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婚約破棄からの出来事  作者: 巻乃
6/6

私の場合

今日中に投稿が間に合えばいいのですが。

「婚約破棄ですか?ええ。喜んでお受けいたしますわ!」


 娘の婚約者だった彼が苦渋な表情で告げた婚約破棄に娘が婚約破棄を嬉しそうに承諾したので、彼は傷ついただろう。彼の父である友人が思い付いて動き出した茶番劇だが、言い出した友人には大した事がないだろうが、彼の虚ろになった目には何者も映っていなかった。


 彼の腕にしがみ付いているのは友人の義娘で、彼の義妹は、大した事のないただの平凡な常識知らずな小娘だ。また例の恋人にワザとやきもちを妬かせる為だけに彼の腕から手を離さずに、どう転んでも自分には何にも害が無いものだから、単純に婚約破棄を喜んでいる。私に言わせれば、質が悪くて頭も悪くて計算高い醜悪な小娘だ。


 彼の義妹は、友人の弟夫婦、友人のあの愚鈍な弟と計算高い義妹の間に生まれた娘だ。あの弟夫婦も、あちこちから恨まれていた罰がとうとう当たったのか、事故で死亡したので、友人の家で養子にしたそうだ。それで、彼や娘の通う学園に転入して来たのが半年ぐらい前だったのを聞いた覚えがある。


 だいぶ変わった性格をしていて厄介そうな従妹の世話をする彼を不憫に思っていたのだが、根が汚い両親に似たのか裏表が激しく、今までの両親が散財して生活がやっと送れていたのが変わって、貴族のご令嬢扱いになったので高飛車になっているようだ。男性には媚びるような笑顔で接して、女性には利用価値があるかどうかを考えて無表情と笑顔を使い分けているようでもある。私からしたら、反吐が出そうな可愛いくない小娘の笑顔に騙されたりしないのだが。彼に甘えてしな垂れかかり、周りの女生徒からも顰蹙を買っていると娘からも聞いている。彼は根が優しくて、義妹になった小娘の心の傷を癒そうと我慢をしているのだと生徒は皆、同情していると私の家の間者からも報告が来ている。


 そこで私も、友人の茶番劇の脚本を書き換えるべく、噂が流れるようにした。学園の中で彼とその義妹が新たに婚約する為に、今の婚約者である私の娘と彼が婚約破棄をする寸前である事が真実であると広めるように間者を使って細工した。


 彼の義妹には、コネを使って学院長からの依頼として彼女を指名してもらい、私が学院内を見学したいと案内を頼んだ事にして接触してみた。思っていたよりは弟夫婦の悪影響は及んでいないようだ。貧乏生活で卑屈になっていただけの様で、まだ修正は効きそうだ。これならば、私の脚本の登場人物になり得そうだとほくそ笑む。その義妹の彼女と話して、彼の友人で娘の婚約者候補にもなった彼の友人を話題に出し、さり気なく褒めておいたのだ。案の定、その後に彼の友人と義妹である彼女が恋人になったと間者の報告にあがって来た。


 娘の婚約者候補になった彼の友人よりも、彼の方が努力家で、彼の父である私の友人よりも素直で優しく思い遣りに溢れて彼の母親の良い所を受け継いだようだ。


 彼の母親と私と彼の父である友人は、学園での同級生だったのだ。私と彼女の母親である彼女は付き合っていたのだが、彼女の父が私を気に入らないというだけで、何度も送った婚約の許可を願う書簡を握り潰されていたのだった。たまたま、友人の家が政略的に彼女の家に婚約を打診したら、そのまま婚約して結婚してしまったのだ。


 彼女と私が付き合っていた事を誰にも言わずに秘密にしておいたので、その婚約からは彼女は友人の婚約者という立場から私には接触しなくなり、私達とのお茶でも、友人の隣で相槌を打って微笑むだけでいた。良くも悪くも貴族の娘としての模範的な行動をする彼女と私が公式に再会したのは、友人が言い出した友人の息子と私の娘の婚約の席でだった。


 友人が席を外した短い間であったが、彼女が私に頼みごとをしてきたのだ。「このままでは、家の主人に息子が潰されるか殺されてしまいます。どうか私の息子を助けて下さい。助けて下さるのでしたら、私はもうどうなっても構いません。」彼女の母としての頼みごとに、私は了承したのだった。


 それから、彼の家にも何人かの間者を送り込んで、彼を潰されたり殺されたりしない様に私も苦心した。彼の家を調べていくと、友人の父は出来が悪い友人に出来の良い彼女と婚約、結婚させて彼が生まれたので、引退して滅多に領地から出てこなくなったようだ。友人は元からあまり頭が良くなかったのか、息子である彼の質問にも答えられずに怒鳴ったり、脅したり、呆れた表情で追い払ったりしていて、彼がとても不憫な幼少期を過ごしていた事が判明しただけだった。妻にも彼の事情を話して、後々、私の家に婿養子として迎える意向を伝えておいてから、目立たない様、気付かれない様に、少しづつ準備をしていたのだった。


 夜会の翌日の午後、彼が友人から聞かされた話の内容を間者から報告された私は、これはもう彼もあの家に居ること自体が限界だろうと判断し、急いで彼の生活する用意を調える手配をしたのだった。妻にも報告されたその内容を話すと、「私達が彼の家族になればいいのですわ。」と彼をこの家に迎える事に賛成してくれたのだった。


 逐一、間者から報告が私に入るが、他家の私ではどうにもならずに、私の焦りと時間だけが過ぎていくだけだった。彼の母親である彼女に間者が接触してみたが、友人の許可が下りずに屋敷の誰も彼に手を差し伸べられない状態を、ただ指をくわえて見ているだけしか出来ないのだと、そんな返事しかもらえなかった。


 私でもこのままではマズいと判断し、出来る事は無いかと探した中で見付けた物があった。その見付けた物とは薬で、外国で衰弱した者によく効く少々お高い薬を至急取り寄せる様に手配した。そのお高い薬が届いた翌々日、彼の義妹が私の屋敷に飛び込んできたのだ。その事を慌てて知らせに来た執事と玄関先に向かうと、顔色を青くした娘が動けなくなっていた。娘を抱えて玄関先に用意した椅子に座らせた。私も椅子に座り、執事の用意した椅子に、彼女にも座るように勧めて座ったのを見て、後から来た妻も、娘を支える様に椅子に座ったのだ。それを待っていたかの様に、彼女は彼の話をし始めたのだ。


「最初は義父に叱られて部屋から出てこないと思われていた義兄が、もう10日も飲まず食わずで出てこなくなりました。最初は、皆の寝静まった夜中にでも何か食べているだろうと、皆も楽観的でしたが、7日過ぎても食料庫の在庫も減っていないし、部屋から出て来た形跡も全くないので、執事が様子を(うかが)っていたそうです。でも、今日は義兄の部屋からの物音も一切しなくなったので、執事が慌てて部屋の鍵を壊して入ったら、ベッドの上で目を瞑って動かない義兄がいたのです。」と言う。「呼んでも反応が無く、義父や執事が義兄に触れて確認をしたのだけれど、息をしていたが浅くて弱かったし、体温も低くなっていたので、急いで医師を呼んで、彼の診察と処置をしたのです。」それを聞いた娘の震えが止まらなくなってしまったようで、妻が娘を抱きしめていた。


「その医師に「こんなになるまで放っておいて!それでもあなた達は家族なんですか!」と怒鳴られました。」当たり前だろう、私でさえ危惧していたのに友人は気付いてもいなかったのかと腹が立つ。「これで大丈夫かと思った家族や屋敷の者達に、医師から言われたのです。」大丈夫な訳がない!頭が湧いているのか友人は!と思うだけだった。彼をこちらに引き取ったら、もう彼の為という名目もなくなるし、私も友人との縁を一切合切を切ろうと決意した。彼の診察をした医師の言葉が「「この状態では、いつ何があってもおかしくありません。回復するかどうかは五分五分です。会わせたい人がいるなら、会わせた方がいいかもしれません。それだけ今は危険です。私も隣の部屋で待機しますので、何かありましたら、すぐ呼んで下さい。」と言い残して、執事の案内で、彼の寝室の隣の部屋へ下がってしまいました。」と話す彼の義妹に分からない様に、私が執事に目線で手配を頼んだ。あのお高い薬の出番が来てしまったようだ。妻にも目を合わせて「行ってくる。」と告げた。妻が無言で頷いた。


「義父が膝からガックリと倒れこんで、無言で泣いていたし、義母は泣きながら倒れそうになって、メイドに支えられて部屋へ戻って行ったようでした。私も唖然として暫く動けなくなっていましたが、半年前に両親を亡くした私を助けてくれた義兄をどうしても回復させたくて、義兄に義兄の元婚約者に会わせてもいいかどうかを義父に尋ねてから、了承の返事をもらってすぐ、私は家の馬車でこの家まで向かって来たのです。」と続けて話した彼女は、娘に向かって頭を下げたのだ。


「最初は、義兄の優しさにつけこんで、両親を亡くした寂しさを義兄に甘えて紛らわしていました。でも、最近は、自分の恋人にやきもちを妬かせたくて、ワザと恋人の前で義兄に甘えていたのです。だから、噂が消えずに広がってしまいました。自分の事だけしか考えず、周りを巻き込んでしまい、申し訳ありません。」そう謝罪をした彼女は、「義兄が死んだら嫌なのです!せっかく兄が出来たのにもう失くしたくないのです。どうか兄が大好きなあなたに会わせて、生きる気力を取り戻して欲しい、こちら側に戻って欲しいのです。お願いします。どうか義兄に会ってやって下さい。」言った途端に、彼の義妹は泣き崩れて動けなくなってしまいました。妻に彼女を任せて、私と娘は生活するのに必要な物を後から馬車で送るように、執事に指示をしてから、急いで彼の元へ馬車で向かったのだ。


 私と娘は彼の部屋に急いで入った。友人の口から、彼が引きこもる前に友人と彼が話した内容を聞いたのだが、娘の表情が泣きそうになっていた。私も友人の口から聞いたせいなのか、怒りで冷静な判断が出来なくなるほど、感情に左右されそうになった。冷静にと自分に言い聞かせて、人ではない何かを見る様な冷めた目で元友人を見据えて、言葉を口から出す。

「もう婚約者は戻ってこないと言われた上に、自分が必要でないと宣言されたのだ。彼は人生に絶望したのだろう。義妹に親切にした事も、今までの努力も何もかも全部を否定されたので、生きる気力まで失くしたのだろうな。義娘がいれば、彼がいなくなったって跡継ぎがいるのだからと、君は息子をそこまで追い詰めて、一体何がしたかったんだい。私は最初からこの婚約破棄の話を聞いた後、君に隠れて、時期を見て彼には話そうと思っていたんだよ。それで様子を見ていたが、こんな事になってしまった。何故こんなに息子へ厳しくし過ぎるのかは、息子のいない私には理解出来ないのだが。君は息子を褒めた事があるのか聞いてみたくなったよ。」


 元友人の表情を見てみると、褒めた事も認めた事もなかった事実をここで認めたようで苦悶の表情を浮かべていた。今頃気付いてももう遅い。彼の心はこの家から離れてしまっているだろう。彼は今まで生きて来た中で、一生懸命努力する道だけを進んできた。その道しかなかった彼には余裕も無く、他のモノや、娘に心を割く時間も気持ちの余裕もなかった筈。元友人である父親も母親も最初から彼の家族ではなかったのだ。政略結婚が悪い訳ではないが、その弊害の迷惑を被ったのは彼だけだったのだ。


「小父様、私は今まで彼の口から、小父様の悪口や愚痴を聞いた事はございませんわ。彼は、父上は一度も褒めてくれないし、出来て当たり前の事が出来ないと厳しく怒られてしまうんだ、どうしたらいいか悩んでいると、私に一度だけ話をしてくれたのですわ。私も何て答えたらいいか分からなくて、彼に微笑んで話を聞いただけになってしまいましたが。きっと出来ない事に悔し涙を流して、歯を食いしばりながら、ずっと努力を続けてきたのですわ。でなければ、学園での上位の成績を入学以来ずっと維持出来る筈がありませんわ。」娘が言った言葉で、元友人も、彼の母親も、彼が悩んで生きてきた分だけでも後悔の念を深くして、懺悔して生きていけばいいと私個人は思っている。


 とにかく、私と娘へ彼に会ってやってくれと元友人が必死に言うので、彼の顔を見た。こんなに(やつ)れて顔色も良くない彼を見たのは初めてだ。彼が今にも消えてしまいそうに感じて、悔しさが一杯になった。私は娘に小声で、「ここまで酷い状態だとは思わなかった。悔いのない様に全力でやりなさい。」と許可をすると、私と娘の2人して真顔で「此処から動かない」と宣言をした。

「未来の息子が危ないのに、のこのこ帰れるか!」

「私も未来の夫が危険なのに、おちおちしていられませんわ!」


 私の家から、「半年前に両親を亡くしたばかりの義娘が、息子の件を話した途端に気が抜けたように、ショックを受けて震えているし、動けなくなっているので、こちらで義娘を預かる」旨を記した妻からの書簡と共に、私達2人の着替えやその他に必要な物が馬車で運ばれてきた。


 元友人の家の執事に、彼の部屋に近い部屋を用意して欲しいと話し、家から荷物を運んできた従僕や御者に私達の荷物を部屋に運ぶ様に手配したのだ。元友人も何も言わずに、彼の部屋から出て行ったようだ。執事には私達が望む事を出来る様に執事に手配するよう、言いつけておいたようだ。


 飲まず食わずに引きこもって衰弱していた彼は、医師の処置と、取り寄せておいたお高い薬のおかげで、少しづつではあるが回復していった。娘も彼の側から片時も離れない勢いで看病していたが、私が「彼が回復するのに、お前が倒れたら、新たな彼の負担になるし、彼の悩みにもなる。私が代われる部分は私と交代して看病しよう。」と話したら理解したようで、それからは2人で休みながら交代で看病をしたのだった。私の仕事は妻があの彼の義妹がこの屋敷の者達に忘れられたままで、私の家に滞在したままだったので、性根を鍛え直すと彼の義妹をこき使って、こなしてくれているので、何も心配はなかったのだ。


 そうして少しは身体が回復して少しだけ話せる様になった彼が、娘に新しく婚約が決まる筈だったと父から聞かされたと言うと、「小父様の嘘に私も父も踊らされました。全部嘘ですわ。私は貴方の婚約者のままですわ!他の人には譲りませんから!」そう言っていた。彼が嬉しそうな笑顔を浮かべていたので、2人の邪魔をする気もなかったし、父親である私が彼や娘の告白を聞きたい訳でもないので、私はそっと彼の部屋から出て、廊下で様子を窺っていた。うまく誤解が解けて、まとまったようだ。


 献身的な看病の甲斐もあって、彼自身が生きる気力を取り戻したようだ。それから更に彼は回復して、ベッドに起き上がって座れるようになった。その彼の下に毎日誰かしら、屋敷の者も含めた人達が謝罪と見舞いに訪れてきていた。


 だが、元友人の彼の父と母親は彼の下に一度も見舞いにさえ来なかったのだ。いくら、会わせる顔がなくても一度くらいは見舞いに来ると思っていた私と娘は、彼を連れて帰る決意を更に固めたのだった。


「死にかけて迷惑をかけた要らない息子よりも、義妹の子供を期待している両親なのです。私には関心ももう一切ないのでしょう。」と私にそう愚痴を零す彼が不憫だった。置いてきぼりをくらった迷子の様な顔をしている。

「身体が弱ったから心まで弱ってしまって、こんな事を言ってしまう息子なんて尚更、要らない存在ですね。笑えない現実です。」続けて零した愚痴を、私は微笑んで受け止めた。

「うちには跡継ぎがいないんだ。君さえ良ければ、娘と結婚したら、うちの家を継いでくれると助かるよ。」私は必死な顔をして彼を見て言ったのだ。

「私の父の様に、私を怒鳴ったり否定して呆れないでいてくれる家でしたら、喜んで婿養子になります。ここの家の跡継ぎには両親期待の義妹もいますし、私は彼女と結婚出来るのでしたら、どんな条件でも構いません。」彼は心からの笑みを浮かべて、そう言うと幸せそう微笑んでいた。

娘が彼の言う事を聞いて「嬉しい!」と涙を流して喜んでいた。よし!これでもう彼を跡継ぎにする為のスケジュールを組もう!と私も燃えていた。


 そうして彼が回復していき、杖を使って歩けるようになり、自力で移動出来る様になった所で馬車に乗せて私達の家へ連れ帰り、そのまま滞在出来る様に根回しをしたのだった。


 毎日、彼が娘と学園に通い、一緒に過ごせる時間が増えたら、あの婚約破棄は彼の父の起こした茶番だったのだと、彼が生真面目に父の茶番に付き合わされていただけだったと、自然に噂が払拭されたのだった。


 その間に、彼をうちの婿養子にするべく、彼の引退した祖父へ今まで彼に起こった事を記し、今の彼の状態をそのまま書いた書簡を送ったのだった。その返信の書簡が私の元に届いたのは、彼がうちに馴染んだ頃だった。


 書簡の内容を読んでみた。季節の挨拶や迷惑をかけたお詫びの文章の後に、こう書いてあったのだ。

『私は孫が不憫でしたが、息子が一向に嫁の話に耳も貸さないで何でも自分でやろうとして、何も出来ていませんでした。それを歯痒く思っていましたが、このままで良いとは思っていませんでした。嫁が孫の婚約した日に、貴方様へ助けを求めた事も知っております。私も息子のどうしようもない茶番や発言で、孫が儚く消えてしまう寸前まで追い詰められた事を貴方様からの書簡で知り、あの家の全権を嫁にあけ渡す様にしまして、嫁が正式な私の家の養子になり、息子は飼い殺す事にしました。幸い、跡継ぎになる孫娘も貴方様の奥方に鍛えて頂けたので、現実を見れるようになって、目が覚めたようです。その孫娘を嫁と私で、私の残りの人生をかけて更に鍛えていく事にしました。孫娘の恋人だった相手も丁度良く次男でしたし、婚約も調いましたので、これからの孫の幸せを煩わす事は無くなりました。どうかこれからも孫だった彼を、これからもずっと貴方様の家族として宜しくお願い致します。』


 婿養子を認める書簡だった。あんなに努力家で優秀な孫を手放したくはなかっただろうに、息子の失態で孫を死なせてしまう寸前まで追い込んだのだ、だから、うちで彼を手に入れられたのだ。 


 私は彼を正式な跡継ぎにすると各方面に知らせて、披露した。彼は在学中から私の補佐として仕事をしていて、助言や効率の良いやり方を教えると飲み込みが早くて助かっている。あちこちから羨ましがられているが、彼の元へ自分達の娘を送り込もうとする馬鹿が後を絶たず、その娘を牽制し、排除する為に、娘にその理由を話したら、同室にすると色よい返事がもらえたのだった。妻にも説明をしたら、私の采配を褒めてくれたのだった。娘と同じ部屋にした彼はますます娘にのめり込んで、他の娘には目線でさえ向けなくなった。私の事も、本当の父の様に思っていてくれているようになった。


 学院を卒業して何年かした後に彼と娘は結婚した。私達家族と過ごす生活が幸せだと公言して憚らない彼。時折、彼の育った家の話も彼の耳に入るようだが、関心や(こだわ)りは何処にも見受けられない。時々、寂しそうな表情をする彼だが、今の幸せの方が大きいようで幸せに過ごしている。


 それよりも、彼自身が元父の様にならないように、もしそんな態度を彼がとったら、娘にも私にも妻にも、彼にハッキリ言うという約束をしているので、大丈夫だろう。自分の様に寂しい侘しい子供時代を自分の子供には送らせたくないのだと語り、気を付けている彼なら心配はない。


 気合が入る彼の隣で娘が幸せ一杯の笑顔でいる。実はもうすぐ彼と娘との第一子となる孫が産まれるのだ。彼は、これからもっと私達に囲まれて、もっと幸せにならなくてはならない。


 新しく家族となる孫を彼と娘夫婦だけではなく、私も妻も楽しみにしている。娘が幸せになれたのは彼がいたから。元父に振り回された彼が、この先誰に聞かれても、よっぽどの事情がない限り、婚約破棄なんてするもんじゃないと答えると思う。


 彼の幸せが娘と共にあらんことを私達はこれからも願う。では、これで彼の話はお終いだ。



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