されている、機種の旧式化の問題は、起こさせないつもりだ」

 

 そう言うと、友永は「そうか」と言って、『九七艦攻』に乗り込んだ。

 それを見て、江草も笑いながら『九九艦爆』に乗り込む。


「『九九艦爆』も頼むぞ? あ、でも『銀河』だけは乗りたくねえなぁ」

「贅沢言ってるんじゃない、江草、あれはお前が乗りこなせなかっただけだろ」

「うっせえやい」


 そんな二人の掛け合いを最後に、二機のエンジンが動き、プロペラが回り出す。


「俺たちは母艦に帰る、仕事の時はいつでも任せてくれ、期待以上の戦果を約束するぞ!」


 江草が、エンジンに負けないよう、そう大きな声で俺に叫んだ後、滑走路を駆けだし、空へと舞い上がった。

 それに続き、友永の機体も空に上がる。


「これで、航空戦力も安泰かな……」


 ともに神と崇められるほどで、他国のパイロットが敬うほど、優れた技術と度胸を持つ伝説級の二人が、自身の本来の持ち場で再び働くのだ、これ以上心強いことはない。


「……『天山』と『零戦六四型』、二人専用に改造しておこうかな……」


 二人が理想とする機体を作ってあげれば、戦果も上がるだろう。


「まあそれも全て、無事に日本に帰ってきてからだな」


 俺はそう独り言を呟き、港に戻った。




 港では着々と艦に燃料が補給され、補給用のドラム缶も大量に積み込まれている。

 パプアで一度補給を受けるが、この大艦隊全体に燃料を補給していたら、パプアの燃料が枯渇しかねない、その為、大量の給油艦も従えて出港するわけだが、念には念をと言うことで、全艦にドラム缶を積んでいる。


「この状態で戦闘したくないなぁ」


 俺はドラム缶が積まれた艦たちを眺めながら呟く。

 ドラム缶に砲弾が命中すれば、燃料に引火、たちまち辺りは大火災になる、それは本当にごめんだ。


「……待ってろイギリス、ドイツ、今、助けに行くからな」


 準備が進むにつれ、俺の中で、その気持ちは大きくなっていった。

 日章旗の下に旭日旗、それから桜日帝国の、桜朝日の旗、それらが艦後部に掲げられ、艦首にはドイツとイギリスの国旗が、クロスして立てかけられている。

 それを見ると、今の戦争は、国同士の戦いではないと言うことを、改めて教えてくれ、心が落ち着く。


「何してるの?」


 そんなことを考えていた俺のもとに、大和がやって来た。


「ん? 特に何もしてないぞ?」

「じゃあ、どうして泣いてるの?」


 大和は心配そうに俺の顔を覗き込む。

 額に手を当てると、確かに湿っていた。


「……世界の国々が、きちんと手を取り合っているのが、何だが嬉しくてな」


 自分としたことが、無意識に涙を流すことになるとは……。


「そっか……そうだね、今は、アメリカもイギリスも、敵じゃないもんね」


 大和も、艦首に掲げられたイギリスの国旗、ユニオンジャックを見つめながら、そう呟く。

 世界中の国々は、二度の大戦で、決して条約なんかでは拭えない、大きく深い傷を負った。

 戦勝国は、苦しい状態にある国々を陥れ、さらに苦しい状態へと落とし、悪に仕立て上げた敵国の兵士を殲滅した。

 中立国は、戦う国々の戦火に怯えながら、優勢な方へ陰で味方した。

 敗戦国は、戦争の全ての責任を押し付けられ、世界の敵に仕立て上げられ、敵国の兵士へ、鬱憤を晴らさんと殲滅した。

 殺し、殺され、法を犯し、時には人道に反することも、平気な顔をして行った。

毒ガス、捕虜虐待、強制労働、粛清、弾圧、情報統制、住宅地爆撃、核爆弾、上げ出せばきりがないほど、様々な国が、様々な国に行い、行われた。

 だが今は、それら全てを知ったうえで、手を取り合っている、互いにボロボロにされた手を、互いに手当てしあいながら、一つの戦争に臨んでいる。


「効率だけで生まれるコンピューターなんかに、二度の大戦を潜り抜けてきた人類が、負けると思うなよ」


 俺は、遠く彼方、イギリスを攻撃しているであろうWASに、そう呼びかけた。


「私も、精一杯戦うね! 欧州の戦艦に、戦艦『大和』の力を、教えてやるんだから!」


 隣で大和も、そう意気込んだ。


「oh! 大和、戦うのは、貴方だけじゃないわ」

 

 後ろからアイオワの声が聞え、振り返ると、艦隊のWSたちが全員集まっていた。


「そうだな……太平洋で戦った艦、航空機が、一体どれだけ強いのか、欧州の軍たちに教えてやれ、皆」

「「「「「「応!」」」」」」


 俺の掛け声に、全員が大きな声で返し、自身の体に戻って行った。


1月7日、17時45分、輸送物資、燃料、弾薬、搭載終了。

兵員総員待機中、時間になり次第、出港可能。



現在、1月8日、07時28分、佐世保軍港、艦隊抜錨。



「皆、再び長い船旅だ、よろしく頼む」

 

 俺が、艦内放送用のマイクを使い、艦全体に呼びかける。

 それと同時に、大和の汽笛も鳴り響いた。


「随分、艦橋がガラガラになっちゃたね」

「そうだな、俺以外の長官全員が、他の艦に移動するとはな」


 彭城艦長は『長門』の艦長へ、浅間副艦長は『赤城』の艦長へ、凌空長官は『三笠』の艦長へ、三浦長官は彭城艦長と同じ『長門』の操舵長にそれぞれ移っている。

 艦橋要員がいなくとも艦が動かせる、WSならではの強みだ。


「さて、出港の時間だ、大和、準備は良いか?」

「うん、もちろん」


 俺の問いかけに元気よく大和が答える。

 俺はそれを見て、抜錨を指示しようと、放送用のマイクに再び手をかけると、何やら外から声が聞えてきた。


「勇儀、あれ!」


 大和が指差す方を見てみると、軍港の隣にある通常の港に、多くの人が集まっていた。


「今の日本人でも、こうゆう事をしてくれる人は、居るんだな」


 その人達は、旭日旗と日章旗を振り、大きな声で艦隊に声援を送ってくれている。

 港から少し距離があるが、皆の声が大きく、集まった人も多いからか、ここまで声が聞える。


「エンジン以外の乗組員、全員、再上甲板、声援に応えろ」


 俺が放送で呼びかけると、一斉に他の艦の人たちも、甲板に出てくる。

 あの声援を送ってくれる人の中に、もしかしたら、乗組員の愛する家族や、恋人や、友達がいるかもしれない。

 それを考えると、一層、皆を生きて返してやらねばと言う決意が湧く。


「……『大和』抜錨! 第二船速、取り舵四十度!」


 指示すると、煙突から煙を吐き出し、ゆっくりと、基準排水量64,000tの艦体が、左に体を振る。


「このまま単縦陣で領海を南下、領海を抜ける手前で、艦隊を分散します」


 俺が通信機で全艦に通達する。

 その頃には、もう港は見えなくなっていた。

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